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2022年4月 3日 (日)

2022年東大合格者数から見える「東大と私立学校の矛盾を乗り越える希望?」

★サンデー毎日創刊100周年記念号の学校別の東大合格者数のデータから20位まで表にしてみました。受験業界では、例年通りということなのでしょうか。毎年風物詩のようにサンデー毎日で公表されるデータの背景には何があるのでしょう。世間的にはほとんど興味と関心のない話ですが、≪私学の系譜≫から見ると、結構重要なので、少し触れます。

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★開成とか日比谷、麻布が毎年のように上位にランクインしているのですが、これは、明治の近代教育が誕生して以来、ある意味変わらないシーンです。旧制一高ー東京帝国大学という流れがあって、このトランジション(移行)によって輩出されたのは、日本近代を形成した多くの人物です。思いつくまま並べてみると、夏目漱石も芥川龍之介もそうです。澤柳政太郎、天野貞祐、斎藤茂吉、川端康成、南原繁・・・。Wikipediaで調べれば、ものすごい数です。

★この旧制一高にたくさん合格させる学校が、開成や日比谷、麻布だったわけです。旧制一高ー東京帝国大学は、ざっくりいえば今の東京大学のことですから、今回の結果も昔から変わらないわけです。

★一見どうでもいような話なのですが、当時、東京の私立学校から東大に進学するとそこに矛盾がうまれたのです。というのも、開成の初代校長の高橋是清は、開成から東大にたくさん入れて、正しい官僚制を行えるようにしようとしたと言われています。

★東大自身、そのような面を持っている反面、戦前はそのような普遍主義的な啓蒙主義を捨て、社会進化論的発想で優勝劣敗教育システムを推進した時期もあったのです。開成から東大に入った、石川角次郎はすぐに反論し、反論しているだけでは修正できないと、東大を去り、アメリカに留学。帰国して聖学院の初校長になります。

★戦後は南原繁や矢内原忠雄が、内村鑑三や新渡戸稲造の薫陶を受けていて、高橋是清や石川角次郎とシンクロするような教育政策を推進します。その象徴が戦後教育基本法の作成と成立です。多くの私学人がかかわりました。

★彼らは多くが内村鑑三、新渡戸稲造の薫陶をうけていました。しかし、この二人は今の北海道大学である札幌農学校に進み、東大ではありません。ただ、旧制一高とはかかわりを持っていました。

★二人は、この矛盾の中でどう乗り越えるか時代に翻弄されながらも、思想を貫いていきました。内村鑑三は最後の講和で、「パウロの武士道」を語り、二つのJの考え方にこだわり続けました。新渡戸稲造もあの「武士道」を書きました。エジソンが、平和を考えるために、「武士道」を座右の銘として愛読したほどでした。

★≪私学の系譜≫の第一世代は、福沢諭吉、江原素六、新島襄ですが、東大出身者ではないし、彼らの影響を受けた第二世代の内村鑑三、新渡戸稲造も東大出身ではないのです。しかし、石川角次郎のように、東大に入るけれども矛盾に直面し、米国留学するというケースもあり、矛盾をなんとかしようという東大出身の私学人が多数でます。

★資本主義と民主主義の矛盾をはらみながら、それを軌道修正しながら近代は進み、いまだに未完であると語られるわけですが、その矛盾に気づきそれを解決するように思考し活動する動きが、私立学校が東大に多数合格させる歴史的遺伝子、つまり≪私学の系譜≫が続いていると信じたいわけです。

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★東京大学の教育社会学者の本多由紀氏や中村高康氏は、国全体に多大な影響を与える巨大な学校システをの批判的に研究し、特に能力主義や学歴主義を見える化しています。学問の自治や自由があるとはいえ、その矛盾を発生させる拠点であり、同時にその矛盾を解決しようという学問の拠点でもあるヤヌスの側面をもった東大に所属しています。

★もしこのヤヌスの顔のうち≪私学の系譜≫的側面を失われたとき、日本社会はどうなるのでしょうか。垂直的序列化と水平的多様化の両方がいつもトレードオフ状態になっているのが、現状です。

★ほかの国立大学の合格状況は、20位以内の8割弱が私立学校だということはありません。≪私学の系譜≫の影響力を維持できるのは、良し悪しは別にして、東京大学だけです。ここに希望があると思わなければどこに希望があるのだろうか。。。とふと思うのです。

★とはいえ、この20校の合格者数で、東大入学者3084名の43%を占めています。このような偏りは、能力主義を生み出す危険性があるのは説明するまでもないでしょう。

★私立学校は、高橋是清のように東大に進めることによって近代の正義を保守するのか、内村鑑三や新渡戸稲造のようにグローバルな思索と行為で近代の正義を保守するのか。東大に私学が進路を進める場合、このような理念やマインドを忘れなければよいなあと思うわけです。

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