高校入試

2024年12月 3日 (火)

2025年中学入試動向(26)日駒 コンパクトでパワフルなカリキュラム

首都圏模試センターの記事『24年「新入試体験! 私立中コラボフェスタ」レポートVol.2』に、日本工業駒場中学が実施したプレゼン入試のワークショップの様子が紹介されています。

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★理科の教科書を超えたたくさんのサイエンス実験や美術や工芸の授業のアートの質の高さ、図書館をはじめとするコンパクトだけれど、生徒一人一人の居場所があり、才能をアフォーダンスする仕掛けの校舎デザインなどが人気を支えていると感じています。

★探究が多角的で柔軟なキャリア教育に結びつき、グローバル×STEAM教育が各教科の授業の中に融合しています。コンパクトですが、核融合さながらパワフルです。

★もともとものづくりをベースにした教育があったのですから、それが教育工学的な発想にシフトしてコンパクトでパワフルな教育を作り上げているのだと思います。

★人格と進路の合力が工学的教養を生み出し、大学合格実績も成功に導いています。

 

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2024年11月30日 (土)

2025年中学入試動向(22)文大杉並 interactionからtransactionへ突き抜ける

昨夜、文化学園大学杉並の理事長補佐染谷先生と進路指導副部長でDDコースの担任の庄司先生、DDコースのOGでSTEAMプロジェクトのメンターを行っている岡本さんとGLICC代表鈴木さんと対話しました。文大杉並はグローバル教育×STEAM教育×PBL(探究)で満ちている学校であることはもはや有名すぎます。今回は、そのような有機的な循環が起きている教育システムがどうして成り立っているのか、興味深く本質的な対話になりました。大胆かつ細心の配慮がなされている心地よい対話で、学校現場における対話のイメージが180度変わる90分間になっています。文大杉並が躍進し人気が高くなっている理由は、この新たな対話が充満しているチーム文大杉並の広がりだということが伝わると思います。ぜひご覧ください。

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★動画の中の対話は、その広がりと深さとなんといっても笑顔が絶えないおもしろさが溢れているので、私が要約しても意味がありません。ぜひごらんください。一般の学校のイメージとは全く違う世界が広がっています

★2つほど気づいたことをメモしておくと、

❶DDコースのカナダからの教師が、日本に文大杉並という本当の教育を行っている学校を創ろうという情熱と文大杉並の日本人の先生方がもっともっと良くなる学校にしたいという情熱が響き合っているなあと。

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➋生徒と生徒、生徒と教師、教師と教師、教師と保護者・・・という対話(interaction)がフラットに一つのかけがえのない地球をつくるフレンドシップを大事にする対話(transaction)にフュージョンしているなあと。

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★だからこそ、生徒の成長は無限の価値を協働して生み出していく<感動>物語を描くのだなあと。そりゃ文大杉並の人気はうなぎのぼり、いや竜の如くということでしょう。

 

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2024年11月23日 (土)

聖学院の教育宇宙(3)すべての教育活動をつなぐ存在としての授業があった <奇跡の男子校>

★聖学院の生徒は、気持ちの良い感情を生み出す意識を自分の内側にもてるように成長していきます。もちろん、いつもいつも快い気持ちがあふれているわけではありません。人間は喜怒哀楽に象徴される感情以上に多様な感情の塊です。この自分の中に湧いてくる、ある時は嵐のような感情を受け入れ気持ちの良い感情に転換する意識が生まれてくる学校。それが聖学院です。そして、この意識こそOnly One for Othersというコアな精神です。この<noble spirit>が軸にあるからこそ、いかなる困難(それは外部環境からやってくるばかりではなく、自分の内側にもあるのです)にも最初は恐れながらも向き合い、立ち臨んでいくわけです。そのストーリーが聖学院の生徒1人ひとりの成長物語を描いていきます。

