2024年大学入試(01)「女子枠」が示唆するコト
★毎日新聞2023年2月21日の記事<「偏差値下がる」批判も一蹴 大学入試の「女子枠」なぜ必要?>の上野千鶴子さんのコメントは極めて重要です。同記事は、こう始まります。「大学入試で「女子枠」を設ける動きが広がっている。背景には、理工学系に進む女子学生が少ないことや、日本の産業界が抱える危機感があるが、女子学生をいわば“優先的”に入学させようという取り組みには「不平等」との声も一部で聞かれる。なぜ今、入試の「女子枠」が必要なのか。」
★ジェンダー問題を解決しようという背景とテクノロジー分野などにおけるイノベーティブな高度人材不足という背景があるということですね。産業におけるエシカルな問題と技術革新能力問題があって、この両方を解決しようとすると、能力主義的エンハンスメントのジレンマが当然出てくるし、アファーマティブアクションは当然逆差別問題が起こる。
★こういったジレンマは、本当は想定内のはずなのに、なかなか議論が進まないのが日本の「文化」にあるアンコンシャスバイアスだということでしょう。
★上野千鶴子さんは、次のようにコメントしています。
ジェンダー研究の専門家はどう見ているのか。社会学者の上野千鶴子・東大名誉教授は「アメリカの大学では、選考する学生の出身階層、人種、国籍、ジェンダーなどのバランスを勘案して多様性のあるキャンパスを意図的に作り出している。それによって大学のパフォーマンスが下がったということはなく、むしろ上がっている」と指摘する。
また、子どもの学力は親の経済力に大きく影響されることがデータで実証されており、上野名誉教授は偏差値競争の公平性自体にも疑問を投げかける。
上野名誉教授は「女子枠は時限的な取り組みで、その間に受験した男子生徒は相対的に不利にはなる。ただ、女性たちが長年、相対的に不利な状況に置かれてきたことも見逃すべきではない。女子学生たちも、『この時期に女で生まれてラッキー』と開き直るくらいの気持ちを持ってほしい」と呼び掛けている。
★国際的な解決策をちゃんとエビデンスとして持ち出しているし、レトリックはともかく、過渡期における相対的な不利を共時的にではなく、通時的に解決しようという説得もおもしろいですね。
★しかし何より、偏差値競争という垂直的序列主義こそがアンフェアではないかと指摘。
★ジェンダー問題の根本には、基本的な公平性の問題があるのだけれど、「女子枠」だけ論じていると背景にあるアンフェアーの意識を見えなくし、あたかも解決する希望の1つとして映し出してしまところに警鐘を鳴らすあたりが上野さんらしいですね。
★しかしこの問題は、WHOや人間の安全保障を保守する各機関では、すでに論じられていて、さらに次のステージに進んでいます。昨年は、1972年にローマクラブが発刊した「成長の限界」の出版50周年でしたから、当時の世界モデルをアップデートして、5つの領域の劇的な解決アクションで「Earth for All:万人のための地球」はなんとか救われるのではないかと提唱。
★その5つの項目のうちの1つがエンパワーメントで、エンパワーメントする主語の1つがジェンダー問題です。女性をエンパワーメントすることによって男性も取り残されないようにする社会的関係性にもちゃんと目配りしています。
★システムダイナミクスによる科学的計算予測とそれを想定するシステム思考によって、解決する思考プロセスは、「女子枠」と「その背景にまだ依然として残る偏差値主義」の矛盾を解決するヒントを提示してくれています。
★このローマクラブをはじめとする国際機関の提案は、すべてSDGsに直結しています。日本の産業界や教育界は、SDGsを大いに取り扱っています。しかし、「女子枠」を考える際にそこに結びつけることをまだまだしていませんね。
★PBLなどで社会構成主義だとか語っているのですから、国際社会が邁進している新しい地平に共に迎えるはずです。
★超「女子枠」にするにはどうしたらよいのか?たとえば、知のエンパワメントとして、すべての高校卒業生に大学入学が可能な制度に変えてしまえばよいわけです。「小出し」政策ではなく、「劇的=ムーンショット計画」である必要があると思います。少子化問題も解決です。
★たしかに、偏差値は下がりますよね。でもそれは能力ではないでしょう。母集団の規模の問題にすぎないでしょう。それに偏差値以外の多様な基準が当然必要です。一般選抜もやめてしまえばよいのでは?偏差値は客観的だから公平だなんていう偏見はそろそろ変えたほうがよいでしょうね。
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