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2024年10月

2024年10月31日 (木)

富士見丘高校1年生 生成AI研修始める その意義

★富士見丘のサイトに「高校1年 生成AIと3Dプリンターを活用した特別講座①」という記事が掲載されています。生成AIを使うには著作権の問題やセキュリティの問題、要するに情報倫理を学んで取り組む必要があります。そこを同時に行いながら、冨士見丘は、3Dプリンターに結びつけものづくりをしていくわけです。同校のこの動きに注目したい点は次の通りです。

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1)情報倫理:すでにLINEがスタートした時から、研修を行ったり、グローバル演習で、文化の違いのみならずリーガルな違いも学んでいるので、この倫理観はすでに根付いているのが富士見丘。

2)プログラミングの基礎:1人1台の環境で自在に動画もつくっている生徒の皆さん。3Dプリンターを稼働させる基本的プログラミングの知識に抵抗はないのが富士見丘。

3)デザイン思考:探究を始める時に、スタンフォード大学からデザイン思考のプロジェクトチームの教授陣を招き研修しているのが富士見丘。

4)アート思考:武蔵野美術大学と連携してギャラリーをつくったりしていてアート思考の研修も行っている富士見丘。

5)グローカル社会課題:グローカルな社会課題を解決することによって社会貢献につながるという活動がグローバル演習や留学で定着しているのが富士見丘。

★生成AIを使うかどうかの議論は大いに結構ですが、実際に使う時に富士見丘のような準備ができているかどうかはモニタリングしてみるとよいですね。

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2024年10月29日 (火)

鴎友学園女子 政策から選挙を考える授業

★<反撃能力、年収の壁…各党の政策見比べ「投票」 高3生が考えた選挙 朝日新聞2024年10月19日 8時00分>では、鴎友学園女子の新木隆太先生の高3の政治経済の授業が紹介されています。この記事のデジタル版では、東京大学の本田由紀教授のコメントが掲載されています。

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★その内容を要約すると「日本の教育現場では「政治的中立性」が強調されてきたため、主権者教育が委縮しがちである。しかし、政治的中立性を保ちながら主権者教育を実施することは可能。同校のように、選挙の際に各党の政策方針を教材として使用し、政党名を伏せて生徒が政策を検討する方法がある。事前アンケートで生徒の関心が高い政策分野を選び、スマートフォンで投票させることで、中立性を保ちながら実践的な教育ができる。この方法により、生徒たちは偏見なく政策を評価し、結果として国会の勢力図とは異なる投票結果が得られた。ここが重要な点だ。」となろうか。実際勢力図が大きく変わったのだからすごい!

★新木先生の授業について説明しなくても、本田教授のコメントから鮮やかに想像できるでしょう。

★まさに、教育ー仕事ー家庭の権威主義を固定化してきた戦後日本型循環を打破する教育ですね。このような視点で18歳選挙をした高3生もいるからです。学校が変わるだけではなく、社会の接点での生徒の思考力・判断力・表現力が変わるのです。小さな第1歩が社会を変えるレバレッジポイントになるでしょう。

★それにしても、鴎友学園女子の社会科教師陣は、優れた授業を展開する先生が多いですね。

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本田由紀教授の短いメッセージにも日本の根本問題を暴く

★教育社会学者で敬愛している本田由紀教授が、朝日新聞の記事「塾や習い事、『学校外教育費』過去最高 値上げ・かけ持ち…未就学児は9年前の倍に 民間調査2024年10月14日 5時00分」の中で、コメントを寄せています。簡単にまとめると次のような趣旨です。

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「日本の学校教育では、1学級あたりの上限人数が多く、きめ細かい指導が難しいため、大都市圏の富裕層の親が教育産業に課金して子供に多くの体験をさせています。しかし、本来は学校教育内で十分に学べる環境を整え、放課後は地域や公共施設での活動を充実させ、学校外教育にお金をかけられない家庭の子供たちが不利にならない体制をつくる必要があります。」

★このコメントの背景には、上記の写真の本田教授の著書で膨大なデータで証明している次のような日本社会の問題が反映していることがわかります。

「日本という国の仕組みによって打ちのめされている若者は、日本という国を特に好きなわけではありません。でも、打ちのめされているからこそ、強そうで安定した存在には従順に従う傾向があるようです。それは結局、この国のだめだめ・ぐだぐだな現状をもたらしたり、少なくとも解決できてはいないくせに、なぜか威張っている大人たちに、強烈なNOを突きつけることができない現状をもたらしていることになります。そうした「もじれた」(もつれる・こじれる・もじもじするなどを合わせた私の造語です)状況こそが、実は若い人たちの自己意識の暗さの中核にあるのかもしれません。

本田由紀. 「日本」ってどんな国? ──国際比較データで社会が見えてくる (ちくまプリマー新書) (p.241). 筑摩書房. Kindle 版. 」

★今回の権威主義がやや崩れたかのようにみえる選挙。本田教授が語る権威主義的悪循環が本当の意味でのジョブ型社員が生み出すフラットでフェアー、フリーな感じの仕事→家庭→教育の好循環に転換することを期待していますが、学校が変われば社会が変わるというのは威勢の良い話ですが、この循環全体を転換しなくてはならないので、学校が誰とあるいはどこと協力して変えていくかを見通すことが必要です。

★高大連携、NPOなどと学校が連携していることの意味はここにあるとよいですね。

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ウェルビーイングな人間関係を生み出す感情リテラシー

★地政学リスクも気候変動リスクもハラスメントリスクもなんとか回避するには、ウェルビーイングな人間関係を生成することが大切。エッ、そんな簡単なこと?と思われるかもしれません。でも、人間関係でストレスをためている方は少なくないでしょう。この人間関係に影響するのは、瞬間瞬間生まれる感情であることもなんとか了解できると思います。

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★したがって、感情の正体をまず知ることがポイントですね。一般財団法人日本私学教育研究所の研修でも講師として招かれている法政大学教授の渡辺弥生先生の上記の本は、そのヒントになると思います。

★渡辺先生は、発達心理学の研究をベースにESLなども教育現場で浸透させています。この本の説明については、実に分かりやすく書かれていますので、手に取って読んでいただければと思います。私は、この本を読みながら次の図が思い浮かべました。

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★私たちは、驚くから行動するのか、あるいは脳神経系が興奮するのか、行動するから驚くのか、脳神経系が興奮するから驚くのか、いろいろ議論しますが、どうやら、多様な学説があって、どれが正解なのかは、それぞれが考えればよいようです。

★ですから、上の図のように全部相互に関係しあっていると考えて、自分の感情や他者の感情に気づく、内的モニタリング=内省をするとよいわけです。

★この内的モニタリングは、坐禅のとき、お点前をしているとき、散策している時、シャワーを浴びてマイナスイオンに囲まれている時、チャペルで祈っている時、電車に乗りながら瞑想している時、いつでもどこでもできる感情リテラシーというスキルですね。

★最近では、学校でマインドフルネスがはやっていますね。そんな瞬間も大切でしょう。

★生活の中に「余白」や「空集合」を見つけるのは実に大事であり、人間関係を良好にし、それがバタフライ効果さながら、世界の痛みを和らげることになるのだと思います。あまりに楽観的なと思われるかもしれませんが、意外や感情の正体を見破るのは難しいですね。苦しくもあります。というわけで感情リテラシー。言語活動の中に内蔵させたいなあと思っています。

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NHK学園 認知スキル×感情リテラシー 教育の本質

★文部科学省が開催している「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議があります。要は通信制が全日制が置きざりにしてきた教育の根本的な問題を現場で柔軟に涙ぐましい創意工夫がなされ、その根本問題をなおざりにしてきた結果痛みを被っている生徒を引き受けているにもかかわらず、その柔軟性を逆手にとって、安易でショートカット的な学修方法が、公教育機関の在り方として本当にふさわしいのかどうかをチェックしようという会議です。具体的には「義務教育課程の中でもって教員配置も、登録している生徒に基づいて行われている。教科書等も配られているにもかかわらず違う、本来は不登校でもなければ中退でもなければという子供たちまで集め始めているということは明らかに、そうした形で、広域制通信高校が今までとは違った形で生徒の集め方をして、単にもうそれは不登校だとか中退者じゃないですね。もう積極的に広域制通信の持っている緩やかな弾力性をうまく利用して、生徒数の拡大を図っているという流れになってきている。やはりそういった点についてもう一度検証をしていく必要があるでしょうし、そういう点では実員と定員、それの乖離も大きく生じているということなどもきちっと検証していく必要があるのではないか」ということですね。

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★何においても、悪用とか濫用というものはあるわけだから、そうならにようなチェックシステムは作らなければならないと私も思います。しかし、今までの公の議論というのは、そういう正義にむかって邁進する時に、なぜか本質を見落としていくということがありがちなのです。坊主にくけりゃ袈裟までにくいということがあります。この通信制の見直しの時に、制度の欠陥をクリティカルシンキングしているだけなのに、そもそも通信制は、全日制に比べてショートカットしているからけしからんという十把一絡げにしてしまう。

★議論している人はそんなつもりはないと言いながら、「合理的配慮」の繊細なコミュニケーションの実践の拠点である通信制の学校に、その配慮がない言動を認めている文部科学省があるのは、とても残念です。

★「合理的配慮」の根本は、教育の本質を見落としがちな日常のコミュニケーションのモニタリングにあるわけです。まともにそこに向かい合っている通信制が実践している教育の本質のあり方にちゃんと目をむけなくてはならないと私は思っています。

★もちろん、一方で文部科学省は、ここに向かい合ってもいます。リテラシーという言葉ではなく資質能力というコンピテンシーに着目したり、高校卒業に必要な74単位のうち36単位は柔軟にしていこうという動きはまさにそうです。

★NHK学園で、等々力理事長、伊藤副校長をはじめ5人の先生に話を伺ったり、キャンパスや授業を見学させていただきました。改めて、ショートカットしているのはもしかしたら全日制ではないかと思ってしまいました。

★同学園では、メディアリテラシーというクリティカルシンキングという認知能力を十分に時間を割いて教育実践をしています。一方で、ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)も十分に時間を割いて教育実践をしているのです。SELのほうは、法政大学の渡辺弥生教授と先生方が協働して教材を創ってもいます。

★全日においてもこのSELについては見直されてきています。しかし、時間が全く足りないでしょう。基礎学力というのを認知能力だと考えているようですが、それは認知能力のほんの一部です。しかし、あれらだけ膨大な時間をかけていますから、生徒の方は、クリティカルシンキングやソーシャル・エモーショナル・ラーニングを十分に受けていないために、教科学習が認知能力のすべてだと推論のはしごよろしくアンコンシャスバイアスを造ってしまっていることに気づかないのです。

★このことに違和感をもって感情リテラシーを十分にもっていない小中学校の時に、不登校になってしまう、はじかれてしまう子供がでてきてしまう。そこに学歴社的な階層ランキングという合理的配慮を全く欠いた世間の言説、それを煽るメディアの言説が、生き難い状況を作ってしまう。

★そんな世の中をそれでも生きていくためには、そのようなメディアの言説をクリティカルシンキングできるメディアリテラシーというアイテムを磨き、いわれなき世の中の言動から身を守る、感情リテラシーというアイテムを磨くという本質的教育を生徒1人ひとりに本当の意味で個別最適化しているのがNHK学園です。

★法人としては独立していますが、NHK講座というNHKの学びのリソースを活用しながら全日から見ればいわゆる教科学習の時間はショートカットしているかもしれませんが、全日が通信制から見ればショートカットしている認知能力のリテラシーと非認知能力のリテラシーの学びを充実させているのです。

★しかし、たしかに、この認知能力や非認知能力のトレーニングの時間を、逆手にとって、全く別の時間にあてている通信制もあるのです。そのような通信制で学ぶことは自由ですが、それで高校卒業資格がとれるというのは、教育関連法規上問題であるというのは当然です。法治国家ですからね。

★では、全日制と通信制の融合は果たして可能でしょうか?それはする必要がないのです。多様な学びのあり方があるのは生徒にとっては選択肢があるということだからです。それに、全日で十分にメディアリテラシーと感情リテラシーをトレーニングすることは可能なのですが、それは教材によるわけではないのです。では、どうすれば?

