大学入試

2021年3月 6日 (土)

GLICC Weekly EDU(25) 静かに変わる大学入試問題 思考型問題の構造は中学入試の思考力入試と同型。構成主義がゆえに。

★昨日、主宰の鈴木さんと対話しました。詳しくはぜひGLICC Weekly EDU 第20回「2021年大学入試問題を通して今後の大学進学準備教育について考える」をご覧ください。今年の一橋の帰国生入試の小論文のテーマから話しが始まりました。そして、このテーマが、一橋の今年の問題の特徴というより、もっと普遍的で、特に今回のパンデミックにおいて問い返されるテーマなのではないかと気づきました。そこで、早稲田や慶応大学、浜松医科大、一橋大学などの一般入試における論述型問題を見ながら、通奏低音であることを検証していくこととなりました。

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★一橋の帰国生入試の課題文は、上記の書から引用されていました。SNSの世界などでフェイクが横行し、分断が進んだここ数年の世界の動きを、個人の知の限界が生み出す誤謬の世界だから、コミュニティ(時代を超えて)に相互に切磋琢磨するコミュニティの知にもっと目をむけようという箇所でした。

★要約などの記述の問いが出題されたうえで、個人の知や知能が重視され、コミュニティの知が軽視されてきたのはなぜか、ケースを挙げながら自分のオピニオンを論述する問題が出題されていました。

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★この個人の知とコミュニティの知のジレンマという構造をいかにつかみ、構成するかということですが、これは慶応の環境政策でも同様でした。早稲田の政経でも同じでした。

★東京医科歯科大学や浜松医科大の実験や治療法を開発する論述も、ジレンマではないですが、矛盾が生じないように検証やモニタリングを実験や開発プロセスの中に求めていました。

★一般入試の限界もあり、ジレンマや矛盾を自分の体験から発見するプロセスは踏まないし、具体的な政策や開発の実効性など深く論述するところまではいっていないのですが、それでも、要約して終わりという問題を超えて考えるところまで求める傾向がでてきたわけです。

★早稲田の政治経済学部がそのような新しい動きを出したということは、たいへん意義のあることです。もちろん、そのような問題を出すというサンプル問題を何回か公開した結果、敬遠されて出願数が減ったということで、来年続けるかどうかは、注視するところではあります。

★もうひとつ、早稲田の政経における独自入試は総合型問題一本でしたから、課題文は日本語と英語でした。

★したがって、早稲田の政経の総合型問題は、一般入試において、今後言語はバイリンガル以上になり、思考力も個人の知からコミュニティ知にシフトし、ロジカル&クリティカルシンキングまで求められるようになってきたという傾向の象徴といえるでしょう。

★これは、中学入試においても同じことが起きています。

★今回一橋の出題した課題文を執筆したスローマンさんは認知科学者です。認知科学の特徴は、科学の最先端の知見も、専門家ばかりではなく子供も理解できる構成主義的な授業デザインができるということです。

★中学入試や大学入試も思考型の問題になると、そこに差があっては科学的とはいえないので、少し考えれば当たり前です。この思考のメカニズムを、今回は思考のサーキュレーションという図でまとめました。詳しくは今後また語っていきたいと思います。

★今月の末、大妻中野の教頭諸橋先生がご登壇されます。大妻中野は早稲田の政治経済の入試問題に先駆けて新しい英語や思考力入試問題を開発しています。New Power Schoolのリーダーシップを発揮しています。

★諸橋先生とは、その開発当初から語り合ってきました。大妻中野の教育が本質的だからこそ、この普遍的な思考型のあるいはコミュニティの知への動きと結びついているのでしょう。というよりも、牽引しているのでしょう。その本質的な教育について語り合えるのを楽しみにしております。

 

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2021年3月 5日 (金)

大学入試問題とトランジション(12)浜松医科大学の生物 システム思考の有効性。その転用の発想を探究に活かすことができる。<思考スキル→IDEA→システム思考のサーキュレーション> IBを超える学び

