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2022年3月

2022年3月31日 (木)

2089年から考える21世紀型教育(11)聖学院 本橋先生に聴く 新しいトランジション M型思考力入試も一つの起点

★昨日一年ぶりに、聖学院の本橋先生と対話をしました。明日、GWE(GLICC Weekly EDU 第73回「聖学院中高ーグローバル思考と数学的思考から生まれる賜物:本橋真紀子先生との対話」)で対話するので、そのブレストという感じだったのですが、広く深い話をじっくりお聴きすることができ、1年の空白が私の拙い想像力によってでも埋めることができたような気がします。ありがとうございました。

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(卒業式の写真は聖学院のサイトから)

★詳しくは、明日お話しいただけますから、ぜひ楽しみにしていただきたいと思います。

★それにしても、聖学院というのは、まさに「賜物」=「タラント」=「タレント」=「存在価値としてのかけがえのない才能」が、自然体で豊かになる学校です。

★本橋先生は、先日高校の卒業生を送リ出したばかりです。中1から共に暮らし、共に悩み、共に学び、共に変化を生み出してきた6年間。このような経験を本橋先生は、3度も積み上げています。

★本橋先生の6年間生徒と共にするときのマインドの特徴の1つは、トポロジーです。多様性の中にアイデンティティを共に創っていく数学的思考が適用されています。それからもう一つは、生徒が巣立つためにめちゃくちゃ試行錯誤をしているのを見守る眼差しが光っています。

★なぜか、生徒は卒業する時に、本橋先生にバラの花束を贈るそうです。さすが男子校というわけでしょうか。本橋先生の涙腺がとまらない様子が目に浮かびます。

★21世紀型教育機構がスタートした時、同士校と思考力セミナーを共有するワークショップを行っていました。ある男子校で行ったとき、その学校の男性教諭のみなさんが、一瞬にして生徒がマインドセットされ、協働体が現われるのに驚いていました。初めて会った生徒でもそうなのですから、6年間共にしたら、生徒がどれほど変貌・変容するのか想像するとワクワクします。

★実際、大学合格実績は、昨年同様よかったということです。そのことについて、特段本橋先生は多くを語りません。6年間生徒1人ひとりが紆余曲折ありながらもがんばったトランジションの成果で、十把ひとからげで語ることはできないのでしょう。それに学年や進路指導との協働もあるので、そこは控えるという謙虚さが、本橋先生らしいし、聖学院流儀の雰囲気でもあります。

★その6年間の紆余曲折・試行錯誤・山あり谷ありの豊かな体験を通して成長していくあるいは変容していく生徒の言動をサポートしてきた本橋先生のキャリア観というのは、いわゆる進路指導とは違います。

★いわゆる進路指導とは、偏差値データを分析して、偏差値をどのように上げるか、スコアの伸びに注目して行っていく指導のことをいいます。もちろん、それもやるでしょうが、偏差値データは参考にはしますが、それは外から与えられたモノサシです。

★それに囚われるのは、only one for othersの精神ではないのだと本橋先生はきっぱり。モノサシは内側から生まれてくる自分モードのものでなければ。でもそれは独りよがりではやはり自分の弱さに囚われることになるのだと。自分の弱さを解放するモノサシは他者のために貢献することにもなるものであると。

★世の中では、自分軸とかいわれたり、アイデンティティといわれるものですが、徹底的に外部の押しつけに囚われていないかどうか柔軟に思考する数学的思考が鋭いですね。似ているようで全く違うものと違っているようで共有できることがあるものとの差異は、体験と数学とそしてグローバル言語をミックス、あるいは越境できる知恵が必要だと。そして、その知恵を生み出す源泉はアートなのだと。

★それが生まれる起点の1つが思考力入試から始まっているのが聖学院です。明日、そこらへんを具体的抽象的に本橋先生からお聴きすることになると思います。鈴木さんの主宰するGWEは、メタ的な次元の話が多いのですが、ありがたいことに、共感してくださる方々も徐々に増えているということです。

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2022年3月30日 (水)

2089年から考える21世紀型教育(10)クリティカル&クリエイティブシンキングがカギ 入学時偏差値が低くても、大学に合格するケースはたくさんある❷

★クリティカルシンキングもクリエイティブシンキングもリベラルアーツの中にはいっていて昔からあるから新しいものではないと語る方もいらっしゃいます。まさに、その通りですね。ただ、昔々のリベラルアーツは、すべての人々のお話ではなかったのです。たとえば、かつて麻布の氷上校長先生が、新教養主義と名付けて土曜日の講座を始めようとしたときに、学内で、ものすごい議論がありました。結果的に今、土曜日は、「教養総合の時間」となっていますが、立ち上がり当初は、賛否両論の議論があったのです。

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(ハイデガーは、もしかしたらタイプⅣだったかもしれない。彼に限らず、アインシュタインなど世界に影響を与えた人々は、その可能性がある。東大の個別入試では合格しないけれど、東大の帰国生対象の小論文はクリアした可能性大である)

★21世紀型教育機構も、リベラルアーツの現代化を進めています。20世紀型教育は、中等教育段階で、リベラルアーツを授業の中で展開することは稀でした。灘の伝説の教師橋本武先生のような授業をどこの学校でも行っていたということはないでしょう。もちろん、氷上校長の授業もリベラルアーツの要素をいれていましたが、それもレアケースでした。

★しかし、クリティカルシンキングとクリエイティブシンキング(C軸思考)はリベラルアーツの領域だという認識が広まってくれると、20世紀には広く浸透していなかったという意味でC軸思考も包摂した新しい学びが展開することによって、リベラルアーツが授業の中で展開していくことになります。

★これは、麻布でさえも、議論になったくらいですから、20世紀末までは、広く行き渡っていた発想ではないのです。行っていたとしても、一握りの高偏差値校が実施していたというのが本当のところでしょう。前回ご紹介した日比谷高校の小論文の問題を見ればそれははっきりしますね。

★ところが、2014年以降中学入試では聖学院に代表される思考力入試のような新タイプ入試、高校入試の推薦入試、大学入試における総合型選抜(当時はAO入試)というC軸思考を織り込んだ入試問題が注目を浴びるようになってきたのです。偏差値が高いかどうかは関係ない世界です。

★募集人員でいえば、どれも20%程度ですが、大学入学ゾーンがA軸思考一色だったのに、そこに20%C軸思考の要素が生まれたのです。しかもこの20%は、だれにでもチャンスは開かれています。もちろん、高偏差値の大学の一般選抜も開かれていますが、結果的には、高偏差値10%の生徒で占められてしまいます。ところが、このC軸思考の生徒20%は、偏差値が低くても実際に合格を勝ち得る確率が高いわけです。

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★なぜなら、C軸思考は、人生の存在価値がベースになっていますから、偏差値の高低にかかわりなく、C軸思考を身につけることは可能です。

★ところが、この人生の存在価値を誰でも持っているのですが、C軸思考を身に付けていないために、その価値に気づかない生徒もいるのです。一般選抜では、タイプⅡやタイプⅢの生徒もいて、合格します。一方タイプⅣは、一般選抜ではなかなか難しいのです。

★一般選抜であれ、総合型選抜であれ、大学にとって(あくまで大学にとって)理想型は、タイプⅠの生徒でしょう。しかし、実際には少ないですね。さて、大学はこの事態をどう考えたのでしょう。いうまでもなく、今や80%以上の大学が総合型選抜を実施しているということは、タイプⅣのように、偏差値という目では見えない人生の存在価値をベースにC軸思考を有している生徒を受け入れようとしているわけです。

★これが、「高校入学時は大学入学者ゾーンにいなくても、卒業時に、大学入学者ゾーンにシフトする生徒はたくさんいる」という事実を構成しているのです。偏差値それ自体は、実は卒業時にそれほど伸びていなくても、総合型選抜によってDソーンシフトが可能なわけです。

★それを偏差値が低いのに受かるのは、大学が青田買いしているからだという人もいるのですが、偏差値で見えない部分を評価する多面的評価をしているわけですから、別の評価レンズでは、実に高いわけです。

★立教大学の中原淳教授をはじめ多くの見識者が、このタイプⅠとタイプⅣの生徒が大学や社会でプロジェクトチームやコミュニティにおいて大いに活躍するという調査をしてきました。このタイプⅠとタイプⅣの生徒のように、C軸思考を身につけていくキャリアデザインを「トランジション」と呼び、その2タイプの人生の痕跡である「トランジション」研究がこれから重要になってくるでしょう。なぜなら、この「トランジション」によって、ライフシフト時代を乗り切る人生の存在価値を広め深めることができるという結果になりそうだからです。

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2089年から考える21世紀型教育(10)クリティカル&クリエイティブシンキングがカギ 入学時偏差値が低くても、大学に合格するケースはたくさんある❶

