★新年になって、マルクス・ガブリエルの「アートの力: 美的実在論」を読んでいました。なんとか本文までは読みました。昨年6月に邦訳発刊されていますが、邦訳の原典は、2018年にフランス語版で出版されているものです。ガブリエルは、多言語を自由に操るといわれています。最初からドイツ語ではなく、フランス語で出版したのかもしれません。アートはやはり、パリからという発想だったのかもしれません。もちろん、私の妄想です。ガブリエルは、カント的な構築主義とはことなるアートという力の存在を想定していたので、あえてフランス語でかなと思っただけです。
★昨年の夏、成城学園の青柳圭子先生に、キャンパスの空間や森の空間、山々の空間で生徒がどう感じるかについて対話をしました。島皮質のAWE体験で盛り上がったのですが、このAWE体験プログラムを青柳先生はアート・プロデューサーとしてデザインしていたということに、ガブリエルの同書を読んで気づいたのです。
★青柳先生は、OB・OGと協力して、生徒自身が自分の興味と関心を可視化し、追究していく探究プロジェクトを多数行っていますが、その興味と関心こそアートの力という存在の現われだったのです。アートというのは、論理的に構築されもしますが、そもそも構築を促す興味と関心は、最初から構築されているのではないはずです。
★ガブリエルは、そのことをおそらく語っているのだと思います。興味と関心という情動は、アートの力として、幼少期から今ここに到るまでの自然とのふれあい、人間とのふれあい、多様な問題との直面などなどすべてが関係して創られてきたものです。そして、それは人生をかけて豊かにされていくものです。
★成城学園は幼児期から大学院までの総合学園です。ですから、その人間が主観を廃しながら論理的に構築する産物ではなく、主観も客観も超えて、アートの力が生徒1人ひとりの人生全体の関係性から生まれてくる居郁デザインがなされているのだと思います。それが大正期から連綿と続いている大正自由教育の理念の具現化だったのかもいしれません。しかし、一般には、その力を主観的だとか恣意的だとかいう言葉で壁を創り、こじんまりとした平凡ないわゆるわかりやすいという平均的な認識が構築されてそれが生活を支える政治経済活動のルーチンが構築されてきました。
★ところが、パンデミックによって、そのような平均的な生産社会にこだわっていたのでは、乗り越えられない新しい問題がたくさん現れてきました。自然と社会と精神の関係総体をアート・プロデュースしなくては、地方と都市の格差は広がるばかりだし、都市の中でも格差は広がるばかりです。気候変動は激しくなるばかりです。なぜなら、パンデミックによって、平均的なものはすべて機能停止し、平均を超える認識と行動をしているものに富が集中しているからです。放置しておくと、自然と社会と精神の結合はどんどん分断されていきます。
★したがって、このような富の集中による格差は、全体の関係性の軽視につながり、その広く全体を結びつける力が、つまりアートの力が弱くなったとき、地政学リスクは破壊的なクライシスを生み、気候変動はますます八岐大蛇のように手に負えなくなってくるわけです。パンデミック以降、それがますます増幅しているのは、偶然ではないでしょう。
★そんなことを考えて生成AIと会話しながら検索していたら、成城大学の境 新一教授の論文「アート・プロデュース論の枠組みとその展開― デザイン思考と戦略情報の抽出に関する考察 ― 2016年」に出遭いました。少し引用します。
「アート・プロデュースの概念構成には,アートとビジネス,プロデュースとマネジメントの要素だけでなく,技術/テクノロジーが必要であり,その基礎となるのが様々な情報である。さらには,芸術,歴史,文化,思想,社会,経済という人文・社会科学分野に加えて,自然科学分野である工学の知識をも包括する,感性と知性をあわせ持つ,総合的な創造性を探求する必要がある。また,従来の分析主体の細分化,専門化した縦割り思考とは異なり,幅広い知識と個別技術を組み合わせながら,人間中心にシステムを構築する,総合・統合の思考が必要であり,そうした能力をもつ人材を育成することも求められよう。そのため,美的・機能的な側面を基本に,横断的な知識の融合と豊富な実習体験を通して,概念創造から個別の作品,商品の創造・管理まで,新しい価値を備えたシステムを創造する必要がある。 」
★もしこれを経済やビジネスという枠を外して(括弧にいれて)読んでみると、ガブリエルとも親和性があるなあと感じたのです。もちろん、哲学と経済学とのアプローチは違うでしょうが、「分析主体の細分化、専門化した縦割りの思考」という要素還元主義的な発想ではなく、「幅広い知識と個別技術的を組み合わせながら、人間中心にシステムを構築する、総合・統合の思考という関係総体主義的な発想という点で親和性があると思うのです。
★そのような関係総体主義的な発想をもつ人材を育成するために、「美的・機能的な側面を基本に,横断的な知識の融合と豊富な実習体験を通して,概念創造から個別の作品,商品の創造・管理まで,新しい価値を備えたシステムを創造する必要がある」。つまり、アート・プロデュースなのだと。
★青柳先生が共に探究プロジェクトをデザインしているOB髙木生太さん(外資系のコンサルタント)とサイバー上ですが、対話をしたことがあります。また、一般社団法人ビーラインドプロジェクト起業メンバーの一人仲野想太郎さんと和洋九段女子のミニプロジェクトを開催したことがあります。仲野さんは、成城大学3年生です。
★そして、髙木さんも仲野さんも境新一ゼミの先輩後輩の関係なのです。昨年仲野さんは和洋九段女子の地方創生のプロジェクトにも同行しています。なぜなら、このプロジェクトと境教授は連携していたため、ゼミ長としてサポートに入っていたのです。
★私は知らないうちに、成城学園のアート・プロデュースに魅了されていたということに気づき驚愕し感動しているのです。成城学園グループは、まさにアート・プロデュースできる人材が育つ教育環境をデザインしているのですね。
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