★GAFAMのようなユニコーン企業が、哲学や禅を欲しているところに大きなヒントがあります。そして、この道をすでに歩んでいる全日制の私立学校があります。NHK学園のような本質教育を実践している学校に学び、全日においてもその本質教育を行っている学校に学んでいけば、日本の新しい本質的で生徒も教師も保護者もその他の関係者もウェルビーイングになる効果を生み出せるはずです。

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2024年10月25日 (金)

八雲学園の副校長近藤隆平先生に会いました。生徒の成長が飛躍するグローバル教育のリーダー

★昨夜、これからの日本の教育を創り持続可能にするカギを見つけるとある会合で、八雲学園の副校長近藤隆平先生にお会いしました。この夏、米国サンタバーバラで行われていた生徒が取り組む2つのグローバルプロジェクトに同伴してようやく帰国したということでした。その間、コロンビアでラウンドスクエアの国際会議に参加した10人の生徒は、帰国直前にイエール大学にも立ち寄り、来年度のイエールとの国際音楽交流のプロジェクトの打ち合わせもしてきたそうです。近藤隆平先生ご自身は分身の術をつかえないですから、行けなかったそうですが、OGで英語科のエースのボッサム先生が生徒と行ってきたということです。

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(イエール大学の八雲生。写真は同校サイトから)

★ラウンドスクエアは、生命主義でグローバルリーダーを輩出する八雲学園の理念と共感共鳴共振する世界のエスタブリッシュ私立学校の団体です。単に世界の超難関大学に入ることを目的(それは目的とするまでもなくあたり前過ぎるわけです)としている私立学校ではなく、この気候変動や環境悪化のリスク、地政学リスク、人間関係を壊すハラスメントのリスクなどを解決し、自然と社会と精神の循環を生み出す生命主義を牽引するグローバルリーダーを輩出することが目的です。当然八雲学園もそうなのは言うまでもありません。

★そのことは、実際にコロンビアで行われてきたラウンドスクエアに参加した生徒の皆さんの感想を読んでいただければわかります。

 Round Square国際会議、研修終了&生徒の感想

★世界の社会課題という痛みをラウンドスクエアに参加した世界の同世代というか同級生と引き受け、語り合ういわば世界会議で世界的視野を広め、同時に自己成長を実感していることがわかります。

★八雲学園では、このような実感を学内で共有するイベントも多いわけですが、何よりそのラウンドスクエアの加盟校の生徒が毎月のように交換留学生としてやってきているのです。そして、八雲生もやってきた留学生の学校で交換留学生として学べます。渡航費・生活費以外はかかりません。

★自己成長物語と世界的視野を広めるグローバルリーダーへの希望が生まれるグローバル教育の真価発揮ということでしょう。

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2024年10月23日 (水)

禅とチャペルと音楽と 私立学校は小林秀雄を受けいれて乗り越える

★多くの私立学校では、コーラス、吹奏楽、弦楽など音楽が鳴り響いています。校長先生の中には、クラシック音楽を嗜む先生も多いし、実際に芸大をはじめ音楽大学出身の方もいます。仏教やキリスト教の学校の校長先生の場合は、さらに僧侶の方も聖職者の方もいます。そうでなくても、禅や瞑想の意味を深く理解し、学内外にその想いを教育を通して広げていこうとしています。でも、ふだん支部会や研修でお会いした時に、クラシックの話や仏教やキリスト教の世界の話は対話の中にそれほどでてくるものではありません。

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★それは何故でしょう?そもそもそのようなミーティングは、目的がはっきりしていて、そこに音楽の話も宗教の理念の話もテーマになることはないということもあります。

★それでも、SNSなど個人的なやりとりの中では、そのような話もでてきます。コンサートの季節でもあるので、演奏会に行ってきた感想を拝見すると、普段学校では話をしないような音楽の深イイ話をされているのがわかります。でも、その深イイお話は、少しデモーニッシュです。ふと私と同じくらいの世代の校長先生方ですから、この心性への共感はなんだろうと思いました。

★そして、この世代は、小林秀雄の「モオツアルト」を読んでいるなと気づいたのです。受験にも出題されていたので、きっと読んだことがあるはずです。そこで、引っ張り出してきて再読。もう60年以上も前に出版されています。ですから、私たちが高校生から大学のときに、ちょうど教科書的な文章として取り扱われていたと思います。

★開いてみて、いきなりデモーニッシュな心性が現れてきました。疾風怒濤の時代の心性です。啓蒙期の流れを汲むゲーテやヘーゲルの雰囲気が詰まっていました。もっとも小林秀雄ですから哲学的な書き方は全くしていませんが、理性としてのデモーニッシュな雰囲気を漂わせています。

★光と影を分断することなく、まるでモーツアルトの作品をルビンの壺のように両面性を同時に備えている通奏低音が響いています。

★おそらく、このアンヴィバレンツな人間の魂のテーマは、近代文学の通奏低音なのでしょう。ですから、常にユートピアはディストピアと混然一体となっていて、小林秀雄は、あの未完のレクイエムを作曲しているときの、モーツアルトを、日々死を覚悟して眠り、目が覚める度に再生を意識して作曲に取り組んだと。その姿はまさにデモーニッシュな神の憑依した感じです。

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(駒沢学園女子の坐禅堂「照心館」)

★このことを別に小林秀雄に影響されてというわけではなく、小林秀雄が近代の心性の通奏低音を言語化しただけですから、この心性を共有している世代が今の校長先生なのでしょう。だから、学校では、このことを理解しているからこそ、人間はたしかにそうなんだけれど、にもかかわらず、光をということでしょう。

★だから、ふだんは光の部分しか話さないのです。その覚悟があるからこその気概ですね。そこを評論家は、真実を観ていないとか揶揄するのです。しかし、そのような近代文学の心性は真理でしょうか。そこはにもかかわらず乗り越えるにしても、さらにそれを超克することはできるのではないかと校長先生方は考えるのだと思います。

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(桜美林のチャペル)

★だから、その超克する新しい心性を生み出す音楽に感動し、坐禅をして自らを超える新しい世界を見つめ、チャペルで祈りながら新しい希望を生み出す教育に挑戦し続けているのでしょう。

★校長は守護神ヤヌスでもありますから、片方の顔は広報に向け、もう片方の顔は人間の新しい本質に向いています。

★もちろんすべてがそうではないというのは、人間ですから当たり前です。マーケティングにばかり目が行き、それが巧みな校長もいます。本質だけにこだわりふんばる校長もいます。ただ、私の周りには、守護神ヤヌスさながらの敬愛すべき校長が多いということも事実です。

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2024年10月22日 (火)

日経ビジネス 禅と哲学 駒沢学園女子の教育がグローバルなわけ

★日経ビジネス(2024年10月21日号)の特集を見て驚きました。「禅と哲学」なのですから。あのジョブズだけではなく、ツイッターの創業者ジャック・ドーシー氏も「わび・さび」のコンセプトをアイデアやデザインの発想の要にしていたというのです。また、あの京セラ稲盛和夫さんも在家得度していたということです。これらのことは意外と有名なお話のようです。

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★そして、今哲学者や僧侶なども経営アドバイザーとして世界のユニコーン企業に必要とされているというのですから、素晴らしいですね!ところがですよ、なぜこのことが日本では日常的に話題に上らないのか?それはそもそもユニコーン企業が日本には少ないので、そういう話題が入ってこないからということもあるでしょうが、実は違うと思います。

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(この時期のお茶菓子。駒沢学園女子のサイトから)

★それは駒沢学園女子を訪れるとわかります。茶道も坐禅も当たり前のようにあるからです。

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(同校サイトから)

★どういうことか?同校では、毎日のようにレナード・コーエンが禅と茶道を通して語っているような「わび・さび」という哲学をベースにグローバル探究を行っていて、わざわざ哲学者に依頼しなくても、自分で真実を見つめるトレーニングがなされているからです。

★この当たり前の教育が、世界に出ると極めて希少価値があるのです。

★それは日本の茶道具や浮世絵が、世界の高値で売買されていた時代(今もそうですが)のことを思い起こせば理解できるでしょう。

★駒沢学園女子の生徒は、実にウェルビーイングですね。このことをGAFAMのCEOが知ったら、自分たちの子弟の学び舎にするかもしれませんね。

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新しい学校とは?結局シンプルな「対話」のメカニズム=Dialogy

★今やグローバル、STEAM、探究(探究はグローバルやSTEAMのベースになっている学校もある)を行わない学校はないでしょう。予測不能な時代の学びとして、あるいは2050年社会を生み出す創造的才能者を育成する学びとして行われています。だから、日本の教育が問題だとか、海外に比べて日本の教育は劣っているとか、そのような批判は、本当のところ当たっていないのかもしれません。初等中等教育の学校がすべて、つまり児童生徒全員がこの環境にあるというのはおそらく誇るべきでしょう。もちろん、程度や質の違いがあり、それは改善していく問題です。

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★しかし、それは生成AIが今後教育の領域に入ってくることによって、解決されていくはずです。もちろん、AIのメリット、デメリットはあります。倫理的な配慮やセキュリティなど熟慮しなければなりませんが。

★いずれにしても、生徒中心主義的発想は、いろいろ議論されていますが、その流れは止められないでしょう。個々の創造的才能というかコア能力が養われていきます。

★自然と社会と精神が循環する、それが宇宙まで拡張する社会像あるいは世界像を、社会課題を解決する多様な学びを介して作っていけるコア能力。これらの多様な学びのうち、自分に適合する学びを<媒介項>として選び、それぞれが個性を生かしながらそんな社会像や世界像に行き着きます。

★まさか、今目の前の生徒の基礎学力をみると、そんなことはあり得ないという方もいるでしょう。でも、その基礎学力を育成する学びが、その生徒のコア能力を育成する<媒介項>として適合していないだけなのです。

