多層性のレッスン 奥山恵著 児童文学の中の根源的問い
★安修平さんが代表をしている「りょうゆう出版」から児童文学研究者で、自ら子どものための本屋も経営し、幾つかの女子大でも講師をしている奥山恵さんの著書「多層性のレッスン」が出版されました。安さんから送っていただきました。ありがとうございます。
★私が20代から30代の10年間、中学受験の仕事をしていた時があります。1985年代から1990年くらいまでに、今江祥智さんの本が理論社からどっと出版されていたこともあって、中学受験の国語の入試問題の課題文として、今江さんの物語をはじめ児童文学がたくさん出題されていたことがあります。
★同時に言語学者で詩学に興味をもたれていた池上嘉彦さんの「ふしぎなことばことばのふしぎ」という中学生向けの本も出版されていて、その本も中学入試の課題文としてたくさん出題されました。
★現代思想では、物語論もはやっていて、私立学校の国語の先生方が、記号論や物語論をベースに児童文学を素材に問いを立てていました。
★そんなこともあって、当時別の出版社の編集長だった安さんに協力して頂いて、児童文学を知ろうという活動をした時があります。
★しかし、1990年代半ば以降は、あさのあつこさんや重松清さんにトレンドがシフトし、私も教育研究所設立へシフトしていきましたから児童文学へのリサーチは遠くなってしまいました。
★ただ、物語論の背景にある記号論や言語論、コミュニケーション論は、国語というより学校の授業デザインの中のコアに転移していて、今も私たち仲間のPBL型授業の大切な泉です。
★その泉は、「問いの問い」を生徒自身が自ら生み出せるのかというのがいつもディスカッションの話題になるのですが、要するに根源的な問いなのですが、どうもそれは幼児教育の時にすでに子どもたちが生み出していて、それが初等中等教育で消えていくのはなぜかという議論にもなっているのです。世の中非認知の能力を幼児期にという流れでもあります。その非認知の能力の中に論理的思考になる前の根源的問いがあるのではという仮説ですね。
★そんな思いで、昨日友人が理事長をしている幼稚園の教育についてメモ書きしていたちょうどそのときに、同書が届きました。安さんはあの当時から奥山さんと出会っていて、安さんご自身も出版社を経営し、奥山さんも書店を経営するという創造性と経営の両輪を動かす波長が合ったのだと思います。
★それがこのような形に結実したのだと思います。それにしても、ページを開くと、子どもは哲学者であり、根源的な問いを生み出している、それが児童文学の中にあるのだという論が飛び込んできて、これは何かの啓示かと感動してしまいました。
★児童文学の世界は、多層という多くのレイヤーがあり、それぞれの層が形成されてきたシステムの光と影を解き明かしていくのが各層の児童文学であり、その各層のつながりこそが、私たちが忘却してしまった根源的問いへ再び出会うスクラブル交差点に迷い込む児童文学の世界。
★4,5年前まで、ときどき魔女の宅急便とナルニア物語、佐藤さとるさんの物語は、小学校低学年のこどもたちと読む機会がありました。なぜ魔女の宅急便とナルニア物語と佐藤さとるさんなのか深く考えたことはありませんでした。たんにファンタジーと創造性とそれを支える論理構成を共有できればよいなあと。もちろん楽しめる本であるということが一番の理由なのですが。
★奥山恵さんの「多層性のレッスン」を手に取って、そこには根源的な問いを共有する道が開かれるということだったのかと。ザッピング読みの私ですが、来月新幹線で大分の研修に行く時に読書をしながらと思っていました。「多層性のレッスン」を旅の道標にしたいと思います。
★奥山恵さんの書店の名前が「ハックルベリーブックス」だそうです。「ハックルベリー・フィンの冒険」はまさに、破天荒なマークトウェインの子供の成長物語の原型です。今学校や教育がワクワク楽しくなくては問われていますが、それは根源的な問いを開こうよとトム・ソーヤたちが向こうで誘っているかのようです。
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