★今年の浜松医科大学の生物で、フェニルケトン尿症の発生のメカニズムを考察する記述とそれを治療する方法の開発を論述させる問題が出題されました。遺伝子や塩基のことについて、生物の教科書で学んだ基礎知識は必要ですが、この症状の事実を知らなくても、課題文を読めば、理解できるようになっています。

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★しかしながら、課題文で説明されている内容は、上記の図に描かれているメカニズムであり、なぜある酵素の塩基配列が変化してしまうのかは自分で推理するしかありません。また、この症状の治療方法を開発せよというのも同様です。

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★おもしろい思考問題ですね。しかしながら、これは思考スキルを適用するIDEAと生物の基礎知識を結合することでできます。上記の問4は、置換スキルと不足しているものと不足していないものという比較のスキルがIDEAになります。このIDEAにマッチングする知識を想起すればよいわけです。

★問5の治療の開発は、前回ご紹介した東京医科歯科大学の実験を開発する問題と同様、比較スキルをIDEAとして使います。あとは因果スキルです。これらのIDEAに結びつける知識は、使う語句として設定されているので、それほど多くの知識を動員しなくても大丈夫です。この因果スキルは、循環の弊害(問5では副作用となっていますが)を、見出すシステム思考につながります。

★このような問題が、出来るかどうかは合格するには重要ですが、それだけではなく、探究の入口ではインスパイアクエスチョンになります。

★両方とも、思考スキル→IDEA→ループで見える化するシステム思考のサーキュレーションを考えていきます。この思考のサーキュレーションに気づき自らのものにした生徒は、多様な事象に直面しても、この思考のサーキュレーションを回して追究していくことができます。

★来年から始まる総合の探究の時間について、世間では大いに議論され、テキストサンプルが山積しています。それは大いに結構ですが、事象というコンテンツを何にするかに目をとられすぎ、思考のサーキュレーションをいかに体験の中で気づいていくのかそのプロセスを発見するプログラムデザインはあまり注目されていません。思考のサーキュレーションの講義はあるかもいsれませんが、ワークショップにはなっていないですね。

★IBでは、TOKやパーソナルプロジェクト、コミュニティプロジェクトで活用されるATLスキルは、若干思考のサーキュレーションと重なりますが、あくまで学習のサーキュレーションで、思考の内的な連関サーキュレーションは前面に出てきません。

★それゆえ、IBを参考にしている探究の話も、そこまで深入りしないのでしょう。

★国立大学の一般入試を受験する生徒が、実はすでにこの思考のサーキュレーションを身に着ける可能性が高いわけですね。なんと逆説的な!総合型選抜や探究に偏った指導をしていると、本来探究で最も重要な出発点を見落としてしまうというパラドクスがなきにしもあらずです。もっとも、早慶を除く私大の一般入試は、思考のサーキュレーションは必要としていません。ここが課題ですね。

★中学入試においては、男子御三家の一般入試と聖学院、工学院、かえつ有明、和洋九段女子、大妻中野などの思考力入試は思考のサーキュレーションを大切にしています。

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2021年3月 3日 (水)

大学入試問題とトランジション(11)東京医科歯科大学の生物 発生生物学の学際性を活用する探究もありかも

★今年の東京医科歯科大学の生物の問題は、いつも通り、用語の名称記述と説明記述、現象の因果関係の説明記述、図式化、仮説実験の論述など骨太の思考問題でした。

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★その中で、一番目の問題では生物発生学の分野である細胞接着の問題が出題されていました。カドヘリンが細胞接着に必要なのかどうか証明する仮説実験を考え、結果も予想する論述問題もしっかり出題されていました。

★同大学の生物の問題は、知識がなくても推理して解けるというような問題ばかりではなく、がっちり基礎知識が必要で、それを記述できるまでに仕上げていなければできないので、入試準備段階の取り組みは、論理的な思考力をがっちりトレーニングすることになります。そして、それで合格できます。

★しかしながら、そんな中で上記のような問題は、仮に知識としてしらなくても、科学の実験のプロトタイプを知っていれば、それをメタファーとして応用が出来る問題です。

★このプロトタイプは、小学校や中学校で行う実験、たとえば光合成と呼吸の関係を検証する実験と同じものです。条件を一つだけ変えて比較実験をし、その結果でてきた物質のアイデンティティ検査確認するという一連の流れですね。

