思考コード

2023年7月 2日 (日)

筑波大学の入試改革の影響(了)影響力ある中高の学びのあり方 受験業界に影響?

★今回の筑波大学の入試改革の公表は、多様な領域で、いろいろなコメントを喚起していますが、いわゆる東大や医学部にたくさん合格させている学校の学びの具体的状況をリサーチしようという受験業界に善き影響を与えると思います。というのも、以前であれば、東大合格者の数や医学部合格者の数にまず注目がいき、このような合格者を出す理由を、中学入学時や高校入学時の偏差値に求めたり、数学や理科の授業における難関大学の入試問題の取り扱い方に注目して、概ね終了だったでしょう。

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★そのような学校では、国語や英語や社会は、不要教科だとまでいわれているなどという神話が語られもしました。しかし、それは学校の実態とは大きくズレているのです。しかし、ある塾の有力な方々は、以上の観点から学校を観てではなく、受験スタイルを見て、そのような判断をしていたわけですね。

★このような学校と言えば、海城、本郷、豊島岡女子学園やいわゆる御三家を想い受けべれば良いと思いますが、おそらく受験スタイルは、一般選抜が圧倒的に多く、総合型選抜を活用する生徒は少ないでしょう。

★ですから、探究の学びのような総合型選抜に濃厚につながる学びには力をいれていないのだという「推論のはしご」を登ってしまうのでしょう。

★しかし、そのような学校の実態は、上記の思考コードのように、教科学習はたしかに、A1A2A3B1B2B3までがっちりやっていますが、探究だってB2B3C2C3までやっているのです。ただし、このような学校の中には、もともと探究の時間が学習指導要領で設定されるずっと前から、麻布のように土曜日にがっちり教養をカバーするような講座を設定していたので、探究という言い方を前面にだしていないということもありますね。それにあの「論集」や「社会科論文」のような骨太の研究といえるほどのことを行ってもいるわけです。

★海城も、ずいぶん前から、冒険型プロジェクトやドラマエデュケーション、圧巻の論文編集などの学びの環境をデザインし続けてきたわけです。

★麻布と海城の例は、本ブログでもたびたび紹介してきました。

★今年6月の末に豊島岡女子学園の探究活動やSSHの活動について事例発表会があったことについても紹介させていただきました。

★桜蔭や女子学院も麻布、海城のような圧巻の論文編集の学びの環境デザインが昔から行われています。

★一般選抜の受験スタイルを選んでいるからと言って、教養や探究などの活動を行っていないなどとは限らないのです。

★こういった学校の生徒の多くは論文編集能力と読書量は、全国平均を超えるレベルです。

★だから、受験業界全体が、教科学習と探究のような活動の両方がどのようなプログラムになっているのか注目するようになると、日本の中等教育も意外と世界標準レベル以上だということが了解できるはずです。

★そして、受験業界ですから学校間の比較をするでしょう。それは市場の原理でどうぞやって構わないのですが、そのとき、教科学習における難度比較ばかりではなく、探究のような活動の比較もしてくれれば、その領域においては逆転現象が起きている学校もあるということにも気づくでしょう。

★実際に都内の東の御三家のある学校が、都内の西の学校にまで見学に行って、探究やICT領域の学びの活動において、そこまでうちではできない、自分たちが何ができるか考えなくてはと切磋琢磨が起こるような場面もあるわけです。

★もちろん、このような世界標準のレベルの視野を持って、情報収集・分析をしている受験業界におけるシンクタンクもすでに現れています。そこが大きな流れをつくっているという事実もあります。

★対話型の生成AIが登場して、教科学習については、思考コードの差を埋めるデフォルトモードの学びの環境ができてきます。今のところ、そのようなAIを使って論文や作文を提出しないという禁止条項への流れの話が注目されていますが、プロンプトエンジニアリング(問い生成エンジニアリング)の流れが教育に入ってくると、知識・理解や論理の思考作用についての学びは、差がなくなります。

★学校の学びの特色は、「適用」「批判」「創造」の思考作用の学びの環境をいかにデザインするか、そのクオリティの共創的競争になるでしょう。先日、そんな話で意気投合した若き受験業界のデータサイエンティストたちに出会いました。

★おそらく、最終的には、「コミュニケーション」や「対話」の質を求めるようになっていくでしょう。ここの分析も、もはやAIでできてしまうのです。今ままでは、実はあまりこの領域の進化がみえなかったのです。理念的段階で終わっていたのです。ところが、それがグッと進むことになるでしょう。ただし、AIはそのクオリティを分析できても、自分で質をあげていくことは今のところできません。

★とはいえ、既存の情報を組み合わせるとそれが混合ではなく化合することがあります。すなわち、化学反応を引き起こすことはあるので、油断はもちろんできないのですが。

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2023年6月30日 (金)

