開成学園は変わるけれど変わらない 日本経済新聞記事から①東大進学の意味は変わる
★日本経済新聞(2023年10月28日)に開成学園の野水勉校長のインタビュー記事<さらば「東大一直線」 開成、1割は海外トップ大学視野>が興味深いですね。
★「草創期は東大に入るための予備校で、今も100人超が入る。東大生輩出は開成の使命か。」というインタビュアーの質問に対し、野水校長は「初代校長の高橋是清(後に首相)は学校の名を高めるためにそうしたが、私たちが特定の大学を勧めることは一切ない。合格者数がトップなのは定員が高校で1学年400人と多いからだ。東大生に先輩が多い影響で固まる面はある」と回答しています。
(写真は東大のサイトから)
★まず高橋是清翁の話題を出したのが興味深いですね。近代日本をつくり官学的発想から民主主義的な市民社会経済へ移行させようとしていた大蔵大臣や総理大臣も経験した高橋是清翁です。二・二六事件で倒れますが、彼の財政政策は開成出身者の岸田総理はどう思っているのかなと。それはともかく、確かに高橋是清翁は、東大にたくさん入れることを目的としましたが、それは近代日本をつくる正しく貢献する官僚をつくるためでもあったと聞き及んでいます。
★あらゆる組織は事務能力が十全であると力を発揮します。官僚とは国家組織の事務を支えていく屋台骨です。メディアに光を浴びるのは、政府や議員です。しかし、官僚という事務局がしっかりしていないと国は回らないのです。DX化は必要です。AI化は必要です。しかし、事務方はなくならないのです。むしろ政治家は、AIが判断してくれることに従うかもしれませんね。あらゆるものは目に見えない部分のシステム機能が重要です。
★しかし、一方で、そのシステムを担う人の数は確かに減るでしょう。東大生が官僚にならなくなり、金融業界で起業したりしているのは、そこが国際社会を動かくしていく事務局になるからだと思っているからでしょう。もちろん無意識でしょうが。高橋是清翁の想いは今も続いているのではと思います。社会貢献する人材育成をという。
★明治期から昭和にかけての近代国家と今の国家のシステムや意味はやはり相当変わってきています。岸田総理を昔の国家観に比べて批判してもしかたがないかもしれませんね。
★哲学者の東浩紀さんの新刊「訂正する力」からすれば、頑固だけれど変容しているところは変容しているのかもしれません。もっとも東さんは岸田さんのことを評価しているとは限りませんが。
★いずれにしても、社会が変わっているとか予測不能だと言っているわりには、国家観や国家のシステム機能の変化について語る教育改革者は少ないのですが、野水校長は大上段には構えませんが、開成から東大一直線というコンセプトが変わりつつあることは、東大も、国も変わりつつあることを示唆しています。
★塾に対しても同じです。東大に入るのは塾歴社会を推進しているあの塾に通う生徒が多いためではと尋ねられると、野水校長は塾の貢献は限定的だとばっさり。塾に通っても、大学受験対策に意味をそれほど感じなくなり、大学に入ったあとも生/活きる勉強をたくましするようになるものだと。理科や社会の大学並みの授業の例を論拠に持ち出したりもしています。
★開成の夏期講習と塾の講習は、在校生にはどちらを選択するか話題になるはずです。同校は理系が多いけれど、東大受験のために地理をとる生徒も多いのですが、東大の地理は人文地理的ではなく自然科学的な地理だったり地政学的な地理なので、そこを拡大する開成の授業はたしかに好奇心旺盛になるでしょう。
★インタビュアーは、中学受験は塾でやらされる勉強に慣れてしまっているのではと、少し塾に対して失礼なアンコンシャスバイアスを持っているようですが、これに対しても野水校長は、開成の入試問題を見れば、そんなニンジンぶら下げ型モチベーションでは解決できない思考型問題が作成されているということを語っています。塾は4年生からでいいのではとも(笑)。
★東大一直線、やらされ感満載の中学受験という先入観を静かにばっさり覆しているのがいい感じです。そして覆すことができるのは、社会貢献する人材づくり教育という学校の理念は変わっていないからです。社会貢献の方法は、時代と共に変わるのは当然ですが、相対性理論で光の速度が変わらないとそこは同じですね。
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