2025年変化する中学入試(03)麻布、開成、海城の入試問題 不易流行としての思考力
★2月1日毎年、私は、東京の私立中学入試問題の中で、いまここの自然と社会と精神の循環を断絶させている問題に受験生をぶつけ、春から始まる6年間の学園生活とその後の未来を問いかける私立学校らしい問題を楽しみにしています。麻布の国語、算数、理科、社会の入試問題と開成の国語の説明的文章、海城の社会の問題、聖学院の思考力入試がそれです。聖学院の思考力入試はワークショップ型なのでこの段階ではまだわかりませんが、それ以外は、すでに多くの塾が解答速報を出していて、情報を共有できます。ざっとみたところ、自然と社会と精神の循環の断絶を行っている課題を問い、解決するにはどうするのか問う不易流行としての思考力を活用する問題が出題されていました。私立学校ならではの面目躍如の問題ですね。
★麻布の理科では「バイオロギング」という動物に環境を観察してログをとる装置を付けて、人間が経験できない環境と生物の生態の関係をリサーチする斬新な問題が出題されていました。生物の体重、体温、海面と深海の環境の違いの相関を見ながら、海洋環境をリサーチしていく視点をデータと結びつけながら考えていく問題です。記述問題はいつものようにシャープですが、選択肢の作り方が、ファクトとフェイクをメタ認知する仕掛けがあって、こんなところにもメタ認知とかクリティカルシンキングの視点を埋め込んでいるのかとワビサビを感じました。
★開成の説明的文章は心理学者佐々木正人さん(多摩美術大学教授)の書から出題。佐々木さんは身体機能を環境との関係で研究していて、「アフォーダンス」という認知心理学関係の書籍をいっぱい書いています。今回の書(写真の本)もそうです。
★麻布の「バイオロギング」も開成の「アフォーダンス」も自然や社会、身体という環境と生きる身体性と精神、社会性の相互関係の新しい気づきを知る仕掛けです。
★問いというのは、既成の知識を確認したり活用したりするだけではなく、新たな気づきや発見を見出す、まさにアフォーダンス機能を持っていますが、やはり興味があるこれらの学校の問題はそういう仕掛けが工夫されています。
★麻布の国語は、いつもながら子供のというか人間の自己変容物語です。自己内省的な思考を大事にしているのでしょう。この自己内省的な不易流行としての思考こそ、自然と社会と精神の循環を持続可能にするまるで哲学シンキングです。
★麻布の算数のなんのへんてつもない、1から順番に自然数を9999まで順番に並べる問題。ところが、そこに新たな気づきを発見する数の性質に気づく問い設定はさすがです。
★それにしても、麻布と海城の社会は、受験生に教育の問題性について論述させるクリティカルシンキングを発動させる問いでした。相変わらず凄まじいですね。麻布のは近代の≪官学の系譜≫の問題点、つまりは近代化の光と影の「影」の部分を抉り出す問いです。
★海城のは、共通テストの記述の採点の信頼性・妥当性を問うたり、大学入試の従来型入試と新型入試のそれぞれのメリット・デメリットを分析する問題。もちろん資料を分析してファクト分析がベースです。
★近代以降の教育という環境が実は自然と社会と精神の循環を限定的にしてきたというアフォーダンス的見出し方をするクリティカルシンキングを中学入試を受験する小学6年生に問うのです。エッ?!小学生にと思うかもしれません。
★ところが、地球市民性は、「こども基本法」の土台です。2023年4月に施行された法律です。不易流行の問いとはまさにこういうことですね。
★人気の聖学院の思考力入試はどうだったのでしょう。いずれリサーチします。今から楽しみです。
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