リスクコミュニケーション社会で学校はどうする❶リスク社会の変容
★ギデンズやベックは、21世紀近代社会をとらえるとき、「再帰的近代(Reflexive modernization)」という概念を使っています。20世紀社会までは、近代というと支配と被支配の解体がテーマで、支配者が被支配者を抑圧し、困窮するのは被支配者側だったわけです。ところが、1972年の「成長の限界」が明らかにしたように、社会は支配者側ののものでも何でもなく、そんな強欲な政治経済をやっていると、自然環境は崩壊し、支配ー被支配の関係を無化して、社会全体が危機に陥るということになったのです。
★ウルリッヒ・ベックは1986年に「リスク社会」という本をドイツ語で世に出しました。これが21世紀近代社会を捉える視座としてなかなか有効ということで各国で翻訳されました。日本でも「危険社会」と訳されましたが、リスクと危険は微妙に違うので、今では日本でも「リスク社会」と呼ばれることが多いですね。
★ギデンズとベックでは「再帰的」の意味が違うようですが、リスク社会という考え方を説明する時には、ベックの方が分かりやすいかもしれません。とはいえ、私は社会学は(だけではないですが)まったくわからないので、例によって独断と偏見の理解なのですが、気づいたことをメモ程度に書いていきたいと思います。最近忘却が激しいので、自分のための備忘録です。でも共感してくださる方がお1人でもいればと。
★今週小田原で、東京私学教育研究所は「理事長校長部会」と「教頭部会」の2つの私学経営研究会を開催しました。現代社会をどうとらえ、その中に私立学校はどう位置付けられているのか、そしてその現代社会の中で私立学校にも迫ってくるリスクや危機をどうマネジメントするのか法律に関しても弁護士の方々とケースメソッドをベースに情報交換・議論をしました。
★リスク社会とは本当によくいったものだとしみじみ感じたのですが、さすがにベックが執筆していた1986年のベルリンの壁崩壊直前のリスク社会と比べると、テロや紛争が絶えず、AI社会になって、ネットセキュリティのリスク(理事長校長会の時にあのアメリカなどで起きた飛行機が飛ばないという事件が起きました。夏期中に海外留学に行く生徒もいるので、研修中に学校からの電話に対応する校長もいました。まさにITリスクの時代)、気候変動(研修中にゲリラ豪雨による悲惨な事件のニュースも入ってきました)のリスクなど、「再帰的」という意味があるいは、その適応範囲が変容してきました。
★私立学校は、英語をしっかり学びます、ディスカッション型の授業も行います(実際、教頭部会で平方所長の講演の半分は、PILでした)。そしてSTEAM教育は活発であり、探究のプログラムも進化しています。しかし、これは一方でリスク社会をサバイブするマインドやスキル、コンピテンシーを身につけるということでもあるのです。一方通行型授業は、リスク社会以前の近代社会の階層構造に押しつぶされないようにサバイブするスキルでもあったのですから、それだけでは今のリスク社会は生き抜くコトが難しいかもしれません。
★そして、この「再帰的」というのは、あまりに日常的な意味かもしれませんが、「自分に跳ね返ってくる」というぐらで捉えるとよいのではないでしょうか。富裕層は自分だけよければよいと思っていたら、それは人から奪取するハラスメント的な条件がそこにはあるのではないかと、刃が自分に向かってきます。
★そうならないように、法律をつくったり、危機管理を強めたり、コンプライアンスを制度化したり、そのような立法の作成や改正は、経済も生みますから、富裕層は経済の一部の再分配もしながら、刃がとんでくるのを回避しようとします。経済の再分配が起きることはよいのですが、その分、再分配された方も、そのような法律の変動についていかねば、法に触れてしまうリスクがあります。
★意図していないのに、SNSを使って売買していたら、いつのまにか法に触れていたりするのです。富の再分配は、同時にリスクの再分配でもあるというのが、リスク社会の現象です。
★そしてこのリスク社会がいよいよ学校にもはいってきてしまいました。学校の先生は、自分もリスクを負いながらリスクを負っている生徒を指導するという、新しいリスクの個人化社会に直面していると、理事長校長、教頭と弁護士先生とのやりとりを聞いていて感じました。
★そして、そのリスクは、コミュニケーションが大事だからと始められたディスカッション型の授業にまで浸透することにもなってしまったのです。コミュニケーションの中にハラスメントが起こる可能性が恒常的にあるわけです。
★信頼社会であるはずの学校が、信頼関係を作っていれば大丈夫と思うや、ハラスメントが起こってしまう可能性が出てきてしまうというリスクコミュニケーション社会になり、リスクの個人化が起きているのが21世紀近代社会なのかもしれません。
★リスクを被支配者が負う時代から、支配者も被支配者もその壁はなく社会全体でリスクを負うようになり、今では、たしかに社会全体でリスクを負うのですが、各組織のリーダーが負っていればよいというだけではなく、私たち一人一人がリスクマネジメントをしなければならない社会になりました。
★個人的な個別解ではなく、全体解こそが重要だという組織論はもはや成り立たないのです。学習指導要領で個別最適化という用語があります。それは学習や生徒指導だけではなく、リスクマネジメントの個別最適化の時代であることも象徴しています。リスクの微分化が隅々まで。。。
★新しい学びは、リスクマネジメントを自動的に内包しながらリスクテイクして希望を生み出す知を自ら生み出す場づくりとなりそうです。
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