2050年社会をユートピアにするかディストピアにするか(05)ルトガー・ブレグマンの考え方も参考にして進む
★「ユートピアの描かれていない地図など一見の価値もない。いつの世にも人間が上陸する国がその地図には載っていないのだから。人間は、その国にたどり着くと、再びはるか彼方の水平線を見据え、帆を上げる。進歩とは、ユートピアが次々に形になっていくことだ。 ──オスカー・ワイルド(一八五四~一九〇〇)」
★このワイルドの引用は、2017年にルトガー・ブレグマンが発刊した「 隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 」(文藝春秋)の最初に出てくる言葉。ルトガー・ブレグマンは、オランダの歴史家、ジャーナリスト、ノンフィクション作家で、本書はベーシックインカムの導入、労働時間の短縮、富の再分配、国境の開放などを提唱している。大学の学者ではないが、独立研究者といった感じで、これらがどのように実現可能であるかを歴史的な事例や現代の研究をもとに冷静にかつ熱く語っている。
★ルトガー・ブレグマンは、人間の本性をわりと性善説的にとらえているようで、それゆえユートピアを創るのは難しくないと。ただ、新しいリアリズムという感じで、ワイルドの言葉を引用しているのが気になっているわけだ。
★本書は邦訳書では「隷属なき道」というタイトルがついているけれど、原文では“Utopia for Realists:And How We Can Get There”。翻訳者は、このタイトルを見事に圧縮しているのがすごい。
★しかし、直訳的にみてみると、このフレーズとワイルの言葉で、本全体を圧縮しているのがわかる。しかも目からウロコという衝撃がコンパクトに収まっている。トマス・モアが500年以上も前に「ユートピア」を発表してから、バウハウスや日本の民藝運動にまで影響を与えたウイリアム・モリスのユートピア論など、多くの論者が描き続けている。そして、それに対してディストピアが対抗軸として常に出てくる。
★この二項対立を解決する方法をルトガー・ブレグマンは提唱するのだということが、タイトルとワイルドの言葉に込められているのではないだろうか。新しいリアリズム。ユートピアを追い求めつつではなく、ユートピアを地図に描きながら、それを常に現実のものにしていく。そして再びその向こうにユートピアを描く。
★36歳のルトガー・ブレグマンの挑戦。私の周りにもたくさんの30代から40代前半のルトガー・ブレグマンがいる。教育関係者はユートピアよりディストピアの論調を好む。その方がリスクマネージメントをしているぞ、コンプライアンスを遵守しているぞという雰囲気になるからだろう。しかし、それはゴーレム効果を増幅する。
★つまり、それは挑戦しないことも意味する。ディストピアとは、悲惨の状況を生み出していること自体を指すのはいうまでもないが、その状態と真逆の状況を作ることに挑戦しない状況もまたディストピアである。
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