トランジション教育型学校(1)2030年問題に対応する学校へシフト
★2030年には、日本の経済はどん底になるとか、SDGsは達成されず気候変動は予測不能状態になるとか、核の恐怖は止められないとか、いろいろ予測がされている。予測不能なVUCAの時代だと21世紀にはいるあたりからいわれてきたが、最初は軍事用語だったから地政学的な話だった。ところが、リーマンショックあたりから、地経学的な話になって、経済分野でも使わるようになった。もともと50年前に、2030年問題について警鐘を鳴らした「成長の限界」が出版されていたから、持続可能性という言葉が同時に生まれ、紆余曲折しながら2015年にSDGsと結実した。啓蒙書やビジネス書の不安を煽るレベルのものが多い中、「成長の限界」以来、科学的な態度で警鐘を鳴らし続けたドネラ・メドウズ(2002年逝去)博士の意志も、継承され、新学習指導要領で探究やプロジェクト学習でその方法論は広まっている。思想が継承されているかどうかは明らかではないが。
★2030年問題とは、SDGsの17のグローバルゴールに整理されているが、健康クライシス、戦争クライシス、気候変動クライシスを地政学的、地経学的、地叡学的の3側面からどうクリアしていくかと集約できる。地政学とはその背景に軍事力リスクの回避問題があり、地政学は経済リスクの回避問題があり、地叡学は教育リスクの回避問題が横たわっている。
★したがって、その地叡学の一翼を担う幼小中高教育は、2030年問題に対応する教育機能を再編集・脱構築が迫られている。当然大学も変わるわけである。2030年を超えると、各学年の人口は80万人時代に突入し、急激に減少していく。
★人口論的経済成長論から、新しい成長論にシフトする動きがすでに生まれているが、それが本流として流れ出すだろう。
★ドネラは、「成長には限界があるが、愛に限界はない」という言葉を残している。これは倫理条項として理解するのもよいが、メンタルモデルの変更を示唆していると了解したほうがよいだろう。トラウマ型メンタルモデルからの解放はいかにしたら可能かということでもあろう。ICTの普及により、生産手段の個人化が加速している。スマホとノートパソコンという生産手段でサバイブできる時代である。その生産手段を活用する倫理や法に「成長には限界があるが、愛に限界はない」というルール事項を加える制度設計も悪くないが、個人の価値観としての内在的なパラダイムを変えようよと言う話にした方がリスク回避の可能性は増大するはずだ。教育の重要性は、ここにこそある。
★もちろん、そこにはパノプティコンからシノプティコンにシフトする忍び寄る権力の分散化によるコントロールが潜むことになるというのは、法哲学では今や常識であるが、それをweb3.0では、警戒できるのではないかと。落合陽一さんや伊藤穰一さんにがんばってもらいたいところだ。とはいえ、それは予測不能だ。やはりVUCAであることに変わりはない。そんなとき、個人の価値観パラダイムチェンジができていれば、そしてクリティカル&クリエイティブシンキングが出来るようになっていれば、なんとかなるのではないかというポジティブな希望がある。
★甘いとかいう方に限って、変えるアクションがないので、そういう方には、絶望を選びますかと宿題を出しておこう。
★さて、枕が長くなったが、2030年問題が念頭になかった従来の受験指導型学校は、部活と行事を括弧に入れれば、上記の図のように、教科指導中心機能しか残らない。実は中心的教育機能は塾と同構造だったのである。オンライン時代、よいかわるいかどうかは別として、だったら学校の意義は何かと問われ始めている本当の理由はそこにあった。それをパンデミックは露にしたのだ。今文部科学省は、その矛盾を払拭するために、日本型教育とか日本型ギフテッド教育とか議論し始めているのも、根底にはそれがある。
★これに対して、2030年問題を念頭に置いたトランジション教育型学校は、部活と行事を括弧に入れても、「コア教育機能」「バッファー教育機能」「先進的教育環境」が残るというか、生成されているのだ。部活と行事をなぜカッコに入れるのか?2030年に向けて、働き方改革や働きがい改革が進み、地経学的には、スマートシティー化が世界の60%以上を覆うようになったとき、スマートスクールやコンパクトスクールが主流になるからだ。そのときの学校の教育機能は、トランジション教育型学校機能にならざるを得ない。
★というわけで、Z世代、α世代をお持ちのご家庭は、「受験指導型学校」を選ぶのか、「トランジション教育型学校」を選ぶのか、2030年は遠くの話ではない。選択は私事の自己決定で自由ではあるが、おっせかいではあるとしりつつも、私立学校研究家として、現場の教員として、外部から、そして内部から教育にかかわる珍しい体験をしてきた私だから提供できる情報もあると思う。多様な子供たちの内面は、現状のICTによる個別最適化でサポートできる部分はまだまだ少ない。個別最適化のAIバラ色論は要注意である。しかし、受験指導教育機能ではそれすらもできない可能性が大ではないだろうか。よって、進路選択を決める時期である秋に向けて、みなさんといっしょに考えていきたいと思う。
★「トランジションと思考コード」は、4月以来、shuTOMOで連載しているので、そちらも参考にしてもらえると幸いである。
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