★高校入学時偏差値が低くても、大学に合格することは可能な時代がすでに到来している。偏差値30代で早稲田大学に合格したというケースがメディアが大きく取り上げることはよくある。たしかに、出発点が30代で、早稲田大学や慶応に入るのは、そう多くはない。しかし、そういうメディア受けする大学でないケースをみると、初めは低いが合格時にはグーンと伸びているというケースはかなり多い。わたしたちは、その事実を大切にしなくてはならない。受験業界の価値意識は高偏差値のランキングだが、それは生徒1人ひとりにとっては、そんなに関係ない。「人生における存在価値」と「高偏差値ランキング価値」は相関がないからだ。そもそも大学に行こうが行くまいが、「人生における存在価値」はあるのだから。にもかかわらず、あたかも偏差値ランキング価値と短絡的に結びつける人も多く、それは困ったことだが、それもいずれ、このようなケースが多いことを広く共有することで、それは間違っていると気づくだろう。

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★さて、その事実とは、先ほどから言っている「高校入学時、大学入学者ゾーン(以降「Dゾーン)にいなくても、大学入学者ソーンにシフトする生徒はたくさんいる」という事実である。

★そして、なぜそういうことが起きるのかというと、それはクリティカルシンキングとクリエイティブシンキング(2つを「C軸思考」と呼ぼう)を「身につける新しい学び」が高校で展開されるようになったからだ。展開されていると言っても、まだまだ少ないから、そのような新しい学びを展開しているところでは、Dゾーンシフトできる生徒が多数あらわれると言った方が現時点ではよいかもしれない。

★いずれは、今回の新学習指導要領で、すべての高校がこの新しい学びを展開せざるを得ないので、どの高校からもこのDゾーンへシフトすることが可能になる。しかし、100万人の高校卒業生に対して、大学総定員は約55万人だから、限界はあるだろうと思われるかもしれない。しかし、数年で80万人時代がくる。それでも25万人は行き場がないではないかと思うかもしれないが、海外大学がオンラインで入学できるようにどんどんなっていく。

★ハーバード大学やスタンフォード、MITなどがメタバース領域で行うことは可能。そんなことは2025年には現実になっているだろう。

★世界中経済格差があるが、そんなことを放置していたら、世界の大学が干上がってしまう。それを考えるのもC軸思考。C軸思考の重要性がDゾーンシフトを偏差値を超えて起こり、それがある沸点に行き着いたとき、そのタイミングで海外大学が日本にどっと参入する。そのシナリオはすでにTPPの議論がされている段階であったものだ。

★そんなことより、なぜC時思考を身に付けるとDゾーンに移れるのか?それは、もともと偏差値は知識・技能の領域しか測定できなかったのであるからだ。この領域のうち、知識・理解を「A軸思考」と呼び、ロジカルシンキングを「B軸思考」と呼んでおこう。

★すると、A軸思考と知識を論理的につなぎ合わせるB軸思考までは、偏差値で測れたのだが、C軸思考は実は測れない。その一つの例として、次のような日比谷高校の推薦入試で出題された小論文(令和3年度:東京都が公表)を見てみよう。

小問1
SDGsの目標の相互の関連性を踏まえた上で、目標の一つである「2 飢餓をゼロに」という目標に対して「農地を増やす」という解決策を考えるとき、これにより良い影響が及ぶと考えられる目標と、悪い影響が及ぶと考えられる目標をそれぞれ一つずつ示し、その理由を説明する。120-140字
小問2
図2、3を踏まえて、日本が世界をリードしてその取り組みを発信できる目標を示し、その理由と具体的な取り組みについて説明する。420-460 字

★これは、演繹(ディダクション)や帰納法(インダクション)で論証できない。あくまで、仮説として推理(アブダクション)していくものだ。つまり、三角ロジックのうち、データ部分はあくまで妥当性のあるものを推理して論じていくというもの。妥当性をそなえなければならないから、たんなる思い付きではダメで、クリティカルシンキングが必要。そのうえで、小問2のようにクリエイティブシンキングを発揮する問いのデザインになっている。さすがだ。

★この問いのデザインは、東大の帰国生対象の小論の作り方と同期する。今年も出会った帰国生2人が東大に合格したが、知人に頼まれ、2時間ぐらいのワークショップを手伝った。日比谷高校の入学時にこのようなC軸思考をもって入れば、卒業時に、この2人のようなハイレベルC軸思考を身に付けることはできるだろうと予測するのは難しくない。もちろん、私の経験値に過ぎないが。

★しかしだ。この推薦入試は、日比谷高校だけが行うのではなく、多くの都立高校や私立高校でも実施している。SDGsのデータや情報を踏まえて、未来を創る方向性の問いのデザインは、多くの学校でも実施している。そのとき、日比谷高校を合格した生徒の答案と偏差値が50前後の私立高校を合格した生徒の答案を見比べることが、もし可能であれば、驚くべき事実が判明するはずだ。

★どんな事実か。大差ないという事実だ。

★もちろん、語彙量やどんな言葉を選択するのか、表現の巧みさの違いはある。しかし、このような小論文は「人生における存在価値」が土台になってしまうから、その土台では大差ないというか差がつけれれない。だから、得点をつけるとしたら、語彙、言葉の適切な語用、論理的繋がり、適切な表現技法などなど。

★しかし、大事な事実は、この「人生における存在価値」が育っているかどうかである。偏差値が高くても育っていないこともあるし、偏差値が低くても育っていることがある。

★なぜそんなことがおこるのか?そして「人生における存在価値」を土台とする新しい学びが大学に合格するかどうかだけではなく、今後重要になってくるのはなぜなのか?それを考え、勤務校で実践していきたいわけである。(つづく)

 

 

 

 

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2022年3月29日 (火)

2089年から考える21世紀型教育(09)中原淳教授の「経営学習論」 ピーター・センゲの「学習する組織」を超える視座

★中原淳教授の「経営学習論」は興味深い。ピーター・センゲの「学習する組織」を無視はしていないが、実証的にそれを超える作業を丁寧に行っている。そして、実証的な論調がゆえ、ピーター・センゲのような創造的な閃きがなさそうな表現がゆえに、一見すると静態的なトーンで進むのであるが、行き着く先は、スーパーダイナミズムである。

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★いかにダイナミックなのかは、読み手によって変わるだろうから、それは手に取って読んでいただきたい。もちろん、私は相変わらず斜め読みで申し訳ないが、刺激を受けたことに違いはない。

★何が刺激的かというと、ピーター・センゲを超えていくということは、21世紀型教育そのものが変容するということなのである。それは確かに画期的だ。これまでの21世紀型教育は、20世紀の物質文明依存主義からの脱却だった。脱偏差値なんて言説は同じ意味である。ピーター・センゲのシステム思考が知的で精神的な活動の好循環をもたらす発想であり、物質文明が破壊してきたこの循環の回復だった。

★しかし、人類は誕生するや物質を道具として、その道具を介して文明や文化を構築してきたわけだ。したがって、今後、私たちは、物質と精神とか身体と精神のような二分法はとらない。この二分法は、組織において、現場主義的な知と理論知をわけてきた。

★これは、極端に言えば、中等教育機関と高等教育機関(大学)は違うという話につながってきたし、企業においては、現場主義と研究主義とは違うと二分されてきた。受験と教育は違うというのもそうだ。

★どこの領域でもシンクタンクがあるが、やはりシンクタンクは現場と乖離してきたというか、そう話されてきた。

★デジタル化という新しい道具によって、その二分化の壁をクリアしようということなのだ。デジタル化を進めたくない人は、二分化が居心地がよいからである。ただ、二分化を進める便利主義はデジタル化推進者の中にも大勢いて困るのだが。

★ローカルとグローバルという二分化も、この二分化と同期する。デジタル化やSNSを規制したいという動機付けは、二分化という格差主義によって利益をうる層がいるからである。

★ドネラ・メドウズの生み出したシステム思考は、この二分化を限りなく越境していく発想だった。それがゆえに、彼女の発想は小学生にも浸透する勢いだった。しかし、今はその勢いは限定的だし、その後継者の1人であるピーター・センゲも理論知の中に収納されてきている。

★二分化は近代化の十八番であったが、その出発点においてもう一つの近代化があった。それは、法実証主義による制度設計によって、無視されてきた。その出発点において、デューイやパース、ジェームズは回復しようとしたし、最近ではハワード・ガードナー教授がアート知によって回復しようとしている。

★20世紀型の失敗を問うているだけでは、21世紀型のビジョンは、独り立ちしない。その点、21世紀型としての経営学習論が立ち上がる突破口を中原淳教授は語り始めている。

★ただ、二元論ではなく、多元論的一元論なので、複眼的視座で関数的変容把握をする必要があるのではないかとは思う。つまり、思考コード的発想であると思うわけである。

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2089年から考える21世紀型教育(08)湘南白百合の最前線 新しいコーディネート、新しい高大連携、自己変容、変わらぬ気遣い

★湘南白百合の最前線は、新しいコーディネート、新しい高大連携、生徒の自己変容、変わらぬ気遣いで満ちています。前回ご紹介した教頭水尾先生との対話と同校のfacebookを照合すると、そのことがはっきりします。

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(写真は、湘南白百合のfacebookから)

★「新しいコーディネート」というのは、従来から外部の団体、たとえば政府や企業、NPOとのコラボレーションは、どこの学校でも行われていました。しかし、次のような同校のfacebookのコメントを読めば、従来とは違う「新しいコーディネート」が行われているのが了解できます。