★これを論理的思考とみるのか、クリティカル&クリエイティブシンキングとみるか、それについて議論することはあまり意味のある事ではありません。むしろ、プロトタイプをメタファーに使うということを、科学以外にも活用できるということに気づくことが大事です。

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★この話は、最近出版された高橋祥子さんの上記写真の書籍と類似した発想です。同書では、細胞接着をメタファーに組織の構造を考えるケースは載っていませんが、当然それも想定されているはずです。

★組織の結合を媒介するカドヘリンの役目とそれを阻害するカドヘリン抗体の関係は、組織結合と組織崩壊のメタファーに活用できます。中世は目に見える生物現象モデルで組織や人間関係、知性について語られてきました。

★それがマシーンモデルに代わってきたわけですが、現在では、遺伝子や細胞レベルの生物モデルで語れるようになってきました。

★理系に限らず生物という学問領域は重要になってきたわけです。

★生物モデルで社会を考える視点は、もちろん生物の授業時間で行うにはそれこそ物理的時間が足りないでしょう。「探究」という時間の意味はそこにこそあります。リアルな体験ばかりが重視されがちですが、数学モデルで社会や人間を考えるとか、言語モデルで考えるとか、AIモデルで考えるとか、倫理モデルで考えるとかなどなど、多角的視点のトレーニングの場として活用するというのもありですね。

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2021年2月27日 (土)

大学入試問題とトランジション(10)京大の生物に脱炭素のシステム構築のヒントを学ぶ

★今年の京都大学の生物の最終問題は、生態系の循環のメカニズムをエネルギの変換過程のレンズを通して考察し、記述する問題。教科書を丁寧に読んでいて、あとは比例・反比例の関数関係や比の関係を使えばできる基本問題。語彙をやさしくすれば、中学入試でも出題できる。

★仮に麻布がこのテーマで問題を出したとしましょう。すると、ファインマン博士のワークショップを持ち出すでしょう。子どもたちにチョロQが動く背景に思いを馳せさせ、そこには生態系があり、最終的には太陽エネルギーに行きついてしまうワークショップです。そして、そこにエネルギー変換の過程を結びつけて出題するかもしれませんね。

★あるいは、生物多様性の話に展開していくかもしれません。あるいはまた、チョロQが動くエネルギー量を測定し、そのエネルギーはもともと生産エネルギーの何割になっているのか算出させ、脱炭素のためにどんなシステムをつくることが可能なのか問うような問題が出されるかもしれません。

★もちろん、その際、得意のモデルを組み立てシミュレーション実験をするでしょう。

★そんなワクワクするような探究の広がりの出発点を記述させるというのが、京大らしい問いのデザインです。

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2021年2月26日 (金)

大学入試問題とトランジション(09)名古屋大の安定した思考力問題

★今年の名古屋大学の入試問題は、どの教科もいつもながら骨太で、それでいて自然体の学び方で立ち臨めます。論理的でクリティカルシンキングが学べる問題ばかりです。ふだんの授業で単元に相当するところを名古屋大学の入試問題でモニタリングしていくといいのではと思います。

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★世界史の最終問題も350字くらい書く論述型問題ですが、与えられたキーワードをセンテンスにしてつないでいくとできるので、教科書をきちんと学んでおけばよいのですが、なぜこの問題を出したのかを授業で問うメタ視点を学びたいところです。

★今年の問題は、1989年に向けて世界がガラリと変わるファクトを書く問題なのですが、ドイツとソ連と中国と東欧の動きをまとめる問題でした。こうして89年に向かって世界全体が動いていくのを一望する問題は、なるほど、民主化が進んだと同時に、実は反民主化の種がちゃんと残されていたことがわります。

★それが、今にいたっているわけです。今回のパンデミックでそれが露になったわけです。

★一方、法学部の小論文もいつもながら圧巻なのですが、<平等>という概念の捉え返しと、いまここで現実に起こっている格差問題をどう解決するかを考える問題でした。

★ただ、慶応大学のようにリベラルコミュニタリアンやリバタリアンの話まではいかず、ロールズで思考を展開する問題で、今の高校生が考える基礎に基づいて論考する条件がきちんと設定されていました。