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★この<noble spirit>の軸は、毎朝の礼拝と聖書の授業によって構築されていきます。たとえていえば、空高くそびえるチャペルの十字架が礼拝で、命の泉を生み出す噴水が聖書の授業のような構図になっています。

★礼拝では、校長先生が中心となって、聖書の意味を生徒の内面に問いかけます。その問いは本当のところをいえば神学的ですが、一般の人にとっては哲学的だったり人類学的な問いでしょう。身近な問いですが、大きな根源的な問いです。

★そして、聖書の時間で、その根源的な問いが、聖書がリアルな世界で生きている具体的状況をリサーチしながら、自分事とし、いかに解決できるのか内省し、語り合っていきます。内省にも語り合いにもロゴスの対話が行われています。

★おもしろいことに、聖書解釈学ではなく、生徒は、ICTやアプリを活用して調べたり、編集したりしながら同時にリアルな対話もしていきます。最近では生徒は生成AIを自らのもう一人のパートナーとして対話しながらかつ仲間とも対話していきます。

★根源的な問いの対話が溢れているのが聖学院の聖書の時間です。本来は聖書の授業を担当している先生は牧師でもありますから、ヘルメノイティークなアプローチなのでしょうが、一般には外から見ていると哲学的だったり文化人類学的だったりバイオ倫理だったり、そんな感じに見えます。

★大事なことは、そもそも教科横断を意識しなくても、あらゆる教科や学問を超えて存在の学びを生徒と行っているのというのが聖学院の聖書の授業だと思うのです。したがって、礼拝ー聖書の授業という<noble spirit>軸は聖学院のすべての教育活動と相互に関連するのです。インタラクティブというよりトランザクションという感じですね。

★そしてこの<noble spirit>はOnly One for Othersとして具現化して生徒は経験し、考え、共感を広めていく活動をしていきます。感情を高邁な精神に昇華する「思」いとロゴスとしての「考」え。この二つのフュージョンが聖学院の「思考」の内包する意味でしょう。

★聖学院を訪れると、エーミール・シンクレールのように自己成長を求める少年とそれを導く友人マックス・デミアンがストーリーを織りなしているヘッセの小説をいつも思い浮かべます。第一次世界大戦に巻き込まれる学校の中で、自分とは何か、自分は何ができるのか、精神分析的アプローチとキリスト教文化と哲学とヘッセの「思想」がストーリーを編集しています。戦争という社会課題は、人間の生み出すあまりに凄まじく途方に暮れる困難性です。それにいかに立ち臨むのか、そんなマックス・デミアンの姿を追い求めながらも、憧憬ではなく自分を見出していくシンクレール。結論のない小説ですが、それがゆえに、究極の困難性に向き合う少年たちの生き様のスピリチュアリティに時代を超えて共感し、何もできない自分にそれでも勇気を出そうという気持ちを湧かせてくれます。

★聖学院は男子生徒がそんな自己成長の軌跡を描き続けられる奇跡の男子校です。

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2024年11月22日 (金)

聖学院の教育宇宙(2)すべての教育活動をつなぐものが生まれる仕組み化

★聖学院は、仕組み化が巧です。同校の教育活動すべてをつなぐものは、Only One for OthersというトリプルOのマインドですが、そのマインドは見えないものですから、実感するには仕組み化が大切です。その象徴が思考力入試やGICなのですが、それはシンボル的存在ですから、そのシンボルの背景にはブドウの木のごとき豊穣な循環があります。しかし、それはなかなか見えないですね。私はラッキーでした。

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★というのは、たくさんの授業を見ているうちに、国語と社会がSTEAMのSやMそしてAのレベルの授業を行っているのを目撃したからです。

★理科や数学は、ある意味教科書の枠内だとしても、授業は数理関連の学問的理論を使っています。教科書を超えるというのは、教科書にある問題以上に難しい問題を解くというということではなく、数学的科学的理論に結びつくということです。