<今日・明日の2日連続で、ドローンを飛ばして空撮動画を撮り、それを編集して映像作品を作ろう、という探究講座を実施しています。講師は、B'zやONE OK ROCKのライブ映像なども手がける船津宏樹氏。栄光学園の生徒も一緒に参加しています。
ドローンの構造を学んだ上で、どんな映像作品にしたいかチームで考え、中庭でドローンを飛ばした生徒たち。青空と湘南の海、そして満開の桜という抜群のロケーションの中、思い描いたような映像を撮ろうと試行錯誤し、うまくドローンが飛ぶと歓声が上がっていました。協働し、楽しみながら創造力を磨く本講座、今日の映像を素材に明日は編集作業に入ります。 >

★男子校「栄光学園」の生徒も参加という、外部の中に専門家だけではなく、近隣の学校の生徒も参加し、プロジェクトを遂行してしまうというわけです。これは画期的です。コンテストとかではなく、探究の講座としてコーディネートしているのですから。

★「新しい高大連携」というのは、従来から大学の先生を招き講演を聴くという連携はどこの学校でも行われていましたが、湘南白百合の高大連携は先に進んでいます。やはり、次のコメントを読んでいただくと、新しさがすぐにわかります。

<【湘南白百合×逗子開成×サレジオ 3校合同探究オリンピック】
今日は本校を会場に「明日の思考力コンテストin湘南 春の陣」と称して、3校の中学生による探究コンテストを実施しました!
チーム分けはアプリで実施し、男女混合メンバーで臨みました。初めはぎこちなさが感じられましたが、次第に打ち解け、プラレールを使った課題をはじめ、答えのない問いに挑戦しました。


普段は別々の学校で学ぶ生徒達ですが、それぞれの持ち味を発揮し、短時間でチームを作ってチャレンジした経験は、貴重なものになったことでしょう。


最後に「問いを持ち、協働して探り、新たな智をつくる」ことについて、講師の 学芸大学 西村先生のレクチャーを受けた生徒達でしたが、まさにその一歩を踏み出す一日になりました。>

★この高大連携は、湘南白百合、逗子開成、サレジオの生徒が協働する探究講座です。学芸大の先生がレクチャーするだけではなく、プラレールなど学習ツールを介在させていることから、各校の教師も講座デザインに参加していることがわかります。大学の先生、中高の先生、生徒が三位一体となってワークショップを行うというのは、これもまた画期的です。

★そして、このような活動を通して、生徒1人ひとりが問いを立て、協働し、新たな智をつくるという「自己変容」を生み出しているというのも想像するに難くありません。

★このような「新しいコーディネート」「新しい高大連携」を企画運営することができるのはなぜか?「自己変容」を教師も生徒も期待し、実現してしまうのはなぜか?それは、次の変わらぬ気遣いの眼差しがあるからです。

<今日の午前中は、新中学1年生のご家庭への学校公開日でした。今年も入学式は保護者の方のご列席は1名までとするなど、ご家族でご来校いただける機会が少ない中、少しでも学校の様子を体感していただける機会になればと実施しました。
中庭の桜も少し咲きはじめ、ご来校になったご家族は思い思いに写真撮影をされたり、入学にむけて想像を膨らましていた様子でした。4月からの新入生の入学を、生徒・教職員一同、楽しみお待ちしています!>

★「気遣い」というのは、一つ一つの行為に価値を生み出すことだということが、この文章から見えてきます。価値とはある意味コンセプトです。コンセプトは目標を示唆もするわけですが、何よりそれは価値があること、一連の行為のエネルギーであることが大事です。

★見学会をやるのは、マーケティング的な意味もあるでしょうが、それ以上にこのコロナ禍のためなかなか会えなかったその痛みを共有し、それを解消しようという大事な意味があるというのがわかります。

★桜の花の存在が、家族の愛情を象徴する行為を誘うということもわかります。さりげないけれど、とても大切な価値意識がそこには現れています。そして、チーム湘南白百合のおもてなしの心。このおもてなしの気遣いは、未来への可能性を広げることです。

★かくして、イベントのプレゼンテーションやパフォーマンスは、新しい価値ある世界に巻き込む魅力を生み出すことなのだというが了解できます。改めて勉強になりました。ありがとうございます。

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2022年3月28日 (月)

2089年から考える21世紀型教育(07)湘南白百合の水尾教頭のコンサルエーション 首都圏の私立中高一貫校のシーンを変える

★先週の金曜日、湘南白百合の教頭水尾先生とGLICC代表鈴木さんと対話をしました。今春同校の中学入試における生徒募集は激増し、神奈川エリアでは大注目されました。従来は、大注目される大きな要因といえば、東大合格者倍増とか、医学部合格者激増とかそういう「結果」によって変動がありました。しかし、今回は、全く違い、湘南白百合の新しい学びの効果をつくりだした教育力の質が評価されたからであるという、新しい流れが生まれました。その流れのフロントランナーが湘南白百合なわけです。今回、水尾先生は、その新しい学びが形成された背景文脈について詳しく語ってくださいました。一般の学校説明会では、語り尽くせない分厚い話で、本邦初という内容もあります。ですから、ぜひご視聴ください

視聴先→GLICC Weekly EDU 第72回「未来のリーダーが憧れる湘南白百合ー水尾純子教頭先生との対話」

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(写真は湘南白百合のサイトから)

★とにかく、あらゆる教育の局面で、丁寧な信頼関係づくりが実践されています。しかも、その信頼関係は、多様性を受け入れる寛容性がベースになりますから、いろいろな化学反応が生まれています。それがあらゆる局面で教育の質を豊かにします。それゆえ、湘南白百合の教育力の魅力が光り輝くわけです。

★それに多くの受験生や保護者が魅せらっれわけです。そして、その信頼関係を生み出す主役が生徒ですから、生徒自身が自らの活動が魅力の光を放っているということに、自信と責任と勇気を内面の光に変換していきます。柔らかく、温かく、優しく、内なる光が輝くわけですから、この不安な時代に希望の光となって輝くのです。その光を見た受験生や保護者が魅せられないはずはありません。

★この希望の光を、多くの私立男子校や大学等と共有し、コラボしていく探究活動を行っていくのも湘南白百合です。信頼関係を学内だけではなく、学外にも広げていくには、コンサルティング能力が必要です。プロデュース力には、異質な相手とつなげる発想力や資金力が必要ですが、実際には、現場の多様な価値観の人間どうしの関係をコンサルテーションする能力が必要です。これが、あらゆる局面で丁寧に信頼関係を生み出し、広げていくコアエネルギーです。

★水尾先生は、教師としての探究のプログラムのクリエーターであると同時に、コラボ関係を紡いでいくコンサルテーション力も持っています。そしてプロデュースの発想力と実行力。それが成功するには、同僚が共感してこのコラボの動きを起こしていく必要がありますが、水尾先生は、このようなコラボ関係の世界に巻き込んでいくすばらしい力を発揮しているのです。

★コンサルテーションは、一般には外部のコンサルタントによって行われる場合が多いのですが、湘南白百合の場合は教師自身がコンサルテーションを行っています。そうなると、学校間の共通の問題意識やモチベーションを共有できます。そこから出発するので、本当に自分たちにとって重要な教育の種を共有できるわけです。

★ですから、違う学校の教師同士が、内側から使命を感じて動きがうまれるのです。

★そのコンサルテーションのきっかけを創っているのが水尾先生というわけです。

★この水尾先生のコンサルテーションの方法などについての具体的な話はぜひ動画をご視聴ください。また、そのコンサルテーションの象徴的な結実が、生徒による新しい空間のデザインであり、その動画がまた見ごたえがあります。

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2022年3月25日 (金)

2089年から考える21世紀型教育(06)反自己啓発というパラドクス ウェルネス症候群を超えるには

★最近おもしろい本を斜め読みしました。スヴェン・ブリンクマン教授の新しい翻訳書「地に足をつけて生きろ! 加速文化の重圧に対抗する7つの方法Evolving (2022/3/9) 田村 洋一 (翻訳)」がそれです。

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★次の目次をみると、かなり挑発的です。

イントロダクション 生き急ぐ人々
第1章 己の内面を見つめたりするな
第2章 人生のネガティブにフォーカスしろ
第3章 きっぱりと断れ
第4章 感情は押し殺せ
第5章 コーチをクビにしろ
第6章 小説を読め ―― 自己啓発書や伝記を読むな
第7章 過去にこだわれ
結論 加速文化におけるストア主義 

★しかし、世の中が政治経済や生命の危機に直面している時には、人間とは何かが問われますから、このような本が緊急出版されるものです。私たちはこのような本におそらく善い影響をうけるので、それはよいことでしょう。1995年の関西淡路大震災、サリン事件に襲われたとき、ソフィーの世界という高校生対象の哲学物語がベストセラーになりました。2011年の東北大震災の時も、ルソーをはじめ啓蒙思想のルネサンスがありました。そもそもバブルがはじけた1990年代の経済の空白時代にヒットしたのは「清貧の思想」でした。

