« 本質ベース教育(5)保護者も感じられる学校の質・授業の質 | トップページ | 【驚嘆】2028国際バカロレアの革新を先取りしていた工学院 »

2026年8月24日 (月)

フェリス女学院中学校2026年度国語は、またも魅力的

★今年のフェリスの国語の入試問題は、いつものように、200字の論述問題が出題されています。自分の体験を通して、目に見えない何か大切なものを汲み取る受験生の内面の広がりや深さが反映される論述問題。フェリスならではの問題です。

★ただし、いつもなら、素直にいわゆる中学受験の読解問題の延長として考えるのですが、今回はちょっと違うというか、あえて違う読み方をしてみたいと思ってしまいました。

出典は永井玲衣さんのエッセイ「出会う」からです。岩波書店の「図書」(2025年4月号)のサイトから読むことができます。

Photo_20260824151201

ある取材の場で、居合わせたカメラマンが「たまたま出会ってしまって忘れられない」と言って、スマートフォンに保存していた一篇の詩を見せてくれます。それが谷川俊太郎の詩でした。筆者はその言葉に強く胸を打たれます。有名な詩人の言葉は、多くの人に使われるうちに擦り減り、新鮮さを失っていくものですが、それでも今この瞬間に、誰かがまっさらな感動とともにその言葉に出会えることの尊さを、筆者はしみじみと噛みしめる、という内容です。

★問1から問3までは、読解問題です。文章の中のセンテンスをパラフレーズして、読み取れているか確認していく問いが中心です。空欄補充の問題が一つありましたが、単なる文脈読みを目的にしたものではなく、結果的にテーマを言い当てるキーワードを選択する問です。

★本文中に引用された詩には、次のような一節があります。「何かとんでもないおとし物をしてきてしまったらしい」と。問4は、この「おとし物」とは何を指すと考えられるか、あなた自身の経験に照らして200字以内で述べなさい、という設問です。

★一般的な受験読解の解き方で考えてみると、「おとし物」を比喩として捉え、「子どもの頃の素直な感受性」といった一般的な解釈を導き、それを自分の実体験に結びつけて具体的に書く、という手順で解いていきます。多くの受験生はこの方法で取り組み、これで合格点に届く答案は十分に書けます。

★これで、十分なのですが、永井さんは哲学対話で注目を浴びている方です。哲学的な思考の型を用いてみたくなるではないですか。哲学者の小川仁志さんは、哲学的思考を「疑う→見方を変える→再構成→概念化」という4段階で説明しています。この設問にあてはめると、まず「自分は何かを忘れているのではないか」と自分自身を疑うところから始まり、その忘れている自分をもう一段上から見つめ直すこと(メタ認知)で、「忘れ物とは単なる物の喪失ではなく、自分という存在そのものの一部を失うことだ」という新しい意味づけに至ります。そしてこの概念を、今度は自分自身の具体的な記憶にもう一度あてはめ直すことで、単なる思い出話ではなく、深みのある答案にたどり着くことができます。

★もちろん、中学受験生が小川さんの哲学の方法を知っているとは考えにくいので、これはあくまで『こんな素養を持つ生徒がいるかもしれない』という、作問者の期待の推察にすぎません。

★あくまで推察にすぎませんが、出典の永井玲衣さんが哲学対話を専門とする方であることを踏まえると、この文章自体、「言葉が擦り減っていくこと」と「それでも新鮮に出会い直すこと」という、まさに哲学的な問いをめぐる考察になっているのではないかと。

★だとすれば、作問者もまた、この素材文を選んだ時点で、一般的な読解力を測るだけでなく、「この文章が持つ思考の深さに、どれだけ響き合える生徒か」を、どこかで期待していたのかもしれません。もちろん実際の採点は、公平性を保つために明確な基準に沿って行われるはずです。しかし、型通りにまとめた答案と、自分自身への問いを一段深く掘り下げた答案とでは、おのずと説得力に差が出るように思います。

★だからといって、点差がつくわけではないのですが、入学後の成長がどうなるのか楽しみです。経験上、6年生の時に、ハッとするような論述をする生徒が30歳くらいなった時に会ったとき、あるいは風の便りで聞いたとき、やはりなという人生を歩んでいるもです。もちろん、検証データはありません。

★そんな生徒の将来の成長に思いを馳せられる問題に出会ったとき、感動です。今回も素材文の選定そのものが、一つの問いかけになっているのです。そんなふうに読み解いてみたくなるフェリスの国語の入試問題は、やはり魅力的です。

|

« 本質ベース教育(5)保護者も感じられる学校の質・授業の質 | トップページ | 【驚嘆】2028国際バカロレアの革新を先取りしていた工学院 »

中学入試」カテゴリの記事