★聖学院の理科や数学はそのレベルに到達するので、GICのSTEAMが破格のプログラムを展開できるのは、そもそもその土壌が中学から日常化しているということです。

★一方、国語や社会は、なかなか人文科学や社会科学の理論的リソースを活用するところまではいきません。日常言語で理解が足りるように教科書ができているからです。

★哲学や社会学、人類学など文系の学問的見識が使われたとしたら、どうなるでしょう?そうです。理科や数学のレベルになるのです。

★聖学院の国語は、言語哲学や文化人類的見識をダイレクトに授業で展開する優れた教師がいます。社会には、政治経済学や社会学、経営学、文化人類学などの見識をやはりダイレクトに授業に結びつけることができる優れた教師がいます。

★英語は、言語学の意味論や語用論を駆使したオールイングリッシュ授業が展開しています。ネイティブスピーカーだけではなく、日本人の英語の先生も同様です。ですが、驚いたことに音楽の教師も英語が得意な国際生には、英語で授業をサポートしてあげてもいるのです。

★もちろん、知識や論理中心の授業もあります。しかし、それはこのような学問的な授業が必要とする知識や論理的思考を供給する重要な役割を担っています。この授業間の連携循環が聖学院の教育活動の仕組み化です。そしてだからこそOnly Onr for Othersが生成されるのです。

★が、これだけではまだ聖学院独自のOnly Onr for Othersが生まれてはきません。

★ここまでだと。他校でもできる可能性がありますね。しかし、聖学院でしか生まれてこない独自のOnly One For Othersが生まれる仕組みがあるのです。

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聖学院の教育宇宙(1)すべての教育活動がつながっている

★聖学院のたくさんの授業を見学する機会をいただきました。すべての授業が有機的につながっていてあるいは宇宙を構成していて驚きました。最初見学しているときは、それぞれの授業で生徒が深く考える様子に感動していたのですが、最後に聖書の授業を拝見し、ここれはあ!っと思ったのです。

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★つまり、全部がつながっているのです。現在、新学習指導要領を押しすすめている日本中の学校で、教科と探究をつなぐには?教科横断はいかにしたら可能か?文理融合はできるのか?STEAMやグローバルはどこまで可能なのか?生成AIの活用の仕方は?など共通するそして重要な問いが生まれています。ですから、それを共に考えるワークショップや研修の企画運営もしているのですが、すべての回答やヒントが聖学院にあったのです。

 

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2024年11月 1日 (金)

全国私学教育研究集会で エヴェリット・ロジャーズのファントムに出遭う・・・

★今年の全国私学教育研究集会は大分で行われています。昨日は全体会で一般財団法人日本私学教育研究所の吉田晋理事長から厳しい社会状況の中で国や自治体とどのように交渉をして私立学校がその建学の精神に基づいた生徒の成長を育成する独自の先見性・先進性を発揮した教育環境デザインを持続可能にするのかビジョンとその戦略について講演がありました。このビジョンの向こうには、受験市場とは違う第3極の教育に対し、私立学校がどうするかということが予告されています。

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★それを受けて同研究所所長の平方邦行先生が、そのビジョンと戦略を実現する方略として21世紀型教育からプレ22世紀型教育へシフトするパーパスとその方略ツールをいくつか紹介しました。その中で印象的だったのが、思考コードの取り扱い方でした。この思考コードが生まれた背景には、実はジェフリー・ムーアの理論との出会いがありました。2005年にムーアは、自身のキャズム理論を展開した一冊をまとめました。上記の写真の本ですが、1960年代に世に登場した社会学者エヴェリット・ロジャーズのイノベーション理論に基づきながらもキャズムをどう超えるのかについて発展的に展開した理論書です。この本の読みどころは、後半のキャズムがどうしてできてしまうのか、どうしてなかなか超えられないのか、社会や組織の疎外要素や諸関係を論じているところなのですが、そこまであまり世の中では言及されることはありません。