★そういう多様な<媒介項>の共通するメタ<媒介項>があります。それが<対話>なのです。これは意外と当たり前すぎて、ピンとこないかもしれません。

★これから世の中どうなるかわかりません。電気エネルギーが突然なくなり、あらゆるものが動かなくなった時、ほとんどの学びが作動しません。さて、それでも学びは続けなくてはなりません。身体とメンタルと人間関係だけが残った場合、<媒介項>として学びは<対話>です。いつでもどこでもだれもが持っている最強の学びの<媒介項>は<言語>です。

★この対話のメカニズムとしての<媒介項>をダイレクトにトレーニングする<Dialogy>の学びの機会を有している学校が新しい学校として認識される時代が、AI社会だからこそ逆説的にやってきます。

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2024年10月21日 (月)

開成の教育の一端が見える「君はどう生きるか」

AERA(2024/10/20/)の記事『開成中の課題本に鴻上尚史の本、採用なぜ? 「論破より対話の発想」校長と教諭が語る』がおもしろいですね。開成の教育の一端が見えます。

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★中学生の夏の課題図書が、鴻上尚史さんの「君はどう生きるか(講談社 2024/6/12)」だったのですが、この図書を選定した国語科の先生が、自分も感想文なんかは、嫌いだからと、そこを課題にしていないところがまずおもしろかったですね。

★そして、校長先生は、論理的に論破する生徒が多いから、対話のファシリテーターの鴻上さんの話は魅力的だとか語っているのもおもしろいですね。というのも、開成の生徒にかかわらず、思春期は、自分の考えを通そうとする姿勢はあります。必ずしも論理的ではないですが。ただ、その時に、対話のファシリテーターになってほしいと教師がとらえるかどうかは実は意外とない。論理をただそうとはするでしょうが。

★同調圧力より、共感性に興味があるとか、そもそも物事や体制の枠組みを疑わないのは困るから、そこに気づいてほしいとか校長や先生が鴻上さんと語り合っているのも実におもしろい。

★根本的な問いに気づくことの重要さに気づいてほしいと課題図書が選定されたわけですね。

★それと当事者意識。共感することで、相手の状況を理解し、引き受ける勇気をもつことが当事者意識だと鴻上さんは考えているようです。

★すばらしいけれど、そう簡単ではない。しかし、そんなことを考え引き受ける本物のエリートが開成から輩出されれば、そしてその一つのきっかけになれたとしたら、鴻上さんはこの上なくうれしいと。それは本当に希望だと私も思います。

★そして、このニュースは、当然各中学受験塾に届くでしょうから、開成受験生以外の中学受験生にも鴻上さんの「君はどう生きるか」のメッセージがダイレクトに届く。そんな受験勉強いいじゃないですか!

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2024年10月19日 (土)

私立学校の校長 後世への最大遺物をのこす私学人 勇ましい高尚なる生涯

★昨日吉野校長のお話をお聞きし、また先生の生き様を私の知る限り振り返り、やはり哲人校長だと思いました。私立学校の校長とは本当にそういう方が多いですね。内村鑑三が、「後世への最大遺物」で、近代における国家主義の時代に、個人の重要性を説いているのですが、まさに国家と市民社会の融合点を志向し生き抜く個の育成は私立学校の校長のアンビションそのものですね。

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★麻布の前校長氷上先生と何度か対話した時、私立学校の第一世代ともいうべき私学人は 江原素六、新島襄、福沢諭吉だと。その第二世代はたくさんいるけれども、内村鑑三と新渡戸稲造にはしっかり学んでおいた方がよいと≪私学の系譜≫をたどりなさいとご教示いただきました。

★たしかに、戦後教育基本法を成立させるときに大きな働きをしたのは、その座長である東大総長南原繁をはじめ、委員の先生方は、内村鑑三と新渡戸稲造の薫陶を受けていた方が多かったのです。

★氷上先生とお会いして対話をしたのは、その教育基本法が改正される時で、だからこそ、その私学の第二世代の思想をちゃんと学ぼうということだったのでしょう。そのとき、私立中高協会側でも、教育基本法の改正の中に、文科省や教育委員会が私学を指導できるというような条文を入れようとしたことに反論をしその撤回要望をし、結果的にむしろ私立学校の教育を認めるというようなところにまで持っていく交渉をしていたのを憶えています。

★そのとき副会長だった故實吉幹夫先生も論考を描きながら論陣をはって、まさに国家に挑んでいたわけです。實吉先生は麻布出身者ですから、氷上先生同様、私学人第一世代の江原素六の継承者です。同じように實吉先生と共闘したのは、当時の鴎友学園女子の校長だった清水哲夫先生です。そして吉野先生は、清水先生と二人三脚で鴎友学園女子を大いに発展させたわけですが、鴎友学園女子の創始者は内村鑑三の薫陶をうけていたのです。

★それから、そのときからすでに協会の会長である近藤彰郎先生(八雲学園理事長校長)と日本私立中学高等学校連合会会長の吉田晋先生(富士見丘理事長校長)は福沢諭吉の継承者でもあります。

★お二人は實吉先生と共に先頭に立って立ち臨んだ私学人です。≪私学の系譜≫は脈々と続いています。

★さて、後世への最大遺物から2か所次の文章をご紹介します。私学人の気概は今も続いていることが了解できると思います。

「富というものを一つにまとめるということは一大事業です。それでわれわれの今日の実際問題は社会問題であろうと、教会問題であろうと、青年問題であろうと、教育問題であろうとも、それを煎せんじつめてみれば、やはり金銭問題です。ここにいたって誰が金が不要だなぞというものがありますか。ドウゾ、キリスト信者のなかに金持が起ってもらいたいです、実業家が起ってもらいたいです。われわれの働くときに、われわれの後楯だてになりまして、われわれの心を十分にわかった人がわれわれを見継みついでくれるということは、われわれの目下の必要でございます。それで金を後世に遺そうという欲望を持っているところの青年諸君が、その方に向って、神の与えたる方法によって、われわれの子孫にたくさん金を遺してくださらんことを、私は実に祈ります。」

「金も実に一つの遺物でありますけれども、私はこれを最大遺物と名づけることはできない。事業も実に大遺物たるには相違ない、ほとんど最大遺物というてもようございますけれども、いまだこれを本当の最大遺物ということはできない。文学も先刻お話ししたとおり実に貴いものであって、わが思想を書いたものは実に後世への価値ある遺物と思いますけれども、私がこれをもって最大遺物ということはできない。最大遺物ということのできないわけは、一つは誰にも遺すことのできる遺物でないから最大遺物ということはできないのではないかと思う。そればかりでなくその結果はかならずしも害のないものではない。昨日もお話ししたとおり金は用い方によってたいへん利益がありますけれども、用い方が悪いとまたたいへん害を来きたすものである。事業におけるも同じことであります。クロムウェルの事業とか、リビングストンの事業はたいへん利益がありますかわりに、またこれには害が一緒に伴のうております。また本を書くことも同じようにそのなかに善いこともありまた悪いこともたくさんあります。われわれはそれを完全なる遺物または最大遺物と名づけることはできないと思います。
 それならば最大遺物とはなんであるか。私が考えてみますに人間が後世に遺すことのできる、ソウしてこれは誰にも遺すことのできるところの遺物で、利益ばかりあって害のない遺物がある。それは何であるかならば勇ましい高尚なる生涯であると思います。これが本当の遺物ではないかと思う。他の遺物は誰にも遺すことのできる遺物ではないと思います。しかして高尚なる勇ましい生涯とは何であるかというと、私がここで申すまでもなく、諸君もわれわれも前から承知している生涯であります。すなわちこの世の中はこれはけっして悪魔が支配する世の中にあらずして、神が支配する世の中であるということを信ずることである。失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信ずることである。この世の中は悲嘆の世の中でなくして、歓喜の世の中であるという考えをわれわれの生涯に実行して、その生涯を世の中への贈物としてこの世を去るということであります。」

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芝国際 吉野校長のビジョンと学内が一丸となる 高い期待値

★昨日、GWE(GLICC Weekly EDU )第189回「芝国際中学校高等学校ー社会と未来に貢献できる人になる」で、校長吉野先生と広報部長川上先生とGWE主宰の鈴木氏と対話をしました。2年目の成果がわかる動画と川上先生の話から、芝国際の良質の教育が展開していることが了解できます。そして、吉野校長の理念やビジョンが私立学校のロールモデルであり、それが具体的に教育を回転させているエネルギーであることが実によくわかります。さすがは哲人校長であると感服しました。私のコメントより、動画をご覧いただけれ、それは明快・簡明・感銘の3拍子揃った共感を抱けると思います。

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★1つコメントをすると、確かな学力×世界標準の教育という方程式が、実に真実味があるということです。吉野校長は、入学する時はイメージとして最難関大学とか海外大学に進学する教育だと思われるかもしれないですが、それはそれで結果的にそうなるのでそう思って頂いてよいのですと。それは氷山モデルでいえば、見えやすいところでしょう。

★そして、その氷山モデルの水面下にしっかりあるのは、より良き国家を作っていく人間力と国境を超えてより良きグローバル市民社会を創っていく人間力が生み出される教育環境だということです。そして、それだけではなく、自然や社会や精神を地球規模だけではなく宇宙規模で循環させる世界を創っていくことにつながっていくというコトです。

★吉野校長が語ると単に理想的だとは聞こえません。実現されるという信頼感が広がります。

★それに、教育環境として、C1英語、PBL、STEAMの環境はすでにあり、これから作っていこうというわけではないことが、川上先生のプレゼンからわかります。ネイティブスピーカーの教師も16人もいます。

★今回のプレゼンの中で、探究という言葉は出てこなかったと思います。むしろダイレクトに中学から全員が模擬国連にチャレンジするということとアントレプレナーシップを実践しているということです。

★この2つのプログラムの中に探究やSTEAM教育が内包されているので、そこを焦点化するのではなく、模擬国連によるグローバルな平和な世界をつくるということそしてSTEAMをベースにするアントレプレナーシップを創っていくということを通して個と個が高い意識をもって対話をしていけるようにするというところを明快にしているということでしょう。

★また吉野校長からは、ロゴスという言葉がたびたびでてきていました。ロゴスはロジカルシンキングと同時に人類愛を内包しています。そのようなロゴスありきの模擬国連であり、またロゴスありのアントレプレナーシップということでもありましょう。

★世界に影響を与えているGAFAMは、今哲学者をアドバイザーにしたり、哲学コンサルタントに仕事を依頼したりしています。

★私立学校も、いや私立学校だからこそ、やはり哲学的発想を必要としているのですが、芝国際には、吉野校長という哲人校長がいるということは、本当にこの困難な時代を生と共に乗り越えることができる期待が高まります。

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2024年10月18日 (金)

学校がどのような環境を創るのか 全日制と通信制の最適な関係性

★近代の学校は、国家形成のための人間を創るためなのか、生活世界を生み出す人間を輩出するのか、その両方なのかなどによって、その学校にいる生徒が置かれる心的状況は違います。

