高校現場の2月・3月 卒業式、入学式、外部研修旅行などを通じて、目標到達度と改善と次年度・中期アクションプランを集約するシーズン
★勤務校の今年の2月・3月は、制約付きというものの新型コロナ感染対策を状況に応じて部分的に緩和しました。昨年秋までは行事がなかなかできなかったため、2月3月に延期した行事やチャレンジングな新しい行事などを行ったため、卒業旅行、卒業式、入学式準備と重なり、クリエイティブテンションが高まったシーズンとなりました。これは勤務校に限らずどこの高校もそうだったでしょう。
★勤務校の校長としてこの2年間教員と共に立ち向かったのは、目に見えないパウロの教育のリソースを全開することでした。ですから、外から眺めているとなかなか気づかなかったと思いますが、説明会に参加した受験生・保護者は、その様子を肌で感じて、その場で、決めましたと語ってくれるケース多かったのです。3月2日に都立高校の合否が判明し、併願の合格者の入学人数がはっきりし、目標人数の新入生を迎えることが決まりました。
★そして、その日は、勤務校の全日制の卒業式でした。新入生の人数は予定通りの目標をクリアし、入学式の準備もしながらですが、その日ばかりは卒業生と共に3年間の学校生活のプロセスをそれぞれ思い起こし、未来へのエールを贈りました。
★それにしても、新入生を迎えるにも、卒業生を送るにも、共通していることは教育アクションの質であったことは言うまでもありません。新入生は、このような教育なら、教師がいるなら、先輩がいるなら、輝いて学園生活を送れると期待を持ってくれるし、卒業生は、3年前と今の自分を比べて、大きく変わった成長したという実感を抱きながら、巣立っていきます。
★先生方は、あらゆる機会で、生徒が主体的に活躍できる機会をデサインしています。主体的になるには自由が必要ですが、その自由が独りよがりのものではなく、利他主義も満たすものであることは、勤務校のカトリック精神でもあります。
★ですから、自由なんだけれど、規制ではなく、その自由をより強固で真理に近づくものにするためにハードル設定のデザインを先生方としてきました。企画を生徒が協働して行うのは当然ですが、それがカトリック精神に従うものであることは、生徒はみな知っています。しかし、意外とリーガルチェックのリサーチが足りないので、部分的にはねのけられることもしばしばありました。その最終判断は私がするのですが。
★18歳成人ですから、リーガルマインドはトレーニングする必要がありますが、机上の勉強ではなく、チームでアクションを起こす時に、必ず起こる葛藤をいかに解決していくかは、単純にコミュニケーションをうまくとったり、ホウレンソウをしっかりしたりしただけでは、まだまだ不足なのです。
★起業家的な探究活動も、「リーガルチェック」と「資金調達の方法と経営の仕方」については、ちゃんとやる必要があります。先生方や生徒会のメンバーが相談に来るのは、その2点がほとんどです。組織マネジメントや人材育成の話も当然議論になります。
★そして、カトリック学校ですから、リーガルチェックは、実定法上のチェック以外に自然法論的なチェックもするのです。自然法論まで考えるようになると、すごいけれど、そう簡単ではありません。勤務校の生徒が国立大学の法学部などを受験しようとすると逆にここは問われるので、アドバンテージは高いのですが、現状の勤務校から東大や京大はまだ受験しないでしょうから、進路選択には直接役立つことはないでしょう。
★資金調達や経営に関しては、国公立私立大学どこの経済学部経営学科を受験しようと、市場の原理における配分問題にぶつかります。規制か規制緩和か、その理屈を自分なりに形成するところは先生方はサポートしてきました。
★建築家になりたいという場合は、コルビジェやミース・ファン・デル・ローエやフランク・ロイド・ライトや日本の茶室や庭園などの近代建築における影響などについて対話します。もちろん、スマート・シティなどの都市計画の自分なりのアイデアをどこまで持っているかも対話になります。
★医療関係の場合は、日本にはないけれど欧米にはあるサマリア法について比較法学的な対話をしたり。
★探究などで視野を広め考えを深めるということは当然するのですが、9月以降は、高3生は、自分の専門領域で関心のあることについて深めていくわけです。私たちができるのは、ひたすら対話です。何か解決するというより、理想と希望を膨らましながらも、プラグマティックチェックも対話するわけです。
★哲学やカトリック系の大学を志望する生徒とは、宗教社会学と文化人類学、ケアの側面から心理学など多角的なアプローチをしますが、そのアプローチの前に、クロスクエスチョンで、思考のエンジンをふかします。未信者の生徒がほぼすべてですから、効果的な利他主義やリバタリアンとコミュニタリアンの比較などをしたり、カイヨワの戦争論をヒントに平和について対話をします。夏期5日間の集中講座ですが、クリエイティブテンションは持続可能なままです。
