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2023年5月

2023年5月30日 (火)

変わる私立中高(35)越境知を体験する中高生④和洋九段女子の農村体験 地域と成城大学のトリニティ連携

★5月は、和洋九段女子は各学年多様な場所で越境知を体験する研修旅行が目白押し。その中で高1は、長野県の飯綱町・芋井地区で農村体験をします。民泊をしながら、地域の方々と体験を共にし対話を深めていきます。毎年、和洋九段女子の高1生は、地方創生の企画提案を練り上げ、文化祭で発表しています。そして、2日目は、成城大学の経済学部の境新一教授と連携します。生徒の構想をシェアリングする時間で、教授がフィードバックするようです。生徒たちが、マーケティングなどの経営的な視点についても織り込んでプレゼンするからでしょう。

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(農村体験2日目のプレゼンシーン:写真は同校サイトから)

★さらに、境教授は、ご自身が主宰する境ゼミのゼミ長も同行させていて、学生から見たフィードバックの機会も設定しています。今年は驚いたことに21世紀型教育一期生の仲野さんが同行しました。

★仲野さんは、私の知人でもあり、何か21世紀型教育校和洋九段女子と響き合うものを感じました。

★ゼミ終了後、仲野さんからは「不可能かもしれないと躊躇せず、チャレンジし、自由に発想していく高校生に刺激を受けました」とコメントをもらいました。

★仲野さんは男性ですから、和洋九段女子の同窓生ではないのですが、21世紀型教育の同士校のOBです。学校を越境してつながりが広がっている教育の見えない輪に希望を感じないではいられません。

★そして、このような広がりがでてきたのは、言うまでもなく、コネクテッドスクールとして和洋九段女子が、学校と地域と大学のトリニティコラボレーションをどんどん拡張し増やしているからです。

★Think globally, Act locally.という和洋九段女子の先生方の精神の真骨頂です。

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2023年5月29日 (月)

変わる私立中高(34)越境知を体験する中高生③順天「社会貢献のためのアントレプレナー」

★先日21世紀型教育機構の定例総会で、加盟校の順天学園の副校長片倉先生が、こう語られました。

「21世紀型教育的なところで特徴的なことは、探究活動が順天が最も強く打ち出している部分です。全校生徒が様々な活動において関わっています。今年の2月には香港の学校が訪問してくれて理数教育をめぐる合同発表会を開催しました。岡山や大阪の学校も訪れてくれるなど、そういう面では幸せな学校だと思っています。最近のイベントとしては、起業家的な探究活動の場として「探究コンテスト」にも参加しました。ただし、順天の場合、ボランティア教育にも力を入れているので、「社会貢献のためのアントレプレナー」を目指していくことを考えているのです。その意味で、社会や世界に貢献できる人材の輩出がこれまでもこれからもテーマとなっていきます。」

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(2019年のグローバルウィーク。私もなぜか講師に。世界を創るワークショップでしたが、洞察力と感受性の豊かな生徒の皆さんとの対話は鮮明に記憶に残っています。)

★順天の生徒は、片倉先生の語るように、海外の学校や海外のシティの方々と社会解題を共有し、未来を洞察し、未来創りの輪を広げています。それは高大連携においても、企業やNPOなどの外部団体とのコラボレーションにおいても同様です。

★STEAM教育が世の中で注目される前から、サイエンス・マスの探究的な深い授業が展開していました。当然ICTは必須になります。それに活動がThink globally, Act locallyの発想で行っていますから、グローバル教育も破格です。

★ですから、自分の殻を破っていく体験は、グローバルな広い範囲に及でいます。SGH認定校に一早くなったということも、その教育の量と質を拡大するのに役立ったでしょう。

★そのSGHの一環として、大学の先生を中心に、NPOや企業など多くの団体とコラボして、グローバルウィークという講座が開講されています。2019年に私も「世界の作り方」という講座を担当しました。

★どんな世界を創りたいのか、あるいは協働して創っていきたいのかが氷山モデルの見える部分のテーマだったのですが、もう一つのテーマはそのワークショップを通して、自分の内面にある世界を創る視点を可視化していくというものでした。

★越境知というのは、異なる人々と対話をするときに生まれてくるだけではなく、自分の内面を見つめ、ふだん気づかない自分のものの見方や感じ方、考え方を掘り起こす没入プロセスの際にも生成されます。

★その体験が順天のみなさんと経験できた90分は、今の私に学びや対話を考える貴重なプロトタイプになっています。

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2023年5月28日 (日)

変わる私立中高(33)越境知を体験する中高生②パウロの生徒たち

★先日、聖パウロ学園の理事会がありました。新校長の小島綾子先生を迎えての理事会。パウロの歴史始まって以来初の女性校長です。今年はパウロは開校75周年です。この節目に女性校長誕生はとても意味があります。世界が希求しているすべての生徒にエンパワーメントをという力が溢れだすからです。実際、4月、5月という2カ月で、今までにない生徒主体の教育活動があふれ出しているのです。

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★生徒が主体的に考えて行動するというのは、ただ積極的にことをなすことを言うのではありません。世界への興味と関心を抱き、それがゆえに世界の痛みにも気づき、自分では何ができるのか、小さな動きでもいいから考えて判断して世界貢献に動き出すというチェンジ―メーカーとして「考動」するということです。

★生徒会選挙、体育祭、文化祭、部活などの教育活動など生徒が企画運営してしまいます。学年を越境して活動していきます。あらゆる行事はアート活動も行われます。そして、探究ゼミや哲学対話という横断的な思考様式をトレーニングし、ボランティアや森の教室プロジェクトなど外部の団体と連携しエンパワーメントやエージェンシーのコンピテンシーやテクノロジーを実装していきます。

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★探究ゼミと哲学対話は、その思考のエンジンとしてトゥルーミンモデルやアブダクションなどの正解のない問いを自ら見出し、洞察していくクリエイティブティや批判的思考が発動する仕掛けがしっかりなされています。各教科の授業でも20%ルールがあって、そのような思考の時間を設定しているのです。あらゆる教育活動が有機的に結合する仕掛けが緻密に計算されています。

★あらゆる活動で生徒が主体的になれるのは、そのような思考型教育が氷山モデルでいう水面下に見えない学力としてあるからですが、何よりメンタルモデルが効果的利他主義=黄金律を根っこにもっているということです。

★もちろん、このメンタルモデルは、自分の殻を破って越境していく勇気と自信を3年間でもっていくことによって成長していきます。自分の殻を破るには、自分ひとりの力ではもちろんできないので、多様な対話や体験、協働的な活動などを通してそのきっかけをつかんでいきます。

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★そして、他校にはない森の教室という空間が強烈に生徒のメンタルモデルの成長をアフォーダンスしていきます。あのヘンリー・ソローは森の生活を通して、人間のウェルビーイングを生み出す活動をしました。おそらく、生徒は気づかないうちにそのような影響をソロー同様パウロの森から影響を受けることになります。

「どちらへ歩いていこうか決めるのがかなり難しいときがあるのですが、なぜでしょうか。「自然」の中には微妙な磁力があると私は思っています。知らず知らずそれに従うなら、ふさわしい方向に導いてくれるでしょう。私たちがどの方向へ歩くかは、どうでもよいことではないのです。ふさわしい方向があります。しかし不注意と愚かさのために誤った方向をとることが、とても多いのです。現実の世界でまだ歩いたことのない道、内面の理念の世界で旅する道を、歩いてみたいものです」(ヘンリー・ソロー「歩く」62ページから)

★パウロの教師は、生徒といっしょに、自らも内面の理念の世界で旅する道を歩いています。生徒1人ひとりにとってふさわしい方向を見つけるためのキャリアデザイン。その過程で大学の一般選抜を突破する必要があるのなら、放課後ヴェリタスという講座を開設します。総合型選抜で行くというのなら、探究ゼミやボランティアの活動を共に深く深くアプローチしていきます。海外大学の環境を選ぶというのなら、ともに合格戦略を考案し、徹底的に英語で対話していくでしょう。

★1学年の定員80名だからできる個別最適化と協働学習の統合化、学習指導と生徒指導の一体化、探究と進路の一体化、身体とメンタルと社会性と超自然的精神の循環化の教育活動をしています。80周年に向けて、繊細にそして大胆に教育システムをトランスフォームしていくでしょう。

★それが小島綾子校長のチーム作りです。勝俣副校長、大久保教頭、松本主幹が校長を支えながら進む期待のパウロ学園です。

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変わる私立中高(32)越境知を体験する中高生①工学院・聖学院・和洋九段女子の生徒たち

★21世紀型教育機構の教育研究センターは、いまそしてこれからの私学人としての教師=SGT(スーパーグローバルティーチャー)とは何かを加盟校連携してPBLを企画運営することを通して考案しています。お互いの授業づくりのシェアリングや、昨年夏は実際に木更津にあるクルックフィールドで合宿セミナーも行いました。PBLの作り方を実際にワンアースという循環に寄与するクリエイティブな学びを教師も生徒も共に創るという挑戦でした。そして、その流れの中で、加盟校同士の生徒が交流し越境知を体得するプログラムが生徒主導で生まれました。

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(写真は工学院のブログから)

★私立学校というのは、独自かつ普遍的な建学の精神に基づいて独自性・先見性・先進性を発揮しています。外国に行くのも多様性の体験ができるのですが、それぞれの私学の文化を体験するのも多様性の体験ができるのです。すでに、聖学院に3校の生徒が訪問して交流をし、先日工学院に集結しました。

★キャンパスという空間は、学校によってそのアフォーダンスの意味や価値、文化が違います。自分の学校のことは意外と習慣化しているので、気づかないことも多いのです。他校の生徒と語りながらキャンパスを歩き、特色ある空間でどんな学びを自分たちは経験をしているのか言語化するのは暗黙知を形式知化するのに有意義なのは説明するまでもないでしょう。

★また、自分たちでは気づかない感じ方や考え方もフィードバックしてもらえます。お互いに自分というメンタルモデルと学校という文化的なメンタルモデルを確認し、共有できます。

★インスパイアーされたり、ケミストリーが起きたりするのです。そして、自己とは何か振り返ることもできます。

★この3校交流会は、今後いろいろな社会課題などについて対話が越境的に行われていくでしょう。参加者も増えていくでしょう。教師も気づきが多いと思います。チェンジメーキングが学校の文化になっているところ同士は、教師も生徒ももっと視野を広め、洞察を深め、社会貢献活動を創発しようという流れになっていきます。

★小さく始まって、大きく動き出すに違いありません。

★日本の教育を変えるのは、教師ばかりではなく、生徒自身でもあります。こうして越境知体験をすることは、まだまだ生成AIではできない学びですね。

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変わる私立中高(31)シンプルで根源的関係性の循環が生成する生命知 チャットGPTが映し出すコト

★先週、木金土と幾つもの会合に参加しました。もちろん、すべて私立中高関係者です。人数で言ったら300人は超えているわけです。しかも、学校組織やコミュニティで活躍するリーダーたちばかりです。学校組織のリーダーは、タイトルリーダーで、コミュニティのリーダーはナチュラルリーダーですが、両方とも共通しているのは、サーバントリーダーのペルソナを分有しているということですね。

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★3日間、懇親会もあったので、疲れもしましたが、とても心地よい疲れでした。よって、昨夜帰宅後、シャワーを浴びて、妻がジャカルタに行っている娘と孫と話をしている横で、爆睡してしまいました。

★で、夢の中で降りてきた(笑)のが、上記の図でした。不思議なことに、この3日間、愚痴というものを聴く機会が圧倒的に少なくて、ほとんどが好奇心旺盛な希望に燃えた改革の話ばかりでした。年度初めの会合ですから、当然と言えば当然ですね。

★しかし、夢の話ではなくて、実践し始めているケースを出し合って話すわけですから、地に足着いた話でした。

★それにしても、そのとき必ず話題になるのが、チャットGPTです。内閣府がガイドラインをもうすぐ出すというニュースも重なっていたので、なおさらだったのかもしれません。

★多くの人が、チャットGPTの可能性を実際にGPTと対話しながら語るので、これもすごいなあと思いつつ、オオーっと思ったことは、人間がやるべきことが明快になってくるということですね。

★人間にしかできないことが明瞭になってくるのです。チャットGPTはまさにソクラテスさながらの役割を果たしているわけです。

★もちろん、チャットGPTが進化してもっとはっきりしてくるでしょうが。ともあれ、今のところは、好奇心は人間の専売特許かなと。既存のデータに基づいて私たちも対話しますが、これはGPTは抜群です。ところが、私たちは、一方でそれぞれの好奇心に基づいて対話をすることができるのです。そして、まずはやってみようかとなる。もちろん思考錯誤しながらですから、行動ではなく「考動」です。そして、そのあと、最近ではリフレクションとかモニタリングと言われますが、「熟慮」するわけですね。そこでとても大切な「問い」が生成されるわけです。

★シンプルで根源的な関係性。関係性というのは、人間同士だけではなく、自然と社会と精神とAIを含む超自然みたいなものの関係性です。この4つのつながりがウェルビーイングになるには?とい発想にいきつくわけです。行き着いたら、不思議なことにまた新たな好奇心が生成されます。このようなシンプルで根源的な関係性の循環が生み出す生命知は今のとこと主観性と自己認識を持っていないチャンットGPT には生成できないなあという了解を対話によって共有できます。

★その関係性を上記の図のようにSFRとすると、このSFRをどうするかで組織開発をプランできるし、授業デザインができるし、プロジェクトを企画運営することもできるでしょう。

★とかくものごとを考える時、現実と理想のギャップを認識して、何が問題なのか洗い出し、優先順位などを考えて、問題解決をしていこくとするのがすべてだと考えてしまいがちです。今や世の中は問題解決症候群ともいえるほど息苦しく重苦しい会議が多いのかもしれません。

★しかし、この3日間は、なぜかわからないけれど強烈に好奇心が旺盛になるというところから始めてみようという対話が多かったのです。そうなってくると自分の想いを語り、また他者の想いに耳を傾けるという雰囲気が広がります。誰か1人だけが言いたいことを弾丸トークするというのではなく、好奇心に満ち満ちたオープンな場が出来上がり、それぞれが新たな問いを生成し、それをシェアしていける場。

★こういう場を作ることができる私学人が目の前にこんなにいるのだと改めてインパクトを感じました。明日は学生起業家と対話する予定になっています。

★会う人会う人がチェンジメーカーだしチャレンジャーです。そこでは誰も対症療法ではなく根源的なコトを極めつついろいろなアイデアを考案し、試行錯誤しているのです。このSFRの循環の場を創出する自由がある限り、世界は希望に満ちていると楽観的にならざるを得ない日々です。

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2023年5月27日 (土)

GLICC Weekly EDU 第129回「成立学園ー『探究!見えない学力』ー」 地球に立って感じ、考え、行動するメンタルモデルが成長する

★昨夜、GLICC Weekly EDU 第129回「成立学園ー『探究!見えない学力』ー」がありました。驚きでした。成立学園と言えば、氷山モデルなのは有名です。中学が開設されたときから、氷山モデルを前面に出して学力観を説明し、実践し、成果を出してきました。氷山モデルブランディングが成功したということでしょう。ところが、今回の宇田川先生の丁寧で情熱的なお話をお聴きして、気づいたのは、生徒は日本という国でたしかに生活しているのですが、生徒自身は、地球に立って体験・冒険をしながらいろいろなことを感じ取り、考え、表現し、行動しているメンタルモデルを豊かにしているということが了解できたのです。