筑波大学の入試改革の影響①教科授業と探究の機能の意味が現場で明快になる

★毎日新聞 2023/6/29 20:30の記事「筑波大学が入試改革 面接や小論文重視に変更へ」は今後の中高現場の教科授業と探究の両機能の意味が現場で明快になる意味があります。もちろん、これが理想だとは私は個人的にはまだ思っていませんが、まずは学びの環境の善き方向への大きな一歩だと思います。

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★記事にはこうあります。「筑波大の永田恭介学長は29日、5年後をめどに入試改革を行い、個別試験を面接や小論文中心に変更する方針を表明した。今年度中に改革案をまとめる。」なるほど、2030年の次期学習指導要領改訂を見据え、先駆けようということですね。

★同記事の中で、永田学長は「基本的な学力は共通テストで分かるので筆記試験をやっても仕方がない。個別試験を変えて、これまで見つけられていなかった才能を見いだしたい」とも語っています。

★ということで、中高現場の「教科授業」と「探究」の学びの機能が明快になる可能性がでてきたわけです。すでに、多くの学校で、教科の授業は、思考コードでいうA1A2B1B2の領域を生徒と共に学び、「探究の時間」で、B2B3C2C3の領域で共に学んでいるのですが、その機能の明快な違いが広まるといういことでしょう。

★この2つの機能の役割分担は、総合型選抜の拡張に伴い進められてきたわけですが、まだまだ総合型選抜の定員が少ないので、どちらかというと、A1A2B1B2の教科学習が中心でした。ただ、新学習指導要領以前ののようにA1A2の領域だけにとどまるということがなくなっただけでも大進歩です。

★また、A1A2B1B2の領域を「教える」のではなく「共に学ぶ」とシフトしつつあるのは、アクティブラーニングとかPBLといった「主体的・対話的で深い学び」の新学習指導要領のビジョンが反映しつつあるということでしょう。

★共に学ぶ必要があるのはなぜかというと、定期試験の機能が変わったからです。定期試験を無くそうという学校もありますが、そのような学校は、現場は実際にはA1A2の領域をやっているので、それならミニテストの集積でよいということなのです。

★しかし、B1B2までアクティブラーニングなどでやらなくてはならないのは、ロジカルシンキングは、対話をしたりディスカッションをしたりしないと、鍛錬ができないからです。論理の一貫性や問いの深さなど、話し合うことによってそのズレをリフレクションしながら修正していけるからです。

★ICTの浸透により、互いの小論文をデバイス上で共有しながら、話しながら、編集していける時代です。柔軟で強いロジカルシンキングを鍛えるにはこういった共に学び、教師から有効なフィードバックをもらうのがいいわけです。

★前任校の聖パウロ学園では、教科の授業において20%ルールというのがあって、最低限20%はB1B2の領域を共に学ぼうとなっていました。もちろん100%やってしまう教師も多いのですが。

★そして、探究ゼミで同時に総合型選抜によるキャリアデザインもするわけです。したがって、上記のような思考コードのすみ分けをしていたのです。もっとも、ロジカルシンキグは共通領域です。

★ロジカルシンキングには、三角ロジック(トルーミンモデル)を活用し、in×de×abーductionの推理法を回すわけです。

★こういった前任校のような教科授業と探究の機能の共通点と違いを意識してカリキュラムマネジメントすることが、5年後ではありますが、筑波大学のような動きを国立大学がすることによって、押し進めることになるというのは善き方向です。

★もちろん、工学院大学附属や和洋九段女子、富士見丘、文化学園大学杉並、聖学院、サレジアン国際学園、サレジアン国際学園世田谷、三田国際などのように、教科授業でもC軸領域まで行ってしまうというのは探究活動をさらに豊かにするので、理想的です。そうなると海外大学にもたくさん進学するようになり、キャリアデザインの射程がグローバルになります。実際、この8校はそうなっていますね。

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2023年6月29日 (木)

チャットGPTと思考コードプロンプト

★先週の金曜日、このホンマノオト21で「生成AIにおけるプロンプトエンジニアリングと思考コード」を書きました。そんなとき神崎先生(カンザキメソッドで超有名、特に探究、リベラルアーツのワークショップ、総合型選抜対策は秀逸)から声を掛けられました。今ちょうど慶応義塾大学湘南キャンパス(SFC)の大学院で研究をしていて、思考コードの生みの親なんだから、思考コードの新しい取り組みのアイデアはないのか?と。

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★私は、研究などタイトなことはできないのですが、アイデアだけならと。そこで、まず思考コードプロンプトエンジニアリングをやってみました。ある生徒の1つの文章を、思考コードのA・B・C軸ごとに、連続してCoTプロンプティング(Chain of Thought Prompting)していきます。

