PLIJサマーキャンプ2024 STEAMがコアテーマ
★昨日から3日間、東大駒場ⅡキャンパンスでPLIJ(一般社団法人学びのイノベーション・プラットフォーム)サマーキャンプ2024が開催されています。
★日本私立中学高等学校連合会の会長吉田晋先生も顧問としてかかわっているので、新しい社会や教育について学んでくるようにと促され、オープニングの講演に参加させて頂きました。テーマは「STEAMを通じた探究力とグローバル人材の育成」でした。
★産官学が協力して立ち上げていて、初等中等教育段階でグローバル人材及び高度人材を育成する新しい学びを広げていこうという感じのコミュニティです。私たち東京私学教育研究所では、教育の枠内ですが、知の創造とそのスキル及びその知財を守るうリーガルマインドについてどうしても中心になるのですが、今回登壇された有識者の方々は、大学人、財界人、自治体の組長がキーノートスピーチをしていました。
★知の側面、経済の側面、行政の側面から広くグローバル人材や高度人材をいかに育成していくのかそれぞれがビジョンと具体的な取り組みについて語られていました。そして、知の側面は、かなりおもしろかったです。
★というのも、大学人は2人登壇され、1人は東京大学総長の藤井輝夫教授です。もう1人は東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授だったからです。藤井総長は、めちゃくちゃおもしろいOMNIプロジェクトの話をされました。
★この海洋観測技術は、まさにSTEAMの結晶で、地球と人類社会の課題を解決するグローバルSTEAM人材が活躍するプロジェクトです。麻布出身らしい発想だなと。というのも麻布の理科の中学入試で、深海では光が届かないが、植物の光合成に変わるシステムがある生物現象を素材にしていたことがあって、一般には光合成の定番の問いが出題されるのに、そのことは既知として未知を拓く問いを出す発想と親和性があるプロジェクトの話です。
★深海には「地球の電池」という鉱物に酸素が生成されているかもしれないというような謎がまだまだあります。そこに挑む発想は、麻布の中学入試でも示されているように、中高段階で十分に育めるという格好の事例です。
★一方小泉准教授は、あの小泉先生です。テレビのコメンテーターで有名人です。Youtubeでもロング対談をいくつもされています。実に面白いのは、社会をみるときに、私たちは教育の場面で、軍事的アプローチはあまりしないでしょう。平和教育の中の一部として捉えていると思います。それは政治も実は同じです。公共を中心とする社会科の中の1情報として捉えています。
★教育に政治や軍事力の話を持ちこむのはあまりに高度な政治上の問題が横たわりセンシティブだからです。
★ところが、近代民主主義の国際政治のダイナミズムの中で生きていく時、軍事力、経済力、教育力は3点セットです。ただ、1989年ベルリンの壁崩壊後、日本の場合は戦後からですが、国際政治は、軍事力から経済力、経済力から知(教育力)へと変遷しているという理想が現実にあるかのような未来社会が描かれてきました。それぞれをマッスル、マネー、マインドと置き換えて、3Mの変遷といった感じで、語られてきたものです。
★しかし、地政学的リスクが高度になっているところから、再び軍事面から国際政治を問う時代がやってきて、そこで一躍有名になったお1人が小泉准教授です。
★小泉准教授が語ったテーマは「物騒な世の中の眺め方」でした。インテリジェンスという意味での情報を収集し国際政治のダイナミズムを読み解くそのスキルについての講演でした。国際政治の動向を読み解くには、スーパーハイレベルな人工衛星情報は欠かせないし、多言語の理解は必須です。
★まさに小泉准教授自身がグローバルSTEAM人材の典型なのですが、実におもしろいのは、何か重要な情報がICTによって得られるわけでもないし、どこかのシンクタンクがいち早く新情報を教えてくれるから、それらを頼りに読み解くわけではないというのです。
★あらゆる情報を徹底的に読むことによって、未知の既知情報や既知の既知情報の背景に未知のものがあることに気づくというのです。何よりも不確実で得体のしれない未知の未知情報に気づかないでいるのがもっとも危ないわけで、そのためには情報をアナログだけれど徹底的に読みまくる。
★そのうえで、ICTやフィールドワークで別角度のアプローチに出会えればさらに読み解きの確率があがるというわけですね。
★世界中に流れている多言語のニュースをどう処理できるかがカギなのだと。
★東京の私立学校が行っている探究やPBLも実はそのことに気づいています。大学入試の総合型選抜も、そのような広さと深さと仮説的思考とその検証の方法など必要とするところが増えてきました(SFCの大学院で研究し、学究的な探究や総合型選抜の対策など小手先ではない本質的な学びを押し進めている神崎史彦先生の著作が増刷りされているのはこのことを示唆しています)。
★今私の周りで行われている多様な研修は、今回もそうでしたが確実にグローバルSTEAM人材をつくる教育環境デザインが描かれています。今回のサマースクールは、6つのワーキンググループに分かれて、しかもそれぞれWG6チームずつですから、かなりの多くの政財官学の先生方が集結して、今回のテーマについて熱い議論を交わしています。「参加者の見解集」も事前に配布されています。STEAMの新たな考え方やコンセプト、実践例などが豊富です。
★こんなに創造的な教育が行われているのかと驚き、希望がもてました。
★それから、キーノートスピーチの財界側からの登壇者は、日本経済団体連合会副会長でアサヒグループホールディング株式会社取締役会長兼取締役議長の小路明善氏でした。日本の経済の再興を果たすべく初等中等教育における具体的なビジョンとアクションプランについて語られました。米国の小説家レイモンド・チャンドラーが代表作で書いた「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」という言葉を最後に語られたとき、驚きました。具体的な教育プランといい、最後のこの言葉は、まさに私立学校の建学の精神と親和性のあるマインドだったからです。あまりにプロテスタンティズムの発想に、日本の財界の奥行きの深さを感じました。
★そしてもう一人、大分県知事佐藤樹一郎氏。あまりに有名で、大分県を教育キングダムにしている具体的な手腕の事例は圧巻でした。まるで東京の私立学校で行っている留学制度やDX・GXプロジェクト、ハーバード大を中心とする米国大学の学生との連携プログラムなどが公立学校全般に完備されているかのようです。しかも、時空を超える学びの教育環境デザインまで挑戦しています。これは今年4月省令改正によって示された高校の柔軟な36単位の画期的な活用のモデルになる可能性があります。
★大分の地経学的な戦略もなるほど有効だと思いました。おそらくこの成功事例は他の自治体にも影響を及ぼすでしょう。
★今回のサマーキャンプで感じたことは、STEAM教育やグローバル教育によって、生徒1人ひとりが地球の自然と社会と精神の循環リソースをいかに活用できるのかというヒントがいっぱいあったということです。One Earth Projectをゆっくりではありますが進めている私にとって本質的な学びになりました。
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