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★氷山モデルは、見える学力と見えない学力の学力構造であると同時に、その学力観によって生成されるメンタルモデルの構造でもあったのだと気づいたのは、衝撃的でした。WOW!です。

★ですから、生徒たちは地球を基盤にしているので、ことさらグローバル教育と言わなくても、生徒は日常で英語を活用し、ディスカッションし、自己表現し、好奇心を探究心に転化し、進路準備をしていきます。驚いたことに、国内の大学と海外の大学の両方を合格し、どちらに進むかを選択するという学園生活を送っている生徒がたくさんいるのです。

★成立学園の成長曲線は、メンタルモデルが豊かになっていく軌跡でもあります。内なる目に見えない豊かなメンタルモデルが根付いて卒業するから、大学で、社会でプロジェクトリーダーになって活躍するのだと思います。グローバルリーダーになっていくといっても過言ではないでしょう。

★さらに驚いたのは、中学の定員は、40名です。それに対し、2科、4科、適性検査型、ナショジオ+算数入試の4種類の入試があるのです。しかも、英検や数研の級は、スコアによって違いますが、得点として加味されるわけです。これはすべての入試で有効です。

★基礎知識を創造的に獲得するのが得意な受験生、論理的思考が得意な生徒、自然に対し好奇心旺盛で科学的眼差しを持っている受験生、英語が得意な生徒、小学生にしてすでに数学に好奇心を持っている受験生など、多様な才能者を受け入れる入試が実施されているのです。

★中学のカリキュラムが、先取りというアクセラレーション型のシステムではなく、エンリッチメント型のとにかく知識ではなく知恵が時熟していく豊かなカリキュラムになっていますから、いわゆる従来型の中学受験の偏差値尺度の知識は、中学3年間で十分に体得できてしまいます。そして、それ以上に地球冒険をしながら、ものの見方・感じ方・考え方・行動力という知のメンタルモデルが生徒の内面に芽吹き生長していくわけです。

★ぜひご視聴ください。理想の学校が、北区という地球の1エリアにあるのですから。

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2023年5月26日 (金)

変わる私立中高(30)生成AIが育成する資質・能力 文科省の懸念と期待

★5月23日、文科省は各学校に次のような通知を配信しています。「Chat GPT 等のいわゆる生成 AI を活用した様々なサービスが生まれる中で、学校現場における生成 AI の利用については、AI による誤回答や AI 生成物か否かを見分けられないなど、様々な議論や懸念の声があるものと承知しており、子供達の批判的思考力や創造性への影響、個人情報や著作権との関係などについて整理が必要であると考えております。
一方、学習指導要領では、「学習の基盤となる資質・能力」として、「情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見したり、自分の考えを形成するために必要な能力」である「情報活用能力」を位置付けており、新たな技術である生成 AIを使いこなすといった視点も必要です。これらを踏まえ、文部科学省では、政府全体の検討状況や中央教育審議会の議論を踏まえ、生成 AI の学校現場での利用に関するガイドラインを夏前を目途に策定・公表することとしておりますので、お知らせいたします。」と。

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★夏まで待とうと思うけれど、文科省は子供たちの批判的思考と創造性にネガティブな影響を与えるのは避けたいと、逆に言うならば、批判的思考と創造性を大切にしているということが改めて確認出来てうれしいですね。

★さて、チャットGPTに、「君は批判的思考や創造性を豊かに持っているの?」と聞くと、瞬時に「私は大きな言語モデルであり、批判的思考や創造性のような人間の特性を持っていません。私は与えられた情報を元に文章を生成することができますが、自己意識や主観的な思考は持ちません。ただし、私が持っている情報を利用して、問題解決やアイデアの提供をすることは可能です。」と。

★なんだ安心じゃないかと思いきや、でも提供は可能だとある。おやっと思い、何か具体例、災害を起こす原因の一つである気象変動を防ぐにはどうしたらよいかと尋ねると、これまた瞬時に大量に回答するのです。あまりに膨大なので、400字でまとめてよと訊くと、「気候変動を防ぐための取り組みは多岐にわたります。温室効果ガスの排出削減、再生可能エネルギーの利用促進、持続可能な交通手段の普及などが重要です。また、森林保護や循環型経済の推進も効果的です。教育と意識向上も欠かせません。さらに、持続可能な都市計画や農業・食品生産の持続可能性の向上、国際協力と政策調整、研究と技術革新も重要です。これらの取り組みは統合的かつ継続的に行われるべきであり、個人の努力だけでなく、政府・企業・国際社会の協力が必要です。気候変動対策は緊急を要し、早急な行動が求められています」と。

★とくに批判的思考がはいっているわけでもないし、創造性によって作成されているわけでもないから大丈夫だ。というわけにはいかないですね。

★情報収集し整理するときに、論理的にただ整理するわけではないのです。このような整理の仕方に整合性があるかどうか論理は明快だけれど、妥当性や信頼性はあるのかとチェックするときに批判的思考が稼働します。何か違和感を感じたり、この見通しでは将来どうなるのだろうか未来から考えるとき創造性はいるでしょう。

★その結果上記のチャットGPTのようになるかもしれません。それがもちろん、既存の情報に過ぎないので、さらに新しい発見をとなるのですが、この端的な制作的創造性以外に、意外と大事なのはプロセスの創造性です。知識を記憶するときも実は創造性が必要です。

★そういう意味では、チャットGPTが与える影響力は、微妙ですね(汗。

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変わる私立中高(29)教育市場の量と質が変化 21世紀型教育機構定例総会で改めて気づく

★昨日は、一般財団法人東京私立中学高等学校協会の常任理事会、評議員会、定例総会と一日がかりでありました。その後夜は、21世紀型教育機構の定例総会があったわけです。年度初めですから、日本中、各所各領域で総会が行われている時期です。東京私学全体と21世紀型教育機構という有志のコミュニティは、シンクロするところが多いのですが、その共通部分があるがゆえに同機構の独自性も見えてきます。

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(昨年夏、クルックフィールドで、21世紀型教育機構のSGT:スーパーグローバルティーチャーのプロジェクト合宿シーン)

★東京の私学全体は、確かに大きく転回しながら変化していっています。そして、それを個々にまで接近して見てみると、素早く変化しているのです。この大きな転回と速い転回は、つながっています。

★よく教育は企業に比べて変わらないと言われます。でも、その企業というのは、かなり個別的な話なのです。GAFAMなど企業全体の動きではないのですが、その動きが地球上の企業の動きの速度だとメディアは論じがちです。

★教育業界人の、そういうわかりやすい通説を語りたがる人は多いですね。そして、それに比べて学校はどうのこうのと、およそ社会構造や経済政治システムとの連動を無視して語る人。言論の自由ですが、そういう人に限って社会構成主義だとか。。。???です。

★それはともかく、マクロでみると、地球で生活していて自転を体感しないように、教育全体の変化は感じにくいものです。でも、同機構のように10校くらいのコミュニティの動きを見ていると、なるほど着々と変化しているなあと実感するのです。

★1校ではなく複数の学校が参加しているスモールサイズのコミュニティであることに意味があります。それは全体の動きとコミュニティの動きの共通点がはっきりみえるからです。そして相違点も。

★1校だけだと、それが全体とどうかかわっているかが見えにくいのです。独自性ばかりが目につきますから。

★全体も同機構も、私学経営の方法を先鋭的にしようとしています。それからこれからの教師を、同機構のSGTのように公立学校の教師像にさらに付加価値を生みだしています。

★そして、その前提には、教育市場の垂直的序列型、つまり優勝劣敗型から水平的多様性型、つまりすべての生徒がオンリーワンとして卓越性を生みだせる教育市場に変化しています。

★そう感じない人は、自分が垂直的序列型の市場を容認しているアンコンシャスバイアスがあると思ってみるのもよいかもしれませんね。

★おそらく10校のコミュニティが、2011年からはじめたこの垂直的序列型教育から水平的多様性型教育へのシフトが市場で共感を得て、その市場が広がったという力学と垂直的序列型優勝劣敗市場が悲鳴を上げて同機構のような教育を希求したというニーズがあったからでもありましょう。

★教育の変化の創出が先か市場のニーズが先か、それは循環しているので、どちらでも構いません。大切なことは教育の変化と市場のニーズの変化がマッチングし、化学変化を生み出しているということです。

★思考力と英語力とICT力というシンプルな能力の組み合わせがどんどんフラクタルのように増殖している音が聴こえませんか?耳を澄まして、その響きを聴きましょう。そして、ワクワクその響きをいっしょに奏でようではありませんか。

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2023年5月25日 (木)

変わる私立中高(28)どうする?リバタリアン・パターナリズムとリベラル・コミュニタリアン

★本シリーズ27回目で、私立学校に対する国の政策を多様な法制度の変遷でみてみました。そのとき、当時私学撲滅法とも言われていた「私立学校令」の官学重視度がどれほどのものかをイメージしたかったわけです。しかし、その前に日本の初代文部大臣森有礼が徐々に国体主義的な法律を次々と作っているのをさらりと添えておきました。

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★列国と肩を並べるために急激な民主化を果たそうとし憲法まで発布してしまう当時ですから、森有礼の業績はすさまじいとは思います。教科書的には、今の日本の教育の枠組を形成したとあるわけです。それはそうだと思いますが、私立学校からみると、称賛ばかりはしていられません。

★森有礼は、明治憲法が発布されるその日に暗殺されます。その理由は歴史家に任せるとして、その後すぐに教育勅語がでてくるのです。これは森有礼の意志を継ぐものなのか?いやそうでもないのです。

★というのも教育勅語の起草者の1人元田永孚は、森有礼が生前の時は、その教育思想において共鳴していながらも、森のあまりのラディカルぶりに懸念を感じていたと語る学者もいます。元田は儒教主義者だし、森は最初は啓蒙思想を受容し、のちに英米訪問してスペンサーの影響を受け、社会進化論的な発想になっていくらしいのです。ともに明六社でいっしょだった東大初綜理の加藤弘之が啓蒙思想を捨て、社会的進化論に突き進み、優勝劣敗思想をベースにしたのと同期していたのかもしれません。

★ですから、森はルソーに代表される啓蒙思想はやめたのだと思います。ルソーと言えば、一般意志による社会契約です。その前提に自然状態があるのは周知の事実ですが、ルソーは、全体意志に従うなといっているわけです。

★全体意志とは、簡単に言えば独裁的権威や権力でしょう。一般意志は、いまでいうブロックチェーン的な市民全体が自らリスペクとする意志ですね。

★全体意志の中で自由を担保しようと。森は初めての契約結婚をしたで有名ですから、社会契約を全体意志によるものとみなしていったのかもしれません。

★したがって、リバタリアン・パターナリズムだったのでしょう。この真偽はわかりません。あくまで私の妄想です。ただ、明治憲法発布の時に暗殺さることにより、リバタリアン部分は完全に削除されたわけです。パターナリズムが第二次世界大戦まで続くわけです。

★そこから戦後、教育刷新会議が立ち上がり、内村鑑三、新渡戸稲造門下生、つまり私学人の多くが参加し、教育基本法を成立させました。これはリベラル・コミュニタリアン的な発想です。自由なんだけれど、あくまでそれは利他主義を持続可能にするシステムであるということです。

★実は、これがルソー的な一般意志による社会契約だと私は思っています。

★ルソーは、ちゃんと儒教の影響も受けていたので、ルソーを受容するのに、明治の私学人は抵抗はなかったのだと思います。

★もちろん、話はそう簡単ではないでしょう。ポリティカルとルサンチマンの混在した権力闘争が歴史の背景にあるからです。

★しかし、いずれにしても、パターナリズムは、現在では受容されない抑圧的なものがあります。

★現在は、この傾向や性格にものすごい社会的モニタリングがグローバルレベルで動き始めています。

★それは、歓迎すべきでありますが、歴史は少なくとも両義性で動いていますから、そこは冷静に観察・考察していく必要がありそうですね。

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2023年5月24日 (水)

変わる私立中高(27)海城中に期待がかかるわけ

★先日の東京国際フォーラムで行われた東京私立中学合同相談会<Discover>は、どこの学校も黒山の人だかりでしたが、海城中もその例外ではありませんでした。むしろもっと多かったかもしれません。なぜでしょう。それは、東大をはじめ名門大学にたくさん合格者を出すからであることは間違いありませんが、海外の世界大学ランキング100位以内の大学に、毎年複数合格者を出しています。進路の射程が明快にグローバルなのです。

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(プレゼンは特別校長補佐の中田先生。いつもながら論理と情熱のポスターセッション。参加者は中田ワールドに引き込まれていました)

★たとえば、2023年度に合格した海外大学は、同校サイトによると、つぎの7校でした。

Grinnell College
Rutgers University
University of California San Diego
University of Toronto
University of Wisconsin Madison
Union College
Kenyon College 

★トロント大学やUCSD、ウィスコンシン大学などのほか、名門のリベラルアーツにも合格しています。

★このような結果はともかくすばらしいですね。そして、私が注目しているのは、学校がこのような国内外含めたグローバルな視野の進路指導に学校全体でシステムとして動いているということです。そのような意味でグローバル教育環境がきちんとデザインされているのです。

★東京の高偏差値で東大にたくさん入る海城学園で終わらずに、世界で活躍する人材として巣立っていく教育環境デザインがあるんのです。

★これが同じ難しさの中高一貫校とは大きな違いがあるところだと思います。

★なぜそれが重要か。そのようなシステムは、同じレベルの学校が暗黙知のままにしているのを形式知化しているあるいは可視化しているからです。なぜそれが重要か?