★すると、A軸は素晴らしい分析をしてくれます。ところが、B軸の適用(的思考)の観点では、一つの文章では、どう適用しているかわからないから分析できないと回答してきます。論理的思考はOKです。

★C軸では、創造的思考はOKなのですが、批判的思考ではGPT自身は、批判はできないと回答します。そこで、作者はどんな批判的思考を使っているか分析してよと頼むと、それはできますと見事に分析してくれます。

★その分析が正しいかどうかは精査が必要ですが、おもしろいのは、適用は複数のデータをCoTしてよということですし、批判的思考は自分は出来ないけれど、作者の立場ならできるのだと。つまり、ここには主観性と客観性の識別(それゆえ、図のようにGPT自身と作者の立場で分ける必要があったのです)をGPTがきちんとしているということです。

★逆に今まで、主観は排除して客観性に偏ってきた学びは、それこそ主体性を生み出せない壁だったということが映し出されたわけです。

★主体性を求めるには、複眼的思考と批判的思考が育たないとということでしょう。

★「主体的・対話的で深い学び」には、複眼的思考と批判的思考必須ですね。もちろん、そのベースに、知識・理解、論理的思考は必要です。

★そうそう創造的思考は、GPTはできてしまうんですよね。これは創作物として見ることができるからでしょう。そして、そのクリエイティビティの正当性や信頼性、妥当性を支えるのは、複眼的思考や批判的思考で、その二つがあるから、批判的思考が独善的にならないのでしょう。信頼性や正当性、妥当性を生み出すのは、複雑な思考が対話によって織りなされなければならないようですね。

★対話やPBL、そしてその向こうにあるメタローグはいかに大事かということですね。

★そうそう、チャットGPTを「高倫理」のもと生徒が使うと言語能力や思考力、コミュニケーション能力を高めるツールになるかもしれません。

 

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2023年6月23日 (金)

生成AIにおけるプロンプトエンジニアリングと思考コード

★生成AIは、自然言語(日常使っている言語)で指示することでコード無しでAIを操作できるので、その操作をプロンプトエンジニアリングと呼ばれています。このワードを検索すると山ほどでてきます。NHKの番組では、このプロンプトエンジニアは5000万くらい稼げるなどという話まで流していました。また最近東大の松尾教授も、プロンプトエンジニアは重要な役割を担うと日経などで語っています。

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★プロンプトエンジニアリングの手法は、ゼロショット・プロンプティング、 フューショット・プロンプティング、 チェーンオブソート・プロンプティング(CoT)、 ゼロ ショット CoT・・・などとすでに呼ばれています。

★ゼロショットとは、チャットGPTなどで問いを出す時、思考コードでいう単純な問いのことです。フューショットとは、複数のことを聴いてみることです。このフューショットの複雑性を増やしていけば、想定された回答以上の変形が起きてきます。

★また、チェーンオブソート(CoT)とは、問いかけ、回答され、それについてまた問いかけをつないでいきます。これは論理的に連鎖していくとそれなりの論述文ができあがります。

★このCoTにゼロショットなどを組み合わせてゼロショットCoTをしていくことで、どんどん論述文は広がってちょとした小論文に変形されていきます。

★プロンプトエンジニリングによって、AIの才能を開花させ、最適解を引き出すことがある程度できます。

★しかも、ある詩人の詩を提示し、この詩人のように愛について詩を作ってくださいとリクエストすると、それなりに創ってきます。クリエイティブな様相を呈してきます。さらに同じ詩人の詩を提示して、同じ質問をすると自己調整してブラッシュアップしてきます。

★幾つかの条件を提示して、これらの条件を満たす活動はどうなるのかと問うと、新たな活動案が生まれてもきます。もはや新しい知識も確率的に推論してきます。

★既存の知識を組み合わせることは、人間であっても創造と呼びます。

★しかし、枠組みを破壊して「脱獄」というプロンプトエンジニアリングもあります。これが、生成AIの危うさです。ですから思考コードC3は協働性を重視します。脱獄や破壊のリスクママネジメントするプロンプトエンジニアリングが必要になります。

★おそらく、正当性、信頼性、妥当性という条件を満たすことを最終的には問わねばならないし、その3条件を満たすエピソードも書き込まなければならないでしょう。

★もし思考コードのような発想がなければ危ういかもしれませんが、それはまさに人間と同じですね。もともと言語生成AIは人間の自然言語をモデルにしているのですから当然です。

★結局、言語生成AIにおけるプロンプトエンジニアリングは、人間の言語能力を高め、かつ正当性、信頼性、妥当性という倫理を形成していく活用ができるということなのかもしれません。それにしても、思考コード発想はここにきてさらに必要ということですね。