★問題解決というより、根源的な問題に気づくことを重視しています。学問的な専門領域にはいるというより、専門領域にはいって探究し続けられる問いのデザインができる素養は、根源的な問題に自分なりに気づけるかです。システム思考を通してメンタルモデルの転換を企てるわけです。
★もちろん、現段階での根源的問題の気づきは、まだまだ根源的ではないのですが、それでよいのだと思います。
★3月2日の卒業式、最後まで一人残って訪れてくれた生徒がいました。スクールバスはもうないよ、どうするのと尋ねると、パウロ坂を歩いてローカルバスで帰るから大丈夫ですと。僕との出会いは、正解のない問いをどう捉え返し、自分なりの仮説や主張、根拠を見出すか、それとパウロのビジョンを生徒側からどう捉えるのかという対話からでした。
★そして、毎夏、講習で伊東先生と私とでコラボしたWSに参加もしてくれました。最初のころは、違う進路でした。そのうちいろいろ迷ったらしいのです。その都度、ちょっと話したいとやってきていました。最終的には、いろいろ悩んでいる自分は、哲学的考察をしているのではないかと気づいて哲学の道に進むとディシジョンしたようです。
★私たちができるのは、専門領域の話ではありません。専門領域の最先端の成果を知ること等できないからです。しかし、そのような専門領域やその領域の最先端の研究に挑む素養をトレーニングすることは可能です。これはコンピテンシーやキーコンピテンシーでは、とらえきれない意識層です。
★欧米の私立学校の教育は、ここまで迫ります。ここまで洞察して対話するので、そのディスカッションもダイナミックです。日本の教育で、そこまで生徒自身が世界を深堀する学校は、少ないでしょう。
★勤務校もそこまでたどりつくように共に生徒と歩みますが、生徒が独り立ちしてその深層に光をあてながらディスカッションできるかというとなかなか難しいですね。毎週2時間くらい授業ができれば可能ですが。ただ、日本の大学入試がそこまでは求めていないので、よしとしようという言い訳をしていますが。
★しかし、その挑戦は2年前から始まっているのが勤務校です。理論的なことはあまり必要ないのです。教育理論は後付的なものが多いので、それより生徒と共に協力して新たな体験に挑戦することのほうが肝要です。そこで、根源的な問題や世界の痛みを体感したほうがよいのです。
★理論は大学で大いに学べばよいのです。中高段階では、デューイではないですが、1オンスの体験は、10トンの理論に勝るわけです。
★大学では、無限トンの理論が待っているので、そうなってくると体験だけでは新しい地平は開かれないのです。高等学校でできるのは、「対話」体験によって、根源的な淵に向かって洞窟を奥へ奥へ探索していくスリリングな知の冒険なのです。
★生徒自身が根源的な問題を発見したり、世界の痛みを引き受けたりする瞬間に立ち会うのが「対話」です。すぐに解決策など実務的な話をするのは、小論文の課題を解決するときには必要ですが、クリエイティブテンションを高め持続可能にするには、根源的な問題を発見したり世界の痛みを引き受ける覚悟をシェアできるという意味での心理的安全性が形成できるかにかかっています。
★オープンマインドでフェアでフリーな状況を創ることが心理的安全性を生み出すことに必ずしもならないのは、根源性への眼差しや引き受ける覚悟が生まれてこない限りは、不安は解消できないものだからです。
★1月末から、1学年のスキー教室に付き添いました。2月には2学年の修学旅行に付き添いました。そこで学年の教員チームが、生徒と共に根源的な問題発見や引き受ける覚悟を体現していく構えを見ることができました。
★そして、3学年に対し、学年を超えて生徒や教員が共にサプライズ企画を立て、愛されるより愛する行為を体現している姿に立ち会えました。パウロの森には鹿もいます。イノシシもキツネもハクビシンもタヌキも野ウサギや野ネズミもいます。生態系の循環を持続可能にする役割を引き受けながら生息しています。しかし、パウロの森に入り、キャンプでもしなければ、彼らに会うことはできません。
★それと同じようにパウロの森に囲まれたパウロの教育は、静かな情熱があふれるウェルビーイングの泉がコンコンと湧き出ています。2024年以降は、この泉をシェアできるようにプランニングしていきたいのですが、コモンズの悲劇にはしたくないので、ゆっくりと歩んでいくことになると思います。
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