★いうまでも、日本の教育に貢献するからです。自分の学校だけではなく、ほかの学校にお良い影響を与えることができます。

★そういう意味で大いに期待がかかるのです。

★今年の春、IB教育の第一人者大迫弘和先生が校長に就任しています。校長挨拶のページで、「君よ 豊饒の大海原へ漕ぎいだせ」という詩を掲載しています。最終連を「君は新しい紳士となり/地球を救済するのだ」で終えています。

★決意と覚悟と愛の詩です。英語の勉強をするとか海外研修をするとかという意味でのグローバル教育を海城が行おうとしているわけではないでしょう。グローバル思考、One Earth思考、そして宇宙船地球号を救う使命を有するグローバル市民がますますたくさん輩出されるでしょう。

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変わる私立中高(26)私学経営の拡大の模索

★昨日ご紹介したように、東京の私立中学入試熱はヒートアップしています。いろいろな理由はあるでしょう。しかし、中学入試を視野に入れているプレイヤーは、グローバルな視野を有しているし、携わっている仕事や世界が当然ですがグローバルな舞台になっています。ですから、公立学校の教育では、グローバルな視野で未来を見据えるのはなかなか難しいということは感じています。そのようなニーズがあるからこそ、インターナショナルスクールやハロー校のようなパブリックスクールが日本に上陸してくるのでしょう。

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★私立中高一貫校が、グローバル教育を行うのは、このグローバルな市場を受け入れる準備をしているというわけです。

★これも当然ですね。観光のみならず、高度人材もインバウンドの流れがでているのですから、中等教育レべルでも連鎖してその流れは生まれ始めています。

★そのようなプレイヤーが、大学に入ってからグローバルな体験をすればよいと思えば、公立高校を選ぶでしょう。海外大学もと思えば、都立国際や水都国際のようなIBコースを持っているところを選ぶでしょう。

★中高時代からグローバル体験をしておくと結局無形の資産が増大しますから、そこまで考えていれば私立学校かインターナショナルスクールを考えるでしょう。あとは、学費という経済的問題、1条校か各種学校かなどの法的問題などを詳細にリサーチしていますね。

★つまり、グローバルな視野で考えているのは現状の私立中学入試をするかどうか選択しているプレイヤーはほぼすべてだと考えてよいと思います。すると、そのプレイヤーの視野がグローバルなのですから、私立中高もその視野を受け入れる経営と教育をする必要があるというわけです。

★もしそうしないと、先ほど述べたプレイヤーは、支持しなくなっていくでしょう。

★上記の図のように私学経営の領域が拡大しはじめているのは、プレイヤーのニーズに応えようとする私学経営自体の性格によるものです。

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2023年5月23日 (火)

2023.5.21東京私立中学合同相談会 時代の変わり目を共有

★先日、東京国際フォーラムで行われた東京私立中学合同相談会<DISCOVER>。来場者数は、過去12回の中で最高の35,000人弱。これまでは、高大接続改革や新学習指導要領の議論が巻き起こった2014年の、30,000人強が一番多かったが、そのレコードを塗り替えました。コロナ明けということもあるでしょうが、私立中学入試熱がさらに高まっているということでしょう。

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★そうした中で、主催者である一般財団法人東京中学高等学校協会会長近藤彰郎先生(八雲学園理事長・校長)は、私立学校の教育を私学市場が支持してくれていることに感謝し、さらに誠実に私学の教育の質を上げていこうと私学の先生方に語りました。その気概を共通土台としてそれぞれの私学の建学の精神を反映し、私学の独自性・先見性・先進性をフルに発揮していきましょうと。

★この気概が本当に一つになった合同説明会でしたが、今回は近藤先生は、はじめて1899年に制定された「私立学校令」の話をしたのです。私たち私立学校は、言うまでもなく国のルールにのっとりながら、公教育を行う大前提で独自性・先見性・先進性を発揮している。そこの卓越性は、同時に公立学校の教育にもよい影響を与えることになる。そのことが国によって最近認められてきている。

★しかしながら、油断すると、「私立学校令」のように私学撲滅作戦と当時の新聞で批判されたように、私学の経営権が奪取されるのだと。だから、そうならにように、誠実に私学の教育の質をあげ、多くの受験生・保護者に支持してもらう努力を惜しまないようにしようということでした。

★今回の合同相談会は、私立学校が主導で開催するイベントで最も規模の大きいものですが、それは、私学自身が、独自に私学市場を盛り上げていく必要性があったからです。つまり、私学は教育と経営の両輪で活動ができています。経営は、生徒募集以外に経営ができる財務や資産の力ということですが、これは私立学校振興助成法によって守られている助成金なくして成り立たないということです。

★この助成法は、サポートすれどもノーコントロールという財政民主主義の考え方がベースですが、最近大阪の方でこれを無視する動きがでてきています。

★東京の私立学校は、子どもたちのいまそして未来において有効な教育環境を創り続けるためにも、生徒募集戦略の創意工夫をし、同時にこの私学経営権も守っていかなくてはならないのです。

★今回の合同相談会は、改めて私立学校の覚悟を私学の先生方と共有する機会となったと思います。

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2023年5月21日 (日)

変わる私立中高(25)自分の強みを生かせる入試

★小学6年生と話していて思うのは、もうすっかり大人であるということです。そりゃあ経済的自立はしていないし、世の中のリーガルな側面はまだ知らないかもしれませんが、人間関係は経済やリーガルが先行しているのではなく、どうやってみんなが幸せに生きる経済活動が可能なのか、その可能性はどんな倫理的内的ルールによって支えられているのかが先行します。それがうまくいかないことがあるから、経済科学が必要になるし法律が必要になります。最近の大人の中には、そのよな前提なき、経済学や法律を振り回すかたもいるようです。大人とは何でしょうね。

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★それはともかく、小学6年生は、SDGsの学びや主体的・対話的で深い学び、英語の学びなどを通して、経済活動の意味や倫理的重要性について考察する機会が増えています。

★ですから、もう大人の芽を開花しています。その芽がどこで生まれているのかは、子どもたちによって違うのは当然です。中学入試の場合も同じことがいえます。したがって、自分の強みが発揮でいる入試があれば、その強みを生かして中高6年間着実に18歳成人に向かって大きく成長できます。

★入試が多様であることは、大いに結構であるということです。4科目で偏差値が50くらいでも、何か強みの科目や自分の強みにマッチングできる入試があれば、それを受験して4科目では難しい学校であっても入学すればよいというのが、先日対話をさせていただいた湘南白百合の教頭で広報部長の水尾先生の考えです。

★弱点ばかりに目を向け、自分の強みをもっと伸ばす機会をもたないのは、もったいないと。もちろん弱点を補強するのは必要ですが、強みを最大限にもっていけば、その過程で弱みを補強する新たな方法は見つかるものです。

★新タイプ入試を行っている学校は、おそらく水尾先生と同じ考えでしょう。

★こうのようなポジティブに子供たちの才能を信じる大人が増えているのは、希望がありますね。

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2023年5月20日 (土)

GLICC Weekly EDU 第128回 湘南白百合の感動の教育

★昨日、GLICC Weekly EDU 第128回「湘南白百合ー教師も生徒も企画力が卓越ー」がありました。今回は、新しい年度になったばかりですから、水尾教頭先生に、湘南白百合の教育の概略を話していただきながら、すべての教育活動で、生徒が主体的に運営したり、新しい講座を企画運営している様子を丁寧に語っていただきました。当然ながら、その企画運営の過程で、様々なドラマがあり、お話に耳を傾けながら、感動の連続体験ができます。

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★そして、とても大事なことに、なぜ主体的に企画運営する資質・能力が育まれるかという理由も丁寧に語っていただいています。

★たとえば、湘南白百合の生徒の進学先の40%前後を占めているのが医学部や医療系ですが、新しい高大連携の講座や東大の理Ⅲで学んでいるOGが仲間を連れてきて医学部の具体的な様子や使命を語る講座など多様な講座がデザインされているという話も圧巻です。

★医学部に進学するための勉強方法というだけではなく、なぜ医学部や医療系の道なのかという、世界の痛みを引き受ける覚悟や自分ができることは何かを思いめぐらす講座になっているようです。

★医学部だけではなく、法教育なども実際に模擬裁判の探究活動を行ったり、自治体や見識者が開催するシンポジウムに湘南白百合の生徒が招かれて語るなど破格の教育環境がデザインされているのです。

★つまり、自分が興味と関心ある場や自分の強みのある場で真摯に自分に向き合い、深い学びを歩んでいるうちに、大きく成長し、飛び立つという生徒1人ひとりの人生の物語が編集されているのです。1人ひとり違いますから、とにかくあらゆる教育活動を先生方は用意するわけです。そして、用意するだけで、あとは生徒がそこから飛び立っていくわけです。

★どこまで飛び立つのかというと、当然世界の痛みを引き受ける生徒が多いので、グローバルな範囲にまで飛び立つわけです。そうなると英語は必須なのです。帰国生ばかりでなく、一般生も英語を使って企画ができるような環境もフルにデザインされています。

★好奇心に満ち、オープンマインドを広げ、多角的な問いを生み出すという科学者の基本的なメンタルモデルが育成されるのが湘南白百合の教育環境デザインだなと改めて感じ入りました。理系進路が多いので、やはり科学者の目を実装する教育環境だなと思ったわけですが、実は人文系も社会科学系も、この科学者の目、あるいは探究者の目は同じくらい必要であり、その目が養われる教育環境が確かにあるのです。詳しくは動画をぜひご覧ください。

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★そして、最後に、水尾先生は、昨日ちょうどNHKで報道された「皇后さまなど出席 日本赤十字社の全国大会開かれる 東京」というニュースに矢田結さんがでてきたお話をされました。記事によると、こうあります。

「皇后さまが、赤十字の活動に功績のあった個人や団体の代表に表彰状などを手渡されたあと、活動報告が行われ、ウクライナに派遣された日本赤十字社の矢田結さんが、仮設の避難所を開設したことや山間地で巡回診療を行った経験などを語りました。」

★広島でG7が行われている最中ですから、矢田さんの活動は、グッときます。

★そして、この矢田さんこそ湘南白百合のOGだったのです。すばらしい大学進学実績についてもお話がありましたが、大学に入学して終わりではなく、その後の活躍の芽が湘南白百合時代にあったということが語りつがられる象徴的な例です。

★矢田さんのような活躍をする湘南白百合の生徒がたくさん輩出されるわけですが、その理由がわかるお話が水尾先生からたくさんありました。ぜひご覧いただきたいと思います。

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2023年5月19日 (金)

変わる私立中高(24)教科専門性を横断する越境視点を実装する東京私学

★東京の私立中学校と高校合わせて423校あります。その私立中高の先生方が、学校を越えて集まり、経営、リスクマネジメント、教科専門性など多様な研修を作っています。東京私学教育研究所は、その先生方の活動をサポートしています。

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★3年前までは、それぞれの研修会は精緻に充実していましたが、新学習指導要領により、個別最適化と協働学習の一体化、総合的な探究の時間、メタ認知、主体的・対話的で深い学び、そして、昨年は12年ぶりに改正された生徒指導提要によって学習指導と生徒指導の一体化が強調され、大学入試では総合型選抜入試が激増という流れになりましたから、時代の具体的状況を読みながら、「越境的視点」を可視化し、各領域と共有・実装する動きが生まれていました。

★それが「プロジェクト部会」ですが、昨日プロジェクト部会の全体委員会が行われました。各学校から20名ほどの先生方が集まり、「越境的視点」を見出す具体的状況がイメージできる高感度な抽象性のある大テーマを見出し、5つのプロジェクトが生まれることになりました。

★上記の図のように、学校のそれぞれの教育活動や経営などがすべて有機的結合へ向かい始めました。

★東京私学の場合、中学入試などマーケットによる支持を得るために、それぞれの教育領域が切磋琢磨されソフィストケートされています。

★ですから、よく教科か探究かという議論が日本の教育界全体では行われますが、東京私学はそこは両立です。なぜなら、教科専門性というのは、とことん突き抜けていくと当然越境性に到達するからです。

★プロジェクトは従来の教育領域にはない部分の専門性を追究していきますから、当然その行き着く先は「越境的視点」を発見できます。

★上記の図の縦の領域は、帰納推理によって「越境的視点」に行き着きます。横の領域、つまりプロジェクト領域は、仮説推理によって到達します。

★もちろん、推理の方法はいくつかあり、その都度使い分けをしていきますから、あくまで重点的な推理方法という意味での違いにすぎません。

★いずれにしても縦のベクトルと横のベクトルの合力が生まれることになります。いやすでに生まれています。

★東京の私立中高は、この合力を生み出すビッグバン的化学変化が起き始めています。

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2023年5月18日 (木)

変わる私立中高(23)新たな学校の法化現象に対応するために メンタルモデル×アイデンティティ×トラウマ×ダイバーシティの変容の大切さ

★昨年、2010年に作成された「生徒指導提要」が12年ぶりに改訂されました。2010年ごろ、それまで保護者が学校を訴えるということは珍しかったのですが、当たり前になるフェーズが現われたのが、おそらく「生徒指導提要」を作成する理由の一つだったと思います。そのような学校の法化現象が起こるには理由があるはずで、そうならないように生徒指導をしていこうということだったのだと思います。事件が起こってから対応するクライシスコントロールの前にセーフティーネットを広げるリスクマネジメントの強化ということでしょう。

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★ところが、2011年3月11日の東日本大震災の体験以降、SNSが急激に広まり、支援の輪が広がりボランティア活動を募るポジティブな効果が生まれた半面、SNSによる多様な被害も増えました。また2010年ごろは、まだエンパワーメントやインクルーシブ教育に対する意識が低かったのですが、2015年採択されたSDGs以降、マイノリティをきちんと受け入れることや困難な局面にある人々にエンパワーメントする流れが生まれてきました。すると、それに反する問題が明らかになり、2010年ごろまでメディアでもあまり取り上げられなかったハランスメントやDVなどが子どもにダメージを与えていること、ヤングケアラーの社会的問題など、それをなんとかしようとする学校や児相、警察、NPOなどを巻き込んだ教育問題も起こるようになりました。

★これらのプレイヤーがチーム学校を組織化し対応することが喫緊の課題になってきたのです。そのことが今回の改正には濃厚に反映しています。

★このチーム学校には発達心理学、精神分析学、認知心理学、カウンセリング、リーガルマインド、組織開発、人材開発、学習開発などのそれぞれの多様な手法がインテグレイトされて作成されたということになっています。

★ですから、この提要を読み進むと「学習する組織」「SEL」「コレクティブインパクト」の考え方や方法論も包摂されていることが了解できます。

★改正の提要は、学習指導と生徒指導の一体化を目指しています。現行学習指導要領では個別最適化と協働学習の一体化、教科と探究の相互作用などがねらわれています。

★明らかにシステム思考的あるいは構成主義的な学習観がベースにあります。

★そうなってくると、総合型選抜に対応する学びなどのコアになる、生徒自身が自分とは何かに気づきその部分を成長させるべく様々な体験を通していく探究活動と教科学習と発達心理学などが融合していくことになるわけです。

★ですから「自己とは何か」「未来の自分像とは何か」など自分の存在や価値をめぐる話も、発達心理学的側面だけでみていくわけでは済まなくなっています。認知心理学や精神分析、認知能力的側面、非認知的能力側面などの包括的な人間とは何かを学んでいく必要がでてきました。

★そこらへんが、多様な価値観というの名の分裂的自己のモザイク画になっているために、人間関係において自己への不安が互いに増幅し、そのモザイクのピース同士の亀裂からいろいろな問題が噴出しています。亀裂に空虚が生まれ、そこを妄想で埋めようとすると不安は増幅し、妄想ではなく、共感して埋めていくと全人的人間像が生まれてきます。したがって、なめらかにつないでいく必要があるのです。

★その試みの第一歩が、認知科学的に眺めているメンタルモデル、精神分析的に眺めているトラウマ、発達心理学的に眺めているアイデンティティの相違点と共通点と相乗効果(ポジティブでもあるしネガティブでもありますから、ポジティブのシナリオをどうするか)を考察していく必要があります。そして、実は相違点はグローバルな視野、つまりダイバーシティの受容が必要にもなります。

★このヒントは「学習する組織」「SEL」「コレクティブインパクト」「グローバル教育」の人間関係づくり組織作りなどの考え方が役に立つでしょう。

★これについては、神崎先生や内田先生、鈴木裕之先生等と対話をしてビジョンが降りてくるといいなあと考えています。よろしかたっら、お知恵をお貸しください。

 

 

 

 

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2023年5月17日 (水)

変わる私立中高(22)ファンクションシステムを使って無から無数の世界ができるその背景に「問い」がある 工学院の先生方と気づく

★朝からチャットGPTと対話。思考のスキルって何ってきくと、世間の思考のスタイルをダーッと並べてくれます。その中の創造的思考を養成するのにはどうするの?と尋ねると、これまたダーッと。いきなり創造的思考を育成するにはどうするのと聞くと、また違う回答がでてくる。もちろん共通している部分もあるのですが、ちゃんと違うんですね。文脈フリーとそうでないときとで回答も変わってくる。柔軟です。

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★そんな対話の続きとして、ところでネルソン・グッドマンって知っていると聞くと、これまたダーッと。そのうえで、じゃあグッドマンの考えにのっとって創造的思考について、君ならどう考える?と聞くと、もちろんダーッとなのだけれど、フレームというのがでてきて、なるほどなるほどとなります。

★そんな対話をしながら、グッドマンは、美学と数学と哲学をシンプルに結合していたのかもしれないと思いつつ、いつもの第一章を開いてみました。この章のタイトルは「言葉、作品、世界」なんですね。コンパクトスクールを目指す私としては、この短いページの章にいろいろ詰まっているなあといつも感心します。

★最初のページには、グッドマンが興味のある問いが並んでいます。

1.世界は多数存在するか?