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2023年6月 5日 (月)

変わる私立中高(38)中学入試市場の第4波シフトを促す生成AI リアルな対話以上にリアル

★中学入試市場における第4の波のシフトを促進するのは生成AIであることは間違いないでしょう。第4の波の学習観は、思考コードの9つの領域を変幻自在に経めぐるわけです。A軸から順番に学びの経路をたどる時もありますが、C軸からでもよいのです。単純にその経路の順番を計算すると3の3乗×4通りもでてきます。もちろん、これはほんの一部です。にもかかかわらず、今まで学びの経路あるいは打ち手は限られたものでした。もはや無限なのですが、そうなると評価ができないのだと。

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★だから、今まではその学びのプロセスではなく、結果をみてきたわけです。しかし、結果も過程の一部なのに、そこだけで評価をすると他のプロセスの才能の芽が見逃されてしまうわけです。それでは、イノベーションなんて起きにくいですよね。

★しかし、生成AIのおかげで、そこのプロセスが明示されるようになってきたわけです。

★よく生成AIを使うと思考停止すると懸念されます。しかし、それは人間同士の対話においても思考停止は頻繁に起きてきたわけです。結果だけの評価=サマティブ評価は、まさにその大きな原因になってきた可能性があります。

★私たちが対話する時、単純な5W1Hの問いを投げ合うと、それは挨拶や日常の会話の時にはそれでよいけれど、PBLやグループセッションのときには、それだけでは思考停止してしまいます。

★少なくとも自分の考えをお互いに200字から400字くらいの言葉の塊にしてキャッチボールしないと対話は続きません。思考は広がらないし深まらないのです。

★生成AIと対話するときも同じです。ですから、生成AIを活用するとき、倫理的配慮、法的順守以外に、三角ロジックやアブダクションという推理方法で200字から400字くらいの言葉の塊の自分の考えを投げかけ、生成AIに君ならどう考える、もっと別な考えがあるのかと問いかけ、生成AIが回答してきたら、その回答に対しフィードバックしながら対話を続けていくスキルも必要になってきます。

★すると、東大の入試問題の記述の問題くらいの思考力は、別に東大受験をしなくても身につくし、それ以上に東大の帰国生・留学生対象の正解のない小論文に対応する思考力も身についてしまいます。

★知識も、生成AIと話す段階で、君のその知識違うんじゃない、僕もおぼろげなんだけれどとか語ると、申し訳ございません、間違っていました。こうですよねと答えてきます。それも間違っている場合があるので、調べて、この本によるとこうだよと語ると、その情報はまだ私は知りませんでしたとなる場合もあるわけです。

★このような対話が、ふだんの授業で頻繁にできるでしょうか?生成AIを活用しながら授業も変容せざるを得ないでしょう。確実に第4の波はやってきています。

 

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変わる私立中高(37)中学入試市場の第4波シフトの意味 思考コードが映し出す学習観の水平的多様性への移行

「GLICC Weekly EDU 第130回「首都圏模試センター×GLICCー2024年度中学入試最新情報」北一成氏の予想」で、北氏の考え方からインスパイアーして、中学入試の第4の波へのシフトを妄想したわけです。2014年から右肩上がりの首都圏の中学入試の第3の波の大きな要因を北氏は、「学び方の変化」と指摘しています。それがゆえに、思考力入試や英語思考力入試など新タイプ入試が急激に増えてきた可能性が大だと。

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★さらに北氏は、中学入試市場を3つのゾーンに分けており、そのうちCゾーンが勢いをつけてきた流れが、この第3の波が生まれてきたこととかかわりがあるのではないかと。そこで、このそれぞれの3つのゾーンの学習観を思考コードに対応させてみました。上記の図がそれです。濃い領域がそれぞれのゾーンの学びの重点領域です。

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★大学入試が一般選抜の受験生数が総合型選抜に比べまだまだ多いので、この3つのゾーンは、まだまだ垂直的序列主義の枠組ですが、世界の情勢が、この垂直的序列主義を水平的多様性に移行させる動きが相当でてきています。もちろん、それは限定的ではあるので、ある領域ZとY領域では、垂直的序列主義型ではあるけれど、Z領域内では水平的多様性になるという入れ子型のシフトの過程をたどることにはなります。

★この過程段階を中学入試市場においては第4の波だと妄想しているわけです。水平的多様性とは、あらゆる差別を見直し、フラットにしていこうという時代の要請でもあるのだと思うわけです。そうなってくると、3つのゾーンは融合していきます。