★しかし、平方先生は、それを思考コードの活用が停滞しているところにあると私立学校が今後超えるべき次元を提示されたわけです。そして、現状の確認として、その場で、自分はどの次元にいるかをグーグルフォームでアンケートをとりました。その項目は、次の通りでした。
➊ 新しい知識を受容する
➋ 獲得した知識をつないで理解を深めている
❸ 理解したことを多様な事象に適応したり、自分の理解とは反対の考え方を
  どのように捉えなおすか論理的に思考している
➍ 理解を深めている事象を規定している枠組みを批判的に検討し始めている
❺ 批判的に検討した枠組みやルールを新しい枠組みやルールに変更している

★すると驚いたことに、このアンケート結果は、まるでロジャーズのイノベーション理論のような結果になったのです。

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➎イノベーター(Innovators):冒険心が強く、新しいアイデアをいち早く採用する人々。
❹アーリーアダプター(Early Adopters):社会的に影響力があり、他の人々に新しいアイデアを広める人々。
➌アーリーマジョリティ(Early Majority):慎重に検討しながらも、比較的早い段階でイノベーションを採用する人々。
➋レイトマジョリティ(Late Majority):平均的な人々よりも遅れてイノベーションを採用する人々。
❶ラガード(Laggards):変化に対して非常に抵抗があり、最後にイノベーションを採用する人々。 

★ロジャーズの仮説の割合とはアンケート結果は完全に一致しませんでしたが、ほぼ傾向はこんな感じでした。イノベーターとアーリ―アダプターはもう少し多かったということは、参加者である私立学校の先生方がやはり世の中より先見性・先進性を発揮しているということでしょう。

★しかし、1960年代の理論であるロジャーズの考え方が今でも生きているというのは、さすがはムーアがこの考えを引き継いで、21世紀によみがえらせただけのことはあるなと感動しました。ロジャーズのファントムに遭遇し、すこし恐ろしくも希望が見えました。

★ただ、平方先生は、ロジャーズの理論をさらに進めているのです。私立学校の教職員も生徒もイノベーターでありアーリ―アダプターであって欲しいということなのですから。刺激的と感じるか、恐ろしいと感じるか、それは参加者次第ですが、受験市場や第3極とせめぎ合いサバイブするには、何をするべきかの方向性は明快だったのです。

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2024年10月31日 (木)

富士見丘高校1年生 生成AI研修始める その意義

★富士見丘のサイトに「高校1年 生成AIと3Dプリンターを活用した特別講座①」という記事が掲載されています。生成AIを使うには著作権の問題やセキュリティの問題、要するに情報倫理を学んで取り組む必要があります。そこを同時に行いながら、冨士見丘は、3Dプリンターに結びつけものづくりをしていくわけです。同校のこの動きに注目したい点は次の通りです。

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1)情報倫理:すでにLINEがスタートした時から、研修を行ったり、グローバル演習で、文化の違いのみならずリーガルな違いも学んでいるので、この倫理観はすでに根付いているのが富士見丘。

2)プログラミングの基礎:1人1台の環境で自在に動画もつくっている生徒の皆さん。3Dプリンターを稼働させる基本的プログラミングの知識に抵抗はないのが富士見丘。

3)デザイン思考:探究を始める時に、スタンフォード大学からデザイン思考のプロジェクトチームの教授陣を招き研修しているのが富士見丘。

4)アート思考:武蔵野美術大学と連携してギャラリーをつくったりしていてアート思考の研修も行っている富士見丘。

5)グローカル社会課題:グローカルな社会課題を解決することによって社会貢献につながるという活動がグローバル演習や留学で定着しているのが富士見丘。

★生成AIを使うかどうかの議論は大いに結構ですが、実際に使う時に富士見丘のような準備ができているかどうかはモニタリングしてみるとよいですね。

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2024年10月25日 (金)