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★国家形成と生活世界形成のバランスが、小さな支配型のキャラと豊かな寛容型キャラの人間がたくさんいるとコミュニティリーダーシップが生まれるでしょう。強い支配型キャラと狭量型キャラが交わると、独断的な人間が登場します。あるいはそこで競争が起こりますから、隷属的な人間も生まれれてしまいます。

★狭量型キャラと受容型キャラだけのキャラだと孤立的な人間が生まれます。受容型や狭量型を寛容型キャラにトランスフォーメーションできる環境が必要です。

★第Ⅱ現象の人間を生み出す全日の高校は、第Ⅰ現象の人間を生み出す学校にトランスフォームする志向性も必要です。完全には難しいですが。

★国家形成の形成が小さな支配型で、生活世界形成が豊かな寛容型だと、第Ⅳ現象にいる人間は穏やかですが、強い支配型と小さな寛容型だと、コミュニティーリーダーシップは発揮されないので、不安に陥ります。

★全員がコミュニティリーダーシップを発揮できる第Ⅰ現象にいられる学校であればよいのですが、そうもいきません。最適解の全日制高校は、第Ⅰ現象と第Ⅳ現象にまたがるでしょう。

★最適解の通信制高校は第Ⅳ現象の環境にあるとよいのですが、それには、全日制高校が、第Ⅰと第Ⅳにまたがっている必要があります。

★それには生成AIを含めたテクノロジーの善き使い方が重要になってきます。

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2024年10月17日 (木)

建学の精神をめぐる校長と教職員の思考

★私立学校が建学の精神を理念として教育に浸透させているのはいまさら言うまでもありません。しかし、建学の精神をめぐる思考スタイルは様々です。解釈が様々だという程度であれば、実は思考スタイルは一緒だったりするので、対話ですり合わせていけばなんとかなりますが、これは確認に終わり、学校自体が何か変わるかというとそういうことはあまりありません。

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★ところが、ときに校長がローマ神話に出てくる守護神ヤヌス的思考をする方がいます。教職員が、この思考を理解していないと、大きく二つに価値観がわかれます。それゆえ、学校に何か変容が生まれてきます。

★ヤヌスというのは2つの顔AとBという方向性をもっています。校長がAの立場をとるのかBという立場をとるのか、それともAとBのフュージョンを行ってCという立場に立つのか。

★2つの顔を持たず、AだけBだけだと、教職員はわかりやすいわけです。あまり対話をする必要もありません。校長は、自分の考え方に適合する教職員を教頭や部長に据えるでしょうから、校長の考えにあっていない教職員は、建学の精神の解釈の違い程度である場合、仕事だからと割り切るでしょう。

★ところがヤヌス思考の場合、Aだと思ったらBなわけです。学内は混乱します。対話を通して、実はCであったということが理解できればよいのですが、Cの方向は、AとBの合力の効果や雰囲気ですから、可視化が難しいのです。

★ですが、このヤヌス思考を教頭などが、翻訳できた場合、学校全体が新しいものを生み出す創造的な学校の雰囲気を醸し出し、つまりエネルギーに満ちてきます。

★偏差値の高い学校は、ヤヌス的思考はしないので、偏差値の高い生徒を集めて、結果を出していきます。シンプルで分かりやすいので、受験市場は大歓迎です。

★このような学校がもしもヤヌス的思考を受け入れたら、どうなるのでしょう。ある意味偏差値の高い学校でもどっか例外的な麻布のような学校になるかもしれません。そこが魅力なのでしょう。

★だから偏差値が高くないにもかかわらず、もの凄いエネルギーがある学校は、校長がヤヌス的思考をしていて、それを学内に浸透させるチームがいる場合が多いですね。

★そして、ヤヌス的思考の雰囲気のある学校は、その学校だけではなく、社会を変える思考様式を生徒と共に創り上げていきますから、未来の社会にインパクトを与えるわけです。

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2024年10月15日 (火)

建学の精神の重要性に光が当たる時代 2024年ノーベル経済学賞受賞者の意味から

★2024年のノーベル経済学賞は、MITのダロン・アセモグル教授、サイモン・ジョンソン教授と米シカゴ大学のジェイムズ・ロビンソン教授に授与されました。授賞理由は「社会制度が国家の繁栄に与える影響の研究」だそうです。地政学リスク、気候変動リスク、ハラスメントリスクなど世界共通のリスクや危機があふれている時代にあって、民主主語という制度の作り方・使い方によって繁栄と格差を生み出し、民主主義の危機をもたらしていることを、経済学の側面から検証していったということだと思います。これは、私立学校の建学の精神に基づいた学校経営が実に価値があるよという話につながりますね。

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★今年ジャーナリストの大野和基さんが、インタビューしてまとめた上記の本の中に、今年のノーベル経済学賞受賞者のダロン・アセモグルさんの記事があります。数式なしの論文なので私でもなんとか読めました。

★歴史学や政治学の領域では、民主主義という制度と市場経済の関係を国家と市民社会の関係性でとらえる研究はずっとなされてきましたが、それを経済モデルで検証していこうというのは、たしかに今までなかったかもしれません。

★アセモグルさんは、強い国家と強い市民社会のバランスを経済をつくる制度とその規制の適切な塩梅をリサーチし、経済モデルで証明しているのでしょう。そのバランスが適切であれば、市場経済は健全い機能し、民主主義も持続可能になると。私立学校の発想と同じです。

★その経済モデルがどういう計算式なのか、それはいずれ概説してくれる人がでてくるので、楽しみに待っていますが、この民主主義と市場経済の関係性は、国家主導型か市民と協働型かアナーキーかなどにわかれますが、私立学校は強い国家と強い市民社会の適切なバランスをとりながら明治以来経営してきたのです。

★それが顕著に表れているのが、私立学校振興助成法の保守とガバナンス改革への議論です。本日も共立講堂で、東京私立中学高等学校協会と父母の会が一堂に会して、この点について一丸となって都や国に要望していこうという大きな会合があります。

★所得制限が撤廃されて、高校の実質学費無償化が現実化しているのは、この要望の働きかけのおかげですね。

★このような建学の精神に基づいた自由で独自の教育を創っていくことを保守することは、今年のノーベル経済学賞受賞によって、極めて全うで重要だということが検証されたと言えるかもしれません。

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2024年10月13日 (日)

なんてったって工学院(了)生徒と教師のフュージョンエネルギー最高

広報室の発信しているサイトとその写真をみて、校長中野先生の語るうちの自慢は「生徒と先生方」ですという人的資本論はなるほどそうだと改めて思いました。

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(写真は同校サイトから)

★説明会のセッションで、5人の生徒がオーストラリア研修とマルタ研修と3カ月留学の経験をプレゼンしてくれました。まずはやってみようという行動からいろいろ考えて、経験値を高めていく、そしてその経験値をもとに、さらなるチャレンジングな行動に立ち臨み、いろいろ思考錯誤し、感じ、自問自答や対話を通して、何らかの達成感を獲得しながら経験値をアップデートしていくという思考のロールプレイ循環が広がっていることが伝わってきました。工学院の中学受験生が思考力セミナーで体験しているのはまさにそのシミュレーションでした。

★それにしてもプレゼンの雰囲気が、自然体でよいですね。TEDのプレゼンを見ると、実に物語るそのパフォーマンスは効果的です。気負うことなく、演説のように声を張り上げるのでもなく自然な雰囲気。自分が感じてききたことや考えてきたことがはっきりあるし、おもしろいのは自分がどう変わったのかどう変わっていくのか見通しを立てているところですね。

★教育というのは、人生のための準備ではなく、人生そのものだとはジョン・デューイの信念ですが、工学院という学校での生活もまた生徒にとっても教師にとっても人生の場そのものです。もしかしたら理想過ぎて、卒業後の過酷で矛盾や葛藤やルサンチマン(妬み・嫉み・自己鬱屈などのトータルな総称)溢れる社会で苦労するかもしれません。でも、心配はいりません。だから生徒はグローバルな世界で挑戦してくるのです。グローバルプロジェクトやラウンドスクエアの国際会議では、自分たちと同年代の過酷な生活を強いられている子どもたちと対話し、自分たちで何ができるのか必死になる経験を積み上げているのです。世界の痛みを感じて考えるのです。リーダーの資質ですね。

★国内でも、地域や都市のそれぞれの社会課題に直面し、プロジェクトを発動していくのです。社会課題に取り組むことの本質的な意味を思い知らされました。

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★思考力セミナーの会場は図書館でしたが、紙の書籍は限定的でした。電子図書館化しているということです。なるほど3Dプリンターが並んでいるはずです。

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★その図書館には、高1と高2でゼミ形式で行っている探究論文が収められていました。2016年度と2017年度分がズラリと。なるほど全員が取り組んでいるということの凄さがわかりました。それ以降は、デジタルになってグループワークで生徒は互いに閲覧できるようになっているのかもしれません。今度聞いてみたいと思います。

★そんなことを思いながら、図書館を見回していたら、学校案内のグループが図書館に訪れてきました。その案内人が、明朗快活で、場所の事実だけを伝えるのではなく、この場所で自分たちはどんな思いで過ごしているかを見事にプレゼンしています。ある意味、道を導くリーダーシップが溢れています。保護者の方々もその案内人の世界に引き込まれています。笑いもあります。凄い教師がいたものだと思っていたら、広報室の中村さんが生徒会のメンバーですよと。驚きました。なるほど生徒の人的資本力ここにありですね。

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★入れ替わり立ち代わり、それぞれの学校案内グループがやってきていましたが、その中で案内をしている教務主任の三浦先生に会いました。たまたま新着図書の前でお会いしたので、「哲学者の視点」の本を指して、このような本があるのですねと語りかけると、「哲学カフェやっていますからね」と即答されながら、案内を続けていました。オッーと思い、すぐに同校のブログを検索しました。

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(同校サイトの哲学カフェの記事から)

★するとありました。三浦先生は数学の先生です。そしてブログを書かれた平林先生は社会科(本も執筆しています)の先生です。哲学カフェは文理融合の原点というイメージでしょうか。対話がベースの授業が工学院の1つの特徴ですが、さらにメタローグまで深まっていくということなおでしょう。進化/深化ですね。

★「全員」というのがキーワードなのが工学院です。インターナショナルコースでは哲学授業があります。もちろん英語で。ケンブリッジインターナショナルスクールと提携しAレベルを射程においていますから、欧米では哲学の授業は大事です。

★この重要な学びを、インターナショナルコースに限らず行う行動の1つとして哲学カフェを実施していく柔軟さ。そこに集う生徒もすてきです。生徒と先生方が自慢だよと語るジョニー校長の笑顔が目に浮かびました。

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2024年10月12日 (土)

なんてったって工学院(4)あまりに贅沢な思考力セミナー 創造性と共感性にあふれる自然体のワークショップ

★説明会と同時開催の思考力セミナーだったので、途中から見学しました。10人以上の生徒が参加していました。みないわゆるフロー状態(没入)で、レゴで自分の興味・関心のある建物を創っているようでした。おそらくコンセプトをマップで生み出し、それを生かす建物を設計して、そこから組み立てていったと思います。イメージし、形をデザインし、表現しながら修正していく、互いにポストイットで伝え合い、それを基にブラッシュアップしていくというアート思考やデザイン思考が行われていたのだと思います。このプロセスは内なる魂が目覚めゆく時間。