★受験生にとっては、日ごろの準備が生かされるように問いの条件が設計されているのが、名古屋大学らしいなあと感じました。というのも、この新しい発想は、1989年の民主化の進化の側面から生まれてきていますから、もう一つの反民主的な動きの種を見過ごしがちなんですね。

★両方を複眼的に見るには、ルソー→カント→ロールズの発想について整理しておく必要があります。そこからリバタリアンなどの新しい動きを見てみると、さらに次の新しい見方がみえてきます。

★東大や大阪大学は、この新しい見方を捉える問題を現代文で出題していますから、斬新ではあるけれど、もし受験生が名古屋大のような背景を知らなかった場合は、たんなる読解問題になってしまいます。

★そして一方で、名古屋大の受験生が、この新しい発想も学んでいたら、今回のような問題は見通しがすぐに開けたことでしょう。

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大学入試問題とトランジション(09)東京大学と大阪大学の現代文から見えるコト

★河合塾の大学入試解答速報で、国立大学の入試問題が公開され始めています。大学入試問題の解答方法については、それぞれスペシャリストの方々にお任せし、私が見たいのは、入試問題という問いの背景になにがあるか、あるいはその問いを発する大学の識者が何を見ているのかということです。インタビューもしないので、もちろん私の独断と偏見です。それでも、どんな素材が扱われているかを話題にすることは、参考になるかもしれません。

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★今年の東京大学の現代文の1つは、「文化人類学の思考法」という著作から出題されています。13人の文化人類学者が執筆していますが、その中の松嶋健さんの「ケアと共同性」という論考から一節が出題されています。

★大阪大学では、東浩紀さんの「観光客の哲学」から出題されています。なぜ今観光客かという大事な大前提が詳しく語られていると箇所が終わったあたりから出題されているので、東浩紀さんの文章に接していない場合、読みにくかったかもしれません。

★ともあれ、どちらも、今回のパンデミックで世界同時的に気遣っているテーマです。もちろん、話題性に着目して出題したというわけではないでしょう。世界同時的に気遣ったこととは、世界同時的に気遣うことができてしまっているということそれ自体の意味です。

★グローバルとローカルとか、グローバリズムとナショナリズムとか対比して語られるのが通常ですが、その対比を無化ししてしまう世界同時的なこの均質性とはいったい何だろう?という気遣いですね。

★今回のパンデミックは個人主義ではどうにもならないことにみな気づいたわけです。また国家が管理することができると思われてきたことが、そうではないのではないかという気づきも世界で共有しているわけです。

★両著がパンデミック前に出版されているにもかかわらず、そのことを問いかけているわけですから、産業革命以降の近代化の概念を問う本質的な話に、世界がパンデミックによってようやく気づいたということなのでしょう。

★個人と社会共同体の関係とは違う第三の概念をそろそろ考察しようよということでしょう。世界同時的に、世界均質になってしまったがゆえに、それは逆説的に達成されているのですが、ここにきて新しい概念を創出しようという時代になったわけです。21世紀は個人や社会、自然について新しい知識を生み出す思考の時代にはいっているということです。

★大学入試問題をはじめ、小中高の入試問題に思考力や記述力が重視されているのは、文科省が決めているのではなく、時代の良心の反映ということでしょう。もちろん、文科省もその声に耳を傾けているわけですね。

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2021年2月25日 (木)

大学入試問題とトランジション(08)早稲田大学政治経済学部 新しい一般選抜実施 トランジションモデルになる!か?