2.「与件」とは見かけに過ぎないのではないか?

3.理解というのは創造的な力か?

4.記号の多様性とその造形の働きの関係は?

★原文は興味のあるテーマとなっていますが、それを上記のような問いに変形してみました。テーマとは問いが内蔵されていますから。

★今になって、しみじみシンプルだけれど、学校教育における生徒と教師、生徒と生徒、教師と教師、教師と保護者などの心と知の対話は、いずれもこの問いを受けとめて考え、行動していく必要があるなあと。

★この問いをいきなり問うのではなく、もっと身近なところから間接的な問いを生徒と共有することが大事だなと。PBLとか探究とかそのプログラムのプロセスやメソッドは、もう先生方はそれぞれのスタイルを持っています。

★ざっくばらんにいつも相談に乗ってくださる工学院大学附属の先生方とこの辺について対話して、問いの生成に着目してそこからPBLを組み立てる。PBLを組み立ててから問いをどうするかではなく、あふれるほどの問いの生成からチョイスできるようにしていこうとなったわけです。

★生成AIと向き合う時、どんな問いを投げかけながら対話を続けるかというトレーニングも、おもしろいなあと思いつつ、「問い」を並べたらプログラムも同時にできてしまうというシンプルなPBLプログラムの作り方。結局ファンクションシステムが無限の世界を生み出すのと同期しているなあと。

 

 

 

 

 

 

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2023年5月16日 (火)

変わる私立中高(21)コンテンツもコンピテンシーもパフォーマンスも 教科授業も探究も 数学的思考の世界現象であり、そのことの気づきがアート

★ここのところアートの先生や数学の先生の話をお聴きすることが多いのですが、アートと数学は緊密に結合しているなあとしみじみ感じます。アートも数学もそのデザインする世界のヴァージョンは多様ですが、そのヴァージョンを生み出すシステムは極めてシンプルです。このことはプラトン以来、多くの人々が語っているのですが、氷山モデルでいう水面下の深淵部に埋め込まれあたかも忘れているかのようです。

<世界ヴァージョンを生み出すシステム>

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★ところが、アートや数学の先生方の話をお聴きすると、その深淵部から世界制作のシステム項目が見えるし、シンプルな要素どうしが結びついて複雑な世界ヴァージョンを生み出しているのが見えます。

★ただ、アートや数学の先生が、教科書の枠内の話を語る時は、そのシステムは隠れます。両者の先生方にとっては、自分の専門領域では身体化あるいは自動化あるいは暗黙知化されているからです。

★ところが、最近の対話では、専門領域を離れた場所で、もっというと専門領域以外の世界で対話した時に、世界ヴァージョンを生み出すシステムが見るのです。そのシステムは、上記の図の5つの項目が論理的連言で組み合わさることによって成り立っています。

★生活世界のさまざな具体的な事象を、5つの項目視点から観察し、論理的連言で再構築したり脱構築したり。新しいヴィジョンが現われれ、それに伴う新しい世界ヴァージョンが立ち上がります。

★それは、宇宙が多様な星や惑星が宇宙を作っているのに似ています。しかもその宇宙ですら多元的です。多元的でとても一つに還元できないのに、それぞれがあるのです。世界があるのか?宇宙があるのか?あるのはおそらく世界ヴァ―ジョンを創出するシステムという存在でしょう。世界や宇宙が誕生する前から、そのシステムはすでに在ったはずですから。

★存在は、それゆえ世界ではなく、生み出す仕掛けにすぎないのかもしれません。玉ねぎの皮をむいていったら種など何もないのと同じような感覚?カンタン・メイヤスやマルクス・ガブリエルが言っているような新実在論的な話になっているかもしれません。やはりアートや数学の先生方は、時代の変わり目に、そのシステムの存在を可視化するのですね。

★いずれにしても、この「5つの項目×連言」システム=ファンクションシステムを皆使っているのですが、文科系は、その連言は多様な接続語と多様なコンテンツやテキストという多様な世界ヴァージョンに目が行き、このファンクションシステムは見えなくなっています。

★しかし、最近探究とエッセイの学びに、トゥルーミンモデルや三角ロジックを演繹推論、帰納推論、仮説推論などと結びつけてプログラムを組む先生が数学の教師に限らず現れてきました。国語の先生やキャリアデザインに携わっている先生に多いと思いますが、そのような先生方は、アートや数学の先生方の持っているファンクションシステムと同期するようになっています。

★とくに情報の先生は、共振しています。

★シンプルで無限の多様性を生み出すファンクションシステムに行き着くのも時間の問題だと思って期待しています。それに生成AIはこの流れを加速させるでしょう。

★以上のファンクションシステムの発想は、ネルソン・グッドマン「世界制作の方法」(ちくま学芸文庫)の第1章からのものです。同章で、グッドマンが、エルンスト・カッシーラやウィリアム・ジェームズを引用しながら論を進めているので、着想領域が似ているなあと思い、何度もこの箇所だけを読んできたのです。

★自分の娘よりも若い盟友数学教師Iさん(今は私学のプロモーション・プロデュ―ス世界制作に携わっています)とずっとこのファンクションシステムについて語り合い、上智をはじめとするキリスト教関連の大学(前職はカトリック学校だったので)へ立ち臨む生徒それぞれの世界ヴァージョンを制作するワークショップを実践した時に、思い切って、このファンクションシステムを実践し、生徒と共有したものです。とはいえ、生徒が自分でこのシステムを可視化できるというところまではいきませんでした。ワークショップと小論トレーニングを通して身体化はできたと思いますが。

★Iさんも数学教師だったということもあり、彼との対話やワークショップを通して、ファンクションシステムのレンズを装着・実装することができたと思います。そのレンズでアートや数学の先生方の対話を見ることができているということだと思います。

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変わる私立中高(20)教育問題をポジショニングシフトで問うことができる教員に出会う

★昨日、18時から20時くらいまで、東京私学教育研究所の会議室で「教務運営研究会の委員」が集いました。東京私学の教務系の教員研修の企画を策定する会議だったのです。視野が広く、それでいて現場のほんとうの問題を受容できる先生方だったと改めて思います。詳しくは、企画ができてお知らせができてからご紹介しますが、とかくメディアの教育問題の取り上げ方は、対症療法的な批判になりがちだし、それを受けて返す教育評論家もーまさかとは思いますがーウケねらいさながら、真逆のことを言って批判然としている場合がないわけではありません。もちろん、それでも問題があることを世に問う大きな意味はあります。

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★ところが、昨日のメンバーは、東京私学の先生方の共通する悩みを問い返すときに、図のように問題をめぐる関連領域を経めぐりながら議論をしていきます。現場で起こる教育問題でダメージを受ける当事者に寄り添いながら、同時にちょっと距離をあけ、当事者たちの周りのポジショニングにシフトして話してみたり、学校に影響を与える外部環境から見まわしてみたり、そして、さらに社会の構造やシステムとの関連で問い返してみたり。

★つまり、一つのポジショニングにこだわって問い返したり批判するのではなく、そのポジショニング自体を問い返し、ポジショニングシフトをしながら議論できる先生方だったのです。大所高所から見ながらも、ポジションニングを変幻自在に移動しえちくのです。

★現場で寄り添い受け入れる感性(世の中的にはSEL的発想なのでしょう)、そして現場と社会と世界の構造の関連性を3つの推理方法で議論していく(世の中的にはシステム思考というのでしょう)このような複眼思考を有しながら、ポジショニングシフトをしていくのです。

★硬直した教育言説は、社会に通じないので、なんとかしなければなりませんが、それはこのような複眼思考×ポジショニングシフトによってクリアしていく必要がありますね。kのような本物志向は、メディアウケは全くしませんが、それはともかく、そのような立ち臨む姿勢を得意とする各学校の先生方が集まっていたのです。日本の教育には希望があります。静かな情熱を感じながら帰途につきました。

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2023年5月15日 (月)

湘南白百合の新しく圧巻の高大連携

★湘南白百合は、今年の3月末から、私が知る限り6つの大学と連携しています。そのうち4つは、組織と組織の連携で、2つは大学の先生と教員が連携してプログラムを創っていくプロジェクト型です。

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★いずれにしても、大学の先生が講義にきたり、生徒が大学に行って講義を聴いたりでとどまらず、そこからさらにプロジェクト型で研究レベルの探究をやっていくことになるでしょう。

★上智大学、順天堂大学、北里大学、お茶の水大学が、湘南白百合と組織と組織の連携をします。学芸大学と麻布獣医が大学の先生やOGが来てワークショップを実施しています。このすべてがプロジェクト型で動くとどうなるのでしょうか?

★これは当然、米国のAPというシステムに類似したことが起こるでしょう。

★米国の場合は、カレッジボードとETSなどが組んで、このシステムを運営していますが、日本の場合は、まだこのようなカレッジボードがないので、各大学が個別に高校と連携していくでしょう。

★ゆるやかなAPといえます。ですから、連携したとしても、縛りはないのです。ですが、連携によって学びが深まり、研究への道が開けた場合、生徒がその大学で学びたいというモチベーションが燃え上がることはあるでしょう。

★大学も2040年には18歳人口が88万人になると予想されていますから、生徒獲得戦略の一環としてゆるやかなAPを仕掛けていくことになるでしょう。

★問題は、このAP的なプログラムの質です。

★湘南白百合のモデルは、その質の高いところが真骨頂です。

★大阪の公立大学は無償化が進むようです。他県もそれにならうところが出てくるかもしれません。

★2040年の大学生徒獲得戦略の模様は多様ともいえるし、混迷ともいえるでしょう。そんな中、高い質で連携できる準備をしておくことこそが本質です。湘南白百合の新しいそして圧巻の高大連携モデルに期待がかかります。

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変わりゆく世界(07)ハイテックハイの教育を私立学校はアレンジしつつある

★数年前、米国カリフォルニア州にあるハイテックハイ(HTH)が話題を呼びました。ハイテックハイを舞台にしたドキュメンタリー映画「MOST LIKELY TO SUCCEED」の試写会が各地、各学校で行われ、教科授業も定期試験もない、PBLでいわゆるSTEAM教育の塊みたいな教育に魅せられ、同時に日本ではできないと落胆する教育関係者が多かったように記憶しています。しかし、コロナ禍で、特に私立学校は、STEAM教育が加速したし、総合型選抜によって、定期テストのあり方も変わりつつあり、学習指導要領の枠内でHTHのような教育ができることに気づき始めました。

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★他人の芝生はなんとかで、米国で実践していると何か日本とは全く違うもののように喧伝されがちです。コンパラティブスタディーをすればよいだけなのに、日本ではできないと失望したり絶望したり。。。

★でも、たとえば、ハワード・ガードナー教授のマルチプルインテリジェンシーズ(多重知能)なども日本では流行ってきましたが、そもそも日本の学習指導要領は、はじめから、ガードナー教授の8つの知は教科によって満たされているのです。ただ、どれも満遍なくとか、教科横断がなかなかできていなかったりとか、ガードナー教授の意図とはだいぶ違うように見えるのも当然です。

★とはいえ、ベースはあるのですから、PBLを導入し、教科横断型で、learning by makingといった新しい学び方を結合すれば、新しい化学変化が起きます。現状の日本の教育、特に私立学校はそうなりつつあります。

★それに、伝統工芸、芸能、食文化、武道など、日本の人間国宝級のプロフェッショナルに会ってその技術を見て、話を聞き、質問して体験するツアーを、「Deeper Japan」を運営しているディーパートラベル株式会社の石川光代表が仕掛けているらしいのです。

★これは、従来のインバウンド観光とは違い、ディープな日本文化のキュレーションを行う日本列島を日本文化ミュージアムにしてしまおうという試みだと思います。部分的には、今まで行われてきたのでしょうが、職人の技をSTEAM的プログラムに可視化してしまおうという試みでもあるなと注目しています。

★とにかく、米ビッグ・テック創業者、創業期メンバー、著名クリエイター、富裕層、知識人、職人らが次々に日本を訪れているというのです。この発想は、私立学校は、探究やSTEAM教育にアレンジしていけると思います。なぜか?PBLというプロジェクト型が学習が浸透しつつあるからです。

★私立中高一貫校に留学生も多くなってきました。イギリスやアメリカのエスタブリッシュスクールは、すでにそうなっています。私たちも私立中高一貫校のキュレーションベースのプロモーションをしていかなくては!そう思わざるを得ないほど私立学校の世界を巻き込む教育が進化しつつあります。

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2023年5月14日 (日)

日本工業大学駒場の工芸の授業 工芸品の作り方は世界制作の方法だった

★5月13日(土)、駒場東大前から歩いて5分くらいのところにある日本工業大学駒場中学校・高等学校(以降「日駒」)を訪れました。1時間目の新井志穂先生(美術科教諭)の授業を見学することが目的でした。生徒の皆さんが登校する時間と重なっていたので、迷わず行くことができました。生徒の皆さんのスクールバックには<NK>というロゴが刻まれていたので、いっしょに歩いていけばよかったからです。

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★少し早く着いたので、図書館で待たせていただきました。正面玄関を入るとすぐに図書館があります。その周りに教室が配置されています。何かメッセージを感じないわけにはいきません。さらに興味深い吹き抜けもある建築空間ですから、どことなくワクワクしていました。どうやらOBによる設計のようです。なるほどかっこいいと思っていると吹き抜けから雨が降ってきたのです。建蔽率の関係などを計算してそうしているのでしょうが、本当に空に向かって吹き抜けているのです。中庭というわけではなく、廊下や階段を歩いていく中、雨が降っているのです。実におもしろいですね。雪が降った時のシーンを想像するとすてきですね。

