創造的対話

2025年2月17日 (月)

2026中学入試準備(13)東京私立中高の理数教育の教科横断性 実に深い

本日、アルカディア市ヶ谷(私学会館)で、東京私学教育研究所の理数系教科研究会が、<令和6年度「合同授業実践報告会」~教科横断的な授業実践・生徒の興味が高まる取組・ICT や実物教材を用いた取組の報告~>を開催しました。8つの学校の理数系の先生による授業が報告されました。理数系の教科が一堂に会して、授業報告するというのは、従来はなかったのですが、今年委員の先生方がチャレンジし、教科横断的視点を参加者がそれぞれに発見するという機会をつくりました。情報交換会もあり、それぞれ気づいた視点をシェアしたことでしょう(私は都合により3人の先生の報告を聞いて去らねばなりませんでした)。

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★3人の先生の報告を聞くや、普段の授業の中で、生徒が目からウロコの連続であることに感銘を受けました。教科横断とは、この目からウロコ体験が、多様なものをつなぐ回廊になっているのかもしれないと感じました。

★そして、その目からウロコというのは、先生の創意工夫した問い作りにカギがありました。生徒が知っている知識を問い進んでいくと、その知識の積み上げがある矛盾にぶつかるような仕掛けがなされているのです。

★生徒はそこからなぜ、どうして、おかしいじゃないかと問いの連鎖という思考を展開していきます。

★そして、この目からウロコ体験を積んでいったところで、今度は目からウロコ体験を生徒自らが生み出す問い作りの探究が普段の授業の中で行われているのです。

★探究の時間ではなく、普段の授業の中で実は行われているのです。ある一つの単元の残りの20%から30%はミニ探究活動になっているのです。教科と探究がつながっているのに驚愕しました。なぜつながるのか?それは問いの循環思考が作動しているからではないかと。これについては、次回もう少し述べたいと思います。

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2025年2月12日 (水)

2026中学入試準備(07)東京都 本来の人間とは何かをどうとらえるか議論が進み始めている

★第6期東京都いじめ問題対策連絡協議会(第1回)に参加してしみじみ感じたことは、これほど多くの関係者が、いじめを防止しようという対策を実践しているということに改めて日本の未来はなんとかなるのではないかということです。いじめ問題だけなく、子供の周りには多くの問題があるし、しばしば子供自身問題に巻き込まれます。その問題ごとにこのような政策を都は議論し実施しているのです。

★また、同協議会では、令和5年に都が主催した高校生いじめ防止協議会 議事録が紹介されたが、高校生の声は全くその通りだと思いました。

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★いじめの問題が起こる構造的な認識は、3つの層で語られていました。法的制度という環境の整備がどうなっているか?そしてその効果はどの程度なのか?それから人間関係がどのように形成され、それが阻害されるのかの構造の議論。3つめは子供のマインドの状況、たとえば、自己肯定感が低い状況はどのような構造があるからなのか?それぞれの委員の置かれた仕事のミッションから真摯に語られました。予定された時間を超えた熱い協議会でした。

★これは、いじめの問題だけはなく、多くの問題にも適用可能な議論でした。法的制度と人間関係が拘束力や同調圧力の強さの加減で、いろいろな問題が起こるがゆえに、法的制度や人間関係、そして個人のマインドのそれぞれの価値観を変容させていこうという議論であったからです。

★同協議会が終わった後、何人かの委員の方と立ち話をしましたが、やはりこれらの諸関係の法制度と社会の習慣などと子供の主観的なマインドの矛盾はいかにしたら解決できるのかみな同じ悩みを抱えていました。

★個人はたしかに、物理量としては、大きな制度や習慣の中の点ですが、本来は、制度や習慣は子供の無限の価値を生みだすシステムであるはずです。経済学や法律学、社会学、心理学、生命科学、文化人類学、教育学など多様な学問で、今人類の永遠の問い「本来の人間はいかにして可能か?」に立ち臨んでいますが、それは東京都及び関係する機関もまた同じでした。

★そして、これは東京都ばかりではなく、各自治体でも行っていることでしょう。価値観の転換へ!とすぐには飛躍はできないでしょうが、じわじわ変容はしていると感じました。高校生が、授業のあり方を議論や話し合いができる仕組みにすることを提案していました。これは授業だけはなく、あらゆる集団組織にも適用できます。

★「対話型組織作り」と「対話思考」のフュージョンが生まれつつあります。

★一見遠い話のように思うかもしれませんが、中学入試というのも制度です。新タイプ入試が、この対話思考を開いていることの重要な意味があるということもこのような変容とシンクロしているなと改めて感じました。

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2024年11月25日 (月)

2025年中学入試動向(15)日大豊山女子 新タイプ入試60%占める ルーブリックも公開

★2025年の中学入試において、日本大学豊山女子は、10種類の入試を実施しますが、そのうち4科・2科の入試、国算2科の入試は4つです。つまり、それ以外は、英語インタビュー入試や一科目入試、課題解決型入試など多面的なエンパワーメント評価ができる入試を実施します。驚きなのは、入試要項にアントレプレナーシップ養成のためのルーブリック(思考コード型)が公開されているのです!