★早稲田大学政治経済学部の一般選抜試験が実施されました。今年から、全く新しい形式で行われていますから、受験業界は注目しているはずですが、すでにサンプル問題も公開されてきましたから、衝撃度は少なかったかもしれません。サンプル問題通りだったからです。

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(総合問題の英文は同書から出題)

★とはいえ、政治経済だけではなく、他の学部でも入試問題の形式を変更していました。それも大きな一因となって出願数が激減して、特に政治経済学部は目立ちましたから、その点に関しては大いに話題になっていました。したがって、実質的衝撃はやはり大きかったのかもしれません。

★この出願数が減ったということで、今後入試問題形式の揺り戻しがあるかどうか注視していきたいですが、定員を割ったという話ではないのですから、総長や学部長が使う言葉「熟議」「グローバルリーダー」「ハイブリッド教育」に質の高いマッチングが出来た場合、今回の新しい形式は継続されることになるでしょう。もしかしたら、さらに進化する可能性もあります。

★いずれにしても、この形式が続けば、受験生の学び方は変わります。大学入学共通テストでは、英語と国語と数学Ⅰ・数学Aは必須です。文系ですが、数学が必須というのが出願が減った原因の1つでしょう。おそらく、当局はそのことは織り込み済みだったと思います。しかし、政治経済の学問の世界で、数学的思考はもはや無視できない時代です。いかしかたがないでしょう。となると、早稲田の政治経済を志望する生徒の学び方は変わりますね。

★そして、大学入学共通テストから社会、数学、理科から1教科1科目選択しなければなりません。共通テスト後の総合問題を見れば明らかですが、倫理や生命科学の素養が必要になりますから、倫理とか生物、化学の選択をする生徒もいると思います。従来なら世界史とか日本史の選択に絞れたでしょうが、どうやらそうでもなくなってきました。

★要するに、大学入学共通テストを課すことで、英語と日本語という言語技術と哲学、数学的思考、科学的思考というリベラルアーツを包括的に学んできて欲しいというメッセージがあります。教科の学びが、リベラルアーツに結びつくかどうかは、授業次第ですが、おそらく生徒は新書レベルの文章とジャーナルレベルの英文は読み込むことになるので、かりに授業が知識中心主義でも、生徒の学び方は変わります。

★総合問題も、推理思考と小論文思考は重要になるし、ハイブリッド教育そのものを反映した日本語と英語の素材文の両方が出題されます。生徒の学び方はやはり変わります。

★しかも、早稲田の政治経済の一般選抜で出題される小論文というかワンパラ論述は、200字や100Words程度で、テーマも受験生なら想定内です。ですから、ここはさっさっと書いてクリアしなくてはならないでしょう。

★つまり、SDGsの1つひとつの問題に関して、ワンパラでスピーチできるトレーニングをするような学びが必要になります。予備校がトレーニング集をつくり、それを暗記するというようなことが起こるかもしれません。しかし、それよりも、自分で調べたりしてワンパラノートを創っていく方が、大学入学後役に立ちますから、当然、後者の学び方をする生徒が増えるでしょう。

★今のところ、早稲田政治経済とSFCくらいしかこのような形式と内容の入試を提示していないので、多くの高校生の学びが変わるかどうかはわかりません。

★たしかに、私大の一般選抜入試でも小論文を課す入試が徐々に増えてきていますが、かりにその小論文を空欄のまま終えたとしても、他の知識問題ができれば合格できます。ですから、高校生全員の学び方が大きく変わることはないかもしれません。

★しかし、国立大学の独自入試、私大の総合型選抜、共通テストの作り方の変化など丸暗記型受験勉強を無化するウネリは明らかです。私大の一般選抜で早稲田大学の政治経済学部の入試問題の変更は、そのウネリを増幅するのに貢献する可能性はあります。

★いずれにしても、PBL型授業の重要性が高まるのは避けられないし、考える作業や協働型プロジェクト体験が入試や大学入学後にも大きな影響を与えるでしょう。進路指導をトランジションモデル形成に変容させる転機になることは間違いないでしょう。

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2021年2月23日 (火)

大学入試問題とトランジション(07)探究の言葉/探究のリマインダー

★今年の大学入試を振り返るのはまだ早いのですが、総合型選抜でも一般入試でも共通する<探究の言葉>というのがあるのではないかなあと。備忘録として、あるいはリマインダーとしてメモしておきます。

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★それは、意外と当たり前のことなのです。経験というのが大事なのはわかるのですが、<経験を捉え返そう>というのが<探究の言葉>だったのです。

