私立学校において経営・運営の基盤が教育の質を生徒の学びの質を守る。それが「希望」。
★この夏、一般財団法人東京私立中学高等学校協会は、小田原の地で理事長校長、教頭の研修を行いました。理事長校長は原則理事です。集った教頭の中にも理事はたくさんいます。教頭は評議員になる場合も多いので、協会の役員、理事長校長、教頭合わせて100人強の「経営陣」が語り合ったことになります。
★東京私学教育研究所の【研究所ブログ第30回】<私学経営研究会 「理事長校長部会」・「教頭部会」 3つのL>にあるように、今回の研修は、法律、リーガルマインド、リベラルアーツの3つの視角から、学校の危機管理のみならずリスクマジメントについても学び対話しました。
★学校は、教員が、教育の内容や学習理論を研鑽し、生徒の成長の場を作りますが、私立学校の場合、経営が安定していないと、教師も教育も守れません。それゆえ、経営や運営の基盤を作るために、経営陣は、「専門家による法律の概要」、「日常の中での基礎法学的な思考としてリーガルマインド」、「遵法の精神を怠っていないのに、予想できない新たな危機に対して判例のないケースにも直面しますから、それに対応する大所高所から思考・判断・行動できるリベアルアーツ的発想」を持っている必要があります。
★理事長校長部会も教頭部会も弁護士のチームを招いて、講演と分散会のプログラムがあるのは、これらの3Lの感覚を経営陣が研ぎ澄ますことも目的としているそういう理由があるのです。危険が予見できることに具体的にどう対応しておくのか、そのような対応を怠ったときにどのようなリスクがあるのか、実際に起きたときには、どのように対応するのか。
★ここには、リスクマネジメントと危機管理という、組織がリスクに対処するための異なるアプローチが存在しています。
リスクマネジメント (Risk Management):リスクを認識し、対処法を考えて組織の抱えるリスクを最小化するプロセスです。リスクへの対処法は、受容、移転、軽減、解消の4つの方法があります。すべてのリスクを解消することは難しいため、コストを考慮しながら対処できるものを優先的に対処しておくことが重要です。それに、危機管理と少し違うのは、リスクテイクを冒すこともリスクマネジメントにはいります。新しい学びに挑戦する私立学校は、実はそのことがリスクテイクであり、その過程で想定されるトラブルを予防するリスクマネジメントが必要になります。そして、それには、経営陣の強力なリーダーシップが伴います。
危機管理 (Crisis Management):スタートはリスクマネジメントと同じですが、危機が発生した場合の「回復」にも注力する手続きです。例えば、地震リスクはすべて対応しきれないため、対応していない分野で地震が起きた場合、最小時間で事業を回復し、損失を最小化する方法を検討します。リスクマネジメントから危機管理にバトンパスして、損害やリスクを最小限に抑えることが目的です。
★このように、リスクマネジメントと危機管理の観点で使い分けることで、学校の経営・運営を守り抜くことを共有しているのが、私学経営研究会の「理事長校長部会」と「教頭部会」です。法律に関しては、労務管理、ハラスメントなど様々な危機管理やリスクマネジメントの領域を学ぶのは、両部会共通です。
★それ以外に、今年は、理事長校長部会はAI社会において変わらないものについて青山学院大学社会情報学部の香川秀太准教授に講演をしていただきました。
★私立学校を取り巻く、法律の改正などが続いている昨今ですが、それをただ見ているだけでは、公立学校と私立学校の違いを必ずしも鮮明に理解している起草者や立法者でない場合、そこにはリスクが想定されます。そうならにように、私立学校の経営権を彼らに説明する必要があります。そのための理論武装は、実定法的な知識でいくと、現行法の枠内で処理されてしまうので、それよりもう少し幅広い知見や歴史的見識を持ち出し、いわば、権利の闘争を仕掛けなくてはならないのが、私立学校の経営陣です。この運動のリーダーが同協会の会長近藤彰郎先生です。そして日本私立中学高等学校協会の会長吉田晋先生です。お二人は常に共に私学権を守る活動をしています。
★基本的に現行法のその多くは、利益を生み出す経済を規制する法律です。ところが私立学校は、利益を生まない経済を土台に成り立っています。香川教授は、前者を商品交換をベースにする「商業経済」であり、後者を関係愛をベースにする「人間経済」であると整理してくれました。
★この点び関して、弁護士チームも理解を示し、現行法で私立学校を規制するのは、プロクルステスのベッドであるということは認めています。ただし、弁護士チームは、現行法の枠内で、いかに創意工夫したり、リスクマネジメントするか危機管理をするかをケースメソッドに従って語る以外に現状では無理なのだというジレンマも抱えつつ対話をしてくれました。
★私立学校も同様にこの実定法と啓蒙思想的な法律観(私学の建学の精神と通じます)のジレンマを引き受けながら、多くの研修で、各学校の先生方が対話をしながら、各学校の具体的状況に対応しながら踏ん張って突破口をその都度発見・開発しているわけです。
★教頭部会では、弁護士チームの方以外に、教頭のリーダーシップや成長し続ける組織について、ワークショップがありました。リスクマネジメントと危機管理以外に、各教頭先生方は多様な最先端の学習理論に基づきながら教育について対話していました。この対話自体、チャレンジであり、ルーチンを超える話ですから、リスクテイクなのです。
★この姿勢こそ、不易流行をベースに教育創造を日々積み上げていくことです。東京の私立学校の理事長校長部会、教頭部会を通して、確かな「希望」の輝きが広がるのを感じています。
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