組織は誰によって壊されるのか 教皇フランシスコのラディカルな考え方
★勤務校は「聖パウロ学園」。使徒パウロに倣いて教育を実践する共同体です。パウロは、元祖コペルニクス的転回を実践した人です。新しい人として自己変容した人です。ルターや内村鑑三に強烈に影響を与えた使徒でもあります。そして、意識しているかどうかはわかりませんが、自己変容論で有名なハーバード大学のロバート・キーガン教授の「なぜ人と組織は変われないのか」「なぜ弱さを見せ合える組織は強いのか」という著書は、まるでパウロの精神をそのまま引き継いだかのような本です。
★そんなわけですから、パウロについての研究書も多く、そのうちの1冊でも読破できればよいくらいです。しかし、それでは理解が深まらないので、やはり原典であるパウロの書いた手紙(新約聖書に収められています)を少しずつ読みながら、想いを馳せています。
★しかしながら、独りよがりな解釈を生徒と共有するのはまずいので、こういうときは教皇フランシスコの文章をよりどころにします。
★私は、パウロがそうだったように、生徒の才能を拓くには、それに適した組織を創ることが大切だと思っています。勤務校はパウロが望んだようなスモールスクールです。パウロはたくさんの小さなコミュニティ創りからはじめて、1人ひとりの才能と信仰が成長することこそ大きな実りを生み出すことになると確信していました。つまりパン種ですね。
★ですから、パウロに倣いて学校の組織も考えてみるわけです。パウロ学園に限らず、私立学校の組織にも適用できる部分があります。基本パウロはリベラルアーツを学んでいたはずですから、メタファーなどのレトリックが巧みです。したがって、その解読をすれば、キリスト教のコミュニティに限らず広く適用できるものもあります。何せ、ハーバード大学のロバート・キーガン教授にも重なるのですから、2000年の時を経てもなおその精神は普遍なのでしょう。
★さて、教皇フランシスコは興味深いことを語ります。パウロが作ったコミュニティを危機に陥らせる人間が現われることはあるのだと言うのです。これは今の世界秩序のゆらぎにも重ねることができるのですが、教皇はこう表現します(「教皇フランシスコ、2021年6月23日一般謁見演説 1.「ガラテヤの信徒への手紙」に向けた前置き」)。
<パウロの絶え間のない司牧的な気遣いについても触れるべきでしょう。それらの教会を築いた後、パウロは、人々の信仰の成長が大きな危険によって脅かされることに気づきました。司牧者は、自分の子らの危険にすぐに気づく父親や母親のようです。教会は大きくなりますが、危険も生じます。「ハゲタカが共同体を破壊しにやって来る」と言われる通りです。>
★共同体を破壊しにやってくるハゲタカとは凄い表現ですね。このハゲタカはどんな人なのでしょう。教皇はこう語ります。
<彼らは、自分たちのことを、何よりもまず、十字架につけられ、復活されたイエスのうちに人間を愛してくださる神の福音を知らせる者としてではなく、キリスト者になる最善の方法に関する――いわば――「真実を守る者」として示します。そして、彼らが信じる真のキリスト教は、過去のある種の形式であると強調し、現代の危機への解決策は、信仰の真正さを保つために過去にさかのぼることだと、強く説きます。>
★いかがですか、教師組織の中でも同じようなコトがあるでしょう。さらに教皇は語ります。
<自由と喜びを与えてくれる福音の教えに触れても、こうした人々の心は頑なです。つねに頑なです。これもしてはならない、あれもしてはならないといった具合です。柔軟性の欠如は、そうした人々の典型的な特徴です。>
★教皇は、共同体を破壊するハゲタカかどうかを見極めるのは、過去の形式や方法論に縛られあるいは囚われ、自由と愛の精神を阻害する頑な(rigidity)心だというのです。
★ハーバード大学のハワード・ガードナー教授も、組織の変化を拒むのは、偏向主義、情報隠蔽主義だと語りますが、まさに頑なな精神に通じます。勤務校は、このような正しいふりをして、頑なな精神を振りまくのを、教師も生徒も警戒します。リフレクションを大切にするのはそういうことです。
★教皇は、では、ハゲタカではない人とはどのような道を歩んでいる人なのかと。柔和さと信頼に満ちた従順の道=the path of meek and obedient trustを歩む人だと。
★ただし、この道は自由と愛という善なる道行であって、偏狭で頑固な形式主義に対し柔和で従順であることはないのです。条件によっては、柔和と従順は、正義を貫く態勢に変化します。寛容さとは冷徹に見える場合もあるのです。学校組織もリスクマネジメントはそういう面をもっていますね。
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