聖パウロ学園 エンカレ(通信制)の倫理の授業 自分を知る環境をつくる もう一つの探究。
★聖パウロ学園には全日制と通信制の両方の学校があります。通信制のほうはエンカレッジ(以降「エンカレ」)と呼ばれています。エンカレに集う生徒は、自分の才能を内面の奥深くに秘めていて、自分でもその才能に気づかないという場合もあります。中学の時の複合的な人間関係や環境などの要因によって、そうなってしまった可能性が高いわけです。ですから、その自分の才能に気づくところからエンカレの教育は始まります。
(エンカレの倫理の授業シーン)
★自分の才能に気づけば、その才能を生かそうと考え、自分を再度見つめ直し、ようやく自分が困っていることが了解できます。様々な複雑な外部のつながりに悩んでいたわけですが、自分が困っていることや悩んでいることがそこではなかったと気づく瞬間がやってきます。これは、エンカレの生徒に限らず、全日制の生徒もそうだし、パウロに限らず、それに高校生に限らず、人間だれしもそういう経験をするでしょう。
★ただ、エンカレの生徒は、あまりに奥に自分のタラントをしまっておきますから、それを開示するには、少しサポートが必要です。
★そこで、エンカレの教師は、フッサールの自分を捉える現象学的還元手法を高校生と高校生、高校生と教師などの相互理解に適合するように研究と実践をしています。日本大学文理学部の教授、准教授、大学院生、学生と連携して、研究会を開いたり、日大からは大学院生や学生がインターンシップに訪れます。もちろん、単位になるものです。また、研究会では、エンカレの教員がグループワークの時にファシリテーターの役割も果たします。
★このようなバックボーンを持っている教師陣が、午前中は、園芸や農業という体験、体育の時間ではアルティメットなど、言語の前に身体脳神経系全体で協力し合う体験を設定しています。私たちは、いつの間にか、言葉でコミュニケーションをとるものだと思いこんでいます。ですから、言語能力の差が、教育格差になることも多いのです。知られざる優勝劣敗の根源がここにあります。
★人間は生まれたときに、いきなり言葉は話しません。身体で、人間関係とか空間や時間の認識を身に付けて、やがて、それを言語に転換します。しかし、そのとき、身体的な体感を言葉のバックグラウンドから忘却し、自分から離れた客観的道具にしてしまうケースが多いのです。そうなると、道具は、常に両義性です。幸せをつかむサポート道具にもなるし、幸せを阻害する凶器にもなります。
★後者の場合、当然人間関係はぐちゃぐちゃになるし、自分を守るために奥に隠れてしまう時もあるでしょう。
★エンカレの教員は、それゆえ、言語を使うことを最初から目的にしないで、無理をせず、いったん括弧に入れます。その状態で、身体脳神経系全体を「自然と人間関係の関係性」の中に浸すわけです。
★そして、すぐにグループワークではなく、自己を見つめる考察を、倫理などの授業で行います。
★幸せって何だろう?ではなく、幸せを捉える「自分の眼鏡」はどんなものかを振り返るわけです。
★基礎知識として、幸せの多様な説を、身近な例でレクチャーし、生徒が信頼している教師の事例を分析する思考実験を行っていきます。教師と生徒の関係の中で、生徒自身、自分が見えてきます。
★自分がいかなるものかは、結局は信頼できる相手とのかかわりの中で見えてくるという体験授業がエンカレの倫理です。探究とは、その出発点である、我と汝の関係性を身をもって知ることであり、その関係性を捉える自分の存在としての眼鏡をまずは意識することでしょう。そして、はじめて、その自分がその関係性の中でどう生きるかがわかってきます。
★そして、その関係性の輪が広がったり、それを阻害するネガティブな関係性が現われて来た時、それが予測不能なわけですが、そこで自分がどう生きるのか判断するときがやってくるでしょう。汝ではない、ネガティブな関係の向こうにいる知らない人が、勝手に捏造した基準やルールという足かせをかけられないように、人生を選択したり、その足かせを粉砕する新しい関係性をつくったりできる、自分の信念、価値観、才能などの「存在としての眼鏡」をまずは探究するというもう一つの「総合的な探究の時間」。
★自己責任論ではなんともならない生徒、いや本当は多くの人びとがそうです。それをなんとかする教育は、未来の教育ですが、小さなエンカレの授業の中にもそのヒントはあるかもしれません。日々1人ひとり違う生徒の才能というかけがえのない存在をあるいは信念を共に探す教師。教師と生徒というより、人間と人間の関係性をいかにつくるか。それはそう簡単ではありません。にもかかわらず、それに挑戦し続ける日々を送っている先生方に頭が下がります。
★エンカレの教員にまだまだ学ばねばならないと思う今日この頃です。
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