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★レゴというと、一般にはMITメディアラボ流儀で行っていきます。しかし、今回のファシリテーター岡部先生はUCLA時代の社会学研究の中のエスノメソドロジー的コミュニケーション流儀でファシリテートしていきます。

★生徒中心主義というのは、実際には、教師側のアンコンシャスバイアスとしてある大人と子供という非対称的な力関係の先入観を払拭するところにポイントがあります。このことに気づくには、教頭の田中歩先生は心理学的アプローチで行いますが、岡部先生は社会学的なアプローチでいくわけです。

★田中歩先生も岡部先生も英語で授業を行います。でも、一般的な英語授業ではありません。もちろん学習指導要領的な英語の授業もしますが、お二人はそれ以上の英語の授業を行います。田中歩先生はIBL型授業だし、岡部先生は社会哲学的な授業もできてしまいます。

★日本ではこういう授業をする教師はレアケースですが、イギリスのAレベルでは、このような授業ができる先生がいるものです。さすがはケンブリッジインターナショナルスクールと連携していますね。

★岡部先生は、1990年代にすでにファシリテーターの認定も受けているはずです。外資系のIT会社でチームメンバーのメンターとしても頼られた知られざる人的資本力を有しています。

★広報室の中村さんがちょうど撮影にやってきたとき、岡部先生の授業はおもしろくて人気があるのですよと教えてくれました。さもありなん。そうそう、そんな静寂な歌を誰でだったか歌っていましたね。愛の歌だったと思います。

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なんてったって工学院(3)田中歩教頭 工学院の教育と信頼のメカニズムを語る 世界初!

★中野校長の次に教頭田中歩先生が、工学院の教育とその根底にある生徒と教師の信頼関係、いや生徒と教師の信頼関係をベースにした工学院の教育、いや・・・。要するに教育と信頼が融合しているメカニズムを見事に語りました。おそらく普遍的で超越的で先進的な教育のメカニズムを25分で話してしまう教師は世界でも他にいないでしょう。工学院の先生方は、かくして才能者で満ちていますね。

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★田中歩先生、英語で授業をしているし、グループワークを駆使してICTというテクノロジーを【媒介項】にして、生徒の才能や信頼関係を豊かにしているのです。グローバル教育とSTEAM教育と探究の融合体です。ここは他校と比較しても並みではないことを自負していると静かな情熱をもって語っていました。

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★だから、ケンブリッジイナターナショナルスクールとして実はダブルスクールを工学院は形成できているのです。本邦初です。そして、24時間体制で、グループワークが機能しています。まるで血液循環のように生徒と教師の関係性が最適になるようになっているのです。

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★自分の子どもや孫が夜中に病気になったら、仕事の時間ではないからと放置することなどしないでしょう。それと同じです。教頭歩先生のこの責任は、信頼と表裏一体です。

★だからこそ、みんなで支え合うのです。お互いコモンセンス溢れる関係を創り上げていく限り、安心できる精神や身体、人間関係を持続可能にできます。快眠できるでしょう。

★清く正しく明るく互いに希望の光を絶やさないという覚悟。この責任が生み出しているものが信頼です。責任と信頼の融合体が工学院の生徒と教師が共創する工学院の教育です。

★だから、最後にムーンショット目標10のフュージョンエネルギー革命(これを語る学校はほとんどないのです。先見性さすが)を例に出し、工学院の生徒はこういう社会をウェルビーイングにするテクノロジーの新しい使い方や開発のアイデアを語り合って創っていくことができますと生徒の成長を信頼する気持ちで溢れていました。

★工学院の教育のメカニズムについては、ぜひ田中歩教頭の話を直接聞いてください。

★それまでは、広報部の中村さんが編集している工学院サイトを堪能してください。今日も一眼レフを構えて説明会や各イベントを飛び回って取材していました。こういうライブ感を伝える優れた広報スタッフがいるのも工学院の自慢ですね。

※本日の説明会を中村さんはさっそくアップ→https://kogakuin-jsh.hatenablog.jp/entry/2024/10/12/175311

 

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なんてったって工学院(2)中野由章校長のゆるがぬ軸

★本日14時から工学院大学附属中学校は学校説明会を行いました。同時開催でバトミントンやサッカーなど部活体験や中野校長自ら実施するプログラミング体験や思考力セミナーも実施しました。最初にスピーチした中野校長は、受験生・保護者から絶大なる信頼を得ています。それは説明会が始まる前にグーグルフォームで行われたアンケートですぐに見える化されていました。さすがです。

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★なぜなのか?それは生徒や先生方に大いにチャレンジを推奨しているからですが、ただそれだけではないのです。たいていの学校の校長だってチャレンジせよとかチェンジメーカーになれとか語ります。失敗だって恐れるなとも言います。多くの受験生や保護者はそんな言葉は聞き慣れています。ところが中野校長のその言葉は、他の学校の校長とだいぶ違います。

★中野校長は、こう続けるのです。失敗しても心配なくてよいのです。責任は校長の私がとるのですからと語るのです。たしかに組織上校長が責任を持っているのは一見当然ですが、世の中の教育関係の情報をみてください。なかなか校長は責任をとらないものですよ。

★そのことを受験生、保護者の前でさらりと静かな情熱をもって語るのです。国政選挙でも何が問題かというと、この責任の問題ですよね。これをとらない政治家がいかに多いか、日ごろ私たちは辟易しているわけです。そんなときに保身など微塵も感じさせないこの信頼感を彷彿とさせるスピーチが受験生や保護者が共感しないはずがありません。

★会場には校舎案内をする生徒や先生方、あとからプレゼンする生徒の皆さんも同席しているのです。そこで語るのですから、ゆるがぬ中野校長の軸は凄まじいのです。

★そしてこうも語ります。学校というというと素晴らしい施設だとかグローバル教育だとかICT教育だとか探究だとか注目されていますが、本当にそうですか。そのような環境や道具は、うちだってあります。おそらく他校に比べて破格に充実しています。しかし、うちの自慢話は、生徒と先生方なのです。教育は人ですよと語るのです。

★会場に同席していた在校生や先生方は涙腺がゆるんだことでしょう。しかも、先生方と生徒だという順番で語らずに、生徒と先生方だという順番でさりげなく語っているのです。

★これは、詳しい学校説明を次のプログラムで語る教頭田中歩先生が、うちの教師はTeachingとCoachingを自在に使い分けるという話につながっているし、生徒中心主義の学校だということにつながっているし、海外の経験についてプレゼンする4人の生徒のチャレンジ精神と行動力につながっていたのです。

★それから中野校長は、実はこの3連休が終わったら在校生は定期テストなのですとさらりと付け加えるのも忘れませんでした。

★にもかかわらず、在校生は、校舎案内や部活の指導を買って出てきているのです。説明会終了後、バトミントン部の生徒たちが、田中歩教頭とすれ違いざまに、先生サッカーどうでした?と顧問の田中教頭に話しかけていたり、田中教頭からは、そっちはどうだったと問われたことに対し、みんなと楽しめましたよとコミュニケーションをとっていました。なるほど生徒と先生の人的資本力を垣間見た思いでした。

★「なんてったってアイドルはやめられない」というあの声が聞こえた気がしました。

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なんてったって工学院(1)創造的才能者×社会貢献リーダー

★八王子駅からスクールバスで10分、工学院大学附属があります。大学と隣接していて、ちょっと海外の私立学校の雰囲気があります。敷地も広いし、サイエンス関連の道具や施設は大学のも使えます。また多くの大学と高大連携もしています。

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★しかし、何よりも多くの民間セクター、非民間セクター及び外部の創造的人材との連携が広く深いのです。海外のエスタブリッシュスクールとの連携の数も爆発的です。

★10年前は、グローバル教育やPBL、STEAM教育を創り上げるためにそのような教育環境デザインをしていたのでしょうが、今はそれらは同校の当たり前の学びのベースです。他の学校は、まだまだグローバル教育も発展途上だし、PBLだどは教師によっては行う程度だし、STEAM教育もパソコン一人一台どまりでしょう。

★このことを聞いてエーっ!て思いませんか?インターナショナルコースの高3生なんかは、AIを学びながらダブルメジャーで研究する海外大学に行きたいと明快な意志を持っている生徒もいます。

★高1になれば、骨太の探究論文をゼミ形式に似た感じで全員が経験します。高2になればグローバルプロジェクトと言って、チームに分かれて全員がアントレプレナーシップやソーシャルリーダーシップを発揮するプロジェクトを企画して実施していきます。

★「全員」というのが工学院の凄いところなのです。このレベルは、一般には有志とか選抜されたメンバーとかが学ぶ環境です。しかし、そのような高いレベルを全員が当たり前のことのようにベースにして学ぶのです。

★もちろん、そのベースをはるかに超える経験も用意されていて、それはチャレンジャーが自分の意志で選択すればよいのです。

★もっとも、そのことに工学院の生徒が気づいているのかどうかはわかりません。もしも筑駒の生徒が1週間留学してきたら、めかくちゃ羨ましがるでしょう。

★エーっ!て思うかもしれませんね。20年以上も前に、筑駒をいい意味で超える私立学校はいかにしたら可能かという思いで共学校になったのが実は工学院だったのです。たまたま僕は、そのときに立ち会っていて、当時の筑駒の副校長を退任して工学院の校長に就任した城戸校長には、世界の教育やこれからの日本の教育について教えてもらいました。そのときに右腕だったのがF先生だったのです。そして、今は工学院の教師として活躍しているO先生(当時は同僚でした)もいっしょにいて、みんなで城戸校長を囲んで大いに対話しました。

★そのビジョンが今は当たり前になっています。

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ノーベル賞ウィークの時期に鈴木裕之氏と教育について対話 

★AIに関連した物理学・化学の領域でノーベル賞受賞者が誕生した衝撃的ニュースが連日続く中、日本被団協がノーベル平和賞を受賞したニュースが昨日報道されました。人間の存在とは何かを、AIという側面から平和という側面から根源的に思い巡らすノーベル賞ウィークです。いいかわるいかはともかく、この報道が続く限られた時間だけで思い巡らすのではなく、中学入試をはじめ多くの入試で、多角的な問いが作られ、それに思考を巡らす機会が、やがて訪れる受験列島の間持続することは、逆説的ですが意義があるなあと感じました。そんな対話から昨夜は始まりました。

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★またTHEの世界大学ランキングも発表されたこちについても対話しました。ランキングの信ぴょう性などいろいろ課題もありますが、日本国内の学歴階層構造を相対化するきっかけになるなあという対話になっていったと思います。

★さらに、文部科学省が、2024年度の国公立大学で学校推薦型や総合型選抜を実施する大学が90%くらいになっているデータを出したことについても触れました。当然、それが中学入試の新入試にも関連しているということについて対話は進んでいきました。