★ですから、今回もそのサイクルだろうと思いましたが、反自己啓発だったり、内省を批判したり、オットー・シャーマーを名指しで批判したりしていたので、反自己啓発はともかく(私自身も商品化された自己啓発ものは、枠組みに収納される心理学の悪用だと思っています)、それ以外は、私自身への批判でもあるかもしれないと思い、kindle版がまだでていないのに、ハードカバー本で購入しました。ルーペ―を通して読み進むので、全編を読むのは辛いですね。それで、つい斜め読みになります。

★それでも、驚いたことに、私の批判どころか、私とシンクロするところばかりなのです。なんというパラドクスだと微笑みながら大笑いしながら読みました。

★要するに、あらゆる物事は物象化(典型が商品化)されるので、それに対してネガティブなストア主義的視座でとらえようということです。

★≪私学の系譜≫としての21世紀型教育は、あくまで権威や権力に屈しない啓蒙思想的な影響を受けた建学の精神といういう意味での伝統を保守し、それぞれの時代の革新に応じてアップデートもしようということですが、ブリンクマン教授の言っている21世紀というのは、加速文化をコモディティ化するトレンドを批判しているわけで、そうではなく、過去を大事にし、歴史という物語を大事にしろということですから、まさにこの精神は21世紀型教育そのものです。

★いずれにしても、21世紀の影の部分であるwell-beingを商品化してしまってそれに依存してしまっているウェルネス症候群から解放されるには、閉鎖的な内面をリフレクションするのではなく、地に足をつけ、内面と外界がつながった身体の内省化の協働によってWorld Makingをやっていこうよということです。それが21世紀型教育のManagement Learningです。

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2022年3月24日 (木)

2089年から考える21世紀型教育(05)2050年から考える流れは定着

★東京大学にしても慶応義塾大学にしても落合陽一さんにしても2050年という近未来は、もはや予測不能ではなさそうです。ほぼ見通しが立っているのでしょう。ソサイエティ5.0とかグリーン社会を目指してとか政府が目指しているのも2050年です。

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★実は2017年の東大工学部の推薦入試で次のような問題が出題されました。

以下の設問を読み、小論文解答用紙(別紙)に解答しなさい。 (600~800 字)
「ルネサンス期にヨーロッパに大きな社会的変革をもたらした「火薬・羅針盤・ 活版印刷術」は三大発明と呼ばれている。なぜ三大発明と呼ばれているかを簡単 に考察した後,2050 年頃までに期待する3つの技術革新を挙げ,それらの相乗 効果がもたらす社会的変革を説明せよ。」

(平成 29 年度 東京大学工学部推薦入試 小論文課題 ) 

★この問題を、ワークショップ型で、かえつ有明のプロジェクト科1期生と思考を深めたときがあります。今のかえつ有明の自由な発想、アグレッシブな活動、コミュニティシップの広がりを生み出す生徒のプロトタイプでした。

★いろいろな議論になったし、アイデアを生み出すプロセスもそれぞれの考えを統合していく見事なもので、詳しい中身はわすれましたが、プラクティカルな知恵が育っているなあと感動したものです。

★その中で、口々に、なぜ2050年という設定なのか、もっと未来でもいいのではという議論がでていたのは、印象的でした。そこが入試問題の限界だよねと。

★一見、正解はないようで、近未来はだいたい決まっているから、あまり突飛な発想はできないと。

★ルネサンスはすでに宇宙論が展開されていましたから、当然未来は新たな宇宙論を展開するのだという議論も興味深かったのを記憶しています。

★いずれにしても、2050年問題は、高校生が十分に議論できる問題だし、すくなくとも、今のZ世代高校生は、2050年の主体者です。しかも生産年齢人口が少ない時代です。とても、今と同じ生産道具ではやっていけません。生徒が他人事≒自分事としてイノベーションを発案できる学びの環境、クリエイティビティを発揮できる学びの環境が必要なのはいうまでもありません。

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2022年3月21日 (月)

2089年から考える21世紀型教育(04)大学地域連携学会と聖パウロ学園

★今月3月5日、大学地域連携学会の第1回大会が開催されました。日本大学文理学部、コミュニティ人間科学部、医学部などの教授陣が多くの大学や地域、学校を巻き込んで新しい学会を立ち上げました。多様な領域における教育の連携を大学と地域で実践し、形式知として理論化し、それをまた現場と共有するという動きになると思います。学校は、地域の文化やリスクマネジメントの1つの拠点となります。

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★したがって、聖パウロ学園も、日大文理学部の教授陣と学生・大学院生と毎年年間通じて連携をしています。本学園には、全日制とエンカレッジコース(通信制)の二つの学校があり、濃密な連携をしているのはエンカレッジコースです。

★エンカレッジコースは、文部科学省が教育行政によって、汲み取ることのできない生徒の才能を独自に受け入れる場です。その割に助成金が少ないのはこれからなんとかしなければなりませんが、文科省にあまり頼らず、コミュニティ形成によってそこは突破口を見出したいと思っています。

★すでに、エンカレッジの先生方は、その突破口を開き、多様な文化及び芸術活動を生徒と共にしています。おそらく、日本の普通教育では見えない本質的な教育が行われています。そこには希望のシーンがあります。

★そのシーンを生み出すときに、日大文理学部の方々との連携は欠かせません。連携の基礎はインターンシップで、文理学部の学生がエンカレッジコースの授業に参加し、生徒と教師の理解形成、学びの共有を共に学んでいます。そのプロセスは、学生のみならずいっしょにかかわる教師のプロフェッショナルなマインド、スキルをアップデートすることにもなっています。

★また、そのような連携ができる組織開発のバージョンアップにもつながっています。

★そして、非常に濃密な教師と人間の関係の生成プロセスを、実践知で終わらせることなく、理論知に結実するわけです。その結実の成果発表の場の1つが、今回の大学地域連携学会の役割でもあります。

★聖パウロ学園の教師も授業だけではなく、学校心理士や大学院でのかかわりなどを通して、自分たちが形成してきた実践知を自ら理論知として再構築して論文で発表する機会も得ています。

★エンカレッジでの教育は、認知部分のみならず、教育心理、教育医療、スポーツ教育、ボランティア、自然都市デザインなど言語以外の表現方法によるマルチプルインテリジェンスに広がっています。その意味でも、この大学地域連携学会の幅広い領域の連携の学知との出会いは大切です。

★今回も「大学地域連携学研究」という論文誌に、聖パウロ学園の阿部滉先生が、日大文理学部の伊佐野龍司先生と協働して作成した論文が掲載されています。

★大学と学校の組織開発や人材開発の連携に関する文部科学省の制度変遷とこれからの展望について書いています。お二人の関心は、その制度の中で、いかに生徒の内省的発達を見出せるかという点でしょうから、今後もっと具体的状況における実践知のシステムと理論知としてのシステムのスクランブルの実績が発表されるでしょう。

★すでに、カナダでは、各州の拠点大学と地域の多様なコミュニティが連携し、グローバル市民におけるコミュニティシップ形成が日常になっています。そのコミュニティの1つとして、学校もあり、インクルーシブでハイレベルな学びをPBL的な手法で、つまり体験型対話と言語だけではなく、多様な身体パフォーマンスも活用しながら水平的多様性を重視した教育が展開し、その学びは、学校→地域→州→グローバルと循環するようになっています。

★イギリスや米国、IBなどのモデルが日本では話題になっていますが、カナダの大学とコミュニティの連携によるグローバル市民形成のモデルも有益でしょう。しかし、何より、そのようなリサーチを積み上げながら、日本独自の活動も重要です。日本大学が中心になってつくっていく大学地域連携学会に期待がかかります。

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2089年から考える21世紀型教育(03)かえつ有明 宇宙の響き

★かえつ有明の副校長佐野先生とGLICC代表鈴木さんが対話している動画が公開されています。<GLICC Weekly EDU 第71回「かえつ有明のさらなるアップデートー佐野和之副校長先生との対話」>がそれです。最初の30分間は私も参加していますが、そこは飛ばして佐野先生と鈴木さんとの対話をお聞きするところから始めるのをおススメします。

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★というのも、佐野先生の響きを視聴者のみなさんが共振できるように鈴木さんが対話しているからです。この響きは2089年から考える21世紀型教育の象徴的な波動だからです。

★前回記述した5つのFとナチュラルなゆらぎ1/fが広がっています。

★ですから、かえつ有明の教師も生徒も、もはや垂直的階層構造に頼ることなく、水平的多様性を生み出すマインドとスキルとセオリーを内製的研修によって共有しています。この根本は、互いの存在を受けとめる心理的安心安全をフィールドとする対話を生成し続ける気持ちが共有されているわけです。

★互いの存在を受けとめるには、互いのメンタルモデルを共有できなければならないわけです。それぞれ痛みを感じて生きているのが人間存在の性格ですが、そこをリスペクトし、互いに活動することによってその痛みへのこだわりを解くことができます。痛みそれ自体はなくならないのですが、それに囚われている自分が解放されます。

