変わりゆく世界(01)思考力を育む時代を編集する3Fチームの登場
★昨年9月に黎明書房から「思考力を育む教育方法」という書籍が出版されていました。編著者は秋山仁先生、浅沼茂先生、奈須正裕先生です。他の著者に文部科学省の課長、校長、現場で活躍する教師など参加しています。編著書も合わせて総勢14人で執筆されています。
★思考力に対する何か新しい考え方があるとか、総合学習や探究の学びの方法について新機軸があるというわけではないかもしれませんが、大学の先生と文科省と校長と現場の教師の思考力に対する考え方の共通点や違いが見えてとても興味深いですね。
★世の中には、教師一人ひとり違いがあるのに、十把一絡げというか粗暴な一般化をして、批判をする方も多いですね。でも、この本に限らず、創意工夫をしている教師のほうが圧倒的に多いのです。
★また、教育について語っている人々に対し、今まで語られてきたことしか語っていない、もっと新しいアイデアでないと意味がないという方もいます。1学年80万人から100万人強いる児童・生徒全員の未来を、今ここの中に見出そうとしている教師に向かって、毎日新しいことをやれとプレッシャーをかけることが、児童・生徒にとってどんな成長の効果があるのかちょっと考えただけでも、すぐにおかしいということがわかります。もちろん、現場と共感を生むアドバイスは、プレッシャーにはなりません。しかし、コンサルタントや新しいことを引っ張る教員がいて改革がうまくいかない場合は、プレッシャーになっています。
★このようなコンサルタントや教員を校長がかかえたら、その学校は彼らが望んでいるようなフラットでフリーでフラタニティ―な組織(3F組織)はできないというパラドクスに陥ります。なぜなら、そのようなコンサルタントや教員は、学内の教員にプレッシャーを与え続け、3F組織とは真逆の組織にしてしまいます。当然そうなっては困るので、現場は動きません。
★権威主義的で横暴で合理主義的な抑圧組織に反転するのを阻止するのは、健全です。
★ICT使えば3F組織ができるかというと、油断すると管理的・監視的な組織になるのは、実はリスクマネジメントの重要な要素でしょう。
★安心安全な状況を創れば3F組織ができるかといえば、油断すると自分たちでは何も考えない、コンサルタントやリーダーの言うことを素直にきく無気力組織になるのです。無気力だ無気力だと鬼の首でも取ったようにコンサルタントやコンサルタント側の教員が愚痴をこぼすケースも多いですが、それは教師が生徒は勉強しない集中しないと愚痴をこぼす時と同じで、無責任で上から目線で隔靴掻痒なアドバイスしかしていない自分たちに問題があるということに気づいていないことが多いわけです。
★だから、私は自戒も込めて、教師や生徒がダメなんだという見方をせずに、その先生の授業や生徒との対話の仕方を参与的傍観者の立場で眺め、本当に危険な時以外は、こんなところがいいし、ここにつながるし、結果的に世界を変える利他主義になるかもねと投げかけます。それで、木には登らないよと言う先生もいるし、実はこんなこと考えているんですと創意工夫の計画を話してくれる先生もいます。地道ですが、それを続けていくと3F同僚性ができてくるものです。経験上の話にすぎませんが。
★その先生の計画アイデアは、たしかに新しいものではないかもしれませんが、その先生にとっては、自分の経験からmyセオリー化したものです。それはオープンな関係の同僚性があれば、ourセオリーになるし、勇気を出して公開授業や公開研究で発表して、大学の先生方からフィードバックをもらい洗練を続ければworldセオリーになっていきます。
★こういう<myセオリー→ourセオリー→worldセオリー→シンmyセオリー→・・・>という循環を生み出すつまり互いにエンパワーしていく3Fチームに相当するのが、同書の14人の執筆者の関係性でしょう。もちろん、学校のように一つの場所に常にいるわけではなく、この本を執筆するためだけに参加したという方もいるでしょうが、この本を編集するプロジェクトとしては、現場の学びの経験をセオリーエンパワーメント循環できる3Fチームだったのだと思います。このチームをファシリテートしたのは、もちろん監修した3人の大学の先生で、そのサポーターは編集者というメディアです。
★メディアも、新聞のような場合は、学校のネガティブな側面を報道することが多いですね。批判的精神で書いているし、一般化して語っているのではなく、あくまで事実であり、ピンポイントで語っているのですが、読み手の方では、一般化して、教師とは学校とはみなそうなのだと誤謬する場合があります。
★そこから推論の梯子よろしく、我が意を得たとばかり論じるコンサルタントや教員もいます。
★しかし、一方で同書のような書籍としてのメディアは、日々の教師の授業という経験の中で創意工夫しているケースを吸い上げます。そして大学の先生が、それをセオリーに展開していきます。この相乗作用が、現場と大学で循環するように編集しているのが同書のような編集者ですね。
★もちろん、編集者によって、同書のように現場の先生方をエンパワーメントしようとするパーパスを持っているとは限りません。ICTをつかった斬新なイノベーションを起こすことで世界を変えようとするパーパスなどをもった編集者もいるでしょう。それが3Fチームを生み出して現場の先生方のエンパワーメントにつながっていればよいのですが、そうでない場合もあります。
★そういう意味では、この「思考力を育む 教育方法」の編集者は、3Fチームを創発する活動であると思います。このような児童・生徒の思考力をエンパワーメントするダイナミズムを生み出す編集はすてきです。
★意外と、同書のような包括的な思考力とそれを現場で取り組んでいるケースに焦点をあてた編集はなかったような気がします。どんどん増えることを期待しています。
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