★図書館では、中学生が早朝から読書に来ていましたが、寝そべって読書できるスペースがあり、そこにみな集まって、楽しそうに対話しながら読んでいました。読書の邪魔をしたくなかったのですが、あまりに楽しそうだったので、学校の雰囲気をちょっとたずねると、毎日楽しくてしょうがないと即答でした。心理的安全性が広がっていました。

★図書の中を眺めながら、さりげなく新書を読むムーブメントを作っていることもすぐに了解できました。国語だけではなく、どの教科のベース創りにもなるし、なんといっても探究や総合型選別では大いに役立つだろうと日駒の学びの広さと深さの仕掛けをいずれもっと知りたいなあと好奇心がわいてきたそのときに、新井先生が教室に案内しに来てくれました。すぐ真横の雨降る空間を通り過ぎて地下にいきました。

★さすがは日駒です。工芸や美術、陶芸の教室が並んでいました。ずっと以前から本格的にアートを体験できる環境がデザインされてきたわけですね。昨今騒がれているSTEAM教育は、日駒にとっては当たり前のことだったのだとすぐに了解できました。

★2009年に大統領に就任したバラク・オバマが、STEM教育に力を入れ、日駒のようなクラフトスペースやFABラボづくりを支援したのは有名ですが、日駒にはすでにあったわけです。

★そんなことを想いながら、新井先生の授業を見学しました。すると、驚いたのは、マグカップをつくるプログラムであったのですが、生徒は粘土をこねているわけでも窯で自分の作品を焼いているのでもなかったのです。

★グループワークを行っていたのです。10個ぐらいのマグカップを観察しながら、その機能やデザインなどについて対話しているのです。新井先生は作る前に、まず世の中にあるもの・日常生活にあるものを観察して「気づき」を生み出すことがとても大切だと。

★しかも、日常生活の中で、実際に使われることをイメージしながら対話し、ある意味情報を分析していくというのです。音楽だったら作品のアナリーゼをやるのですが、それをマグカップで行っていました。飲む瞬間だけではなく、ディスプレイとしての意味や、収納しやすさというようなコンビニエンスな感覚や、持った時の重さの感覚、素材など、マグカップを巡る多角的な視点が、ワークシートに言語化されていきました。

★ふだん自分たちが使っているマグカップ。目の前で見えている部分は氷山の一角ですから、その目に見えない水面下の多様で多角的な文脈や背景に想いを馳せるのが観察の目的だし、その想像をするときに「推論」する思考様式は、演繹的推論でも帰納的推論でもなく、生徒は仮説的推論を活用していました。今各学校で試行錯誤しながら取り組んでいる探究のときに多く行われる推理の方法です。

★このあと2時間目はいよいよ粘土をこねて作品を作っていくのだということでした。私は次のミーティングが八王子であったので、後ろ髪をひかれる思いで、日駒を後にしました。

★日駒の近くには、柳宗悦が民衆の工芸品を芸術に高めた民藝というコンセプトがつまった日本民藝館があるので、それとつながりもあるのですかと新井先生に尋ねると、先生の専門は工芸でもあり、当然それは研究済みで、その影響もあるということでした。まさに、マグカップ作りのコンセプトは、民藝さながらです。つまり日常の向こうに人間の生活世界全体を想い描く活動だったのです。

★現在の学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」ということが標榜され、それをめぐり、アクティブラーニングだとかプロジェクト学習とかが、各学校で試みられています。デザイン思考などというのも人気がある手法ですが、新井先生の工芸のプログラムは、すでにそのような方法論が盛り込まれています。なおかつLearning by makingでもあり、学びの最前線の授業でした。新井先生にとっては新学習指導要領が設定する前から行ってきたことでしょう。

★私は、生徒の皆さんがマグカップを手に取り、観察をしながら対話をしている様子に、かつて見学に行ったベルリンのバウハウスのシーンを想いだしました。ヨハネス・イッテンのデザインの予備教育のプログラムについて説明されていたのを想いだしたのです。ブルーノ・タウトなどが桂離宮にモダニズムを再発見、つまり気づきを得たことは有名な話ですが、新井先生のマグカップをつくるプログラムに、バウハウス的な発想も重なるなあと感じました。

★個人的にはイサム・ノグチが好きなんですか。イサム・ノグチはイームズと交流があったとモエレ沼に行ったときイサム・ノグチに関する本を立ち読みして知り、感動したものです。両者とも、日常生活の中にアート空間を埋め込んでいる(その逆かも)し、日本のデザイン文化の影響も受容していて、マグカップという西洋の食器を陶芸的な文脈にも交差させている新井先生の工芸の授業にも共通するところがあるなと深い感動を1人楽しでいました。

★図書館で生徒が、ロボティクスの話や鉄道のジオラマの話もしてくれました。さすが日駒とそのときは思いましたが、リアルに手を使った工芸のプログラムは、デザイン哲学などが第二の脳といわれている手によって美術室に広がっているのを感じて、その全体が日駒のSTEAMなのだろうと感じました。とかくSTEAMというとICTだけが注目されるのですが、改めてもっと包括的なものなのだと。

★そして、一般には意外とここまでのSTEAMは実践されていないのも事実であろうと思うと、日駒人気の理由の一つに、ずっと以前から行われていたこのような包括的なSTEAM教育環境デザインの存在があるのでしょう。すてきな機会をいただきました。新井先生、ありがとうございました。

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GLICC Weekly EDU 第127回 文化学園大学杉並のマタイ効果

GLICC Weekly EDU 第127回「文化学園大学杉並ーグローバル&STEAM、そしてその先へー」には染谷先生がご登壇。自信と広く深いものの見方に感動しました。染谷先生は、同校で、次世代開発部長、教務副部長、理科主任など多方面で活躍するマルチインテリジェンスリーダーです。

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★染谷先生のような教師が、活躍できるというのは、文化学園大学杉並(以降「文杉」)の組織が極めて新しいシステムになっているからでしょう。実際、校長の松谷先生は、生徒1人ひとりのかけがえのない価値を生成する教育システム構築の絶大なるリーダーだし、その影響力は東京の私学全体にインパクトを与えています。

★そして、先日久々にお会いした副校長の青井先生は、常に新しい文杉の姿を世界と文杉をいかにもっと結び付けるかビジョンを描き続けています。そして、なんといってもその英語力を遺憾なく発揮している教育業界では稀有な戦略家です。

★理事長も含め、経営陣がそのような新しい組織開発をしているわけですから、染谷先生のような教師が出現するのはある意味必然です。そして、その染谷先生は、次世代の教師の育成環境、生徒も当然次世代ですから、生徒が未来で活躍できるエイジェンシーを形づくるコンピテンシーベースの教育環境を開発しているのでしょう。

★そういうわけで、経済の領域では、優れた人物や組織が市場で評価されると、さらなる成功がどんどん続いていくという「マタイ効果」が生まれているのが文杉なのだと実感しました。

★なお、英語とかグローバル教育の件ですが、文杉は、今や帰国生のみならず、留学生にも注目されていて、学内は、まさにグローバルシティーさながらの時空になっています。国内生も、海外留学しているような感覚にどんどんなっていくでしょう。「マタイ効果」は続きます。

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2023年5月12日 (金)

変わりゆく世界(06)立命館大学のAI×総合型選抜 大学入試を大きく変える可能性大

★東洋経済ONLINE(2023/05/12)の記事<成績だけで「やりたいこと」諦めないで、全国初「AI活用」した入試改革は 立命館×atama plus「入試改革」1年目の通信簿>は、多様な生成AI花開いている今、改めて衝撃的です。詳しくは同記事をお読みいただければと思います。無料で、AIによる個別最適化の学びを行い、大学が指定する単元を修了すれば、出願できるという総合型選抜。合格すると、大学入学後役に立つ学びを先行するわけです。プレプレ入学講座ですね。仮に合格しなくても、十分に学ぶことができ、他大学入学後も学部が同じであればやはり大いに役立つわけです。

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★今年、この立命館大学がEd Tech企業のatama plusと連携して、全国初のAI学習を活用した総合型選抜(AO)入試「UNITE Program」が、とにかく第1期合格者を出したわけです。他の大学も様子を見ながらも、立命館の成功に、昨今のAIムーブメントもあるので、様々な多様な工夫をして挑戦するでしょう。

★おそらく、最近の生成AIを活用すれば、小論文の学びを、立命館の同入試のようにプレプレ入学前講座をやれるわけです。

★協定大学が、一気にそれをやると、そのコンソーシアムには、志願者が増えるでしょう。

★もちろん、協定の仕方によります。学部や学科が異なる単科大学が、AIによるプレプレ入学講座の領域だけで連携できるのですから、合併だとか難しいことはしなくてよいわけです。

★atama plusや生成AIの組み合わせで、思い切り学んで大学に入学していくのです。学生も大学も学びや探究そのものがブランドになるわけですね。

★もうその先は、すべての大学が連携してしまうわけです。実質大学入学共通テストは不要になるでしょう。そして、大学受験市場の再編が起こる可能性大ですね。まさに予測不能な時代です。

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変わりゆく世界(05)組織がうまくいくかいかないかは、要素還元主義だからかとか関係総体主義だからかということはあまり関係がない。

★よく要素還元主義か関係総体主義か(構成主義といわれる場合もあるが。。。)が話題になります。学びは、要素還元主義から関係総体主義へと。私もそういう極端な言い方をしていたときもあります。そして今でも、私自身は関係総体主義です。ですが、組織がうまく回転するか、循環するかは、この主義は括弧にいれます。

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★組織において、ビジョンや目的、いわゆるパーパスは大事です。しかしその表現の仕方が関係総体主義、表現だとメタファー主義だと要素還元主義のメンバーは不服そうな表情をします。逆に要素還元主義的な表現をする、つまり1+1は2という厳密な言い方をすると、今度は関係総体主義、つまりメタファー主義の表現を好むメンバーは、コントロールされれ規制が強くなるなあと感じます。

★要素還元主義は、大テーマを目標に掲げると、もっと具体的に細かく、目の前の目標をはっきりさせて欲しいと言います。メタファー主義は、目の前のことだけではなく、もう少し長期的なワクワクするような話をしてくださいとなります。

★ですから、要素還元主義的なメンバーだけが組織をつくると、組織はうまくいくし、メタファー主義的なメンバーだけが組織をつくるとうまくいくわけです。組織は、ビジョン共有、チームワーク、システム思考、メンタルモデル、自己マスタリーが相互に関係しているとき、うまくいくのです。

★しかしながら、時として、それでもうまくいかないことがあります。それは推論の梯子さながらです。要素還元主義的であっても、メタファー主義的であっても、自分の信念を正当化する防衛機制のメンタルモデルを持っているメンバーが多くなると、目標を要素還元主義的に自分の理解に置換えたとき、縮小されていたり、メタファー主義でも自分の考えに置換えたときにズレていても、それでも化学反応が起きたからいいじゃんとなるわけです。

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★つまり、組織はうまくいかなくなるわけです。

★ですから、結局組織はリーダーが、精度の高い要素還元主義者か、高感度なメタファー主義者である必要があります。リーダーの主義に合うメンバーだけでだと、どちらもうまくいきます。

★しかし、そういう組織は珍しいので、精度の高い要素還元主義者がリーダの場合、メタファー主義のメンバーは抑圧的な日々をおくります。それでも、がまんできる程度の仕事の状況だと、しばらく様子を見ています。

★高感度の高いメタファー主義者がリーダーの場合、要素還元主義のメンバーに寄り添うことができます。メタファーのうちのこの部分を要素還元主義的表現に置換えようとするからです。なぜなら、置換はメタファーの基本構造だから抵抗がないのです。

★結局、要素還元主義者は、メタファー主義者、つまりリベラルアーティストにマネジメントされてしまいます。

★欧米のリーダーシップに、日本のリーダーシップが、勝ち負けではないのですが、なかなか超えることができないのは、このリベラルアーツが戦後教育でどんどん削られてきたからでしょう。日本の文化は、要素還元主義的であると同時メタファー文化も大いにあったのはいうまでもありません。以心伝心はネガティブに捉えられがちですが、メタファー主義的に考えればありですね。

★要は置換の時に予定された目標より正しく大きくなっているかどうかなのです。与えられたタラントは大きくしなくてはということです。

★要素還元主義も、置換えたとき、新たな要素を付け加えればクリエイティブだし、メタファー主義ももとの要素を包摂しながらはみ出す勢いがあれば化学反応が正しく行われているわけです。これもまたクリエイテブですね。

★先ほど関係総体主義を構成主義という場合もあると括弧付きでいいましたが、実は構成主義は、要素還元主義になっている場合もあるのです。要素間をつなげて和は同じということになっている場合が。それが客観的だと。

★そして、政治や行政の政策などは、要素還元主義的でないと助成金を申請することは難しいのですね。ですから、メタファー主義だけで生きていくことはできないのです。日本のアーティストは、市場が大きくないので、文化庁やサポート企業から助成金をゲットしようと申請書を書きますが、そこは要素還元主義的でないと、申請も精算もできないのです。

★経済的に生きていくことに満足ができるならば、要素還元主義がシンプルに生きやすいのです。ただ、ハンドルに遊びがないと事故るように、要素還元主義にもリクレーションというスパイスは必要なわけです。これが行政や法務が考える働き方改革です。

★18歳成人になるために、リベラルアーツと税金、財務、経済、金融、法律などの実務の両方を学ぶ必要があります。これがプラグマティックということでしょう。やがて、5教科中心主義的学習指導要領は大きく変わらざるを得ないでしょう。言語と数学とアートと体育でよいのかもしれません。あとは実務的・実用的なことを早めに学んだ方がよいでしょう。AI社会はどのみちそうなります。

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2023年5月11日 (木)

変わりゆく世界(04)私立学校、公立学校、インターナショナルスクールの関係性がグローバル教育の変容と共に変わる

★今や日本の中等教育は、私立学校、公立学校、インターナショナルスクールのせめぎ合いになってきています。地政学的リスク回避とAI社会における新しい教育の開発、AI社会におけるone earth×one healthを包括した経済社会システムの変化が、その背景にあります。

★その変化が、教育の質の変容をもたらしているともいえるし、教育の質の変化が社会にインパクトを与えているということもあるかもしれません。

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★世界の変容を導く影響力ある人材を育成しているインパクトのある教育環境の1つに国際バカロレア(IB)があります。英国やその連邦、及び米国は、このIBに相当する教育を公立学校でも行えるようにしています。

★しかし、英国や米国のその教育は、機会均等という意味では公平ですが、格差を生んでいることも確かです。何せ試験結果は学校ごとですがランキングを公表される場合も多いのです。切磋琢磨とか自由市場の考え方が前提にあるでしょうから、当然なのかもしれません。

★したがって、その勝ち組になりたいと思えば、IBを扱っているインターナショナルスクールや私立学校に入れたいと海外の富裕層が思うのも当然ですね。

★一方、日本は、IBレベルをやって、落ちこぼれがたくさん出た現代化カリキュラムをひっこめて、いわゆるゆとりカリキュラムにしました。反動もあありましたが、現代化カリキュラムに戻ることはないようです。機会均等だけではなく、教育の内容もみんながわかるレベルにしようと。しかし、理解というのは、人によって違いがあります。ですから個別最適化がよいということになっていますが、一方通行的に知識を注入してきた20世紀型教育では、それを偏差値という尺度で測定してきましたから、結局、教育の格差は是正できませんでした。