★特に、英語を活用する入試が国際関係の学部だけではなく、広がっていることについても対話が進みました。また中学入試でも英語を活用する入試が爆増している意味についても、インターナショナルスクールに通う外国人の増加のデータや帰国生が減少して、帰国生入試だけではなく、グローバル入試に変わってきている情報などと照らし合わせていく対話もしていきました。

★鈴木さんの話は、多角的で高次思考を活用する新しい学び方を基準に、入試の意義や学校のあり方の意義などを話されているので、学校選びのある種本質的な視点を学べます。

★47分ごろから、具体的な学校の話が始まります。光塩女子の話から話の流れによって幾つかの学校の例が紹介されていきます。抽象的な話や具体的な話や根源的な話やリアルな話がシンリオがなく進んでいきますから、3倍速ぐらいでご覧いただくとよいかもしれません。なぜか2時間弱も対話が続いてしまったからです。

 

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2024年10月11日 (金)

駒沢学園女子の土屋校長の表現力の凄まじさ

★昨日、一般財団法人東京私立中学高等学校協会の常任理事会・理事会がありました。私は理事会の方で東京私学教育研究所の6つの研修の実施案内の紹介をしなくてはなりませんでした。だいたい5分でスピーチしなくてはなりません。1つひとつ説明していたのでは、とても時間がありません。かといって、実施案内を読んでいただければわかりますでは、これらの研修の企画をサポートしている研究所メンバーが本間はどう語ってくれるのかと楽しみ?いやチェックしていますから悩みどころです(汗)。

★終了後、挑戦したもののあまりうまくいかなかったなあと途方に暮れていたところ、次の委員会会場に移動する協会常任理事の土屋先生(駒沢学園女子校長)に出会いました。移動の合間30秒くらいでしたが、「駒女100周年記念にむけて学内で未来構想を議論しています。うちの『会食』は地球を救うアイデアが詰まっているので、そこを取りあげて下さって嬉しいです」と爽やかな笑顔で委員会に向かわれました。

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★私のライフワークは私立学校研究家としての人生なので、首都圏模試の山下社長コーディネートのもとでshuTOMOでも寄稿のチャンスを頂いています。今年はOne Earth Projectシリーズで、自然と社会と精神の循環教育を行っている学校をリサーチしています。10月号は、「地球の危機を救う私立中高一貫校」で9校ほど紹介しました。その中の1校として駒沢学園女子についても記述しました。ご紹介します。

1.食から地球を救う

今、東京大学をはじめとする諸大学や国立環境研究所などは協力して「サステイナビリティ学連携研究機構」を立ち上げ、地球の環境や社会の変化で、生き物の種類が減ったり、自然が壊れたりしている危機的状況を食い止めて「自然と共生する世界の実現」を図っています。そのために、日本やアジアの自然を守るために、自然と社会がどう関わっているかグローバルな視野で調査もしています。

このような大がかりなグローバル探究は、私立中高一貫校ではコスト的にも物理的にもできませんが、将来このような「自然と共生する世界」を生徒が創る準備はなされています。

たとえば、駒沢学園女子では「会食」というランチが行われます。これは、黙って食事をする特別な日です。黙って「5つの食事の心得」を唱えて食事をします。その心得の内容は、①この食べ物が私たちの前に届くまでに、多くの人が関わり、その人たちの努力があることに感謝します。②日々の自分の行いを振り返り、この食べ物をいただくのにふさわしい行いができているか考えます。➂心を正しく保ち、欲張りや怒り、愚痴などの悪い心を遠ざけます。④食事は体を健康に保つための薬ですから、健康を得るために食べます。⑤食事を喜んでいただき、立派な人間になるように努力します。

このように、自然に大切な命をいただいて自分が生かされているからこそ自分が愛おしく、より良い生き方をする存在であると気づくプログラムです。 同校の建学の精神を支える仏教の考え方が身近な食事の中に宿り、そこでの気づきが、同校のグローバル探究の種になっています。

★この文章をわずか70字にまとめて、共感の響きを生み出す言葉と表情の表現力。さすがです。土屋校長はいまここに永遠の瞬間を生み出す教育が大切だといつも語られているのですから。すっかり元気をとり戻しました。ありがとうございます。

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2024年10月10日 (木)

吉野明校長 東京の私学の建学の精神を融合拡張するカタリスト

★本日、吉野校長と偶然お会いする機会がありました。20世紀末に鴎友学園女子で「愛と誠実と創造」の三位一体の建学の精神を具現化する役割を果たされているときにお会いし、その後同校の校長として、学内にその精神を浸透させるだけではなく、社会化させるインパクトを与え続けていた時にも何度か同校に伺いました。

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★当時私が学んでいた私学人の一人が吉野先生だったわけです。さらに私学の系譜論を求める道を開いてくださったのが当時の東京女子学園の理事長校長の實吉幹夫先生でした。やはり實吉先生もまた私が敬愛する私学人だったのですが、實吉先生と吉野先生もまた当時から共振していました。

★その吉野先生が、東京女子学園の新しい姿である芝国際の校長に今年就任したというのですから、感慨無量というか、「これが私学の系譜なんだよ」という實吉先生の声が聞こえてくるかのようです。

★吉野先生の前任校である鴎友学園女子は女子校で、キリスト教主義の学校です。東京女子学園は宗教系の学校ではありませんが、實吉先生は麻布出身で江原素六の精神の継承者です。つまりクリスチャンでなくても、クリスチャン精神を継承しています。

★吉野先生は、女子校の創設期というのは、男性と女性の間にひかれた境界線を女子が自ら越境していく力を養う場であったといいます。100年前も今も、まだまだジェンダーバイアスがある中で、東京における女子校の価値は重要です。

★しかし、現在は、このような一方が他方に圧力をかける境界線は多様にあると吉野先生は語ります。グローバル時代というのは、このような境界線をどう払しょくしていくのか大きな課題があるのだから、女子校のその教育力を、そこに生かすことは可能だろうと吉野先生は考えているようです。

★吉野先生の中にある鴎友学園女子の建学の精神は、言葉を変質させつつも、そもそもが普遍的根源的なマインドですから生かされるのでしょう。

★こうして、シングルスクールや共学校を超え、建学の精神の違いを超え、その根源的な精神に立ち還り融合拡張していくカタリストとして吉野校長は新しい学校づくりを始めたのです。すでに出来上がっている学校で、建学の精神もすでにあるものを継承していくために校長として就任するスタイルではなく、吉野先生は再び新たな学校の教育とそれが基づく建学の精神を創造していくわけです。学校づくりの原点からの出発です。

★私立学校は、利益組織ではなく、愛と誠実と創造の三位一体の才能者を輩出する智慧の組織です。マズローの5段階欲求説にたとえると、利益組織の多くは、生理的欲求、安全欲求、所属欲求、承認欲求を満たせば十分なわけです。

★しかし、私立学校は建学の精神を自己実現する社会貢献組織です。吉野先生はご自身の広く深いそのような教育の経験の中で培ってきたマインドとテクノロジーを芝国際に注ぎ込み、つまり實吉先生のリソースと融合拡張させるカタリストとして歩む道を切り開いているのです。

★このような私学人と共に生きられる時代に感謝いたします。

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2024年10月 9日 (水)

22世紀型教育研究センター「問いの問い」生成ワークショップを開く(加盟校限定)

★今年、21世紀型教育機構は、22世紀型教育研究センターを立ち上げました。所長は田中歩先生(工学院大学附属中学校・高等学校教頭)、主席研究員は新井誠司先生(和洋九段女子教頭)、染谷昌亮先生(文化学園大学杉並理事長補佐)。それと同機構の企画戦略室長に伊東竜先生(一般財団法人日本私学教育研究所)が新たに就任し、4人の先生方が同機構のコミュニティリーダーシップを発揮しています。またアクレディテーションの基準を刷新しました。加盟校の共通教育環境デザインの質が向上したので、いよいよ世界のエスタブリッシュスクールを超えることを目標にしました。

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【詳しくはこちらから→https://21kai.com/ja/node/926】

★4人の先生方は、各校や所属団体で21世紀型教育の粋を極めています。生徒の好奇心が燃え上がり、自ら問いを生み出し、社会貢献のためにアイデアを形にする才能者が輩出されるワークショップやセミナーをたくさんプロデュースしているし、自身も名ファシリテーターです。

★加盟校のSGT(スーパーグローバルティーチャー)の先生方と協働したり、機構を越境して学校ばかりではなく、民間セクターや学術セクター、非民間セクターなどと協力しています。

★その意味で、新しい教育の最前線で生徒と共にクリエイティブクラス社会を着々とプロデュースしはじめています。

そんな先生方だからこそ、時代を超える根源的な「問いの問い」を生み出す境地に達しているわけです。あらゆる豊かな自然現象も社会現象も教育現象も実にシンプルな原理から生まれています。この原理はしかし暗黙知です。そこから生まれる現象で才能が生まれているのですから、根源に戻る必要はふだんはないのですが、AI社会に到っては、その根源的な原理を今一度見える化しないと、梯子の推論のように、すてきなプロセスをたどっているように見えて、後ろを振り返ると悲惨なことが起きているということは歴史の常です。

★再び、根源的な問いの原理に立ち戻る瞬間も必要なのです。

★4人の先生方と各校のSGTと生徒の皆さんが開く2050年社会がポジティブなシステムや制度、テクノロジー、都市などを生み出すことに期待が持てます。今回は加盟校限定ですが、いずれ共有できることを歩先生方は考えているようです。希望のバトンが次代に受け継がれますように!

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2024年10月 7日 (月)

田園都市線で出遭った光塩女子の入試問題に感動

★相変わらず混んでいる田園都市線で帰宅の途についていたところ、目の前にあの日能研の「シカクいアタマをマルくする。」が現れ、疲れが吹き飛びました。ルポライターの中村安希さんの文章を読んで、100字以内で自分の意見を書く光塩女子の問題でした。アフリカや中東などを2年間バックパッカーとして歩いた経験に基づいて感じたことが穏やかにそれでいて根源的問題に触れているのです。

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★光塩女子は総合型入試を2016年ころから実施しています。新入試の先駆け校の1つですね。国語基礎と算数基礎と総合型入試で、思考力と記述力が重厚な入試です。この中村さんの文章も総合型入試で扱われたのかなと思ったら、国語の入試問題でした。

★もはや思考型問題で、このような2科4科入試であれば、本質的な学びができると納得。さすがは光塩女子です。

★総合型であろうと2科4科であろうと本質的な問いへのアプローチは変わらないというのがよいですね。そして、それぞれの才能を生かして挑戦できる入試システムを追求しています。

★同校は、2025年度入試から算数1科目入試も加えます。これによって、総合型と算数1科目という新入試の応募者数は、全体の約47%にもなります。

★理想的ですね。今後は、光塩女子のように、新入試と2科4科の比率が50%:50%になっていくでしょう。

★すでに、八雲学園のように、新入試だけではなく、2科4科すべての試験に英語資格のアドバンテージを付加している入試も誕生しました。新入試と2科4科の融合という意味で、新入試100%という学校も増えるでしょう!

