経験の連続の原理~有機的関連(1)経験の理論=経験を科学する
★ジョン・デューイは、教育を科学的に考えようとしました。彼の教育哲学は道徳哲学でも人生哲学でもないのです。あくまで科学的に哲学し、ギリシャ時代や中世の時代にもあった、そしてそれが連綿と続いている教育の本質を見出し、実践していくことにあるのです。その過程こそが経験であり、本質が人為的に設計され複雑になり、子どもたちの才能を阻害して格差を生み出すアンチ本質的なことを回避しようとしたのです。
★同時に、当時そのような伝統主義的教育に対しトレンドとなっていた進歩主義的教育に対しても、ただ経験が大事だと唱えているだけでは、シンプルに本質を汲み取る科学的な教育デザインをしていないと一刀両断するわけです。
★進歩主義的教育あるいは新教育の元祖デューイが、シンプルな本質を汲み取る経験を思索するものではない場合、このようにクリティカルシンキングを発動するのです。
★その上で、デューイは、こう語ります。
「私はよろこんで、新教育が原理上、旧教育よりも単純であることを認めるものである。新教育は成長の原理と調和しているが、他方、旧教育では教材や方法の選択や、その配列に人為的なものが多くはいり込み、その人為性が常に不必要な複雑性を導き出している。しかし、「易しいこと」と「単純なこと」とは同一の事柄ではない。真に単純なものを発見し、その発見に基づいて行動することは極めて困難な課題である。ひとたび人為的なものと複雑なものとが制度的に確立され、慣習や型にはまった仕事に深く根をおろすと、その踏みならされた通路を歩くほうが、新しい観点を採り入れたのち、その新観点のなかに実際に含意されているものを解き明かすことよりは容易である。旧いトレミーの天文学説は、その周期や周転円に関して複雑であった。しかし、コペルニクス学説に基づいて現実の天文現象が組織立てられるようになるまでは、もっとも安易な歩み方は、古くからの知的習慣によって用意され、しかも最も抵抗の少ない方向をとることであった。そこで、もとの考え方に戻るが、適切な教育の方法と教材を選定し組織化するような積極的な方向を提示するような、首尾一貫した経験の「理論」により、学校の仕事に新しい方向を与えるような試みが必要とされていたのである。ジョン・デューイ. 経験と教育 (講談社学術文庫) (p.28). 講談社. Kindle 版. 」
★デューイが20世紀初頭に批判した旧教育は、いまもそのまま引き続いています。それを20世紀型教育と呼んできたわけです。そしてデューイが批判する新教育ではなく、デューイが想定する新教育を引き継ぐのが21世紀型教育だとしてきたわけです。
★デューイの時代にAIはなかったですが、すでにそのような未来はSFでは想定されていました。ですからデューイもまた感覚を使わない経験の是非を経験の理論として問うています。
★デューイの時代は、民主主義を生み出すための社会関係を創り出す教育が考案されていました。現在は、民主主義の危機(そもそも民主主義自体が過渡期)を回避するための社会関係を創り出す教育が必要とされています。
★イノベーションの発達は全く違いますが、デューイがギリシャ時代や中世の時代に学んでいるように、21世紀型教育実践者がデューイに学ぶことが古臭いなってことは全くないのです。
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