★しかし、そんな混乱や矛盾の中で、日本の経済社会も低迷し、人口も減少し、少子高齢化問題がまた経済を圧迫する状況になっています。

★それは教育のせいではないのですが、学びの構造を変えることによって、希望があるのではないかと。そこで、国もある自治体も思い切ったことを考えました。IBのようなシステムをすべての生徒に機会均等に与える環境を創ってしまおうと。

★日本だけではなく、世界のディストピア的情勢をみて、なんとかしようと私立学校は21世紀型教育を促進しました。すると、公立学校もそうすべきなのだという論調が、静かに広がっているのです。

★入試制度が、高校入試も大学入試も適性検査型にシフトし、実は小学校中学校段階で、全国学力テストをやり、小学校の英語教科化はその流れを下支えしています。

★そうすると、20世紀型教育を続けている私立学校は、まいってしまいます。そこで、どこの私立学校もICTを取り入れSTEAMをやったり、C1とまではいかないけれど、B2英語までは強化したり、授業ではなかなかできなくても、探究の時間などでプロジェクト型の授業を挿入しようと、結果的に多くの私立学校が21世紀型教育現在進行形になっています。

★それを見ていた公立側は、完全21世紀型教育はできないが、現在進行形の21世紀型教育は可能だと判断し、インターナショナルスクールと完全21世紀型教育私立学校は、寄付などで経営し、自立しなさいといわんばかりの、自治体も出現してきたのです。結果的にですが、あとの私立学校は公立学校化しなさいと。

★たしかに、学びの構造は、公立学校も現在進行形の21世紀型教育ができるのですが、私学の良さは、建学の精神の多様性であり、グローバルな視野がその背景にあるということです。

★ところが、これが公立学校は、現状の国ー自治体の制度では、一律になるのです。もちろん、憲法の普遍的原理によるのだから、いいんだという考えもありますが、建学の精神という魂は、文化を創り出します。文化の多様性をはく奪する行為は、その普遍的原理には反するんですね。ではその普遍的原理と称する理念はどういうものかというと、ルソーではないですが、一般意志ではなく全体意志になる危険性があるのです。

★このすり替えが起こると、極めて第二次世界大戦前夜の合法的に全体主義的体制が生まれるのと同じことが起きる危険性があります。

★IBやラウンドスクエアが生まれたのは、そのような世界を創らないために、見識ある卓越した人材を育成しようとするところに原点があります。しかし、そのようなグローバルな視野を無視しても、学びの構想だけはシステムとして真似できるのです。

★さて、はてどうしましょう。いずれにしても、ディストピアかユートピアか。。。世界は変わり目に立たされています。

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2023年5月10日 (水)

東京私学教育研究所情報(08)初任者研修「令和5年度 全体研修会」 私学教員の“ウェルビーイング”

★2023年5月8日(月)、アルカディア市ヶ谷で、一般財団法人 東京私立中学高等学校協会・東京私学教育研究所主催(共催:公益財団法人 東京都私学財団)の「初任者研修」が実施されました。会場は110名強の先生方が集い満席となりました。今回は、夏の宿泊研修のプレ研修として、座学でしたが、まずはアイスブレーク。緊張をほぐしつつもクリエイティブテンションを立ち上げるために互いに質問をするペアワークから始まりました。

★次に、同研究所所長の平方邦行先生の講演。それぞれの私学の精神を引き受けて、生徒の100年後を見据え、生徒の才能を開花する教育環境デザインをする気概と覚悟についての講演でした。

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★そして、キーノートスピーチは、山本慈訓先生(一般財団法人東京私立中学高等学校協会 文化部長/世田谷学園中学高等学校 校長)。テーマは『私学教員の"ウェルビーイング"』でした。

★平方所長のメッセージ「東京の私学が21世紀型教育を共に創っているので、ぜひそこで活躍してほしいし、クリエイティブな教育をデザインしてほしい」を受けて、現在の世界標準の新しい教育プロジェクトの一つ「OECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」を例に、"ウェルビーイング"を教育の最上位目標に教育を実践していくことはいかにして可能かについて貴重な講話がありました。

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★予測不能なVUCAの時代の中で、正解のない問題に直面した時、自分でそれを解決する知識・技能・思考力を駆使して、立ちふさがる矛盾やジレンマあふれる事態に対応し、世界を変える主体性=エージェンシーを育成する教師の使命感を情熱的に語られました。

★また、世田谷学園の仏教学校としての建学の精神が、世界標準の精神や学習指導要領が掲げる理念に共通することも丁寧に確認していきました。

★私学の独自性、先見性、先進性は、各私学の建学の精神にのっとり特色ある魅力的な教育を生み出していくとともに、世界をエンパワメントしていく気概も有する教師にかかっているのだと。そのパッションの松明を、参加者はしっかりと引き受ける研修となりました。ウェルビーイングについて、概念的というよりまずはイマジネーションをとばすことができたと思います。

★なお、この研修は、次の各私学の先生方で構成する委員会が企画・運営しました。

委員長 更科幸一先生(自由学園)
委 員 星野真人先生(國學院) 風見加菜恵先生(関東第一)
鷲尾真樹先生(田園調布学園) 石井克己先生(成蹊)

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★当日は、司会から軽快なアイスブレーク、しみじみ身に染みる内省するリフレクションなどにいたるまですべてを、委員の先生方が運営・実施しました。夏の研修は、ディスカッションやオープンな協働作業、そしてOSTなどワークショップ型の楽しく深い、そして学校を超えた仲間が広がる宿泊合宿型になります。

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変わりゆく世界(03)富士見丘学園 インターナショナルスクールを超えるハイパフォーマンス

★富士見丘の2023年度の大学合格実績がすばらしい。早稲田大学6名、上智大学22名、立教大21名、青山11名、ICU2名など国内大学の実績も目を見張るが、世界大学ランキング100位以内の大学に4名、200位以内だと6名合格しているのも驚きです。他にも多数実績を挙げているので、詳しくはサイトをご覧いただければと思います。

★卒業生は102名です。いわゆる、国公立、GMARCH以上と世界大学ランキング200位以上トータルの合格数が102名なのです。もちろん、他にも関西の素晴らしい大学や獣医系の大学などバラエティに富んでいます。それに、大学合格実績が素晴らしい学校だということを言いたいのでもありません。

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(写真は同校サイト。グアムフィールドワークのシーン)

★大事なことは、この結果は当然でる教育環境デザインになっているということです。インターナショナルスクールにいかなくても、IB校にいかなくても、生徒は多様な領域でハイパフォーマンスを発揮できるようになるのです。1条校ですから、インターナショナルスクールやIB校に比べ、破格に学費はかからないのです。にもかかわらず、ハイパフォーマンスを生み出すのです。

★そりゃあ、帰国生が注目するはずです。しかし、在校生のうち70%は国内生です。どういうことか、言語環境は、もはやバイリンガル状態だということです。

★アートもスポーツもグローバルです。テニスやアイススケートなどめちゃくちゃ強いですね。実際「7th ASEAN Open Inline Freestyle Championship で高3生徒が第3位!」ということです。

★グローバルスタディー演習という探究活動、海外研修、海外留学など、高大連携ベースの長期スパーンの活動です。しかも、自分の学校だけではなく、日本の私立公立の区別なく、グローバル教育を広めていくコミュニティWWLの拠点でもあります。

★今日本にIBやインターナショナルスクールが続々押し寄せています。それは、地政学的治安の面と富士見丘のように世界のエスタブリッシュスクールに匹敵する学校が現われてきたので、そこにグローバル教育の市場があるというマーケティングリサーチをした結果でしょう。

★富士見丘が先頭にたって、真のグローバル教育を牽引しています。日本の教育シーンは大きく変わるでしょう。

※ちなみに同校サイトに公開されている2023年度の大学合格実績は次の通り。

東京都立大学    2名
早稲田大学     6名
上智大学     22名
東京理科大学    2名
国際基督教大学   2名
青山学院大学   11名
学習院大学     4名
中央大学      7名
法政大学     10名
明治大学     10名
立教大学     21名
関西学院大学    1名
立命館大学     1名
立命館APU     1名
成蹊大学      6名
成城大学      5名
明治学院大学    4名
獨協大学      9名
武蔵大学      5名
國學院大学     2名
津田塾大学     3名
東京女子大学    8名
日本女子大学    8名
学習院女子大学   3名
日本大学      7名
東洋大学      7名
駒澤大学      1名
専修大学      3名
大妻女子大学    3名
実践女子大学    1名
白百合女子大学   5名
昭和女子大学    2名
フェリス女学院大学 3名
北里大学      2名
杏林大学      4名
工学院大学     2名
芝浦工業大学    5名
順天堂大学     3名
帝京平成大学    3名
東京医療保健大学  4名
東京農業大学    5名
日本獣医生命科学大学2名

 

【海外大学】*( )内は英国Times Higher Education による「2023年世界大学ランキング」順位
University of Michigan-Ann Arbor(第23位)1名
University of Washington, Seattle(第25位)1名
University of California, San Diego(第32位)1名
Georgia Institute of Technology(第38位)1名
Rice University(第147位)1名
Texas A&M University(第181位) 1名
Texas Wesleyan University 1名
University of Texas at Arlington 1名
University of Central Arkansas 1名
University of Nebraska Omaha 1名 

 

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2023年5月 9日 (火)

変わりゆく世界(02)東大の入試問題と文科省の新しい対応がさりげなく真のグローバル教育を生成する

★東大の入試問題といっても、一般選抜ではなく、「外国学校卒業学生特別選考」の入試問題。留学生や帰国生を対象とする入学試験問題の話です。たとえば、2023年の文科二類の問題をみてみましょう。

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「グローバル化が各国内の経済格差を拡大させることはしばしば指摘されてきた。では、グローバル化が経済格差を広げる経路としては、どのようなものが考えられるだろうか。可能な限り具体例を挙げながら説明しなさい。また、「グローバル化が各国内の経済格差を拡大する」という主張それ自体の妥当性についても、あなたの考えを述べなさい。」

★正解が1つではない問題ですね。東大の一般選抜には、このような問題は出題されません。グローバル化の現実的な問題点は多くの国内高校生でも大丈夫でしょう。しかしながら、「グローバル化が各国内の経済格差を拡大させる」というのは、一つのメンタルモデルであって、それをひっくり返すことは可能かもしれないという発想は、なかなか生まれてこないでしょう。

★なぜなら、国内に目を向けているだけでは、持てる者はどんどんリッチになり、持たざるものは、自分のもっているものまで奪われるという発想は、マタイ効果とまで言われていて、なかなかひっくり返すのは困難なように見えます。

★しかし、グローバル教育を受けている生徒は、マタイ効果がすでに聖書とは真逆の話を言っていることの先入観を疑う思考力を身につけています。この問題、「持てる者」の意味を読み替えるだけで、必ずしも妥当ではないと語ることができます。と同時にそれが難しい理由もみえてきます。そこの兼ね合いは、様々ですから、正解が1つではない問いとして、古典的であるけれど、現代性のある問いなのです。

★つまり、リベラルアーツや哲学の学びを、現代の問題に適用し、新しい考え方を生み出す思考力を問う問題です。

★知識・技能の適用ということはそういうことでしょう。このような学びのスタイルを体験している帰国生や留学生だから、このような問題を出題しているわけで、このような学びのスタイルを体験していない国内生には、知識・技能の適用ではなく、活用方法までしか問わないのが一般選抜です。

★しかし、東大当局は、それでは、困るのです。この外国学校卒業学生特別選考」で入ってくる生徒は、1%ぐらいだからです。このような力が必要なのに、1%では少なすぎます。

★そのことをよくよく知っている文科省は、考えました。一般選抜は変えなくても、入ってから戦力になればよいのだから、高校のふだんの授業を「主体的・対話的で深い学び」にシフトし、「探究」もいれてしまおうと。実際、ここでは、総合型選抜というのもあるから、東大の上記のような問いを思考する機会がどんどん増えているのです。

★その結果、海外大学に挑戦してしまう生徒も出てきました。とはいっても、たとえば、開成でも1%から3%の生徒の話ですから、まだまだ普段の授業や探究が大切な機会となるのです。

★また、文科省は、国連や世界経済フォーラムから、日本の教育がインクルーシブ教育やエンパワーメント教育をやっていないではないかと指摘され、昨年からこれらの教育を見直しています。

★そして、このような動きはいずれにしても世界標準の話ですから、英語が必要になります。これもすでに、小5、6年で英語の教科化が実施されています。

★これらは全部、真のグロバール教育の構成要素です。しかしながら、一つ一つバラバラに発信されているので、まさか日本の社会が真のグローバル社会に向かっているのだとは、なかなか気づかないのです。

★しかし、2050年を超えたころから、今のままでは、日本人はサバイブできまない状況が目の前に広がります。そもそも日本語を話す人口が少なくなるのです。文化遺産として保存しなくてはならないぐらいになるでしょう。

★東大も文科省も、そのときのために、静かにさりげなく動いているのです。大きくかじを取ってみようとしたときもありましたが、現場からはさんざんでした。分散して統治するのが効果的ということでしょう。

★いずれにしても、着々と日本の教育は世界標準になっています。

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2023年5月 7日 (日)

建学の精神と学校の時空 荒川修作の<意味のメカニズム>がヒントになるかも

★2023年4月22日から10月9日まで、セゾン現代美術館で「荒川修作+マドリン・ギンズ 意味のメカニズム 全作品127点一挙公開 少し遠くへ行ってみよう」が開催されています。私が中学生のころに出版された「意味のメカニズム」。書籍なのかアート作品なのか。そこの二項対立を超えているところが荒川らしさということでしょうが。

★ともあれ、認知科学のアフォーダンスの実験的な作品を制作しているといえば、荒川修作という想いがあったので、荒川の作品のコンセプトが「意味のメカニズム」らしいと思うや行きたくなって、GWの機会に訪れてみました。

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★同美術館の庭園には、川を挟んで、イサム・ノグチの2つの彫刻があります。川の流れが、2つを分離しているというより、共振させている感じなので、ここに立ち寄るとしばらく魅入ります。

★イサム・ノグチと荒川修作は二回りぐらい歳が違いますが、同時代人であるし、コスモポリタン的なところも似通っているし、実際空間のデザインという点で、それぞれパースペクティブや思想は違うのでしょうが、どちらも共感するアーティストです。

★学校空間を考えたり、実際S建設と協働した時など、フランク・ロイド・ライトやヴォーリズ、バウハウスだけではなく、この2人のアーティストに学びました。フランク・ロイド・ライトやヴォーリズ、バウハウス、イサム・ノグチは、実際に現地に見学にいったりしたのですが、荒川修作は、原美術館で鑑賞したぐらいで、全貌がわからず、書籍での情報で済ましていました。しかし、私学の教育環境デザインについて考える時、いつも荒川修作的着想がでてきました。もちろん、独りよがりな妄想です。