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首都圏中学入試における新入試の理解進む。その理由。

★前回ご紹介したように、2014年に比べ2024年の首都圏中学入試における新入試受験者数のシェアは30%になり、その意味の理解が受験生・保護者に広がっています。一方で、もっと広がっていいのに、何が壁なのだろうと不思議に思わないわけでもないのです。中学入試の偏差って、全国の小6の10%が母集団で、その中でのランキングです。全体の偏差値となると、格段に上がってしまうのです。それなのに一喜一憂する必要などないのではと思うのですが、気になってしまうというのが世の常でしょう。

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(イラストはBing作)

★そんな中で、真実を見抜く人が30%いるなんて、希望ですね。でも、なぜ100%にならないのか?一つは今の中学受験生をお持ちの保護者が、自分が中学受験したとき、1986年から中学受験が注目を浴びて1990年代に第1ピークになるころに経験しているということがあります。

★1986年から中学受験にも偏差値が導入され、偏差値を超える学びをしようという、偏差値を学びのモチベーションに変えていた時でした。それまでは、なぜ合格するのかベールに包まれていた憶測の飛んでいた時代です。偏差値が何か明快明瞭で透明性があるように見えた時代です。

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(イラストはBing)

★自分たちが信じていた基準が、いまさら鵜吞みにしない方がよいといわれてもねえというのがあるでしょう。しかし、時代はやはり21世紀にはいって大きく変わりました。保護者の仕事がすでにライフシフト時代にはいっていて、産業構造が第1次、第2次、第3次以外に第4次産業としてクリエイティブクラスが登場してきたのです。

★GAFAMに象徴される仕事が世界を席巻しはじめました。それに乗れたり、自分でアントレプレナーしたりする世代が今の保護者の時代でもあります。グローバルな仕事で活躍する保護者ですよね。そのシェアはまだまだ少ないですが。

★そのような保護者は、必ずしも斎藤幸平さんやマルクス・ガブリエルのような社会像を描いてはいないでしょう。むしろ新しい封建制に備えてどうするかということを考えてもいるでしょう。

★いずれにしてお、AI社会です。この社会で、自分の子供が新しい社会を創っていくリーダーになるもよし、新しい社会に便乗できるもよし、とにかくサバイブできれば良いと考えるのが親です。

★私立学校が掲げる高邁な建学の精神をリスペクトしながら、一方でリアリストでもあります。人間はアンヴィバレンツなものなのです。ですから、いわゆる御三家レベルはねらいます。しかし、やはり偏差値という尺度に我が子が合わない時、戦略を変えます。才能マッチングテストを採用しようとするでしょう。それが新入試を実施している学校を選ぶということです。

★自分自身、プロジェクトをぶちあげ、資金調達もし、グローバルな時空を飛び回っていますから、機を見るに敏です。

★サッカーやピアノなどが好きな子の場合、はじめから新入試を実施している学校を選ぶというご家庭もあります。そこから東大に行けばよいし、海外大学でもよいと判断しています。

★新入試が求めている多様な才能が、クリエイティブクラスになるのに即戦力だということの意味を肌身で感じているあるいはそのような見通しを持てる保護者が多様な経験を通して新たにい生まれているわけです。しかも、新入試に合格して高校卒業するときに大きな成長している先輩たちの姿をみれば納得せざるを得ないでしょう。

★1990年代の中学受験の成功ロールモデルが、新しいロールモデルエフェクトに変えられつつあります。これからさらに広がっていくでしょう。もし広がらなければ、そのニーズにこたえてほしいという保護者にインターナショナルスクールやIB校が門戸をどんどん開いていくでしょう。

★こうして私立学校は、内生的成長と外圧的成長をしていかざるを得ない時代です。

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2024年10月 6日 (日)

2025年新入試体験 2027年以降の大学入試の動きに連動するし、何よりこれからのグローバル教育やSTEAM教育を実感できる 真実の教育を牽引する学校が講座を開いている

首都圏模試センターでは、11月の模試当日、「午前の部」模試の終了後、13:50から16:35の時間帯に「新入試体験!コラボフェスタ」を開催します。11月3日(日)には和洋九段女子会場と文化学園大学杉並会場、11月17日(日)には鶴見大学附属会場で、それぞれ対面型で実施します。

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★首都圏中学入試では、2014年から2科4科以外に、思考力入試、適性検査型入試、自己アピール入試、プレゼンテーション入試などの新入試(英語入試を除く)が行われるようになり、それから10年たった2024年は、この新入試は爆増しています。首都圏模試センターによると、2014年は15校が実施、受験応募者数は1,989人でしたが、2024年には147校が実施するようになり、受験応募者数は18,065人になりました。9倍増という爆発的広がりです。

★しかも、ここが重要です。2024年の実受験者数が、15,015人だということなのです。2科4科目なら実受験者総数は、併願校数分増えますが、新入試は、その1回の機会にかけるということでしょう。これは、大学入試でも同じで、一般選抜は幾つも大学を受験しますが、総合型選抜は比較するとぐっと少なくなります。

★各新入試が特徴的で、というより受験生の興味と関心あるいは才能に合わせたテストで、いわば「才能マッチングテスト」になっているので、そうたくさんの学校を受験するわけではないというのが実際のところなのでしょう。

★小学校の教科書レベルの知識をきちんと習得して、それ以外は自分の好きなことを学ぶ、自分の才能を伸ばす日々を送って、新入試に臨むわけです。それで、いやだからこそ、高校卒業時にいわゆる御三家に入学した生徒と十分肩を並べられるいやある意味それ以上に成長することになります。首都圏中学受験生が52,400人(首都圏模試センター調べ)ですから、その29%が新入試で入学しているわけです。

★だいたい真実を見抜く人は20%くらいいれば時代は変わっていきます。この29%はそれ以上です。もっとも、中学受験生は全国6年生の10%くらいですから、そう簡単に変わるわけではありません。しかし、このような教育を実践している学校が2027年以降の大学入試の動きで驚きの実績を生み出すでしょう。大学合格実績は当然でるのですが、そこがポイントではありません。

★大学入試のシステムを変容させる動きを牽引します。

★そして、さらに、英語入試に着目すると、首都圏模試センターによると、2014年段階では15校だったのが、2024年には147校になっています。受験応募者数は、142人から3,298人に爆増しています。とはいえ、まだまだ少ないですね。ここに中学受験の希望のチャンスがあります。

★2027年以降、大学入試は総合型選抜に加え、帰国生入試を少なくしてグローバル入試をどこの大学でも行うようになっていくでしょう。多言語の環境体験をはやめにしておくことは極めて重要になってきます。

★グローバル、STEAM、文理融合(リベラルアーツ)が今後教育の重要なキーワードになっていきます。新入試はその予告編なのです。

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私立学校の社会的基盤 理想と現実の葛藤を引き受ける社会観

★明治の時代が訪れるとともに、私立学校も誕生しますが、その存立は常に攻防戦を余儀なくされてきました。そしてそれは今も同じです。ただ、第二次関大戦以降、近代日本の国の仕組みが変わったので、それに伴い私立学校の社会的基盤も権利として保護されるようになってきました。しかし、現代社会の民主主義の枠内で、時の政権は教育の在り方を変えていくことができますから、私立学校の経営権や教育を行う権利もまた影響を受けます。なにゆえに影響をうけるのか?それ簡単に図に示すとこうなります。

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★明治憲法以来、私立学校は公立学校と社会観を明快に異にしています。公立学校は、その時代その時代の現状の民主主義と現状の資本主義の枠内を社会的基盤としています。学校組織と教師は違いますから、1個人としての教師はこの枠の中に納まっていない思想や価値観を持っていて当然よいのですが、職場組織となると社会基盤に対する思想が違う教師は、個人的な葛藤状況になることでしょう。

★私立学校は、その悩みは、簡単に言うとジョン・デューイと響き合っています。デューイもその当時の民主主義と資本主義の社会の中で、その改善点や改革を教育と共に実践していました。私立学校がデューイに直接影響をうけたのは、大正自由教育を推進した私立学校で、その他は、デューイが研究して検討した多様な社会観に立ち教育観のどれを選ぶか融合するかという悩みです。悩んで、意思決定して実践していきました。この点は、同時代の響き合いがあったと思っています。

★したがって、私立学校は現状の民主主義とトランスアクションしながら、現状の資本主義とトランスアクションしながら理想と現実の葛藤の着地点をお見出しながら教育を行っています。

★そして、その現状というのが、時代と共に変わりますから、現実問題その着地点も変わります。これが建学の精神に基づきながら先見性・先進性を発揮しながら独自の教育を追求し続けているわけです。不易流行とはこういうことでしょう。

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2024年10月 5日 (土)

自由学園の更科学園長と対話して思ったこと ユートピアを保守しディストピアに立ち臨む

東京私学教育研究所のブログで、自由学園の更科幸一学園長が、初任者研修への想いについて語っています。首都圏模試センターの情報誌「my TYPE11号」でも自由学園の教育が取りあげられています。私もしばしば更科先生とは対話する瞬間がありますが、果敢にユートピア志向です。希望の松明を生徒共に掲げて進んでいるのです。

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★生徒と一緒に現実の社会をしっかりみつめ、なかなか見えにくい課題に気づいて、解決を考えていくわけですが、教師に言われた課題を考えるのではなく、自分の目で社会を見て、その矛盾を感じる自分のものの見方・感じ方を仲間と話し合い、独りよがりではないことを確認し、なんとか世界を巻き込んで、自由で平和で安心な社会を創れないか、ユートピア志向の教育を実践していることがしみじみ伝わってきます。

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★理想郷は、現実にはありませんが、それに向かっていく情熱的な志向性があれば、現実の矛盾や葛藤の渦の中で、自由に動ける方法を見出せるものです。そして対話によって仲間を作り世界を巻き込んでいくリーダーシップが自然に生成されます。実際更科先生の周りにはそういう教師が集結しているし、日本全国から講演依頼がきています。

★自由学園の創設者はジャーナリストだし、その縁者には羽仁五郎がいます。社会を本来的なジャーナリストの眼差しで観ることの大切さが建学の精神の根っこにあります。更科先生はその眼差しを共有し、現実の矛盾のるつぼの中で、活路を見出し共生しようと踏ん張っています。そこに実はユートピアが生まれています。つまり、自由学園のキャンパスに行くとそれが広がっているわけです。しかし、油断するとユートピアはすぐにディストピアに引きずられます。更科先生が学園長なのは、そうならないようにする守護神だということです。

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★人間は、なぜか恨み、嫉み、呪い、羨みといったルサンチマンの囚われの身になりがちで、それに気づかずに負の方向に向かって、善をなしていると大勘違いに陥る時が実に多いですね。ディストピア志向性によって、ユートピアに向かっている人々を引きずり落とそうとするヤカラもいるのです。