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★すでに、この第4の学習観はイメージされています。しかし、まだ学校現場では、すべてがこうなっているわけではないのですが、どのゾーンもこの方向に動くようにアフォードするコレクティブダイナミズムが多方面で起きています。高大連携然り、探究の学び然り、英語の学び然り、大学入試の多様性然り、インクルーシブ教育の必要性然り、エンパワメントの動き然り、SDGsの動き然り、人間の安全保障についても然り、グローバル経済の倫理ベース然り、アントレの重要性然り、平和創造の問題然り、リスキリング問題然り、シンギュラリティ―の加速化然り、あらゆるところで、学習観は、中学入試における第4の波へのシフトと同期していると思えてならないのです。

★第4の波の段階では、私立中高の学習観の水平的多様性を生み出しますが、公立との関係はまだ垂直的序列主義の関係が続いています。しかし、それはやがて、水平的多様性にならざるを得ないでしょう。そうすることで、大学のみならず、中高段階でも海外の生徒が日本に留学しにやってくるのです。この動きはすでに生まれています。少子高齢化が進めば、そうならざるを得ないでしょう。この段階が中学入試市場では第5の波となるでしょう。2030年から2050年の間に、それがはっきり見えてきます。内閣府が実施しているムーンショット計画との同期が起こるからです。

★英語でも日本語でも第4波の学習観で学ぶようになると、海外の中高大の留学生がかなり訪れるようになるでしょう。この動き自体は、内閣府や文科省、経産省の政策にも同期します。政策が実現するかどうかは、法整備とその内実である学習観の整備ということに気づくはずです。そして、これによって、1930年のケインズの予言が日本で的中することになるのです。

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2023年5月 1日 (月)

変わる私立中高(14)偏差値による垂直的序列主義が崩れる発想の転換が起きている。

★ここにきて、東京の私立中高の教育環境デザインの主要素7つは、すべての学校が揃えたと考えてよいかもしれない。先週土曜日中央大学附属中高(中附)で開催された研究会に参加した学校は男子校、女子校、共学校など多様で、質疑応答のシーンで、これから学びたいというよりは、同じように探究などに取り組んでいるのだが、この点はどう対応しているかなどの問いで溢れていました。

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★つまり、中附の教育の主要素に関しては共通しているが、進捗状況や課題解決の方法、アウトカム等々の質の違いがあるということだと感じました。プロジェクト学習のシナリオ作りはどうしたらよいですか?ではなく、シナリオづくりのこんな点が違うのですが、その点についてコメントをいただきたいという感じです。教師がファシリテーションをするのはわかりますが、なかなかシフトできないのですが、アドバイスいただけないですか?とか。海外研修はうちも当然実施していますが、新しいアプローチはないでしょうか?とか。

★つまり、上記の図のように、

①プロジェクト型授業

②多様な体験

③AIミックス学習

④多様なグローバルプログラム

➄高度な英語力

⑥対話の質

⑦生徒の成長

★この7つの教育環境デザイン項目は、どこの学校もなんらかのカタチにしているのです。したがって、こんなプロジェクトやってますとか、こんな体験していますとか、AI使っていますとか、海外研修やってますとか、高度な英語力を身に付けるプログラムを備えていますとか、グループワークなど対話を取り入れていますとか、生徒が豊かに成長していますとかだけでは、学校選びはなかなか難しい世の中になったのです。

★どうやら、それぞれの項目の質やレベルなどの違いがわかる基準が必要になってきたようです。首都圏模試センターの「思考コード」や中附の先生方が一丸となって開発した「chufu-compass」などがヒントになると思います。

★さて、この7つの諸要素の関連が化学変化を起こすわけですが、その結果何が起こるのか、すでに起きているのですが、たとえば、大学進学実績の東大の価値が変わるのです。

★どういうことか?それはすでに確実に起きているのですが、上記の7つの諸要素の化学変化を起こす動きによって、どの学校からも世界大学ランキング100位以内の大学に進学することが可能になったということです。

★東大だけが目標だと、入学者は3000人強ですから、たしかに競争は激しく、垂直的序列ができてしまいます。ところが、どこの学校からも世界大学ランキング100位以内の大学には入れるようになっているのです。たとえば、東京だけで私立中高一貫校は180強あるわけです。それぞれから3人ぐらいは、世界大学ランキング100位内の大学に入る潜在的可能性があります。すると、東京の私学から500人以上が東大以外の世界大学ランキング100位以内にはいれるわけです。それにおそらく3人どころではないでしょう。10人くらいはいける能力が十分にある環境が揃いつつあります。すると1800人は東大レベルの大学にはいれるわけです。

★実際に受験するかどうかはわかりませんが、少なくとも東大レベルの大学にはいるチャンスが広がるわけです。

★相対的に実質的に東大偏差値の価値は低くなります。そしてこの低くなることは何も東大の価値が下がることを意味するわけではないのです。ただ垂直的序列主義の価値観を崩す発想になるということなのです。