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★そういう内省レベルの意味で、フリーな響きが共鳴音を生み出すのです。共鳴しているわけですから、生徒が困っていたら、どうしたらよいか共振したメンバーがすぐに集まって、プログラムをチームで作成して解決していきます。多様なプロジェクトの響きに満たされているのがかえつ有明なのですが、それを教師だけではなく、生徒も響き合っています。そのプロトタイプが7年前に立ち上げられた高校生の新クラスです。

★この新クラスは、高校入試で入学できるのですが、高校入試の世界は垂直的階層構造がまだまだ主流です。ですから、この7年間は、そこをおもんぱかりつつ水平的多様性をいっしょに生み出しながら、痛みを共有し、その痛みが、実は社会課題にもつながっていることを体感し、自分が何をするのかミッションを発見するクラスを生み出してきました。

★しかし、来年度からは、この垂直的階層構造を気にせず、思い切りかえつ有明のいまここで行っている教育活動を明快に表現し、共感して選んでもらえる入試制度にアップデートするそうです。それをどうやるのかというと、ワークショップ型の入試を行っていくようです。

★中学入試では当たり前なのですが、高校入試では、そう簡単にできない高校入試特有の制度があるのです。それを気にせず、あるいは屈せず、かえつ有明のマインド全開にした入試を行うのでしょう。

★じゃあ、高校入試で新しい入試をやればよいのかというと、そうは簡単ではないのです。ここまで述べてきたようなマインドを生み出すスキルやセオリーがセットになっていないとなかなかできません。

★マインドは、現場の痛みの共有から響きはじめます。それをいったんは受容しますが、そこから解かれるには、スキルが必要です。現場の中で試行錯誤しながらみんなで創っていきます。しかし、それだけでは広がりません。外とのネットワークが必要です。この外とのネットワークがセオリーを生み出します。

★しかも大事なことは、そのネットワークは、やはりマインドの響きを共に奏でることができるつながりえだるということです。

★この循環の広がりが宇宙の響きと共感します。1/fのゆらぎは、実はストリングスだったのです。

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2089年から考える21世紀型教育(02)これからの響き

★2089年から考える21世紀型教育は、ある響きを奏でています。それは5つのFによって時代のゆらぎ(1/fはそのメタファーです)に対応して柔軟にアップデートしていこうという響きです。5つのFとは次の図の通りです。

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★5Fは、権威や権力などがつくる垂直的階層構造に屈しないというマインドとスキルとセオリーの響きです。多様性や複雑系を受容し、水平的多様性を生みだし続けるゆらぎという解が定まらない状況に向かい合う響きです。

★フラット、ファスト、フリー、フェアー、フラタニティ(友愛)でどのように構成するかは、時代によって変わるでしょう。しかし、その関係性は、それぞれの時代の1/fという揺らぎを常に見定めながら、その都度規定され、その都度アップデートされます。

★フラットとは、よくいわれる心理的安心安全の響きと共振します。アップデートが可能な状態であるということです。垂直的階層による固定され響きがなくなる状態ではありません。ゆらぎの響きを共感できる状態です。内省の響きです。

★ファストというとグローバリゼーションによる欲望の加速度化を想起する言葉かもしれませんが、21世紀型教育においては、組織開発も人材開発も、タイミングのよい柔軟な速さという意味です。どんなに速くても、タイミングが合わなければ響きません。どんなにテンポがゆっくりでも、タイミングが合えば響きます。ファストというのは、いわば光の速度です。何よりも速いのですが、不変です。だからいかなる事態にもタイミングが合うのです。

★フリーとは、垂直的階層構造のゆらぎを捉える響きです。破壊ではなく、シフトする過程のゆらぎの響きとともに共振する自由です。

★フェアーとは、水平的多様性の響きが平衡を持続可能にする響きです。

★フラタニティとは、地球への友愛です。地球は一つです。自然と社会と精神は循環しています。その地球の呼吸の響きを共有する響きです。

★コロナ、ウクライナ、フクシマ・・・私たちをとりまく揺らぎの乱れあるいは響きがとまることを5つのFでナチュラルなゆらぎの響きにもどすために、いろいろな方法があります。随所でそれぞれ思い、考え、行動しています。それは多様で複雑です。そんな中で共通している希望のゆらぎは垂直的階層構造に屈しない、他者への思いやり(黄金律)です。この旋律を奏でる響きを忘却しないように21世紀型教育は進化します。

★アップデートは光速のように不変の旋律=黄金律があってこそ変わり得るのです。

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2022年3月20日 (日)

2089年から考える21世紀型教育(01)東京私学教育研究所が動き出す

★世の中、4月の移行に向かっていろいろ動いているのがこの時期です。私立学校も動いています。たとえば、東京私学教育研究所は、先週、勤務校(聖パウロ学園)の伊東教諭も出席した研究会を開催しています。そこには、東京の私立学校の理事長校長部会や経営部会、各教科部会などの教師が集まりました。4月から、同研究所は、さまざまな研修を開始していきます。その際に、研修コードをつくって目標を定め、私学の独自性や先見性、先進性をさらにパワフルにあるいはアップデートするために、各部会の具体的な展開をつくっていこうということのようです。

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★同研究所所長の平方邦行先生が、そのお話の理念と具体的な展開の視点として、思考コードに基づいて展開している21世紀型教育の構造について共有したということです。そして、各学校がそれを共有しつつも独自に展開するために、研修コードを創って構想を練っていこうということのようです。

★私はラッキーなことに、平方先生とは、この点に関して昨年から議論を続けています。平方先生が、首都圏模試センターの情報誌「shuTOMO」の連載を執筆する際に、恐れ多くも、平方先生がセルフモニタリングをする際の対話の相手として召喚されました。5月の私学展で先生が執筆されるパンフレット編集の際にも、召喚され、私は言いたいことを言わせていただきました。

★長年のお付き合いをさせていただき、言わば私の人生の師ですから、何かお役に立てればと思いますが、平方先生にとっては、広く情報を収集したり確認をする一環に過ぎないのです。

★それに、私の話は、勤務校である聖パウロ学園でどういう思いで何をやり、さらに4月以降どのようにしていくのかというケースメソッドの話です。一方、平方先生は私立学校全体を包括する話で、すべての私立学校と協力して、2089年に60代から70代になる、Z世代、α世代の教育をどうするかという意味で21世紀型教育の新たな構想を描いているわけです。2089年には、昭和世代は全員が100歳以上になります。つまり、ほぼいなくなります。ですから、昭和世代のつくりあげてきた20世紀型教育にこだわるのは、いったん括弧にいれようというわけです。

★否定ではありません。ただ、21世紀型教育を構想しないで、20世紀型教育の立場からいつまでも議論するようなことは、リーダーのやることではないのです。昭和世代は、自分がこうやってきたという話ばかりするのは、どんなにすばらしいことでもそれはエゴ行為です。そういうエゴを捨て、2089年自分たちがいなくなることを前提に、未来を描かなくてはということです。

★なぜ研修コードが必要かというと、思考コードで知識偏重にならないように、創造的思考力までの翼をひろげられるような見通しを立てなければならないのです。そのための組織開発、人材開発のための道標として研修コードが必要だということです。

★そのような2089年から考える21世紀型教育を、私立学校の先生方がいっしょにつくっていくということです。ただし、各学校は建学の精神を土台にしているので、IBのような共通のプログラムを創ろうということではありません。IBがどんなに素晴らしくても多様なプログラムの1つであることに替わりなく、IBは他のプログラムと切磋琢磨し、ハイクオリティのポジショニングを勝ち得ているだけです。

★私立学校はIBやAレベル、APのようなハイレベルプログラムをリサーチをしながらも、独自の教育プログラムを生み出す多様体です。

★このことを忘れると、私立学校は公立学校に吸収され消滅するでしょう。そして、もしそうなったら、日本の教育も衰退します。

★多様性や複雑性のないところでは、エントロピーは増大してしまうからです。

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2022年3月17日 (木)

学校が変容するというコト(25)早稲田大学教育学部の国語の入試問題の選択肢問題

★JCASTニュースに結構衝撃的な記事が掲載されました。それは<早大教育学部の入試国語めぐり著者が問合せ→回答に猛反発「誠実な対応を」 大学「発信は認識」>2022年03月15日20時44分という記事です。こう始まります。「 早稲田大学教育学部の入試で出題された国語の問題について、問題文に一部内容が使用された書籍の著者である明治大学の重田園江教授(政治思想)が、自らの問い合わせに説明がなかったことに納得できないと、教養情報サイト「SYNODOS(シノドス)」上で早大に抗議した。」

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★重田教授と言えば、ミシェル・フーコーの研究者であり、著書も複数執筆しています。政治経済学部や法学部が課題文としてとり扱うのは違和感はないのですが、教育学部が出題するというのは、オッ!と思いました。で、何が問題なのだと、続きを読むと、こうあります。

「2022年2月19日に行われた教育学部の入試では、国語の第1問で、重田教授の著書『フーコーの風向き-近代国家の系譜学』(2020年)から出題があった。第1問には、問1~8まであり、重田教授は、このうち学部が示した問1~4までの解答例について、3月14日のシノドス投稿で疑義を示した。」

