学校が変容するというコト(25)早稲田大学教育学部の国語の入試問題の選択肢問題
★JCASTニュースに結構衝撃的な記事が掲載されました。それは<早大教育学部の入試国語めぐり著者が問合せ→回答に猛反発「誠実な対応を」 大学「発信は認識」>2022年03月15日20時44分という記事です。こう始まります。「 早稲田大学教育学部の入試で出題された国語の問題について、問題文に一部内容が使用された書籍の著者である明治大学の重田園江教授(政治思想)が、自らの問い合わせに説明がなかったことに納得できないと、教養情報サイト「SYNODOS(シノドス)」上で早大に抗議した。」
★重田教授と言えば、ミシェル・フーコーの研究者であり、著書も複数執筆しています。政治経済学部や法学部が課題文としてとり扱うのは違和感はないのですが、教育学部が出題するというのは、オッ!と思いました。で、何が問題なのだと、続きを読むと、こうあります。
「2022年2月19日に行われた教育学部の入試では、国語の第1問で、重田教授の著書『フーコーの風向き-近代国家の系譜学』(2020年)から出題があった。第1問には、問1~8まであり、重田教授は、このうち学部が示した問1~4までの解答例について、3月14日のシノドス投稿で疑義を示した。」
★同大学同学部の国語の入試問題は、選択式問題ですから、著者と作問者のズレがあるのは、結構あるあるです。しかし、そのことをシノドスに寄稿して抗議したというのは、「あるある」では済まされない何かがあるのではと思いました。そこでシノドスの記事を読むことになるのですが、その前に私も解いてみようと。問題になっている問1から問4までを課題文を読まずに解いてみました。
★たまたま、昔ストラスブール大学の日本語を研究する学部の方々とPBL型の学習ツアーをやっていたので、フランス人の学部生や大学院生からフーコーのことはよく聞いていたのです。もちろん私はフランス語はできません。彼らは日本語がペラペラです。CEFRでB2の日本語の実力を持っていました(当時日本語のCEFRの認定はB2までしか測る機会がなかったのです。実際にはC1以上だったでしょう)から、日本語を話したくて仕方がないという前のめりの学生や研究者ばかりです。ですから、とうとうフランス語を学ぶ機会を逸しました(ということにしておきます。ようはやる気の問題です)。
★ストラスブールを彼らとフィールドワークした時に、今ENAはストラスブールにもあるんだよと。運河の向こうに見える閉鎖的な建物を指して教えてくれました。そして、昔は監獄だったり、修道院だったりで、今は学校と微笑みました。彼らは、フーコーの監獄、病院、学校、たぶん修道院もそうだと思いますが、権力の同構造のことを、その建物を見ながら教えてくれていたのです。
★彼らは、ストラスブール大学の教授マルク・ブロックを誇りに思っていました。教授はレジスタンス活動をして最終的にはドイツ軍につかまり銃殺刑になりました。そういう意味では、フーコーとはどこか親和性もありますが、私が出会ったフランス人の学生は、ヒーロー扱いはしていなかったですね。基本リスペクトでした。
★そして、当然、建築構造や空間の話になりますから、パノプティコンの話もしてくれました。彼らは、権力には本当に敏感です。日本の学校の先生方とファシリテーターとして協力してくれる彼らが対話が出来る状況にもっていくのが私の役割でしたが、今でこそPBLは当たり前ですが、インタラクティブな関係をつくることは、その当時はまだまだ難しかったですね。
★そんな感じで、選択肢問題を解いたら、叱られるかもしれませんが、問三以外は、重田教授と同じ解答になりました。問三は、単純にフーコーは一般的な意味で「人口」を捉えていないだろうから、消去法で選んだわけです。すると解答と同じになったのです。
★しかし、重田先生のそれでいいのだろうかという考え方を読んで、いかんいかんと反省し、ようやく課題文を読みました。
★そんな不真面目な読み方でですから叱られたとしても、それは当然ですが、重田教授の指摘は、課題文と問いの選択肢の同期をきっちりつめているのであって、私のように、フーコーについて耳学問したおぼろげながらのイメージで解くことは厳しく論外だというのです。
★つまり、ご自身が著者であるのだから、自身の研究を深めているフーコーの思想からいって、選択肢が違うということを指摘しているわけではないのです。「最も適切なもの」を選びなさいといったとき、たしかに消去法で残る選択肢があったとしても、その選択肢の内容が課題文のどこにも根拠が見いだせない場合、本当に適切なのかと指摘するのです。
★「最も適切なもの」だから、消去法で残ればいいのだという入試問題の作り方は、ある程度暗黙の了解なのですが、やはりその信頼性や正当性についても考えるようにしなければ、私とは違って、入試でよく出題される重田教授の本を読んで、学んできた受験生にとっては、???のままではないのか。それは問題の信頼性、正当性としてはどうなのか。妥当性だけでよいのかということを指摘されています。
★重田先生の指摘は、社会学的に選択肢の正解と課題文のアイデンティティをどのように検証するのかというものでしょう。しかし、これはテスト測定学という学問と同期します。このことの重要性は、早稲田の教育学部だけではなく、ほとんどの大学でも当てはまるでしょう。
★選択式問題の信頼性、正当性、妥当性をどう検証していくのか、やはり考えなければならない時代になったのでしょう。
★それからもう一つ、「読解」ということについて、重田教授は逆説的な指摘をしているともいえます。どういうことかというと、文献リサーチの場合、書籍の一部を切り取って、その切り取られた枠内を出て問いを作成することは、「読解」方法として可能なのだろうかという問いかけです。切り取られた課題文だから、その枠内で重田教授は解答を出していきます。そして課題文のその枠を超えた場合、フーコーの研究者として、その作問者の推理がどれほど信頼性や正当性があるのかと論じているわけです。
★そういう意味では、そこをきちんと考えて問題を作成しないと、「読解」方法に関して間違ったイメージで、大学に進んでくるのではないかという懸念をも語っているわけです。
★うまく伝えることができませんが、入試問題の作り方も、学問としてのあり方が必要なのだということでしょう。
★そして、そのことは私たち中等教育段階の教師にも同じことがあてはまります。授業ーテストー評価という循環を回しているのが教師です。実践知としての問いの作成と理論知としての問いの作成の結びつきを、私たちはどうやって創っていけばよいのでしょう。
★途方に暮れてもいられないので、少なくともIRT(項目反応理論)のさわりでもいいので、同僚と対話してみることにします。
★いずれにしても、「あるある」で終わらせないで、暗黙の了解事項あるいは常識的な考え方を転換させる重田教授の記事は、多くの人が読んでくれることを期待しています。そこから、また教育の変化が現われるでしょう。もっともそれもまた生権力にからめとられてしまうかもしれませんが。。。
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