★日本の人口は減る一方です。母語は歴史的文化的に保護しなくてはなりませんが、日本語を話す人口はますます減るのです。アフリカのスワヒリ語は1億人が使っています。アフリカの人口は増えるでしょうから、グローバルサウスの時代、少なくとも日本語よりも注目される言語になっていくでしょう。

★母語を守りながら、世界言語を学ぶのはもはや必須の時代でもあるわけです。すぐれた世界対話力が求められている時代であることは、今回のウクライナ問題で私たちは身に染みて了解しているはずです。

★垂直的序列主義から水平的多様性へシフトすることが世界の平和や安全、つまりはウェルビーイングを生み出すことにつながることになるでしょう。上記の7つの項目がつくる教育へのシフトは、学習指導要領が変わるからとか大学入試が変わるからとかという理由もあるでしょうが、どうやらその背景にある世界の価値の転換にシンクロしているのかもしれません。

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2023年4月27日 (木)

変わる私立中高(12)多様なキャリアデザイン 「多様な思考型中学入試→プロジェクト型成長→多様な大学入試」 思考コードがカギか?

★3月末から4月に入って現在に到るまで、100人以上の首都圏私立中高の先生方や教育関係者の方の話に耳を傾ける機会がありました。また毎月ガッツリ対話をさせていただく先生方も20人ほどいます。東京の私立中高の先生方は18,000人強ですから、公平中立な話であるかどうかわかりませんが、少なくともそれぞれの学校の建学の精神や文化を背負っている先生方ばかりです。私でも20人の先生方には常に対話というよりガッツリ助言を頂けるのですから、おそらく100人の先生方もそうでしょう。そうすると2,000人くらいの先生方の考えや感じ方とシンクロできているのだと推定します。

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★ということで、やはりブログを書き続けなければというミッションが私の中に生まれてしまうのです。おっせっかいなのですが、そこは年寄りということでお許しいただきたいのです。こうやって毎月対話をしていくと、かなりの人数の先生方とシンクロした考え方や感じ方をお伝えできると思うのです。もちろん、違いは大いにありますが、それがまたよいわけです。違いの中にコアの根源的なコトを見出すことができればと。もちろん妄想だといわれるかもしれません(笑)。所詮は主観ですから。しかし、相互主観くらいであってほしいとは思います。

★さて、最近話をしていて、つくづく思うのは、プロジェクト型の学びやワークショップ(WS)は、多くの先生が自分のスタイルを身に付けているということです。しかも、それを探究の時間のみならず、教科の授業に織り込んでいるという実感を抱いています。

★もちろん、一方で従来の受験勉強も織り込むわけです。したがって、上記のグラフのようにプロジェクト型の学びだけとか受験勉強型の学びだけという極端な話はなくなってきているなあと感じます。

★同時に中学入試も、思考力ベースや英語ベースの新タイプ入試も当たり前のようになってきましたし、何より4科目の試験の中にも必ず思考型問題が出題されるようになっています。したがって、全体として多様な思考型中学入試になっていると感じます。大学入試は必ずしもすべてが思考型入試となっているわけではありませんが、国公立大学の一般選抜や各大学の総合型選抜は、思考型入試問題になっています。

★それゆえ、高大接続改革や新学習指導要領がどうのこうのという必要もなく、時代のキャリアデザインは、「多様な思考型中学入試→プロジェクト型成長→多様な大学入試」という連続体になっているのではないかと思います。

★これを前提に各学校の特色や魅力は何かを考えていけばよいですね。とはいえ、入試に関しては、入試問題を見ればその特色は一目瞭然ですが、プロジェクト型成長に関しては可視化されにくいので、やはり各学年の成長をなんらかの基準=コンセプトレンズで観る必要があります。おそらくプロジェクト型成長と受験勉強型成長は、そのバランスや比率、化合型か混合型かで、上記のグラフにおける曲線の描き方は変わるでしょう。

★ルーブリックでもよいし、コンピテンシーリサーチでもよいのですが、ちょっと大掛かりなので、コンビニエンスなのは思考コードです。これについては、和洋九段女子のプロジェクト型成長で述べていますから、もしよかったら参考にしてください。

★中央大学附属中高でも、思考コードと親和性があるコンピテンシーを計測するリサーチを本格的に行っています。おそらく、多くの学校で観点別評価の創意工夫をしてきます。そうなるとそれぞれ違うけれど、同じ点があるということを見出す通訳可能性のあるレンズがあると便利ですね。そのカギが思考コードだと思っています。

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2023年3月14日 (火)