★そこで、「一挙公開」という表現に魅せられて、訪れたわけです。

★で、衝撃的でした。「言葉の意味」というのは、どことなく「病い」が影にちらつくので、ずっとそれを解体しようと、いろいろなテキストにチャレンジしてきたのですが、私が考えるまでもなく、荒川修作はそれをアートにまで表現していたからです。

★ドットやラインに分解したものが、最終的に二枚の絵(それぞれ50号くらいの大きさ?)にシンボライズされているのです。膨大な意味を生み出す諸関係の分解の集積の後に、あっという間に一つの意味に収束するのです。

★最後の2枚から逆走すると、「意味の病という執着・固執」が解体される程の諸関係が氷山モデルさながら、水面下を可視化しているのです。

★パートナーである詩人でアーティストであるマドリン・ギンズとの共創でもあるので、言葉とアート作品の境界横断的な時空が広がっていました。

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★特に説明もなく、英語ばかりでしたから、あとで図録を購入すればと思っていましたが、図録は用意していないのだと。もっとじっくり見るべきだったと反省。お盆休みにもう一度訪ねようと。ショップで「三鷹天命反転住宅 ヘレン・ケラーのために」という作品の図録的な書籍があったので、購入して美術館を去りました。

★「ヘレン・ケラーのために」という表現が妙に気になっていたから、購入したのですが、読み始めて、なるほど「意味のメカニズム」が荒川修作の全作品のコンセプトでもあるのかもしれないと。そしてそれがなぜヘレン:ケラーなのか。夏訪れるまでに考えてみようと思います。

★何せ、ラウンドスクエアが、バラザミーティングを開催するのですが、そのバラザの時空を表現する時に、ヘレン・ケラーの言葉が引用されているのです。

★コンセプトというのは、学校空間やWSの空間では、建学の精神の住まう時空です。荒川修作の「意味のメカニズム」という書籍でありアート作品は、この建学の精神の住まう時空の読み直しのヒントになる予感がしているのです。

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2023年5月 5日 (金)

変わりゆく世界(01)思考力を育む時代を編集する3Fチームの登場

★昨年9月に黎明書房から「思考力を育む教育方法」という書籍が出版されていました。編著者は秋山仁先生、浅沼茂先生、奈須正裕先生です。他の著者に文部科学省の課長、校長、現場で活躍する教師など参加しています。編著書も合わせて総勢14人で執筆されています。

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★思考力に対する何か新しい考え方があるとか、総合学習や探究の学びの方法について新機軸があるというわけではないかもしれませんが、大学の先生と文科省と校長と現場の教師の思考力に対する考え方の共通点や違いが見えてとても興味深いですね。

★世の中には、教師一人ひとり違いがあるのに、十把一絡げというか粗暴な一般化をして、批判をする方も多いですね。でも、この本に限らず、創意工夫をしている教師のほうが圧倒的に多いのです。

★また、教育について語っている人々に対し、今まで語られてきたことしか語っていない、もっと新しいアイデアでないと意味がないという方もいます。1学年80万人から100万人強いる児童・生徒全員の未来を、今ここの中に見出そうとしている教師に向かって、毎日新しいことをやれとプレッシャーをかけることが、児童・生徒にとってどんな成長の効果があるのかちょっと考えただけでも、すぐにおかしいということがわかります。もちろん、現場と共感を生むアドバイスは、プレッシャーにはなりません。しかし、コンサルタントや新しいことを引っ張る教員がいて改革がうまくいかない場合は、プレッシャーになっています。

★このようなコンサルタントや教員を校長がかかえたら、その学校は彼らが望んでいるようなフラットでフリーでフラタニティ―な組織(3F組織)はできないというパラドクスに陥ります。なぜなら、そのようなコンサルタントや教員は、学内の教員にプレッシャーを与え続け、3F組織とは真逆の組織にしてしまいます。当然そうなっては困るので、現場は動きません。

★権威主義的で横暴で合理主義的な抑圧組織に反転するのを阻止するのは、健全です。

★ICT使えば3F組織ができるかというと、油断すると管理的・監視的な組織になるのは、実はリスクマネジメントの重要な要素でしょう。

★安心安全な状況を創れば3F組織ができるかといえば、油断すると自分たちでは何も考えない、コンサルタントやリーダーの言うことを素直にきく無気力組織になるのです。無気力だ無気力だと鬼の首でも取ったようにコンサルタントやコンサルタント側の教員が愚痴をこぼすケースも多いですが、それは教師が生徒は勉強しない集中しないと愚痴をこぼす時と同じで、無責任で上から目線で隔靴掻痒なアドバイスしかしていない自分たちに問題があるということに気づいていないことが多いわけです。

★だから、私は自戒も込めて、教師や生徒がダメなんだという見方をせずに、その先生の授業や生徒との対話の仕方を参与的傍観者の立場で眺め、本当に危険な時以外は、こんなところがいいし、ここにつながるし、結果的に世界を変える利他主義になるかもねと投げかけます。それで、木には登らないよと言う先生もいるし、実はこんなこと考えているんですと創意工夫の計画を話してくれる先生もいます。地道ですが、それを続けていくと3F同僚性ができてくるものです。経験上の話にすぎませんが。

★その先生の計画アイデアは、たしかに新しいものではないかもしれませんが、その先生にとっては、自分の経験からmyセオリー化したものです。それはオープンな関係の同僚性があれば、ourセオリーになるし、勇気を出して公開授業や公開研究で発表して、大学の先生方からフィードバックをもらい洗練を続ければworldセオリーになっていきます。

★こういう<myセオリー→ourセオリー→worldセオリー→シンmyセオリー→・・・>という循環を生み出すつまり互いにエンパワーしていく3Fチームに相当するのが、同書の14人の執筆者の関係性でしょう。もちろん、学校のように一つの場所に常にいるわけではなく、この本を執筆するためだけに参加したという方もいるでしょうが、この本を編集するプロジェクトとしては、現場の学びの経験をセオリーエンパワーメント循環できる3Fチームだったのだと思います。このチームをファシリテートしたのは、もちろん監修した3人の大学の先生で、そのサポーターは編集者というメディアです。

★メディアも、新聞のような場合は、学校のネガティブな側面を報道することが多いですね。批判的精神で書いているし、一般化して語っているのではなく、あくまで事実であり、ピンポイントで語っているのですが、読み手の方では、一般化して、教師とは学校とはみなそうなのだと誤謬する場合があります。

★そこから推論の梯子よろしく、我が意を得たとばかり論じるコンサルタントや教員もいます。

★しかし、一方で同書のような書籍としてのメディアは、日々の教師の授業という経験の中で創意工夫しているケースを吸い上げます。そして大学の先生が、それをセオリーに展開していきます。この相乗作用が、現場と大学で循環するように編集しているのが同書のような編集者ですね。

★もちろん、編集者によって、同書のように現場の先生方をエンパワーメントしようとするパーパスを持っているとは限りません。ICTをつかった斬新なイノベーションを起こすことで世界を変えようとするパーパスなどをもった編集者もいるでしょう。それが3Fチームを生み出して現場の先生方のエンパワーメントにつながっていればよいのですが、そうでない場合もあります。

★そういう意味では、この「思考力を育む 教育方法」の編集者は、3Fチームを創発する活動であると思います。このような児童・生徒の思考力をエンパワーメントするダイナミズムを生み出す編集はすてきです。

★意外と、同書のような包括的な思考力とそれを現場で取り組んでいるケースに焦点をあてた編集はなかったような気がします。どんどん増えることを期待しています。

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2023年5月 3日 (水)

変わる私立中高(19)世界を創るリーダーがスタートラインについた感じがする

★今週月曜日、啓明学園で研究会がありました。聖パウロ学園の校長小島綾子先生も参加していました。久しぶりと言いつつも、私が学園から離れて1か月も経っていないのですが、その間に学園は大きく発展しているのです。驚きでした。私は言っていただけですが、小島校長の実現化のパワーは見事です。小島校長の描く新次元のパウロの教育環境がどんどん広がっています。

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(左から小島校長、高橋国語科主任。私が在任中のときに撮影)

★この新次元構想は、パウロという学校づくりということもありますが、建学の精神にもとづきつつも生徒1人ひとりの世界を生み出す教育環境づくりということです。それぞれ違う世界を広げ深堀していきながら、その世界はやがて大きな化学変化を生み出し、一つのかけがえのない地球を持続可能にする世界観を生み出すでしょう。

★お会いして話した時に、すぐに自然と社会と人間の精神と超自然的インスピレーションが統合というより核融合する感じのインパクトを受けました。

★さりげなくキャリアアッププログラムの一環としてのボランティアを生徒と共に実施してきたばかりだけれど、そこで生徒は過疎の問題意識を引き受けてきましたよと。根源的な問いを内面に生み出した生徒への校長の眼差しには、遠くの出来事を美しく見ているのではなく、近くの出来事に根源的に大切なものを見出すセンスを生徒と共感する温かくも神聖な光が輝いていたのです。

★今の生徒は、問いが立てられないとか、興味関心をなかなかもてないとかいう話は結構世の中で語られていますが、パウロの生徒はそんなことがないのです。なぜなら、いろいろな体験を通してコペ転をするというのが思考のルーチンだからです。聖パウロ自身、自らがキリスト教を迫害する側から、あるとき改心しキリスト教を布教する広報部長として世界にその精神をいまも広める超自然的なエネルギーを生みました。

★パウロ生は、ことあるごとに、リフレクションして自分のものの見方・感じ方・考え方を変換させていきます。そのために、多様な体験を年計で決めるだけではなく、変幻自在に外部とネットワークをつくって新しい学びの空間を創っていきます。

★この稼働力に卓越しているのが、小島校長や国語科主任高橋先生です。もちろん二人だけではなく、パウロの教師の<考動力>と<パッション>は凄まじいのです。そうそう、忘れてならないのは、生徒がまた凄いんですけどね!

★私はダイヤモンド富士にならって、ダイヤモンドパウロ生と呼んでいます。なぜって、パウロに入学する生徒は、中学時代の内申でいえば、5科平均3なのです。中学受験の偏差値50は、日本の同学年100万人のうちの10万人の母集団の話ですが、高校入試の偏差値50というのは、100万人が母集団です。

★ですから、パウロの生徒は入学時、全国の生徒を母集団とするベルカーブの頂点に位置しています。そして、小島校長率いるパウロの先生方が生み出す教育環境デザインによって、光りを放つのです。ダイヤモンドの価値よりももっと価値ある輝きです。ですから卒業時には、生徒本人が驚くほど変容しています。

★中学時代、自分の才能の芽にまだ気づいていなかった生徒がパウロの森の命の息吹の中で、発芽し開花していきます。小島校長が新しい企画を生徒と策定し運営しているものの一つに「森の教室創り」というのがあるのも、当然ですね。

★もちろん、先生方の努力や情熱は並大抵でないことは言うまでもありません。若い先生方は仲間と対話しながら、小島校長と対話しながら、常に新しい活路を見出していきます。その活路は常に新しいのは、生徒は1人として同じ存在者ではないからです。

★若い先生方は、時としてあの生徒は昔のあの生徒のタイプですねと語る時があります。その話が耳に入ってきたとき、私はシメたと思います。先生方がまた成長するし、その生徒の飛躍もすごいものになるからです。

★数日して、その先生は同僚にこう語ります。いや全然違っていた。タイプを当てはめることはできない、それは危ないと気づいたよと。私は、そのたびに聖パウロに祈ります。ありがとうパウロ。私たちはあなたが言うようにときとして生ぬるけれど、熱いか冷たいかはっきりしたとき真理が降りてきます。その瞬間を与えてくださってありがとうと。

★小島校長は、この機会を教師にも生徒にも仕掛けていく卓越した教育環境プロデューサーでもあります。多くの見識者や地域の方々が彼女を応援しているというか、彼女の世界に巻き込まれていきます。

★そして、啓明学園に参加した先生方も、小島校長に劣らず教育環境プロデューサーだなと感じます。研修会に参加するたびに、小島校長のような生徒が物理的精神的両面の世界を生み出す教育環境プロデューサーであることに気づき感動します。

★生徒の生み出す世界はいろいろな世界であってよい、いや、それがよいのですが、その多様な世界は必ず化学変化を起こし大きな世界を生み出すでしょう。それが「世界制作」というものです。多様な懸念や不安はあります。AIにしてもそうです。その不安を無視するのではなく、小島校長のような教育環境プロデューサーは、逃げずに、それを引き受け、前に進みます。その気概の持ち主が、私立学校では増えてきています。

★2023年は、世界を創るリーダー(校長に限りません)がスタートラインについたと感じる今日この頃です。善玉メンタルモデルを駆動させるリーダーが増えることは実によいことではありませんか!

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変わる私立中高(18)美術の取り組みが世界を変えるゆらぎを生む

★昨日、世田谷学園と日本工業大学駒場の美術の先生と対話ができました。対話といっても、あくまで私は立ち会っただけですが。東京私学教育研究所がサポートする「芸術体育系教科研究会」の「美術」の委員会だったからです。先生方と所員が、今年度の委員会の研修会やワークショップなどの事業計画策定の会議にお邪魔するという程度のものです。しかし、聴いているとワクワクしてきたわけです。

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(写真は、日本工業大学駒場のサイトから)

★両校とも進学に力をいれて、実績も毎年向上させているわけですが、氷山モデルでいう見える学力を支える生徒の才能や共創意欲のような資質・能力が生成される源泉は美術の取り組みなのだなあと。

★よく、AI時代は哲学が大事だとか文化人類学だとかいわれますが、それを生徒全員が学ぶ機会は今の学校カリキュラムでは現実的ではありません。しかし、最近の美術の取り組みは、アート思考とかデザイン思考とかSTEAM教育とか、現代美術をわかりやすく構造化した学びのプログラムが包括されています。

★これだと中高一貫校の場合、生徒全員が参加できるなと改めて思ったのです。

★先生方の話は、さまざな美術の領域―たとえば映像やモノづくり、工芸、版画、彫金、油絵、ロゴづりなど―のテクニックや素材の作り方など多岐にわたりましたが、いずれも、最終的に一人の没入世界や共創の中で、自ら振り返り変容している自分や仲間に気づいたり、アンコンシャスバイアスに気づき自分の考え方が転換していくような目に見えない世界をいかにカタチにするかという挑戦なんだということが了解できました。

★内的空間の変容を物質以上のなにものかとしてカタチに反映した時、新たな世界が生まれてくるなあという実感を抱くことができました。

★このような内的空間の変容が広がり、それがカタチとなる世界はf分の1のようなゆらぎを生み出し、そのゆらぎが共振を生んでいくのでしょう。

★同委員会の研修やワークショップの企画は、これまでも他教科の先生も巻き込んでいくものです。美術教育センターのような広がりが生まれるのではないかと。もっとも、お二人の先生は脱中心、ボトムアップを好むので、センター構想とは別のものになるでしょうが。つまりそれこそ新しい動きですね。ワクワクしたのはそういうわけです。

