なぜドネラ・メドウズか?(2)ドネラのシステム思考は、drift to low performance を知って、human spiritを発動することができるから。
★ドネラ・メドウズは、著書「世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方」で、システム思考は何ができ、それ自体ができないからこそ、同時に、次に出来るポイントを発見できるのだと重要なことを語っています。邦訳書は、情熱的なトーンで訳されています。昭和世代の私にはしっくりくるのですが、訳者の方に怒られるかもしれませんが、次の箇所を、Z世代的な読み方(できるはずないのですが・・・)をしてみようと思います。
★その箇所とは、同書の最終節です。
We know what to do about drift to low performance. Don’t weigh the bad news more heavily than the good. And keep standards absolute. Systems thinking can only tell us to do that. It can’t do it. We’re back to the gap between understanding and implementation. Systems thinking by itself cannot bridge that gap, but it can lead us to the edge of what analysis can do and then point beyond—to what can and must be done by the human spirit.
Meadows, Donella H.. Thinking in Systems (p.185). Chelsea Green Publishing. Kindle 版.
★翻訳などできませんから、読んでみます。まず、私たちは「低パフォーマンスへの漂流」に対しては何をするのかについて知っているというわけです。ここで「低パフォーマンスの漂流」とあります。driftですから、まさに漂流なのですが、システム思考ってフワフワしているイメージがないので、「低パフォーマンスにいつの間にか陥いりがちな自分たちがどうするのか実は知っているよ」、ただし、システム思考を学ぶことによってねという捉え方をしてみました。昔から水は低きに流れるとか悪貨は良貨を駆逐するという言葉があります。人間の典型的なメンタルモデルですね。
★だから、そんなメンタルモデルに囚われないで、「とかく良いニュースよりも悪いニュースにウェイトを注視しちゃいますが、そうしないようにね」ということです。「そして、多角的基準をしっかりキープしましょうね」と捉えてみました。“standards”というのが複数になっているのがポイントですね。私たちはつい「自分軸」という比喩を使います。すると基準は絶対的な太い柱のイメージになります。しかし、基準は、多角的なコードの諸関係でできていて、多角的にモニタリングできる思考コードのようなものでしょう。
★“absolute”を「絶対的に」とは捉えませんでした、確固たるとかしっかりしたとかぐらいに捉えました。多角的な基準の存在は絶対的なのですが、その基準の中身はルール変更可能ですから、アインシュタインが光速は不変だから、最初絶対性理論としようとしたのを、相対性理論にしたという逸話もありますから、科学者ドネラ・メドウズなら許してくれるでしょう。
★そんなわけで、謙虚で学習者であり続けることを大切にしていた彼女は、「システム思考がただ私たちに示すのは、そうすることということです。システム思考はそれはできません。」だから、いつも「私たちは認識と実装のギャップという原点回帰をするのです」と語るのですが、なんか大きい存在感を感じます。
★それゆえ、このあとに続くファイナルセンテンスのファイナルワードは、“human spirit”となります。「システム思考それ自体は、そのギャップを埋められません。しかし、分析ができる境界線にまで私たちを連れていきます。その瞬間、その境界線を越えるためにできること、すべきことのビジョンが開きます。それを開くのはヒューマンスピリット。」となるのでしょう。
★低パフォーマンスに陥りがちなメンタルモデルではなく、システム思考によって明らかになるエッジを乗り越えるメンタルモデル“human spirit”なんですよとさらりと。“mind”ではなく“spirit”となるわけです。
★その違いは、日本人の私にはわかり難いものがありますが、おそらくmindよりspiritの方が自然につながっている開放性が付加されるような気がします。
★現代気鋭の哲学者マルクス・ガブリエル(NHKでもよく登場します)が、これからは「精神」が大事になるけれど、マインドではなく、ドイツ語ではガイストだと。これは英語ではおそらくスピリットになるのだと思います。
★今喫緊のヘルスクライシス。身体のケア、心のケア、人間関係のケアが注目されます。本当にとても大事です。しかし、世の中にはそれだけのケアではどうにもならないケアの領域があります。おそらくそれが“spirit”の領域でしょう。
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