八雲学園の副校長近藤隆平先生に会いました。生徒の成長が飛躍するグローバル教育のリーダー

★昨夜、これからの日本の教育を創り持続可能にするカギを見つけるとある会合で、八雲学園の副校長近藤隆平先生にお会いしました。この夏、米国サンタバーバラで行われていた生徒が取り組む2つのグローバルプロジェクトに同伴してようやく帰国したということでした。その間、コロンビアでラウンドスクエアの国際会議に参加した10人の生徒は、帰国直前にイエール大学にも立ち寄り、来年度のイエールとの国際音楽交流のプロジェクトの打ち合わせもしてきたそうです。近藤隆平先生ご自身は分身の術をつかえないですから、行けなかったそうですが、OGで英語科のエースのボッサム先生が生徒と行ってきたということです。

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(イエール大学の八雲生。写真は同校サイトから)

★ラウンドスクエアは、生命主義でグローバルリーダーを輩出する八雲学園の理念と共感共鳴共振する世界のエスタブリッシュ私立学校の団体です。単に世界の超難関大学に入ることを目的(それは目的とするまでもなくあたり前過ぎるわけです)としている私立学校ではなく、この気候変動や環境悪化のリスク、地政学リスク、人間関係を壊すハラスメントのリスクなどを解決し、自然と社会と精神の循環を生み出す生命主義を牽引するグローバルリーダーを輩出することが目的です。当然八雲学園もそうなのは言うまでもありません。

★そのことは、実際にコロンビアで行われてきたラウンドスクエアに参加した生徒の皆さんの感想を読んでいただければわかります。

 Round Square国際会議、研修終了&生徒の感想

★世界の社会課題という痛みをラウンドスクエアに参加した世界の同世代というか同級生と引き受け、語り合ういわば世界会議で世界的視野を広め、同時に自己成長を実感していることがわかります。

★八雲学園では、このような実感を学内で共有するイベントも多いわけですが、何よりそのラウンドスクエアの加盟校の生徒が毎月のように交換留学生としてやってきているのです。そして、八雲生もやってきた留学生の学校で交換留学生として学べます。渡航費・生活費以外はかかりません。

★自己成長物語と世界的視野を広めるグローバルリーダーへの希望が生まれるグローバル教育の真価発揮ということでしょう。

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2024年10月23日 (水)

禅とチャペルと音楽と 私立学校は小林秀雄を受けいれて乗り越える

★多くの私立学校では、コーラス、吹奏楽、弦楽など音楽が鳴り響いています。校長先生の中には、クラシック音楽を嗜む先生も多いし、実際に芸大をはじめ音楽大学出身の方もいます。仏教やキリスト教の学校の校長先生の場合は、さらに僧侶の方も聖職者の方もいます。そうでなくても、禅や瞑想の意味を深く理解し、学内外にその想いを教育を通して広げていこうとしています。でも、ふだん支部会や研修でお会いした時に、クラシックの話や仏教やキリスト教の世界の話は対話の中にそれほどでてくるものではありません。

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★それは何故でしょう?そもそもそのようなミーティングは、目的がはっきりしていて、そこに音楽の話も宗教の理念の話もテーマになることはないということもあります。

★それでも、SNSなど個人的なやりとりの中では、そのような話もでてきます。コンサートの季節でもあるので、演奏会に行ってきた感想を拝見すると、普段学校では話をしないような音楽の深イイ話をされているのがわかります。でも、その深イイお話は、少しデモーニッシュです。ふと私と同じくらいの世代の校長先生方ですから、この心性への共感はなんだろうと思いました。

★そして、この世代は、小林秀雄の「モオツアルト」を読んでいるなと気づいたのです。受験にも出題されていたので、きっと読んだことがあるはずです。そこで、引っ張り出してきて再読。もう60年以上も前に出版されています。ですから、私たちが高校生から大学のときに、ちょうど教科書的な文章として取り扱われていたと思います。