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★詳しくは上記入試要項を見ていただきたいのですが、ルーブリックが公開されているということは、受験生一人ひとりの才能を活かせる入試が有効であることを長年新タイプ入試を積み重ねてきた同校だからこそ示すことができるという宣言でもありましょう。

★2027年以降、大学入試はグローバル入試や総合型選抜などのやはり多面的評価ができる入試に移行するといわれています。大学附属のアドバンテージを活かしながら新しい大学入試の流れにも対応する二刀流が、中学入試の時から緻密にプランされているということでしょう。

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2024年11月24日 (日)

2025年中学入試動向(13)和洋九段女子 生徒の才能が豊かになる生成AIの使い方勉強会はじまる

★和洋九段女子の先生方11人が、生成AIを活用して生徒の才能が豊かになる勉強会を開始しました。管理職である中込校長、新井教頭、本多教頭も参加しているのが本気度を示しています。主幹の水野先生がファシリテーター役を果たしていました。私も友情助っ人という感じで、参加させて頂きました。

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★生成AIに何かをつくらせるというやりかたではなく、論理力とか思考力とか知識のつながりとか創造力とかが豊かになっていく使い方で、一般に論じられている使い方とは違う展開でした。要するにプロンプトエンジニアリングの方法が違います。

★一般には、プロンプトの条件式をどうするかという話になりますが、もちろんそれは変わらないのですが、それだとその条件が限定的です。限定して活用するのですから、それは当たり前なのですが、それだとファクトの整理にはいいのですが、世界を広げることにはなりません。

★とはいえ、何でもかんでもいいとなると、平均的なおのができておしまいです。組織内で共有する告知的な文章はそれでよいでしょうが、生徒の才能がエンリッチメントになる方法論を和洋九段女子の先生方は、実験しながら対話しながら行っていました。

★和洋九段女子はPBL授業であふれています。したがって、今回の勉強会もそのPBL授業のストーリーをいつものように展開していくものでした。さすが!です。

★プロンプトの書き方は、実にシンプルなもので、生徒の才能が豊かになるきっかけ分析(生成AIが才能を引き出すことはできないのですが、そのトリガーになる整理は得意なのです)を行う問いかけをしていました。

★一般的には詳細に条件を書かなくてはならないのですが、二つのキーワードをつなげた魔法のワンフレーズを活用するだけでいけるのです。それが何であるかは、特許にかかわることもあり、ここでは示せませんが、<才能トリガーワード>でした。

★この才能トリガーワードは、限定しながらも拡張するという両義的な言葉です。

★生成AIは言語機能が得意ですから、それを言語哲学を土台に、活用していくと言語と思考一元論である欧米的な世界を生徒は観ることができます。同時に和洋九段女子は日本の文化をしっかり学べるので、九鬼周造的な言葉と感情を結びつける言語の世界も学べます。

★そのような欧米と日本の言語観を新たに融合するのは、新井教頭の言葉を使いながら、その過程を超越して感情に向き合うマインドフルネスの活用も徐々に広がっている和洋九段女子だからこそという気づきもありました。

★生成AIを活用することで新しい言語活動も広がっていくことでしょう。柔らかい和洋九段女子のSTEAM教育のワンシーンも観ることができました。

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2024年11月23日 (土)

聖学院の教育宇宙(3)すべての教育活動をつなぐ存在としての授業があった <奇跡の男子校>

★聖学院の生徒は、気持ちの良い感情を生み出す意識を自分の内側にもてるように成長していきます。もちろん、いつもいつも快い気持ちがあふれているわけではありません。人間は喜怒哀楽に象徴される感情以上に多様な感情の塊です。この自分の中に湧いてくる、ある時は嵐のような感情を受け入れ気持ちの良い感情に転換する意識が生まれてくる学校。それが聖学院です。そして、この意識こそOnly One for Othersというコアな精神です。この<noble spirit>が軸にあるからこそ、いかなる困難(それは外部環境からやってくるばかりではなく、自分の内側にもあるのです)にも最初は恐れながらも向き合い、立ち臨んでいくわけです。そのストーリーが聖学院の生徒1人ひとりの成長物語を描いていきます。

