ドネラ・プロジェクト(21)「主体的」の意味のアップデート キェルケゴールとウィトゲンシュタインとデューイを超えて
★「主体的・対話的で深い学び」の「主体的」という言葉は、極めて重要です。対話は、主体的でなければできないし、深く考え学び表現していくには、主体的な構えが必要なのはいうまでもありません。がしかし、受動的に対し能動的ぐらいの意味ぐらいしかなかなかピンとこないのが、「主体的」という意味です。学習指導要領では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体化の充実とか述べられています。いずれも「主体的」であることが求められます。今更ですが、今なぜ「主体的」なのでしょう。
★鈴木佑丞さんの「<実存哲学>の系譜」は、そのことを考えるヒントになります。この本を読んで、ヘーゲルというのは社会や世界を考える時のキーパーソンなのだということがよくわかりました。ヘーゲルこそが、キェルケゴールがヘーゲルを批判することによって展開した<実存哲学>を生む実存主義者だったということに気づきました。
★ヘーゲルは主観と客観を乗り越えるあるいは統合する着想を描いたわけです。弁証法と訳されるダイアローグを打ち立てたわけです。要するに対話です。「主体的・対話的で深い学び」はまるで、精神現象学的対話の上昇気流をひっくり返したような考え方ですから、ここにもヘーゲルはちゃんといるわけです。
★そのヘーゲルは、しかし、主観を大切にしていましたから、ドイツ法学界からは捨てられます。サヴィニーが法実証主義的展開をしていきます。法学界ではヘーゲル派は一掃されます。
★一方教育界でも、その主観は堅固な教育学体系を組み立てる知識で抑圧されるようになっていきます。ヘルバルト主義の台頭です。これに対して、ヘーゲルもヘルバルトも批判してプロジェクト学習のような経験主義的かつ民主主義的教育をデューイが展開していきます。
★ヘーゲルは、その当時はそれほど権威があるといった感じの哲学者ではなかったのではないかと。結構苦労の連続の人生で、まさに実存的でだったと思います。今では大哲学者のカテゴリーに入っていますが。
★だからこそ当時一世を風靡したのかもしれません。でもそのヘーゲルをキェルケゴールは批判をし、その批判が<実存哲学>ではない実存哲学の系譜として20世紀の哲学をカタチづくっていったというわけです。ヘーゲルは主観と客観を統合しようとしたけれど、結局客観的な制度という物質主義を生み出してしまったわけです。その危険性を察知したのかキェルケゴールは、ヘーゲルから主観を取り戻すべく「主体的」な思考を展開していったのかもしれません。
★その「主体的」思考をウィトゲンシュタインはさらに発展させた。そういえばウィトゲンシュタインの仲間であるラッセルは、ヘーゲルを徹底的に批判しているし、そこらへんからイギリスの分析哲学もヘーゲルを批判して展開していますよね。
★ルソーカントーヘーゲルの流れが、そこから3つに批判的に枝分かれするのです。デューイのプラグマティズム、キエルケゴールの系譜実存主義、サヴィニー&ヘルバルトという近代国家主義。いずれも「主観」をどう捉えるかが重要だったわけです。
★主観を才能とみるか、主体とみるか、個人ととらえるか。
★しかし、ヘーゲルとかの影響はあまりない科学の世界からシステム思考が50年前に大きく広がりました。この思考はメンタルモデルを包摂していますから、ある意味主観と客観を統合しています。
★主観は精神で、客観はシステムという二元論ではなくて、主観と客観をつなぐのがシステム思考というのでしょう。ドネラ・プロジェクトは、「主観」をアップデートすることも役割ということがわかりました。
★こんなふうに、鈴木佑丞さんの本は、20世紀の教育は「主観」をめぐる話だったということに改めて気づく重要な補助線でした。そしてそれゆえ、「主観」のアップデートとして「主体的」という言葉もまたアプデートされつつあるのが現状だというのこともはっきり見えてきました。
★なぜなら、キエルケゴールの時代と決定的には違うのは、地球環境の限界がみえているということです。その限界がみえていない時代は、世の中がどんなにひどい状態であろうが、自分がどう誠実に生きるかでサバイブできたわけです。しかし、現状は自分がどんなに誠実に生きる主体的思考を発揮しても、地球環境の限界を乗り越えることはできません。
★主体的というのは、個人の主観の問題ではなく、もちろん、この地球環境の限界を生み出した制度の問題でもなく、関係性の問題なのです。主体的な関係性をどうつくるか。主体的に関係性をつくるのではなく、関係性そのものが主体的なのです。個人の枠内をはみ出るのが「主体的」なのでしょう。
★独断と偏見ですが、同書を読んで、気づいたことはそんな感じです。
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