★開いてみて、いきなりデモーニッシュな心性が現れてきました。疾風怒濤の時代の心性です。啓蒙期の流れを汲むゲーテやヘーゲルの雰囲気が詰まっていました。もっとも小林秀雄ですから哲学的な書き方は全くしていませんが、理性としてのデモーニッシュな雰囲気を漂わせています。

★光と影を分断することなく、まるでモーツアルトの作品をルビンの壺のように両面性を同時に備えている通奏低音が響いています。

★おそらく、このアンヴィバレンツな人間の魂のテーマは、近代文学の通奏低音なのでしょう。ですから、常にユートピアはディストピアと混然一体となっていて、小林秀雄は、あの未完のレクイエムを作曲しているときの、モーツアルトを、日々死を覚悟して眠り、目が覚める度に再生を意識して作曲に取り組んだと。その姿はまさにデモーニッシュな神の憑依した感じです。

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(駒沢学園女子の坐禅堂「照心館」)

★このことを別に小林秀雄に影響されてというわけではなく、小林秀雄が近代の心性の通奏低音を言語化しただけですから、この心性を共有している世代が今の校長先生なのでしょう。だから、学校では、このことを理解しているからこそ、人間はたしかにそうなんだけれど、にもかかわらず、光をということでしょう。

★だから、ふだんは光の部分しか話さないのです。その覚悟があるからこその気概ですね。そこを評論家は、真実を観ていないとか揶揄するのです。しかし、そのような近代文学の心性は真理でしょうか。そこはにもかかわらず乗り越えるにしても、さらにそれを超克することはできるのではないかと校長先生方は考えるのだと思います。

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(桜美林のチャペル)

★だから、その超克する新しい心性を生み出す音楽に感動し、坐禅をして自らを超える新しい世界を見つめ、チャペルで祈りながら新しい希望を生み出す教育に挑戦し続けているのでしょう。

★校長は守護神ヤヌスでもありますから、片方の顔は広報に向け、もう片方の顔は人間の新しい本質に向いています。

★もちろんすべてがそうではないというのは、人間ですから当たり前です。マーケティングにばかり目が行き、それが巧みな校長もいます。本質だけにこだわりふんばる校長もいます。ただ、私の周りには、守護神ヤヌスさながらの敬愛すべき校長が多いということも事実です。

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2024年10月22日 (火)

日経ビジネス 禅と哲学 駒沢学園女子の教育がグローバルなわけ

★日経ビジネス(2024年10月21日号)の特集を見て驚きました。「禅と哲学」なのですから。あのジョブズだけではなく、ツイッターの創業者ジャック・ドーシー氏も「わび・さび」のコンセプトをアイデアやデザインの発想の要にしていたというのです。また、あの京セラ稲盛和夫さんも在家得度していたということです。これらのことは意外と有名なお話のようです。

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★そして、今哲学者や僧侶なども経営アドバイザーとして世界のユニコーン企業に必要とされているというのですから、素晴らしいですね!ところがですよ、なぜこのことが日本では日常的に話題に上らないのか?それはそもそもユニコーン企業が日本には少ないので、そういう話題が入ってこないからということもあるでしょうが、実は違うと思います。

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(この時期のお茶菓子。駒沢学園女子のサイトから)

★それは駒沢学園女子を訪れるとわかります。茶道も坐禅も当たり前のようにあるからです。

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(同校サイトから)

★どういうことか?同校では、毎日のようにレナード・コーエンが禅と茶道を通して語っているような「わび・さび」という哲学をベースにグローバル探究を行っていて、わざわざ哲学者に依頼しなくても、自分で真実を見つめるトレーニングがなされているからです。

★この当たり前の教育が、世界に出ると極めて希少価値があるのです。

★それは日本の茶道具や浮世絵が、世界の高値で売買されていた時代(今もそうですが)のことを思い起こせば理解できるでしょう。

★駒沢学園女子の生徒は、実にウェルビーイングですね。このことをGAFAMのCEOが知ったら、自分たちの子弟の学び舎にするかもしれませんね。

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