★同大学同学部の国語の入試問題は、選択式問題ですから、著者と作問者のズレがあるのは、結構あるあるです。しかし、そのことをシノドスに寄稿して抗議したというのは、「あるある」では済まされない何かがあるのではと思いました。そこでシノドスの記事を読むことになるのですが、その前に私も解いてみようと。問題になっている問1から問4までを課題文を読まずに解いてみました。

★たまたま、昔ストラスブール大学の日本語を研究する学部の方々とPBL型の学習ツアーをやっていたので、フランス人の学部生や大学院生からフーコーのことはよく聞いていたのです。もちろん私はフランス語はできません。彼らは日本語がペラペラです。CEFRでB2の日本語の実力を持っていました(当時日本語のCEFRの認定はB2までしか測る機会がなかったのです。実際にはC1以上だったでしょう)から、日本語を話したくて仕方がないという前のめりの学生や研究者ばかりです。ですから、とうとうフランス語を学ぶ機会を逸しました(ということにしておきます。ようはやる気の問題です)。

★ストラスブールを彼らとフィールドワークした時に、今ENAはストラスブールにもあるんだよと。運河の向こうに見える閉鎖的な建物を指して教えてくれました。そして、昔は監獄だったり、修道院だったりで、今は学校と微笑みました。彼らは、フーコーの監獄、病院、学校、たぶん修道院もそうだと思いますが、権力の同構造のことを、その建物を見ながら教えてくれていたのです。

★彼らは、ストラスブール大学の教授マルク・ブロックを誇りに思っていました。教授はレジスタンス活動をして最終的にはドイツ軍につかまり銃殺刑になりました。そういう意味では、フーコーとはどこか親和性もありますが、私が出会ったフランス人の学生は、ヒーロー扱いはしていなかったですね。基本リスペクトでした。

★そして、当然、建築構造や空間の話になりますから、パノプティコンの話もしてくれました。彼らは、権力には本当に敏感です。日本の学校の先生方とファシリテーターとして協力してくれる彼らが対話が出来る状況にもっていくのが私の役割でしたが、今でこそPBLは当たり前ですが、インタラクティブな関係をつくることは、その当時はまだまだ難しかったですね。

★そんな感じで、選択肢問題を解いたら、叱られるかもしれませんが、問三以外は、重田教授と同じ解答になりました。問三は、単純にフーコーは一般的な意味で「人口」を捉えていないだろうから、消去法で選んだわけです。すると解答と同じになったのです。

★しかし、重田先生のそれでいいのだろうかという考え方を読んで、いかんいかんと反省し、ようやく課題文を読みました。

★そんな不真面目な読み方でですから叱られたとしても、それは当然ですが、重田教授の指摘は、課題文と問いの選択肢の同期をきっちりつめているのであって、私のように、フーコーについて耳学問したおぼろげながらのイメージで解くことは厳しく論外だというのです。

★つまり、ご自身が著者であるのだから、自身の研究を深めているフーコーの思想からいって、選択肢が違うということを指摘しているわけではないのです。「最も適切なもの」を選びなさいといったとき、たしかに消去法で残る選択肢があったとしても、その選択肢の内容が課題文のどこにも根拠が見いだせない場合、本当に適切なのかと指摘するのです。

★「最も適切なもの」だから、消去法で残ればいいのだという入試問題の作り方は、ある程度暗黙の了解なのですが、やはりその信頼性や正当性についても考えるようにしなければ、私とは違って、入試でよく出題される重田教授の本を読んで、学んできた受験生にとっては、???のままではないのか。それは問題の信頼性、正当性としてはどうなのか。妥当性だけでよいのかということを指摘されています。

★重田先生の指摘は、社会学的に選択肢の正解と課題文のアイデンティティをどのように検証するのかというものでしょう。しかし、これはテスト測定学という学問と同期します。このことの重要性は、早稲田の教育学部だけではなく、ほとんどの大学でも当てはまるでしょう。

★選択式問題の信頼性、正当性、妥当性をどう検証していくのか、やはり考えなければならない時代になったのでしょう。

★それからもう一つ、「読解」ということについて、重田教授は逆説的な指摘をしているともいえます。どういうことかというと、文献リサーチの場合、書籍の一部を切り取って、その切り取られた枠内を出て問いを作成することは、「読解」方法として可能なのだろうかという問いかけです。切り取られた課題文だから、その枠内で重田教授は解答を出していきます。そして課題文のその枠を超えた場合、フーコーの研究者として、その作問者の推理がどれほど信頼性や正当性があるのかと論じているわけです。

★そういう意味では、そこをきちんと考えて問題を作成しないと、「読解」方法に関して間違ったイメージで、大学に進んでくるのではないかという懸念をも語っているわけです。

★うまく伝えることができませんが、入試問題の作り方も、学問としてのあり方が必要なのだということでしょう。

★そして、そのことは私たち中等教育段階の教師にも同じことがあてはまります。授業ーテストー評価という循環を回しているのが教師です。実践知としての問いの作成と理論知としての問いの作成の結びつきを、私たちはどうやって創っていけばよいのでしょう。

★途方に暮れてもいられないので、少なくともIRT(項目反応理論)のさわりでもいいので、同僚と対話してみることにします。

★いずれにしても、「あるある」で終わらせないで、暗黙の了解事項あるいは常識的な考え方を転換させる重田教授の記事は、多くの人が読んでくれることを期待しています。そこから、また教育の変化が現われるでしょう。もっともそれもまた生権力にからめとられてしまうかもしれませんが。。。

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2022年3月16日 (水)

成長と思考コード(01)八雲学園の生徒の成長 思考コードでみる

★八雲学園のサイトの記事がとても興味深いのです。その記事とは「3月の文化体験教室は映画「今日も嫌がらせ弁当」を鑑賞しました。」です。この記事の中には、中1~中3までの生徒11人分の振り返りが公開されています。しかも、どれもきちんと「主張+根拠」が記述され、それに「内省」「クリティカルシンキング」「共感」「応用」・・・などなどの内容が付加されています。

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(八雲学園は、毎月文化体験教室を実施しています)

★そしてその付加されている量と質によって、成長がわかります。きれいに中1から中3になるにつれて、その付加された度合いが高くなるようになっています。この記事を読めば、八雲生は確実に成長していくのだとそのプロセスが了解できます。11人の文章を思考コードで分類してみました。赤〇が女子、青〇が男子です。思考コードの領域の番号と学年を刻印しておきました。

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★B1というのは、「主張+理由」の構造で文章が書かれています。

★B2というのは、「主張+理由+対照的なものの見方」。

★B3は「主張+理由+対照的なもの見方+メタ認知的視点+etc.」となっています。

★C1は「主張+理由」ですが、その主張が母の想いをかなり広く深く推理している書き方をしています。

★C2は、C1の構造に、さらに付加的な内容が加わっています。

★C3は、B1からC2まですべてを活用しています。こんな感じです。

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★リフレクションとして、深い内省と母と子の関係をメタ的に認識し、そのうえで、未来の自分は母としてどう生きるかまで覚悟を決めているわけです。

★中3になったときに、このような複眼的でクリティカルな思考様式を思考のルーチンとするわけです。この思考ルーチンがベースになって、高校になって直面する社会課題や自分の関心のあるるテーマを考えていくわけですが、このC3思考ルーチンが身についているからこそ深堀していくことができます。

★広い視野深い内面的世界を組み立て行こうとは言うは易く行うは難しであって、中1から中3までのこのような思考ルーチンを身に付ける文化体験や行事をプロジェクト化して取り組む八雲の総合的な教育力のなせる業です。

★これから、受験生の保護者が思考コード的なレンズを身に付けると、八雲学園をはじめとする本物の教育を実践している学校を発見することができるでしょう。

 

 

 

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2022年3月15日 (火)

学校が変容するというコト(24)私立学校の存在意義をもっと多角的なデータで検証したほうが良い 平方先生との対話

【前回の続き】

★平方先生は、私立中高一貫校は時代の精神を読み解き、先見性・先進性を発揮してきたわけだが、その根拠となったデータを提示してこなかったかもしれないと振り返ります。なんだかんだといって、受験業界と同じ種類のデータしか創ってこなかったかもしれないと。もちろん、助成金データなどの経営的データは、受験業界にはないデータで、貴重だが、先見性・先進性を根拠づけるデータを引用しないできたのではないかと。教育内容に関連するデータとしては、結局は偏差値と大学合格実績のデータが中心で、それ以外のデータを活用して、語ってこなかったと。それゆえ、私立学校側の教育研究所として、多角的なデータをますは活用しようと考えているということです。

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★たとえば、戦後から2020年までの貿易輸出入額の推移のデータを見ると、1980年代から私立中高一貫校が人気が出たことがよくわかります。また、1998・1999年と2008年と2014年の3つの時期で私立中高一貫校の出願動向が変わるのもよくわかります。

★バブルがはじけて産業の空洞化が始まる時期、リーマンショックという金融危機、TPPに参加を迫られるグローバル危機です。

★産業の空洞化によって、日本のもの作り産業はダメージを受けました。その原因の一つは、経済の空白による金融政策のまずさにありましたから、私立中高一貫校に通わせる保護者に直接的にダメージを与えました。