ケアの時代(01)ケアの視座

★21世紀になって、急に自己肯定感、自閉症、メンタルモデル、ウェルビーイング、ケアなどのキーワードが照射する具体的状況が可視化され、意識が焦点化されています。高校教育では、全日と通信制高校のあり方の見直しも議論されてきています。

★特に、今回のパンデミック、ウクライナ、気候変動というキーワードが遠くの話ではなく身近な生活にもその影響を可視化しています。そして、当然困難にみな直面します。DXとかGXとかがその局面を解消するテクノロジーとしてあるいはイノベーションとして盛り上がっています。倫理的資本主義など資本主義の新しいカタチが求められ、あたかも1930年にあのケインズが「孫たちの経済的可能性」という予言書さながらのエッセイで書いているのと同じような状況が生まれています。

【インプットケアループ】

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★もちろん、2030年は、ケインズの予言通り、先進諸国は、イノベーションによって経済は発展し、1930年の世界恐慌当時とは比べ物にならない程生産性はあがっているでしょう。ケインズは、だから2030年は、当時の4分の1程度の労働で、よくなるのだともいっているわけです。そして、時間を持て余すから、人間はその余暇を本質的ななにかを追究するようになるしかないのだと。

★当時の4分の1程度の労働というわけにはいきませんが、毎年低成長かもしれませんが、先進諸国はなんとか成長し、1930年当時に比べるとたしかにすさまじい成長です。たとえばGDP成長率というのは、前年比ですから、複利計算で、たしかに資本蓄積は着々ですね。

★そういう意味では、経済に関するケインズの予言は半分はあたり、半分は外れたのかもしれません。しかし、ここで重要なことは、経済はあくまでも手段であって、人生の目的である人間にとって大切な本質的なことをみなが探究するようになるのだという指摘はあたっていたようです。

★もともとケインズは、このことを主張するためのでデータや根拠として経済成長の曲線を描いたにすぎず、それがあたろうがあたるまえが、人々が、世界恐慌に直面して、パニックになり自信喪失し、落胆し、自殺までしてしまう恐怖の恐慌時代に対し、100年先を見よ、孫即未来の価値を生み出せとエールを贈るのが本意だったのでしょう。

★そして、パンデミック、ウクライナ、気候変動の時代の悲痛さは、1930年時代よりも凄まじいかもしれません。51年前にドネラ・メドウズらが「成長の限界」で予言した2030年はまさに起こりつつあるのです。しかし、ドネラは、ケインズと同様に、メンタルモデルの変容を提唱します。自然と社会と精神の循環を取り戻そうよと。その動きがSDGsに結実し、日本の2050ムーンショット計画につながっているわけです。そして、それはケインズの孫たちのための2030年予言とシンクロしているわけです。

★すべての人のタレントを開花し、テクノロジーによるイノベーションを進化/深化させると同時に、人間のメンタルをウェルビーイング状態にすることこそケインズのいう人間の本質的なことでしょうし、ドネラのいうメンタルモデルの変容でしょう。

★では、そこはどうするか?私は、いよいよ21世紀はケアリングトランスフォーメンション(CX)の時代であると思っています。気遣いの時代といってもよいのですが、「気遣い」という日本語は、少しケアとニュアンスが違うので、ケアとかケアリングという言葉を今のところ使っておきましょう。

★ケアの視座は、上記のインプットケアループを理解し、内なる光と外交性を統合循環する精神・自然・社会の関係性を生み出すポジティブメンタルモデルを形成していき、孤立化や無気力、怨念の悪循環を生み出すネガティブメンタルモデルに陥らないように精神と自然と社会の環境をデザインするスキルの実装ということになります。

【アウトプットケアループ】

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★そして、この実装は、同時にインプットの逆照射につながります。ケアの視座は、インプットケアループとアウトプットケアループの相互関係性でなりたつわけです。

★しかしながら、インプットのときに、物理的・精神的抑圧を与えないようにすると、アウトプットのときに、物理的・精神的抑圧がでてこないかというと必ずしもそういうわけではありません。もし、外壁センサーと内壁センサーの関係性がポジティブメンタルモデルになっていない場合は、そうならないのです。

★したがって、インプット情報とその流れがポジティブメンタルモデルになるようにケアリングする必要があるのです。

★21世紀になって、私は多くの学校とPBL開発をしてきました。特に3.11以降は21世紀型教育機構のメンバー校の先生方と先鋭的PBLモデルを追究してきました。そして今、勤務校聖パウロ学園で全日制の先生方と通信制の先生方と毎日対話をし、気づきを得ています。もはや生産年齢を超えてしまった私ですから、これからも多くの先生方と対話しながら、今までそしてこれからの気づきと実践をシェアしていければと思っています。年寄りの冷や水かもしれませんが、あるいは大きなお世話かもしれませんが。。。。。