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★この<noble spirit>の軸は、毎朝の礼拝と聖書の授業によって構築されていきます。たとえていえば、空高くそびえるチャペルの十字架が礼拝で、命の泉を生み出す噴水が聖書の授業のような構図になっています。

★礼拝では、校長先生が中心となって、聖書の意味を生徒の内面に問いかけます。その問いは本当のところをいえば神学的ですが、一般の人にとっては哲学的だったり人類学的な問いでしょう。身近な問いですが、大きな根源的な問いです。

★そして、聖書の時間で、その根源的な問いが、聖書がリアルな世界で生きている具体的状況をリサーチしながら、自分事とし、いかに解決できるのか内省し、語り合っていきます。内省にも語り合いにもロゴスの対話が行われています。

★おもしろいことに、聖書解釈学ではなく、生徒は、ICTやアプリを活用して調べたり、編集したりしながら同時にリアルな対話もしていきます。最近では生徒は生成AIを自らのもう一人のパートナーとして対話しながらかつ仲間とも対話していきます。

★根源的な問いの対話が溢れているのが聖学院の聖書の時間です。本来は聖書の授業を担当している先生は牧師でもありますから、ヘルメノイティークなアプローチなのでしょうが、一般には外から見ていると哲学的だったり文化人類学的だったりバイオ倫理だったり、そんな感じに見えます。

★大事なことは、そもそも教科横断を意識しなくても、あらゆる教科や学問を超えて存在の学びを生徒と行っているのというのが聖学院の聖書の授業だと思うのです。したがって、礼拝ー聖書の授業という<noble spirit>軸は聖学院のすべての教育活動と相互に関連するのです。インタラクティブというよりトランザクションという感じですね。

★そしてこの<noble spirit>はOnly One for Othersとして具現化して生徒は経験し、考え、共感を広めていく活動をしていきます。感情を高邁な精神に昇華する「思」いとロゴスとしての「考」え。この二つのフュージョンが聖学院の「思考」の内包する意味でしょう。

★聖学院を訪れると、エーミール・シンクレールのように自己成長を求める少年とそれを導く友人マックス・デミアンがストーリーを織りなしているヘッセの小説をいつも思い浮かべます。第一次世界大戦に巻き込まれる学校の中で、自分とは何か、自分は何ができるのか、精神分析的アプローチとキリスト教文化と哲学とヘッセの「思想」がストーリーを編集しています。戦争という社会課題は、人間の生み出すあまりに凄まじく途方に暮れる困難性です。それにいかに立ち臨むのか、そんなマックス・デミアンの姿を追い求めながらも、憧憬ではなく自分を見出していくシンクレール。結論のない小説ですが、それがゆえに、究極の困難性に向き合う少年たちの生き様のスピリチュアリティに時代を超えて共感し、何もできない自分にそれでも勇気を出そうという気持ちを湧かせてくれます。

★聖学院は男子生徒がそんな自己成長の軌跡を描き続けられる奇跡の男子校です。

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2024年11月22日 (金)

聖学院の教育宇宙(2)すべての教育活動をつなぐものが生まれる仕組み化

★聖学院は、仕組み化が巧です。同校の教育活動すべてをつなぐものは、Only One for OthersというトリプルOのマインドですが、そのマインドは見えないものですから、実感するには仕組み化が大切です。その象徴が思考力入試やGICなのですが、それはシンボル的存在ですから、そのシンボルの背景にはブドウの木のごとき豊穣な循環があります。しかし、それはなかなか見えないですね。私はラッキーでした。

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★というのは、たくさんの授業を見ているうちに、国語と社会がSTEAMのSやMそしてAのレベルの授業を行っているのを目撃したからです。

★理科や数学は、ある意味教科書の枠内だとしても、授業は数理関連の学問的理論を使っています。教科書を超えるというのは、教科書にある問題以上に難しい問題を解くというということではなく、数学的科学的理論に結びつくということです。

★聖学院の理科や数学はそのレベルに到達するので、GICのSTEAMが破格のプログラムを展開できるのは、そもそもその土壌が中学から日常化しているということです。

★一方、国語や社会は、なかなか人文科学や社会科学の理論的リソースを活用するところまではいきません。日常言語で理解が足りるように教科書ができているからです。

★哲学や社会学、人類学など文系の学問的見識が使われたとしたら、どうなるでしょう?そうです。理科や数学のレベルになるのです。

★聖学院の国語は、言語哲学や文化人類的見識をダイレクトに授業で展開する優れた教師がいます。社会には、政治経済学や社会学、経営学、文化人類学などの見識をやはりダイレクトに授業に結びつけることができる優れた教師がいます。