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変わる私立中高(17)八雲学園のすばらしさを受験生・保護者が知った時、日本の教育は本当に変わる

★30年ほど前、ケイトスクール(全米でも相当なエスタブリッシュスクール)が、日本の私立学校を視察して回り、姉妹校を探していました。そのとき、自分たちが求めている教育がここあるとピンと来たのが八雲学園でした。ケイトスクールはそのあとラウンドスクエアの加盟校になり、その後八雲学園も加盟校にいたります。このエピソードに日本の教育が変わる方向性が見えています。

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(ラウンドスクエア交換留学プログラムを活用して、トレバー・デイ・スクールからやってきた留学生。写真は八雲学園サイトから)

★ケイトスクールが八雲学園を発見した時、自分たちの教育とシンクロすると感じ、さらに両校がその後ラウンドスクエアに加盟します。ラウンドスクエアの世界の180強の私立学校が、高い使命感とグローバルリーダーを育成するハイクオリティー、ハイパフォーマンスの教育環境をデザインしている点でシンクロしているわけです。このネットワークはラウンドスクエア交換留学プログラムや国際会議に集結してバラザという対話を行うなど、ものすごいネットワークです。生徒の未来のかけがえのない価値・財産であることを想像するのは難しくないでしょう。

★ラウンドスクエアの交換留学プログラムはすべての加盟校に開かれていて、ある加盟校から八雲に行きたいという生徒がいたら、八雲は躊躇なく受け入れ、受け入れたらその加盟校に八雲の生徒は留学することができるようになります。逆に八雲学園があの加盟校に行きたいと願えばかなえられるます。そしてその加盟校からまた留学生がやってくるのです。

★ですから、年間計画では予め立てられない交換留学が頻繁にやってくるし、八雲からも頻繁に行くわけです。学校という組織で、年間計画にないことを柔軟にやっていくということはなかなか難しいのですが、それが相互にできること自体奇跡です。変化に強いラウドスクエアということでしょう。

★昨年も6週間、トレバー・デイ・スクールから留学生がやってきました。彼のプロフィールがまたすごいのです。彼自身はこう語っています。

 「私はネパールで生まれ育ちましたが、2015年に家族とともにアメリカに移住しました。私は自分を、好奇心旺盛で冒険好きな性格で、人生で提供されるすべてのことを学び、経験したいと願っています。私の趣味は、バスケットボールの観戦やプレイ、本を読むこと、そして音楽(ラップ、R&B、J-pop)を聴くことです。私はマクロ経済学とファイナンスについて学ぶことに大きな関心を持っています。将来は、ウォール街で投資銀行家になり、J.P.モルガンやゴールドマン・サックスといった世界有数の銀行で働きたいと思っています。

これまで、フランス、ロンドン、イタリア、マレーシア、シンガポール、トルコ、ドバイ、カタールなど、多くの国を旅してきました。しかし、私がいつも行きたいと思っていたのは日本でした。幼い頃から、日本の文化や歴史に触れてきました。父や祖父も、過去に何度も日本を訪れています。ニューヨークでは、暇さえあればワンピースやナルト、ドラゴンボールZといった大好きなアニメを観ていました。好きな食べ物はいつもラーメンで、着物や武士の歴史、芸術や書道など日本の伝統的な文化も好きです。」

★どうです。学校がグローバルなだけではなく、生徒自身がすでにグローバルな生活をしているわけです。八雲学園の生徒がラウンドスクエアの加盟校の生徒と結びつくということの広がりと深さがお分かりいただけるでしょう。八雲学園の生徒がサンタバーバラを拠点に様々な研修プログラムを体験するのは、このような留学生を迎えるにあたり、自分たちのグローバルマインドやスキルを体得している必要があるからです。はじめは姉妹校ケイトスクールを受け入れるところから始まりました。次に年中行事になっているイエール大学の学生とコラボした音楽会の開催を実現しました。そしてラウンドスクエア加盟で、一挙にグローバルネットワークが広く深くなったのです。

★さて、トレバー・デイ・スクールの学校紹介動画がYouTubeにアップされています。まずご覧ください。

→Trevor Day School - Ambitious Academics, Engaged Students, Balanced Lives

★八雲学園の教育シーンと重なります。八雲学園とはこのような学校なのですといっても過言ではないのです。

★つまり、ケイトスクールだけではなく、ラウンドスクエア加盟校すべてが姉妹校なのです。そして、なぜ姉妹校に八雲学園を選んだのか?動画を見て頂いておわかりのように、長時間机に向かって東大に合格するための勉強をしている学校に、自分の学校の生徒を留学させても、そもそも東大を目指していませんから、その勉強はアンビシャスではないし、冒険や社会貢献に熱心になる体験ができませんね。やはり知性と感性と論理と倫理と創造性のバランスの取れた教育環境デザインをしているところであることが必要だったのです。

★そして、それが世界のエスタブリッシュ学校が求めている教育だということです。

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2023年5月 2日 (火)

変わる私立中高(16)工学院のすばらしさを受験生・保護者が知った時、日本の教育は本当に変わる

工学院大学附属中学校高等学校(以降「工学院」)の毎日のように更新されるブログをご覧いただきたい。日本の学校とは思えないけれど、海外から見れば桃源郷のような日本の学校です。最近のブログは、2023年3月、アメリカ、カリフォルニアにあるFlintridge Sacred Heartに留学した生徒からのメールが載っていました。ラウンドスクエア(RS)の交換留学生のシステムを使ったようです。RSのシステムは、彼女の世界観や価値観を大きく変えたようです。ぜひご覧ください。

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(3カ月留学から帰国した時の工学院生。写真は同校サイトから)

★カリフォルニアのシークレットハートは、漢字にすると聖心ですが、聖心会ではなく、ドミニコ会のカトリックの学校です。20年以上も前に、当時同僚だったO先生らと視察に訪れました。日本人の生徒が2人くらいいて、キャンパスを紹介してくれました。そして、教育の中身もまるで広報部長のように、さらに教師と生徒の理解がどのように内面を作るのか詳細に話してくれました。

★もちろん、英語も堪能でしたから、トリリンガルでした。将来は、バイオ心理学系に進みたいと語ってくれていました。すでに文理融合的な進路でした。

★当時、米国とイギリス・フランスの学校をリサーチして、これからの日本の学校や教育のイメージを創りに行っていたわけですが、パロスバーデスのチャドウィックスクールとこのシークレットハートは、私のこれからの学校像の1つとなっていました。

★昔話で申し訳ないのですが、いいたいことは、工学院のイメージはその2校を超えるものがあるということなのです。

★チャドウィックスクールは当時米国でPBLを行うクレージーな学校と言われていました。校長たちは、でもスタンフォードもハーバードもたくさん入るし、クレージーいいじゃんと。ジョブスが、クレージーが世界を大きく変えてきたという宣伝ビデオをとっくに流していたので、校長もそのノリでした。当時のパソコンルームはマックがずらりでしたね。

★シークレットハートは、いまでいうマインドフルネスベースの対話が溢れている学校でした。

★どちらの要素も工学院にはあります。さらにICTはもっとレベルが高いでしょうし、国際舞台で活躍する生徒もたくさんいます。オーストラリアをはじめ、海外に出かけて学ぶプロジェクトも豊富です。エッセイライティングや論文作成も本格的です。世界大学100位以内の大学にも入ります。

★この間、超忙しい工学院の先生方3人に頼んで、これからの日本の教育に必要な本質的な点についてディスカッションしました。30分という時間限定でしたが、すでに多くの知のデフォルトがあるので、いきなり根本的なところから話すことができたのです。いちいちわかりやすく説明しなければという心配はまったくないのです。そこは共感しますよ、進みましょうよという雰囲気なのです。

★意思決定が速いのもグローバルな学校の条件だなと感じ入りました。

★私が聖パウロ学園の校長だったころ、迷えばすぐに工学院のT先生に教えを請いました。昔も、今も、これからも感謝してもし尽くせません。

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変わる私立中高(15)啓明学園に集う。プロジェクト学習における評価方法に挑戦する私学の先生方。

昨日5月1日(月)、啓明学園で研究会がありました。多くの学校の先生方が集まりました。同校の建学の精神と世界の根源的な問題を広く深く学んでいく探究の公開授業があったのですが、共通の関心を抱いている私学の先生方が多いのに感動しました。まず大坪校長の同校の建学の精神と教育のビジョン、続いて東京私学教育研究所の平方所長の同校のような新しい挑戦の意義が語られ、研究会の最後には夏坂理事長の企業と学校の人材育成の共通点などのお話がありました。かなり大きな世界の動きの枠組がセットされ、その最前線で啓明学園の教師のみなさんが使命を引き受けて教育に立ち臨んでいることが了解できました。

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(ディスカッションは啓明学園の教育のベースです。写真は同校サイトから)

★同校の教員のナビゲートにしたがって研究会は進みました。まずは、同校の探究の背景やその成立のプロセスのレクチャーがあって、その後高1と高2の授業公会でした。高1は「平和」についてというコア概念を生徒がどのように理解していくのかその広がりと深堀が生まれ出でるディスカッションが公開。

★高2は、自分たち自身がどのような課題設定をするのかパフォーマンス型の問いの創出のためのディスカッションでした。

★同じディスカッションでも、高1は、まず3人の教師がそれぞれキーノートスピーチをするところからはじまりました。高2はいきなりディスカッションです。探究の授業を系統的にプランニングしているので、生徒の学習の発達段階に適合するように考案されていることが了解できました。

★その後、授業へのリフレクションが、参加者をグループに分けてディスカッションをするワークショップ形式で行われました。相互に情報交換をしたうえで、質疑応答という仕掛けですが、当然これは生徒の探究の授業においても行われている仕掛けでしょう。参加した先生方は、授業見学だけではなく、授業にも疑似的に参加できたので、当事者意識が生まれていました。

★そのうえで、教育方法学が専門で、教育評価に関してもいろいろなところで講演されている東京学芸大学の小山英恵准教授のまとめのコメントがありました。

★ディスカッション、その時に活用される概念マップやノートテーキングなどの学習ツールの有効性などについて語られたあと、生徒のインタビューのデータの質的研究の仕方についてアドバイスがありました。探究の授業はパフォーマンス型課題を設定することによって、本質的な問いと生徒自身の内側から生まれる問いのスクランブルになります。そしてさらにディスカッションすることによって間主観性の世界が広がります。

★客観的な知識を理解するだけではなく、生徒自身の生活=人生そのものを捉えかえし、それがディスカッションなどにより他者との理解を広げ深めていく世界作りにつながっていくのですが、それは独りよがりでも誰かが与えた客観的な物でもなく、互いの主観がインターサブジェクトとして生きる世界を創り上げていくわけです。

★その正当性、信頼性、妥当性、適合性をどのように評価するか。これは定量的にはなかなか見出すことができないので、質的研究(質的調査)が必要なのですが、まだまだそれは、現場で確立されていません。

★しかし、小山先生のコメントは、啓明学園で行っているインタビューやアンケート調査は、そこにチャレンジしているのだということを示唆しているようでした。そして、そこに参加した先生方も興味と関心があったように思われます。

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2023年5月 1日 (月)

変わる私立中高(14)偏差値による垂直的序列主義が崩れる発想の転換が起きている。

★ここにきて、東京の私立中高の教育環境デザインの主要素7つは、すべての学校が揃えたと考えてよいかもしれない。先週土曜日中央大学附属中高(中附)で開催された研究会に参加した学校は男子校、女子校、共学校など多様で、質疑応答のシーンで、これから学びたいというよりは、同じように探究などに取り組んでいるのだが、この点はどう対応しているかなどの問いで溢れていました。

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★つまり、中附の教育の主要素に関しては共通しているが、進捗状況や課題解決の方法、アウトカム等々の質の違いがあるということだと感じました。プロジェクト学習のシナリオ作りはどうしたらよいですか?ではなく、シナリオづくりのこんな点が違うのですが、その点についてコメントをいただきたいという感じです。教師がファシリテーションをするのはわかりますが、なかなかシフトできないのですが、アドバイスいただけないですか?とか。海外研修はうちも当然実施していますが、新しいアプローチはないでしょうか?とか。

★つまり、上記の図のように、

①プロジェクト型授業

②多様な体験

③AIミックス学習

④多様なグローバルプログラム

➄高度な英語力

⑥対話の質

⑦生徒の成長

★この7つの教育環境デザイン項目は、どこの学校もなんらかのカタチにしているのです。したがって、こんなプロジェクトやってますとか、こんな体験していますとか、AI使っていますとか、海外研修やってますとか、高度な英語力を身に付けるプログラムを備えていますとか、グループワークなど対話を取り入れていますとか、生徒が豊かに成長していますとかだけでは、学校選びはなかなか難しい世の中になったのです。

★どうやら、それぞれの項目の質やレベルなどの違いがわかる基準が必要になってきたようです。首都圏模試センターの「思考コード」や中附の先生方が一丸となって開発した「chufu-compass」などがヒントになると思います。

★さて、この7つの諸要素の関連が化学変化を起こすわけですが、その結果何が起こるのか、すでに起きているのですが、たとえば、大学進学実績の東大の価値が変わるのです。

★どういうことか?それはすでに確実に起きているのですが、上記の7つの諸要素の化学変化を起こす動きによって、どの学校からも世界大学ランキング100位以内の大学に進学することが可能になったということです。

★東大だけが目標だと、入学者は3000人強ですから、たしかに競争は激しく、垂直的序列ができてしまいます。ところが、どこの学校からも世界大学ランキング100位以内の大学には入れるようになっているのです。たとえば、東京だけで私立中高一貫校は180強あるわけです。それぞれから3人ぐらいは、世界大学ランキング100位内の大学に入る潜在的可能性があります。すると、東京の私学から500人以上が東大以外の世界大学ランキング100位以内にはいれるわけです。それにおそらく3人どころではないでしょう。10人くらいはいける能力が十分にある環境が揃いつつあります。すると1800人は東大レベルの大学にはいれるわけです。

★実際に受験するかどうかはわかりませんが、少なくとも東大レベルの大学にはいるチャンスが広がるわけです。

★相対的に実質的に東大偏差値の価値は低くなります。そしてこの低くなることは何も東大の価値が下がることを意味するわけではないのです。ただ垂直的序列主義の価値観を崩す発想になるということなのです。

★日本の人口は減る一方です。母語は歴史的文化的に保護しなくてはなりませんが、日本語を話す人口はますます減るのです。アフリカのスワヒリ語は1億人が使っています。アフリカの人口は増えるでしょうから、グローバルサウスの時代、少なくとも日本語よりも注目される言語になっていくでしょう。

★母語を守りながら、世界言語を学ぶのはもはや必須の時代でもあるわけです。すぐれた世界対話力が求められている時代であることは、今回のウクライナ問題で私たちは身に染みて了解しているはずです。

★垂直的序列主義から水平的多様性へシフトすることが世界の平和や安全、つまりはウェルビーイングを生み出すことにつながることになるでしょう。上記の7つの項目がつくる教育へのシフトは、学習指導要領が変わるからとか大学入試が変わるからとかという理由もあるでしょうが、どうやらその背景にある世界の価値の転換にシンクロしているのかもしれません。

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