★さらにITバブルがはじけ、グローバル金融の危機のダメージは、前回とは違い一部の大手企業だけではなく、日本の大企業全体に影響を与えました。ここから日本の産業はものづくりというハードパワーからソフトパワーに転換が迫られました。IT財で優位に立たなければ、輸入超過に陥ります。

★そして、2014年。先進諸国の中で、GDP成長率が停滞においこまれた日本が、TPPに本格的な対応に迫られます。これによって貿易のフラット化、ファスト化、フリー化が進むことになります。

★1989年のベルリンの壁崩壊後に、日本のバブルも崩壊し、グローバルな世界での経済活動に日本は突入しました。労働集約的な日本経済では、資金集約型グローバル経済には太刀打ちできないという経験を幾度か経験します。

★この渦中にいたのは、私立中高一貫校に通わせる保護者です。経済の空洞化は、海外で仕事をする機会を拡大し、そこで活躍する方々がその保護者だったのです。帰国生・国際生入試を各校が行うようになったのには、このような理由があったわけです。

★しかも、ハードパワーからソフトパワーに移行していた渦中にいたわけです。グローバル企業や仕事で活躍している保護者は、英語とICTの重要性を痛いほど理解しているのです。それから、グローバルコミュニケーションで大事なことは、もの作り産業が世界で優位だったころとは違い、ソフトパワーで優位に立つには、ルールが複雑になり、知財や人権など気遣いをしなければならなくなりました。いわゆる強欲資本主義の反省が21世紀に迫られ、倫理的な資本主義とか創造的資本主義が、世界経済フォーラム(ダボス会議)で議論され、パンデミックショックで、グレートリセットとまで言われる時代になりました。

★こういう流れの中で、脱偏差値という発想や海外大学進学という選択肢を増やす動向、グローバル教育、イノベーション教育に舵をきった21世紀型教育が注目されるようになったのは必然だったのです。

★それなのに、この21世紀型教育では、大学合格実績が出せないなどと当初揶揄していたグループは、実にドメスティックな感覚で、この世界貿易の潮流を無視した、つまり保護者が抱えている課題意識に全く応えていなかったということが、改めて了解できます。

★もはや、そのような暴言を吐く人はいないし、まだいたとしても、優先順位はその方々への対応ではありません。大事なのは今ここでと今後です。国際秩序が揺らいでいます。グローバルドミノ危機に直面しています。これを乗り越えるには、クリエイティブクラスのみならずケアリングクラスが重要な意味を持ってきます。再び建学の精神がこのような新しいグローバル人間力を育成する駆動力を発揮する時代になりました。勇気と正義と人類愛とプラグマティックなマインドをもった人間力です。

★sのために、今後平方先生は、日本&東京私学教育研究所において、多角的なデータを読み込みながら、そのファクトに基づき時代の要請や時代の精神を読み解いていくと語っています。もちろん、従来行ってきた保護者からの私学のイメージについてのアンケートなどは、市場ニーズのマイニングとして必要であると語ります。

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2022年3月14日 (月)

学校が変容するというコト(23)今だからこそ私立学校の存在意義を振り返る 平方先生との対話

★先週、日本私学教育研究所所長の平方邦行先生を訪ねました。平方先生は、東京私学教育研究所の所長でもありますから、今年5月に、一般財団法人東京私立中学高等学校協会主催の私立中高一貫校の私学展である<Discover>の運営のリーダーです。私学展で個々の私学が独自の魅力的な教育をプレゼンテーションするわけですが、協会や研究所は、個々の学校の包括的な私立中高一貫校の存在意義を語り、支援し、広報していきます。

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★特に今年は、パンデミックショック及び国際秩序のドミノ危機の可能性に直面し、人類の幸せと平和について、他人事≒自分事として考え、判断し、行動することが時代の要請となっていると、平方先生は認識しています。

★それゆえ、私学展で配布するパンフレットで、今だからこそ、私立中高一貫校の重要なミッションや存在意義について共有したいのだと平方先生は語ります。

★私の勤務校は、高校だけですが、この時代における私立学校としての使命や存在意義について振り返り、忘却されている領域や気づかれていない教育内容などについて、私立中高一貫校といっしょにアイデアをだしていきたいと思っています。

★その再考や再発見は、パンデミックショックで世界中の人びとが気づいたwell-beingの作り方を共有し、今直面している世界秩序のドミノ危機を平和に戻すための精神と技術を共有することになるからです。

★平方先生と言えば、21世紀型教育のラディカルな推進者ですから、グローバル教育やイノベーション教育について、私立学校の理事長・校長とすでに私学の多角的な新しい面を語り合っています。

★今回も、当然そのような話になったのですが、改めて驚いたのは、「建学の精神」が今の時代の希望になる理念であり、同時に弱い立場や困っている人々の立場になって、行動するプラグマティックな駆動力になっていることを歴史に基づきながら、語ってくれたところです。

★詳しくは、5月のパンフレットをご覧いただきたいと思います。鋭意、制作・編集中だそうです。

★理念的なものは現実的なもの、現実的なものは理念的なもの。善なる思想と正義の行動の一致。学校現場から積み上げてきた豊かな経験と見識の重み。迫りくる危機へのどんよりとした影をはねのける勇気と希望を私立学校が引き受ける覚悟。平方先生の言葉と未来への誠実な想いに感じ入りました。

 

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2022年3月12日 (土)

工学院の大学合格実績 更新情報

★昨日11日、工学院大学附属中高(以降「工学院」)の進路指導部主任の鐘ヶ江先生から、連絡がありました。先日ご紹介した記事「【速報】工学院の大学合格実績今年も飛躍 その意味の重要性」で紹介した合格実績がさらに更新されたということです。東京工業大学、千葉大学の合格者が新たな誕生し、慶応義塾大学が7名ではなく8名であったということです。下記に、前回の記事の数字を更新しておきます。

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【国公立大学】14

東京工業大学2、北海道大学、東京医科歯科大学、東京学芸大学、電気通信大学、
東京農工大学2、千葉大学、新潟大学、東京都立大学3、防衛大学校

【海外大学】12(浪人を含むと14)

【早慶上理ICU】31(浪人を含むと34。慶應が3人いるところまでは確認できている)

早稲田大学4、慶應義塾大学8、ICU 1、上智大学12、東京理科大学6

【GMARCH】49(浪人を含むと51)

青山学院大学5、中央大学9,法政大学9、明治大学10、立教大学14、学習
院大学2

【工学院大学】71

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学校が変容するというコト(22)和洋九段女子 教育のチカラ PBLのチカラ

★和洋九段女子は、21世紀型教育を実施して6年目を迎えます。グローバル教育、PBL、STEAMを土台に、同校の独自のコネクティドスクールとしての教育のチカラを豊かに展開してきました。

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(GLICC Weekly EDU 第70回「和洋九段女子の多様な学びー新井誠司教頭先生との対話」)

★その教育のチカラ、なかでも和洋九段女子と言えばPBLですから、そのPBLのチカラの形成過程の中で、いろいろな果実を生み出してきました。同校にとって、6年前の2016年は、21世紀型教育の仕込みの年で、本格的21世紀型教育改革は2017年からです。したがって、改革1期生は、来春卒業です。しかし、仕込みの年の2016年に入学した生徒が先日卒業した段階で、すでに教育のチカラの果実が生成されています。

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★もちろん、果実とは大学合格実績のことだけではありません。それは氷山の一角で、目に見えない水面下でビジョンと様々な果実の循環が生まれています。その循環が教育のチカラの質です。とはいえ、合格実績も果実の1つですから、この果実が生成されるまでの学びの循環としての教育のチカラ全体をイメージすることが可能ですし、それをイメージすることが重要です。

★今回、GWE(GLICC Weekly EDU)では、和洋九段女子の教頭新井先生と先日卒業し早稲田大学国際教養学部に合格したKさんをゲストとしてお迎えし、その21世紀型教育と多様な果実が生成される和洋九段女子の教育のチカラについて対話をすることができました。

★穏やかで自然体でかつ聡明な雰囲気で語るKさん。対話の中で、そのペルソナが、和洋九段女子の文化の影響を受けていることに共感できます。聡明さというのは、Kさんが、一般的なものの見方や考え方を、いったん括弧にいれて、捉え返して語る考えるルーチンができているところからすぐに了解できます。

★大きな問題だけではなく、身近なものや身の回りでおきている社会現象について、Kさんなりの独自の視点でとらえかえしているのは、Kさん自身が語るように、PBL型授業という自由な雰囲気の中で、生徒がそれぞれの主張をありのままに互いに語ることができるから身についた思考kのルーチンなのでしょう。

★それにしても、21世紀型教育の改革プレ段階で、C1英語を身に付けて、英語で世界各国の仲間を巻き込んで、オンラインで異文化理解のコミュニティを創出する共感的コミュニケーション能力と世界の痛みを解決しようという強い意志を有した生徒が誕生しているというのは、すばらしい同校の教育のチカラです。またその循環が同校の文化の質をアップデートしていくことにつながるでしょう。詳しくは、ぜひ今回70回目を迎えたGWEをご視聴ください。

