通信制高校の卒業式の局面で贈る言葉 全日との差異に根源的社会の問題があらわれる
★勤務校の聖パウロ学園は通信制と全日制の2つの学校があります。体育館やサロン、パウロの森など共有使用部分はありますが、校舎は別棟です。2つの学校が同じキャンパス内にありますし、法人としては一つですから、校長は通信制も全日も同じです。毎朝、通信制と全日の両方の学校日誌を見ながら生徒の状況の理解に務めます。朝会は別々にやっていますから、全日は出席し、通信制は教頭と主幹、それぞれの教員が日々具体的状況を伝えてくれます。耳を傾け生徒と教師やインターンの学生の様子を理解します。通信制は、午前中は農業や園芸など外で活動していますから、実際にそっと様子を見に出かけたりします。校長は、基本生徒が本当に困ったときにようやく出番が回ってきます。それまでは、通信制であれ、全日制であれ先生方が生徒理解に務め、生徒自身が納得のいく学園生活を送れるようにサポートします。
★全日の卒業式だと、3年間で自分がこんなに変わったと生徒自身が認識していて、卒業後ももっと進化したいチャレンジしたいという人生進化論と躓いたときあるいは壁にぶつかった時どうするかどんな判断をするかおっせかいにも語るわけです。60%以上は、実際に直接ダイレクトにかかわっているので語る言葉も自然にでてきます。
★一方、通信制は、全日制の生徒以上に心傷ついて入学してきますから、それをまず温かく見守る先生方の配慮やサポートが決定的です。校長のお気楽な声掛けなんてのは、逆効果だったりしますから、先生方はチェックしてくれます。
★そのような通信制の先生方の配慮やサポートによって、卒業する時までにその傷はかなり癒され、生徒によっては全日の生徒と変わらない状況に復帰し、大学も難しいところに進学したりします。しかし、通信制は直線的な時間ゴールをデザインしません。それはいまここで「ある」ことがかけがえのないことだということに気づくことが大切だからです。
★一般的な発達心理学が当てはまらない生徒もいるのです。その発達理論に沿った基準に当てはめようとすることが、抑圧的になるということもあるのだということを2年間勤務して痛いほど思い知らされました。
★ニーチェのらくだのように忍耐し、やがてその忍耐せしめているシステムを乗り越えようとライオンのように吠え、闘うようになり、しかし、らくだでもなくらいおんでもないかけがえのない存在として最終的に子供になるという3段階の変化は、通信制の生徒には耐えられないわけです。一気に昇華してかけがえのない存在である生き様になるということがあるのに、らくだになれとかライオンになれとかは、当たり前の社会ではもしかしたらないのではないかと。
★ダイバーシティとかインクルーシブとかは、実は全日と通信制という分け方を再構築しなくてはならない時代がやってきたことを示唆しているのではないかとふと思ったわけです。
★1年目で、うすうすそれは感じたので、2年目からは通信制と全日制の風通しをよくしようと動き始めましたが、まだまだ足りません。2023年度のパウロの新体制として、ここをさらに推し進める構想を通信制の教頭と全日制の教頭と対話を続けてきました。
★ホンマノオト21を4日間くらい珍しく書いていなかったのは、花粉症があまりにひどく全く頭が回らなかったからでもありますが、通信制と全日制の背景にある日本の教育の根源的問題点をどう把握し、解決するか考えていたからでもあります。
★まずは隗より始めよで、パウロからやってみるしかないと学内で合意形成も出来、あとは理事会にかけるだけとなったので、少し心が穏やかになったわけです。この2日間は、午後は学校を休み、ずっと本を読んでいました。めずらしく斜め読みしなかった本があります。すごく共感するけれど、認識論的にも実行論的にも同意はできませんでした。それほど、現実の生徒は1人ひとり生き様が本当に違うのです。
★定型的発達と非定型的発達。でも、定型的発達の生徒も、その中に埋め込められているだけで、本当はみな非定型的発達なのかもしれません。それを見えなくするのが、偏差値基準とか垂直的序列主義ですね。でも当面社会にそれは在り続けています。パウロの生徒が社会に出たとき、ふたたびらくだやライオンにならなければならないのでしょうか。いやそうならない方法があるよということです。
★それはコミュニティをつくることだよと。それができたらはじめからそうしているよと。そうなんですよね。実はコミュニティをつくつトレーニングをしていないのが、日本の教育です。友人とか恋人とか集団行動とか利益獲得組織とかは前からあるのですが、そういうつながりではありません。新しいコミュニティシップの作り方。実は通信制高校の教師がやっていることはそういうことだったのです。
★通信制高校、パウロの場合は、エンカレッジコースで、エンカレと呼んでいますが、エンカレの教員は、心理学と哲学などをベースに現場のいまここに集中して生徒のサポートをしています。ものすごい現場を大切にしているのだけれど、その背景に心理学や哲学などの理論がちゃんとあるのです。ふだん自分たちも研鑽するコミュニティにも所属しています。そこから学生がインターンシップにやってきもします。
★進学実績がゴールでないのに、成立する学校です。実践と理論が統合されて成り立っています。日本の学校では珍しく、フィンランドやカナダの学校のような感じです。実はここに日本の教育の根源的な問題を解決する学校モデルがあるのではないかと思っています。
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