★英語は、言語学の意味論や語用論を駆使したオールイングリッシュ授業が展開しています。ネイティブスピーカーだけではなく、日本人の英語の先生も同様です。ですが、驚いたことに音楽の教師も英語が得意な国際生には、英語で授業をサポートしてあげてもいるのです。

★もちろん、知識や論理中心の授業もあります。しかし、それはこのような学問的な授業が必要とする知識や論理的思考を供給する重要な役割を担っています。この授業間の連携循環が聖学院の教育活動の仕組み化です。そしてだからこそOnly Onr for Othersが生成されるのです。

★が、これだけではまだ聖学院独自のOnly Onr for Othersが生まれてはきません。

★ここまでだと。他校でもできる可能性がありますね。しかし、聖学院でしか生まれてこない独自のOnly One For Othersが生まれる仕組みがあるのです。

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聖学院の教育宇宙(1)すべての教育活動がつながっている

★聖学院のたくさんの授業を見学する機会をいただきました。すべての授業が有機的につながっていてあるいは宇宙を構成していて驚きました。最初見学しているときは、それぞれの授業で生徒が深く考える様子に感動していたのですが、最後に聖書の授業を拝見し、ここれはあ!っと思ったのです。

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★つまり、全部がつながっているのです。現在、新学習指導要領を押しすすめている日本中の学校で、教科と探究をつなぐには?教科横断はいかにしたら可能か?文理融合はできるのか?STEAMやグローバルはどこまで可能なのか?生成AIの活用の仕方は?など共通するそして重要な問いが生まれています。ですから、それを共に考えるワークショップや研修の企画運営もしているのですが、すべての回答やヒントが聖学院にあったのです。

 

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2024年11月 7日 (木)

2025年中学入試動向(1)学校選択の新しい見方

★2025年中学入試に挑戦する受験生が卒業するときには、社会がガラッと変わっています。それがどう変わるかは、多くの人が語っているので、折に触れ観ていきたいと思いますが、結論からいって、そのときに、自分がどんなに大きく成長し、AI社会の新たなカタチの研究や仕事に取り組んでいるかは、グローバルとSTEAMのフュージョン教育を行っているあるいは行おうとしている学校選択に着眼するかどうかがレバレッジポイントになると思います。

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★グローバル教育とSTEAM教育のフュージョンのカギは、STEAMのAをAnthropology(人類学)の頭文字に置換えられるかどうかです。人類学は心理学、比較文化、遺伝子学、ジェンダー学、美学、哲学、社会学、生態学など多様性への視点や多角的なものの見方かんがえ方を学べます。

★現在行われているPBLなどで、生徒同士が対話によって、どのような感情を共有しているか、どのような人間関係をつくっているか、どのように共創共生ししているかなどを観る教師の眼差しは人類学的な着想があります。

★イメージはベイトソンですね。21世紀型教育をつくるとき、よく学んだ学者の1人です。コミュニケーションと精神科学を結び付けた臨床学的人類学をベイトソンは研究したと思いますが、今の合理的配慮などの必要性をすでに予告していたと思います。

★人類学はフィールドワークや比較研究は基本ですから、グローバルプロジェクトとしての海外研修を行っているところは、すでに人類学的手法を活用しています。また、グーグルアースやGISアプリケーションを使って地理学を授業している学校も人類学的知を使っていますね。博物館と連携している学校もそうです。

★そしてこの人類学的活動をしようとしたら、最低C1英語は必要になるのです。

★前回ご紹介した工学院×文大杉並×和洋九段女子はグローバルとSTEAMのフュージョン教育を行っていますが、ご紹介した活動はまさにAbthropology的活動です。

★今後のこのレバレッジポイントの視点でいろいろな学校をいっしょに観ていきましょう。

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2024年11月 6日 (水)

工学院・文大杉並・和洋九段女子 シンプルに深く教科と探究をフュージョン

21世紀型教育機構に今年開設された22世紀型教育研究センターの先生方が、「問いの問い生成ワークショップ」を開催しました。その内容はぜひ同サイトをご覧いただきたいのですが、結論から言うと、一つの問いについて4つのセッションで行ったとき、数学教師、英語教師、理科教師、国語教師がファシリテートすることによって、数理モデル、心理学的哲学対話、仮説推理、マインドフルネスリフレクションが行われたのです。

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★実はこれは、教科のコンテンツではなく、教科の固有の論理が活用されたのです。論理的思考として共通はしているのですが、論理展開や構成は、各教科違います。エーッ!論理展開は普遍なんではないかといわれるかもしれません。

