2089年から考える21世紀型教育(06)反自己啓発というパラドクス ウェルネス症候群を超えるには
★最近おもしろい本を斜め読みしました。スヴェン・ブリンクマン教授の新しい翻訳書「地に足をつけて生きろ! 加速文化の重圧に対抗する7つの方法Evolving (2022/3/9) 田村 洋一 (翻訳)」がそれです。
★次の目次をみると、かなり挑発的です。
イントロダクション 生き急ぐ人々
第1章 己の内面を見つめたりするな
第2章 人生のネガティブにフォーカスしろ
第3章 きっぱりと断れ
第4章 感情は押し殺せ
第5章 コーチをクビにしろ
第6章 小説を読め ―― 自己啓発書や伝記を読むな
第7章 過去にこだわれ
結論 加速文化におけるストア主義
★しかし、世の中が政治経済や生命の危機に直面している時には、人間とは何かが問われますから、このような本が緊急出版されるものです。私たちはこのような本におそらく善い影響をうけるので、それはよいことでしょう。1995年の関西淡路大震災、サリン事件に襲われたとき、ソフィーの世界という高校生対象の哲学物語がベストセラーになりました。2011年の東北大震災の時も、ルソーをはじめ啓蒙思想のルネサンスがありました。そもそもバブルがはじけた1990年代の経済の空白時代にヒットしたのは「清貧の思想」でした。
★ですから、今回もそのサイクルだろうと思いましたが、反自己啓発だったり、内省を批判したり、オットー・シャーマーを名指しで批判したりしていたので、反自己啓発はともかく(私自身も商品化された自己啓発ものは、枠組みに収納される心理学の悪用だと思っています)、それ以外は、私自身への批判でもあるかもしれないと思い、kindle版がまだでていないのに、ハードカバー本で購入しました。ルーペ―を通して読み進むので、全編を読むのは辛いですね。それで、つい斜め読みになります。
★それでも、驚いたことに、私の批判どころか、私とシンクロするところばかりなのです。なんというパラドクスだと微笑みながら大笑いしながら読みました。
★要するに、あらゆる物事は物象化(典型が商品化)されるので、それに対してネガティブなストア主義的視座でとらえようということです。
★≪私学の系譜≫としての21世紀型教育は、あくまで権威や権力に屈しない啓蒙思想的な影響を受けた建学の精神といういう意味での伝統を保守し、それぞれの時代の革新に応じてアップデートもしようということですが、ブリンクマン教授の言っている21世紀というのは、加速文化をコモディティ化するトレンドを批判しているわけで、そうではなく、過去を大事にし、歴史という物語を大事にしろということですから、まさにこの精神は21世紀型教育そのものです。
★いずれにしても、21世紀の影の部分であるwell-beingを商品化してしまってそれに依存してしまっているウェルネス症候群から解放されるには、閉鎖的な内面をリフレクションするのではなく、地に足をつけ、内面と外界がつながった身体の内省化の協働によってWorld Makingをやっていこうよということです。それが21世紀型教育のManagement Learningです。
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