★しかし、私もケインズやドネラのならって、100年後を見据えて残りの人生を終えたいと思うのです。「孫たちの教育的可能性」「孫たちのウェルビーイングの可能性」について考察と実践をしていきたいと思います。そういう想いで、このシリーズを細々と続けたいと思います。

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2023年3月 5日 (日)

GLICC Weekly EDU 第118回「湘南白百合学園の魅力〜2023年度入試分析とその教育の中身」 エンパワーメントの拡張

★先週の金曜日、ちょうど3月3日に、湘南白百合学園の教頭・広報部部長の水尾純子先生のお話を聴くことができました。2023年度の首都圏中学入試において、出願数が爆増したということで注目を浴びている神奈川エリアの私立女子校の湘南白百合学園です。巧みな広報戦略とアクティブな知のコミュニティを創る愛あるプロデューサーとしての水尾先生の力が発揮されました。湘南白百合が人気がでた理由の一つには、水尾先生と生徒たちのコラボレーションの効果がありました。

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ご視聴いただければ詳しいことはわかりますが、生徒自身が湘南白百合を広報したいと名のり出てくるその人数が破格です。全校生徒の25%のおよそ250名もいるそうです。もちろん、この人数の多さに圧倒されるわけですが、この人数の多さは、あるダイナミズムを生み出します。

★生徒たちは、湘南白百合の教育の中身や生徒の様子を自らの経験を通して温かく柔らかく、それでいてプライドを持って語ります。これは、生徒が同校でエンパワーメントされているということです。湘南白百合の教育の質の伝道は、カトリックの真理の伝導だし、何よりそのような自分を確認し、内面から愛ある行為を支える力がコンコンと湧き出てきているのです。

★お話をお聴きしているだけでも、その様子が目に浮かび、聴いている私も何か元気をもらえるのです。受験生・保護者であればなおさらです。水尾先生の広報活動は、湘南白百合のブランドをマーケティングだけでつくるではなく、在校生のみならず受験生もエンパワーメントされ、ウェルビーイングに満たされるブランドアクティビズムの手法で生み出されます。

★ウェルビーイングの世界に迎え入れる準備がすでに学校説明会などの広報活動においてなされているのです。人気が出るのは当然です。

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★しかも、その広報活動では、「OECDのラーニングコンパス2030」というキー・コンポテンシーやチェンジメーカーのエンジンであるエージェンシーなどを育てるシステムを各教員が実装しているというのですから、さすがです。

★PISAという国際学力調査を行ってきたOECDですから、思考コードと同じように、知識・情報の取り出し、知識情報の背景にあるジレンマ現象の発見とそれを解決しようというコンパッションを大切にしたロジカルシンキング、その解決のためのクリティカル・クリエイティブシンキングが湘南白百合の教育のベースにあるわけです。

★そして、「2030」という数字が意味しているのは、SDGsの目標の1つである「教育の質」を豊かにしウェルビーイングを生み続けていこうという意志を表明しているわけです。同校もそのビジョンに同意しているわけですね。

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★さらに、この最終的な創造的なアクションを生み出すには、実は深い洞察力を必要とする「問い」を立てなければ、探究活動は浅いものになってしまいます。そこもちゃんと緻密に計算されていて、水尾先生は、生徒たちが自ら「深イイ問い」を立てるコミュニティもプロデュースしているのです。

★学芸大学の先生と日本OECD共同研究が、湘南白百合、逗子開成、サレジオ学院、山手学院の教師、生徒とコラボして「問い」づくりを行う探究活動が始動しているのです。

★なぜコラボか?「深イイ問い」には、多様性がゆえに根源的な問題が投影されるケースが多いからです。

★世界の痛みを強烈に引き受けたり、世界に新地平が生まれる驚愕に直面したりしたときに愛が生まれます。だからこそ「深イイ問い」に気づくのだと思います。

★その「深イイ問い」を引き受けると、生徒は自分のそれぞれの道でミッションを感じとることになります。自分は何ができるのか思い巡らすことになります。生徒の成長曲線が指数関数的になっていくのです。神奈川県の入試市場のプレイヤーである受験生・保護者の洞察力と見識に頭が下がります。そのような本物教育にニーズを感じる方が多いということを、2023年神奈川エリアの中学入試は示唆しているのですから。

★男子校は聖光学院、共学校は横浜創英が、湘南白百合と同じく、男子校、共学校の中で受験者増加数ナンバー1だったのです。

★この3校が中学入試において憧れの学校になるということは、ウェルビーイング教育実践校としてのロールモデルエフェクトは絶大です。私の独断と偏見の話より、まずは水尾先生のトークをぜひご視聴ください!

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