聖パウロ学園の数学科 「世界制作の方法」をPBL授業で実践し始める パウロの森で静かに根源的思索へ(3)伊東先生のPBL授業
★伊東竜先生の数学のPBLは、数学科のMM(Math Meeting)の成果を自分の研究に織り込みながら創っています。インストラクショニズムとコンストラクショニズムの合力で授業デザインがなされています。どういうことかというと、インストラクションの中に、インプロとかアドリブが入る部分があるということです。モーツアルトのピアノ協奏曲などにあるカデンツァ的な発想ですね。先生のPBLの流れを見ていきましょう。
1)Thinking Routines
授業の始りは、簡単な問いで、「解法」と「アルゴリズム思考」の往復をします。生徒は、毎時間、ここから始まるというマインドセットがされています。「解法」は氷山の一角で、「アルゴリズム思考」は海面下のシステム思考関数です。
「解法」と「アルゴリズム思考」が往来できるのは、「思考コード」を媒介にするからですが、それについてはいずれまた。
2)ファシリテーターとしての対話
生徒の話に耳を傾け、生徒自身が、自分の中にある考えを引き出すちょっとした対話。経験が創り出すもので、これはインプロ部分。
3)ポストイット
「世界制作の方法」は、実にシンプルで、聴いたらそんなことなの?!と驚くかもしれません。ポストイットは、「削除と挿入」「拡散と集中」「順序づけ」「重みづけ」などをするときに役立ちます。これらは、みな「世界制作の方法」です。一見簡単ですが、小論文を書くとき、物語を編集する時、デザインをするとき、建築の図面を描くとき、哲学する時、実験をするとき・・・、あらゆる場面で、これらの方法を活用しています。これらを簡単にいうと、カテゴライズですね。
4)個人ワーク
自分の内なる知識、論理、創造性などをフル回転して棚卸をします。議論したり協働したりする前の大切なリフレクションの時間です。
5)個人ワークが終わったら、次はPeer Instruction(PI)。
Peerは、ペアではなく、仲間ですから、グループワークに似ていますが、どちらかというと互いの情報のズレを確認し、自分のアイデアのアップデートを行います。やはりここでも、「削除と挿入」「順序づけ」「重みづけ」など世界制作の方法を活用します。
6)フィードバック
PIが終わって、生徒1人ひとりの思考が落ち着いたところで、伊東先生は、フィードバックを行います。まだ思考を広げられる可能性を指摘していきます。思考の開放性や柔軟性は大切です。
7)プレゼン
一通り終わったところでプレゼンですが、個人ワーク→対話→PI→フィードバックなどの循環の過程で、当初の自分の考えをアップデートしてきた結果を発表します。この過程こそ、「世界制作の方法」の醍醐味の「分解と合成」及び「変形」です。
補❶)プレゼンしたりするときに、ルーレットのアプリを使います。伊東先生が指名するより、ルーレットで運命づけられるのがワクワクするということです。おもしろさは、「単元の内容」にだけではなく、「学び方」にもあります。両方の合力で興味関心が広がり深まります。もっとも、伊東先生自身は確率の話がベースです。世の中は、確率を上げるために、イノベーションが発展してきました。そのたびに、アップデートという「変形」を行ってきたわけです。
補❷)眼差し
生徒が考えたり議論をしたりしているとき、話しかけるでもなく、ただ机間巡視しているわけでもなく、あたたかく見守っている眼差しを生徒が感じ取ることによって、学びの共感的雰囲気ができあがります。
補➌)アフォーダンス プレゼンテーション・パターン・カードなどを媒介に
私が見学に行ったときには、使っていませんでしたが、生徒がプレゼンする前に、プレゼンテーション・パターン・カードなどで、自分の魅力を引き出すワークショップを行うときもあります。教師がこうしなさいああしなさいではなく、カードというツールを媒介にすることで、建築家やアーティストが活用するアフォーダンスというパワーを活用します。アフォーダンスとは、心理学的現象で、自分が意識していないのに、環境が刺激し、行動を促す心の動きのことを意味します。
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