2089年から考える21世紀型教育(10)クリティカル&クリエイティブシンキングがカギ 入学時偏差値が低くても、大学に合格するケースはたくさんある❶
★高校入学時偏差値が低くても、大学に合格することは可能な時代がすでに到来している。偏差値30代で早稲田大学に合格したというケースがメディアが大きく取り上げることはよくある。たしかに、出発点が30代で、早稲田大学や慶応に入るのは、そう多くはない。しかし、そういうメディア受けする大学でないケースをみると、初めは低いが合格時にはグーンと伸びているというケースはかなり多い。わたしたちは、その事実を大切にしなくてはならない。受験業界の価値意識は高偏差値のランキングだが、それは生徒1人ひとりにとっては、そんなに関係ない。「人生における存在価値」と「高偏差値ランキング価値」は相関がないからだ。そもそも大学に行こうが行くまいが、「人生における存在価値」はあるのだから。にもかかわらず、あたかも偏差値ランキング価値と短絡的に結びつける人も多く、それは困ったことだが、それもいずれ、このようなケースが多いことを広く共有することで、それは間違っていると気づくだろう。
★さて、その事実とは、先ほどから言っている「高校入学時、大学入学者ゾーン(以降「Dゾーン)にいなくても、大学入学者ソーンにシフトする生徒はたくさんいる」という事実である。
★そして、なぜそういうことが起きるのかというと、それはクリティカルシンキングとクリエイティブシンキング(2つを「C軸思考」と呼ぼう)を「身につける新しい学び」が高校で展開されるようになったからだ。展開されていると言っても、まだまだ少ないから、そのような新しい学びを展開しているところでは、Dゾーンシフトできる生徒が多数あらわれると言った方が現時点ではよいかもしれない。
★いずれは、今回の新学習指導要領で、すべての高校がこの新しい学びを展開せざるを得ないので、どの高校からもこのDゾーンへシフトすることが可能になる。しかし、100万人の高校卒業生に対して、大学総定員は約55万人だから、限界はあるだろうと思われるかもしれない。しかし、数年で80万人時代がくる。それでも25万人は行き場がないではないかと思うかもしれないが、海外大学がオンラインで入学できるようにどんどんなっていく。
★ハーバード大学やスタンフォード、MITなどがメタバース領域で行うことは可能。そんなことは2025年には現実になっているだろう。
★世界中経済格差があるが、そんなことを放置していたら、世界の大学が干上がってしまう。それを考えるのもC軸思考。C軸思考の重要性がDゾーンシフトを偏差値を超えて起こり、それがある沸点に行き着いたとき、そのタイミングで海外大学が日本にどっと参入する。そのシナリオはすでにTPPの議論がされている段階であったものだ。
★そんなことより、なぜC時思考を身に付けるとDゾーンに移れるのか?それは、もともと偏差値は知識・技能の領域しか測定できなかったのであるからだ。この領域のうち、知識・理解を「A軸思考」と呼び、ロジカルシンキングを「B軸思考」と呼んでおこう。
★すると、A軸思考と知識を論理的につなぎ合わせるB軸思考までは、偏差値で測れたのだが、C軸思考は実は測れない。その一つの例として、次のような日比谷高校の推薦入試で出題された小論文(令和3年度:東京都が公表)を見てみよう。
小問1
SDGsの目標の相互の関連性を踏まえた上で、目標の一つである「2 飢餓をゼロに」という目標に対して「農地を増やす」という解決策を考えるとき、これにより良い影響が及ぶと考えられる目標と、悪い影響が及ぶと考えられる目標をそれぞれ一つずつ示し、その理由を説明する。120-140字
小問2
図2、3を踏まえて、日本が世界をリードしてその取り組みを発信できる目標を示し、その理由と具体的な取り組みについて説明する。420-460 字
★これは、演繹(ディダクション)や帰納法(インダクション)で論証できない。あくまで、仮説として推理(アブダクション)していくものだ。つまり、三角ロジックのうち、データ部分はあくまで妥当性のあるものを推理して論じていくというもの。妥当性をそなえなければならないから、たんなる思い付きではダメで、クリティカルシンキングが必要。そのうえで、小問2のようにクリエイティブシンキングを発揮する問いのデザインになっている。さすがだ。
★この問いのデザインは、東大の帰国生対象の小論の作り方と同期する。今年も出会った帰国生2人が東大に合格したが、知人に頼まれ、2時間ぐらいのワークショップを手伝った。日比谷高校の入学時にこのようなC軸思考をもって入れば、卒業時に、この2人のようなハイレベルC軸思考を身に付けることはできるだろうと予測するのは難しくない。もちろん、私の経験値に過ぎないが。
★しかしだ。この推薦入試は、日比谷高校だけが行うのではなく、多くの都立高校や私立高校でも実施している。SDGsのデータや情報を踏まえて、未来を創る方向性の問いのデザインは、多くの学校でも実施している。そのとき、日比谷高校を合格した生徒の答案と偏差値が50前後の私立高校を合格した生徒の答案を見比べることが、もし可能であれば、驚くべき事実が判明するはずだ。
★どんな事実か。大差ないという事実だ。
★もちろん、語彙量やどんな言葉を選択するのか、表現の巧みさの違いはある。しかし、このような小論文は「人生における存在価値」が土台になってしまうから、その土台では大差ないというか差がつけれれない。だから、得点をつけるとしたら、語彙、言葉の適切な語用、論理的繋がり、適切な表現技法などなど。
★しかし、大事な事実は、この「人生における存在価値」が育っているかどうかである。偏差値が高くても育っていないこともあるし、偏差値が低くても育っていることがある。
★なぜそんなことがおこるのか?そして「人生における存在価値」を土台とする新しい学びが大学に合格するかどうかだけではなく、今後重要になってくるのはなぜなのか?それを考え、勤務校で実践していきたいわけである。(つづく)
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