★経験は大事で、知識は二の次だというのが昨今の通念ですが、知識は経験と関係ないかというとそんなことはないですよね。経験は大事だと言われながら、私たちの周りには、直接経験できない事柄で満ち溢れています。

★今回の入試問題は、ここを巧みに問いかけています。「つれづれ」という教科書ででてくる言葉の意味を近世から歴史的パノラマをひもとくと、日本人の根っこというものが揺らいだり、揺らいでいる日本人観そのものを包括的に捉え返し新しい日本人観を見つけたりするのがテーマでしたが、これも<経験を捉え返そう>という探究の言葉を想起させます。

★1980年代に出版され、最近復刻された角山さんの「茶の世界史」は、その後、川北さんの「砂糖の世界史」、武田さんの「チョコレートの世界史」という<経験を捉え返そう>という探究の言葉を押し広めました。中学入試の社会科や最近の思考力入試の編集視点は、色濃くその影響を受けています。

★いっぱいの茶碗を覗き込むシーンのリマインダーに「茶の世界史」が広がるんです。紅茶に角砂糖を溶かしていると「砂糖の世界史」というリマインダーがポップででてくるんです。チョコレートをひとかけら頬張ると「チョコレートの世界史」のリマインダーがキットカットの壮大な歴史を思い出させるのです。

★身近な経験から見えない背景を立ち上げるというのはまさに<経験を捉え返そう>という探究の言葉です。

★古市さんの新しい日本史観もこの言葉のなせる業です。歴史はファクトであると同時にストーリーですから、自分で書き換える楽しみはたしかにありですね。

★もっとも、この<経験を捉え返そう>とするとき、その根拠やエビデンスを揃える方法が大事です。渡辺靖さんの姉妹書籍は必見です。毎日のニュースを見ながら、そこには帝国から近代、現代へとウネル世界史がリマインダーとして広がれば、<経験を捉え返そう>という探究の言葉をつかえているなあと実感できるでしょう。

★探究とは、<経験を捉え返そう>という<探究の言葉>が広げる<探究のリマインダー>をいくつ構築できるかですね。そして、そのリマインダーを紡ぎ、つなげていくと、総合型選抜ばかりか一般入試もワクワクしながら立ち臨めるし、道は開けるでしょう。

★人生はファクトの背景の探究のリマインダーをどのくらいたくさん自ら創出するかということだからです。哲学的にはセンスメイキングというのでしょうが。。。

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2021年2月21日 (日)

大学入試問題とトランジション(06)慶応義塾大学環境情報 不条理の哲学をプラグマティックに変換

★今年の慶応義塾大学環境情報の入試問題は、目からウロコ。あの膨大な情報はまったくなし。論理的アイスブレイクの計算をして、あくまで論理的な意味での不条理のケースを15個、そしてそれがなぜ起こるのか理由を簡潔にまとめていく問題でした。

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★今回のパンデミックで再び注目されたカフカの「ペスト」。第二次世界大戦の不条理を重ねて、ペスト禍の不条理な人々の生活をドキュメンタリー風に書き綴った本ですが、そんなペストの本を編集するような視点を想起させるようなすばらしい問題でした。つまり、生活の中にある不条理を列挙させていく問題でした。課題文はありません。自分の教養と経験と社会問題対する高い意識そのものがテキストです。そこから引き出していく問題です。

★探究や研究の端緒は、まさにこの不条理や矛盾、二律背反、パラドクスの発見から始まります。クリティカルシンキングとかクリエイティブシンキングは、このパラドクスの端緒を見つけるところからはじまります。

★ここをダイレクトに15個も気づけるのかという、めちゃくちゃ根源的な問題。さすがです。

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大学入試問題とトランジション(05)早稲田大学法学部の入試問題 B2思考をベースに記述も。