★実は、違うのです。各教科の先生方がまず一つの文章をどう読むのか対話をしてみると、それはよくわかります。

★これらの異なる論理的思考は、生徒が使い分けたり、統合したりしくのです。これによって、豊かな探究活動ができます。1教科の先生が探究をやるとそこに導くのはなかなか難しいのですね。

★智慧とはこのような使い分けやフュージョンを自由自在にやってのけることだと確信しました。3つの学校の生徒が大学合格実績は言うまでもなく、もっと大きな領域で実績を上げていキャリアデザインの見通しがついているのはこういうわけだったのですね。

★いろいろな連携はもちろんおもしろいのですが、教科の先生方が連携することのおもしろさにまさるものはなさそうですね。

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2024年11月 1日 (金)

全国私学教育研究集会で エヴェリット・ロジャーズのファントムに出遭う・・・

★今年の全国私学教育研究集会は大分で行われています。昨日は全体会で一般財団法人日本私学教育研究所の吉田晋理事長から厳しい社会状況の中で国や自治体とどのように交渉をして私立学校がその建学の精神に基づいた生徒の成長を育成する独自の先見性・先進性を発揮した教育環境デザインを持続可能にするのかビジョンとその戦略について講演がありました。このビジョンの向こうには、受験市場とは違う第3極の教育に対し、私立学校がどうするかということが予告されています。

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★それを受けて同研究所所長の平方邦行先生が、そのビジョンと戦略を実現する方略として21世紀型教育からプレ22世紀型教育へシフトするパーパスとその方略ツールをいくつか紹介しました。その中で印象的だったのが、思考コードの取り扱い方でした。この思考コードが生まれた背景には、実はジェフリー・ムーアの理論との出会いがありました。2005年にムーアは、自身のキャズム理論を展開した一冊をまとめました。上記の写真の本ですが、1960年代に世に登場した社会学者エヴェリット・ロジャーズのイノベーション理論に基づきながらもキャズムをどう超えるのかについて発展的に展開した理論書です。この本の読みどころは、後半のキャズムがどうしてできてしまうのか、どうしてなかなか超えられないのか、社会や組織の疎外要素や諸関係を論じているところなのですが、そこまであまり世の中では言及されることはありません。

★しかし、平方先生は、それを思考コードの活用が停滞しているところにあると私立学校が今後超えるべき次元を提示されたわけです。そして、現状の確認として、その場で、自分はどの次元にいるかをグーグルフォームでアンケートをとりました。その項目は、次の通りでした。
➊ 新しい知識を受容する
➋ 獲得した知識をつないで理解を深めている
❸ 理解したことを多様な事象に適応したり、自分の理解とは反対の考え方を
  どのように捉えなおすか論理的に思考している
➍ 理解を深めている事象を規定している枠組みを批判的に検討し始めている
❺ 批判的に検討した枠組みやルールを新しい枠組みやルールに変更している

★すると驚いたことに、このアンケート結果は、まるでロジャーズのイノベーション理論のような結果になったのです。

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➎イノベーター(Innovators):冒険心が強く、新しいアイデアをいち早く採用する人々。
❹アーリーアダプター(Early Adopters):社会的に影響力があり、他の人々に新しいアイデアを広める人々。
➌アーリーマジョリティ(Early Majority):慎重に検討しながらも、比較的早い段階でイノベーションを採用する人々。
➋レイトマジョリティ(Late Majority):平均的な人々よりも遅れてイノベーションを採用する人々。
❶ラガード(Laggards):変化に対して非常に抵抗があり、最後にイノベーションを採用する人々。 

★ロジャーズの仮説の割合とはアンケート結果は完全に一致しませんでしたが、ほぼ傾向はこんな感じでした。イノベーターとアーリ―アダプターはもう少し多かったということは、参加者である私立学校の先生方がやはり世の中より先見性・先進性を発揮しているということでしょう。

★しかし、1960年代の理論であるロジャーズの考え方が今でも生きているというのは、さすがはムーアがこの考えを引き継いで、21世紀によみがえらせただけのことはあるなと感動しました。ロジャーズのファントムに遭遇し、すこし恐ろしくも希望が見えました。

★ただ、平方先生は、ロジャーズの理論をさらに進めているのです。私立学校の教職員も生徒もイノベーターでありアーリ―アダプターであって欲しいということなのですから。刺激的と感じるか、恐ろしいと感じるか、それは参加者次第ですが、受験市場や第3極とせめぎ合いサバイブするには、何をするべきかの方向性は明快だったのです。

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