★しかし、それはオープンで公平で寛容な雰囲気を生み出し続けることによって、退散させることができます。

★更科先生は、OST(オープンステージテクノロジー)という手法を活用しながら、同僚や生徒、他の学校の先生方と対話をし続けます。このクソ忙しい時代にそのような余白を創り続けることによって、実は遠くにではなくユートピアはそこに現れます。

★しかし、更科先生はもう一度確認します。「閉じられた中でオープンになっても、方向性を見失い、社会の矛盾がいつの間にか見えなくなってしまいます。学び続けなければ、対話し続けなければ。」と語るのです。

 

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2024年10月 4日 (金)

富士見丘 スーパーグローバルティーチャーが集う教育 グローバルで学際的教員の登場

★首都圏模試センターのサイトの記事「富士見丘中学高等学校2024 校内外で培うグローバル感覚。独自の海外フィールドワークとは」を読んで驚きました。とうとうこういう時代なったのだ!と。同校はグローバル教育とSTEAM教育を融合させていて、つまりグローバルで文理融合的な教育を行っていることで有名なのですが、いよいよ教師そのものがグローバル文理融合型にまでなっているのです。そのような教師が集まり始めたということなのです。生徒にとっては最高のロールモデルエフェクトです。

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★21世紀型教育を実践している同校です。グローバル教育とSTEAM教育をつなぐためにPB型の探究教育が根付いているのですが、いよいよ教師自体がグローバル教育を体験し、STEAM教育を推進できる数学と理科の両方の教員免許をもち、当然PBL型授業もできてしまうスーパーグローバルティーチャー(SGT)が集まるようになってきたわけです。

★今までは、それぞれの専門領域の教師がコラボして21世紀型教育を行ってきた学校が多かったわけです。もちろんこれからもそうですが、今後はグローバルで学際的な教員が現れ、リーダーシップをとっていく可能性が富士見丘には見えるのです。

★新しい時代は、グローバルで学際的教師が開いていく時代がやってきたわけです。考えてみればアメリカの名門大学では、ダブルメジャーは当たり前ですから、グローバル教育を追求していくと日本もそうなっていくということでしょう。

★リセマムでは「【とっておきの私立中学校2025】富士見丘中学校…グローバル社会で必要な4つの力を育てる」という記事が掲載されています。

★両社の記事を是非お読みになることをおススメします。目からウロコです!

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2024年10月 3日 (木)

2025年中学受験動向 北一成氏が語る 最も良識ある中学受験情報 保存版

★リセマムは10月2日に、次の記事をアップしました。「【中学受験2025】受験者数は高止まり、背景に大学入試改革の影響か…首都圏模試センター」がそれです。首都圏模試センター取締役・教育研究所長北一成氏にインタビューした内容をまとめた記事です。中学受験業界には、大学進学実績や偏差値などに偏重して論じるジャーナリストやメディアもあります。また、中学受験の弊害を中学受験が過熱のせいだというこれまた偏重した視点で逆説的に中学受験を煽っているジャーナリストやメディアもあります。中学受験マーケットのこのような動きに、名誉棄損などの違法性がない限り、表現の自由ですから、私立中学側は、誠の道にほかなしと丁寧に生徒1人ひとりの命と才能開花に尽力する教育力を説明することで、良識あるジャーナリストやメディア、受験生、保護者に理解を求めることしかしていないのです。そこにツケコムのはいささかどうかなと思うのですが、そんなときいつも北氏が最も良識ある中学受験動向を語ってくれるのです。本当に安心します。

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(北氏が記事の中で取り上げている学校の1つである人気の高い三輪田学園。8月の2日間に渡る国際フォーラムでの学校相談会。塩見牧雄校長は、2日間ずっとブースで受験生・保護者と対話していました。人気の秘密の大きな理由の一つですね。)

★北氏の広い視野深い視座による中学受験動向については、私ではとても説明できませんから、記事をぜひお読みいただきたいと思います。ここでは自分が気づいた主観的なことを少しコメントしたと思います。

「2025年度の入試についても、受験者数としては減るだろうと私どもは予想していますが、4月と7月に実施した合判模試では受験生数に増加がみられます。子供の数が減っている以上に、小学生の保護者のあいだでの中学受験熱は非常に高いまま続いていると言えるでしょう。」

★と北氏は述べています。「中学受験熱」という言葉を使っていますが、もちろん、これは「過熱」という意味ではありません。このインフレ景気で日本の経済が低迷している時、あえて公立ではなく私立を選択する心の熱、つまりパッションを言っているわけです。それは、次のような学校選びの理由を北氏が明快に述べていることで了解できます。

「保護者もまた、偏差値や進学実績だけではなく、我が子にとってどのような学校がもっとも適しているかをより深く考える傾向が強まっています。グローバル教育やSTEAM教育に力を入れている学校に注目が集まる背景には、保護者自身が社会で経験してきた変化や、新しい時代に必要なスキルへの気づきが大きく影響していると考えられます」

★もはや説明するまでもないでしょう。私立中高一貫校の代弁を明快に語ってくれています。ありがたいです。私立学校の校長は、自ら偏差値や大学進学実績ではなくとは実は言えないのです。それが大事だとももちろん言えません。ただひたすら教育の質を語るのみなのです。本質主義ですから。ですが、その本質主義を夢ではないかと揶揄する方もいますね。でも、いちいちそれはそうではないとは言いません。ひたすら誠の道を共に進みましょうと説くだけです。

★また、北氏の次のような視点は、実に的を射ているし、他のジャーナリストはあまり論じない新鮮な視点だと私は思います。

「特に女子校では、情報発信が積極的な学校と人気が上昇した学校がほぼ一致しているという現象が見られます。たとえば、湘南白百合学園のWebサイトでは、生徒の後ろ姿や海沿いの美しいロケーションを生かした写真を効果的に使用し、学校の魅力を伝えています。従来の「広報活動があまり熱心ではない」というミッションスクールのイメージを、こうしたカトリック系の学校が覆し、積極的に情報発信を行うようになったこともあってか、神奈川の女子校ではミッションスクールの志願者が増加しています。従来から教育の質には定評があったものの具体的な学校生活があまり知られていなかった学校に対して、保護者や生徒の興味が高まったことを示していると言えるでしょう。」

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2024年10月 1日 (火)

2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(了)2050年以降の社会は、だれもが創造的才能者になる

★AI社会の進化は、前回図で示したような多次元な創造性を創出する教育環境をどんどん進化/深化させていきます。するとだれもが創造的才能者になるのです。また夢みたいなことをと言ってゴーレム効果を生み出すか、ウェルビーイングな世界に向かおうと言ってピグマリオン効果を生み出すかは、私事の自己決定です。私はウェルビーイングを望みます。

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★そして、2050年以降の社会は受験学力は実際には、リベラルアーツという技術力になっているはずです。社会はよりシンプルにコンパクトになっていきますね。ですが、フュージョンエネルギーのように小さいけれど偉大な力を創出します。創造性という力です。

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2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(7)2050年以降の社会を創出する創造的才能者を生み出す教育

★本シリーズでいろいろな角度から見てきた(とはいえご紹介した具体例は少ないのですが)2027年にむけて動く世界を見据えた教育を簡単にまとめると次のような図になります。

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★それぞれの要素の多少具体的な内容は、今までのブログを見て頂きたいのですが、ここでようやく明らかにしたいのは、私見ではありますが、PBLのPは、プロジェクトという意味もあるし、プロトタイプという意味もあるし、パテント(特許)という意味も含んでいます。さらにプロジェクトは研究という意味を含んでいます。

★というのも、2027年に向けて動く世界とは、2050年以降の社会にむけて動くということだからです。

★中高生、特に高校生は、18歳成人を迎えます。金融教育だとかデータサイエンスだとか必要だと言われています。それらは、まさにプルラリティ社会を想定しているからでしょう。

★であるなるならば、プロジェクト×プロトタイプ×パテントである必要があります。学び即アントレであることが、ユニバーサル・ベーシック・インカムなプルラリティ社会の基礎になるからです。

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2027年に向けて動く世界と私立中高一貫校(6)いわゆる高偏差値学校の教育と筑駒湘白型教科教育

★前回ご紹介したように筑駒は入学段階で創造的才能を開花することに抵抗を感じない生徒がはいってくる入試問題の仕掛けがあるわけです。入学後も当然そうなるわけですが、高大連携や多次元の経験は、湘南白百合に比べれば限定的です。しかし、創造的才能の素養があることが前提になっています。一方湘南白百合は、丁寧で高頻度で行う説明会で、そのような生徒に期待をかけると同時にそうでない場合も入学後自分で創造的才能を開花できるのだという証明をしていきます。

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★ですから、湘南白百合の場合は、国語と算数の一教科入試や英語入試、4科目入試など多様な入試のラインナップを用意しています。筑駒湘白型の教科教育は、上記のような図で示せると思います。筑駒の場合は、湘南白百合と比べると媒介項として「高大連携」と「多次元の経験」については限定的で、もっとやりたければ、生徒が自分で探してやればよいという感じですね。ここは国立と私立の差異かもしれません。

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★一方いわゆる高偏差値校の教育は、教科教育がメインですね。筑駒湘白型の教科教育と比べると微妙なそして大きな違いがあります。フレームのうち媒介項が違います。高大連携も経験もやはり手厚く実施しますが、湘南白百合に比べるとやはり限定的です。筑駒よりは多様だと思います。ここが国立と私立の差異だし、私学同士の差異でもあるわけです。

★また、思考方法も、ロジカルシンキングが中心です。理数系が中心で、まだ文理融合というところまでは越境しようとはしないので、そうなります。文理融合を実践するには、思考方法を三角ロジックに切り替える必要があります。しかし、ロジカルシンキングで東大は十二分に合格できます。

★湘南白百合は、教科教育以外は、超先進4校と同じようなプログラムを多次元に設定しています。ここがフェリスや横浜共立、横浜雙葉と違うところです。いわゆる高偏差値校で、そこまでやる必要はないのではと思われがちですが、いわゆる高偏差値校は筑駒のように在校生全員が創造的才能を発揮するようにはなっていないのです。それは入試問題が筑駒のようになっていないからです。

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★したがって、上記のような図になります。つまり、筑駒湘白型もいわゆる高偏差値型も、在校生の偏差値は高いのですが、在校生全員が創造的才能を開花させているかさせようとしているかは違いがでてきます。

★もちろん、生徒1人ひとり創造的才能者です。しかし、植物と同じように条件がそらわなければ、創造的才能は開花しません。ですから大学に行ってから花開く場合もありますから、それは初等中等教育の役割ではないのだと考えることもできますが、幼児期からに非認知能力を育てることが必要だという言われる時代です。

★そして、リチャード・フロリダ教授や落合陽一さんが語っているように産業構造が第4の産業としてクリエイティブクラスが誕生している時代です。それをうけてSOCIETY5.0の時代が着々と進んでいる時代です。東大をはじめ経団連など高度人材の素養を持った学生を大学入学時から求めている時代です。

★超先進校や筑駒湘白型学校のように、私立中高一貫校が進化していくのは止められないでしょう。

 

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