★早稲田大学の法学部の入試問題を見ていて、なんだかホッと一息。慶応の入試問題の新しいリベラリズムと新しいリバタリアンの間の考え方のゆらぎに、私のような年寄には、どのように包括的に捉え返すかひやひやするけれど、早稲田のはまだまだ現代思想の延長上で捉えることができます。現代思想には、慶応が捉えているポスト・ポストモダン的な芽がすでにあるけれど、その多くは、近代をどうとらえなおすか、もう一つの近代への視点を中高時代に養っておくという基礎が問われるので、まだパノプティコンの批判的検討で済みます。ポスト・ポストモダンは、もはやシノプティコンの世界だから、すべてがカジュアル知性になっていて、クラシク音楽を楽しんでいる私には眩暈がします。

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★とはいえ、カジュアルと言うことは、無意識のリバタリアンの広がりということですから、アダム・スミスやヒューム、ハイエクあたりに足場を求めながら、どうシノプチコン時代を鳥の眼と虫の眼で捉え返すか「逃」げずに「挑」まなくてはとは思っています。

★さて、早稲田の法学部の問題に話を戻しますが、国語は、最後の180字のパラフレーズの問題を覗いては選択肢です。このパラフレーズの問題も結局は要約記述で、自分の意見を論じるわけではないので、思考コードでいけばB2で、対応できます。仮にこの問題ができなくても合否を決定づけるものではありません。

★しかし、アドルノが亡命先で、自分の文化社会的影響でできあがった認識システムを、異文化との接触で、喪失と同時に新しいものの見方を自分のものにしていく話は、中高時代に体験するプログラムのものの見方の幅を広くするものです。受験勉強の過程にそのようなものの見方をプラスすることはトランジションモデルとして意味あることです。

★また英語のライティングで、ピクチャ―ライティングをワンパラグラフで書きなさいということですから、100Wordsぐらいの英作文ですね。基本、ファクトとオピニオンをさらりと書けばよいのでしょうが、授業で使う時は、オピニオンの部分をコンセプトやアイデアに発展させることができます。今回の絵は、かつて、東大で出した自分の顔を写した鏡を覗いたら別人格の自分が映っていたというもののバリエーションでしたから、素材としてはおもしろいですね。

★日本史は、文章を書く記述はありませんでした。しかし、近現代史が多いのは特徴的なのかもしれませんね。

★世界史は、最後の問題が、1700年代のフランス革命が起こる前までのヨーロッパの外交関係・国際関係を説明する300字記述の問題でした。一足先に市民革命を体験しているイギリスが、ヨーロッパの帝国から近代国家への道を開いていくプロセス史をまとめる問いでしょうから、定番と言えば定番です。しかし、大航海時代の絵柄が思い浮かんで、ワクワクしますね。試験の時には、冷静に書かなくてはならないでしょうが。

★政治経済では、アクセス権について書く250字記述が出題されていました。メリット・デメリットの両面を書く問題ですが、表現の自由の延長で書けるし、SNSで必ずでてくる問題でもあるので、難しくはなかったと思います。ただ、受験勉強をするときに、当然でしょうが、権利について自分なりのものの見方を考えておく必要はあります。知識を覚えておくだけの勉強では、どうやら一般入試も限界がある時代がやってきたわけです。

★とはいえ、本番でこの問題ができなかったからといって、合否に影響を与えるかと言うと、そんなことはないわけで、180字から300字のワンパラグラフを書く問題が出題されているからと言って、受験勉強が大きく変わるかどうかは、学校現場の判断ですね。

★早稲田の政経の問題はまだ公開されていませんが、公開されれば、今年から新しくするという予告通りだったとすると、従来の勉強方法では限界があることがわかるはずです。しかしながら、入試問題の傾向の大幅変更は、今年の出願数大幅減の一因ともされています。これに当局が耐えられるかどうかも注視していかなければなりません。

★早稲田にしても、慶応にしても、論述やワンパラ記述を出していますが、それで合否が決まらない以上、受験勉強の方法論は変わらないかもしれません。合格すればよいという功利主義的な考え方を否定することはこの多様性の時代できないからです。

★選択肢問題と論述やワンパラ記述の配点のバランスを3:2くらいにしてくれると、受験勉強の方法も明らかに変わるでしょう。ワンパラグラフぐらいの論述やファクト記述は、実は採点しやすいということがわかれば、比率が変わるとは思います。今後に期待です。

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