また、Kさんだけではなく、和洋九段生の成長の過程=自己変容物語を描いている「Stories」というページが同校サイトにあります。33名分の物語が描かれています。もちろん、これからもこのページは続編があります。これぞ本物の果実です。ぜひご覧ください。

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2022年3月11日 (金)

学校が変容するというコト(21)首都圏模試センター「高校受験情報誌」プロジェクト始まる❷サイレント・ウォール

★首都圏模試センターが立ち上げた「高校受験情報誌」プロジェクト。まずは状況把握による現状の輪郭を見定める対話から始まっています。今のところの課題意識は、「偏差値という垂直階層化による生徒のメンタルへの圧力は強く、それがきっかけで、体調を崩したり、不登校になったり、人間関係をうまくつくれなかったり、多くの亀裂が生まれている。なんとか解決できないか?」です。

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(この小分けは、独断と偏見ですが、工学院大学附属中高の教務主任田中歩先生に助言をいただきました)

★要するに、今までの「自己肯定感」が低いと呼ばれてきたことを解決できないかということです。もちろん、その低さの原因は垂直的階層化だけでではないでしょう。しかし、大きなこの枠の中で、いろいろな人生のトレードオフ選択で悩むわけですから、関係がないとも言えません。

★いずれにしても、中学入試と違い高校入試は、上記の図のように見えない壁ではなく、見えているのですが、誰も問題にしない物言わぬ壁(サイレント・ウォール)があります。この壁が高校入試の市場を小分けにして、結果的に配分になり、中学入試のような自由闊達な雰囲気が生まれない現状があるのです。

★もちろん、自由闊達な雰囲気が生まれる必要があるのかという議論も当然あります。

★配分の正義が満たされれば、むしろその方がよいかもしれないのです。自由闊達も自由の種類によって光と影が生まれるからです。

★したがって、この壁をどのうのこうのするという問題解決よりも、別次元で制約の中でも発想の自由が生まれていることを可視化する新しい市場を創出する方が現実的ではないかという議論も生まれています。

★そして、別次元と言いながら、抽象的な話ではなく、各小分けの中でそれぞれの別次元を創るのが現実的でしょう。最終的には、その各々の次元が融合されて大きくなると期待したいと思います。

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2022年3月10日 (木)

【速報】工学院の大学合格実績今年も飛躍 その意味の重要性

今年2月、首都圏中学入試が本格化した中で、本ブログのアクセスランキング6位に工学院大学附属中学校(以降「工学院」)が位置していました。もともと人気があったのですが、この2月にベスト10位以内をキープするというのは、近年初めてでした。しかも、その記事は昨年のものですから、明らかにユニークユーザーはググっているわけです。しかも、今月に入ってもその勢いは続いています。その理由は何か、生徒募集の勢い、グローバル教育、PBL型授業、ICT教育などを追跡してきました。それぞれ魅力的なわけですから、人気は当然だということはすでに本ブログで語ってきました。あとは、大学合格実績です。ここ数年右肩上がりですから、人気の理由はここにもあります。では、今年はどうなのか、同校の進路指導主任鐘ヶ江暢子先生に尋ねてみました。

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(工学院の大学合格実績の飛躍は、垂直的階層化を水平的多様性へ価値の大転換を牽引する象徴になるでしょう)

★すると、また大学合格実績は伸びていました。大飛躍といったほうがよいでしょう。まだ、速報段階で、3月いっぱい集計は続くそうですが、判明分をご紹介します。

【国公立大学】12

東京工業大学、北海道大学、東京医科歯科大学、東京学芸大学、電気通信大学、
東京農工大学2、新潟大学、東京都立大学3、防衛大学校

【海外大学】12(浪人を含むと14)

【早慶上理ICU】30(浪人を含むと33。慶應が3人いるところまでは確認できている)

早稲田大学4、慶應義塾大学7、ICU 1、上智大学12、東京理科大学6

【GMARCH】49(浪人を含むと51)

青山学院大学5、中央大学9,法政大学9、明治大学10、立教大学14、学習
院大学2

【工学院大学】71

★そして早慶上理の数は、過去最高だそうです。

★一般選抜と総合型選抜の合格者の割合とか、各大学の学部学科とか、どんな海外大学に合格したのかは、最終的な集計がでたところで、再度鐘ヶ江先生にインタビューしてみたいと思います。また、大学は何も上記だけではなく、まだまだたくさんあるわけです。東京薬科大学とか成城大学などの結果も気になるところです。

★よく、大学合格実績の話をすると、合格実績だけが指標ではない、実績について語るのは何か違うなどと言う方もいます。もちろん、結果だけみると、そういう成果主義的なイメージになるのかもしれませんが、それは工学院には当てはまりません。実は、工学院の大学合格実績は、その結果までのプロセスが従来型の教育と違うということが決定的に重要なのです。

★今年のこの実績を出した卒業生は、工学院が21世紀型教育を本格的に推進した2期目に入学してきた生徒で、いわば21世紀型教育2回生です。

★昨年の1回生の合格の仕方が、グローバル教育、ICT教育、PBL型授業、思考コードをベースに、多様な外部とのコラボレーション活動というプロセスを経て生まれました。今年もその伝統は継承されています。しかし、アップデートもあったでしょう。ここもインタビューしたい項目です。

★私が1回生、2回生にこだわるのは、生徒のみなさんには直接かかわっていないのですが、鐘ヶ江先生、田中歩先生をはじめとする工学院の先生方と21世紀型教育創出にかかわったからです。今中学受験業界ではすうかり広まっている「思考コード」を現場で最初に形にしたのは工学院の先生方でした。

★PBL型授業にハーバード流儀のアクティビティや慶応大学の井庭教授の多様なパターン・ランゲージ・カードを活用したのも工学院が先駆けです。私のかかわりは、思考コードベースのPBL型授業でしたが、先生方は世界をかけめぐり、さらに多様なプロジェクトをデザインしていきました。

★ケンブリッジやラウンドスクエア、インタナショナルスクール、海外協定大学推薦制度(UPAA)、多くの大学などとのコラボレーションは、他校では真似ができないジョイントです。

★しかし、何より驚いたのは、グローバル・プロジェクトというオリジナルのグローバル教育を確立したことです。これがいかに画期的かというと、すべての生徒が参加する破格のグローバル教育だということです。同校にはインターナショナルコースがありますから、一般的には、こんな破格のプロジェクトには、限られたそのコースの生徒しか参加しないものですが、工学院はすべての生徒が高2の時期に取り組みます。

★しかも、その時期に探究論文という自分の興味・関心のあるテーマを見出し、1万字以上の大論文を書き、最終的にパブリック・オーディエンスにプレゼンするプログラムも同時並行で実施しています。

★グローバル・プロジェクトはSDGsともリンクしています。

★したがって、工学院の教育は、グローバル化、デジタル化、グリーン化というZ世代が自分たちの社会を創っていくときの重要項目を統合的に教育しているのです。独自の21世紀型教育を確立しています。その教育活動の結果、上記のような大学合格実績がでたわけです。

★それぞれの生徒の個性や才能に応じて進路指導もなされています。効率よく合格実績を出すことだけが目標だと、そのような学校は、これほどの教育活動や行事を行いません。ひたすら一般選抜の入試問題から逆算したプリントを学んでいくわけです。

★2014年から先生方とかかわりながら、一方で当時は首都圏模試センターのフェローリサーチャーでもあったので、よく工学院が模擬試験会場になったとき、受験生の保護者向けの説明会でスピーチをしました。私立中高一貫校の新しいウネリも当然語りました。今では当たり前になりましたが、当時は新タイプ入試の話などは新しすぎたようです。21世紀型教育も今では一般名詞になりましたが、当時は???だったようです。。

★それで、スピーチの後に、よく保護者に質問を受けました。みなこう質問したものです。「21世紀型教育は魅力的ですが、進路保証はありますか?」と。また、受験業界の中でも、高偏差値の学校に絞った塾予備校からは、何を言っているのか謎だと言われました。心の中では、歴史を振り返れば、イノベーションなくして未来はないのは明らかで、どんなにすばらしい20世紀型学習ツールも、それだけにしがみついていると、Z世代の生徒は将来困るだろうと。でも、成果主義には、実績をみせるしかないので、2020年、2021年まで粛々と先生方と歩いていこうと思ったものです。

★今回のパンデミックショックと今揺らいでいる国際秩序は、2014年当時からいっていた未来は予測不能だということに相当します。予測不能な事態が迫って来た時こそ21世紀型教育は力を発揮するとも語ってきました。実際オンライン授業へのシフトは工学院は見事でした。

★そうそう忘れていけないのは、機械モデルとしての21世紀型教育と共感的コミュニケーションベースの生態系モデルの21世紀型教育があります。工学院は、言うまでもなく、後者です。どちらが、未来のモデルになるかは、今後がまた楽しみです。

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2022年3月 8日 (火)

学校が変容するというコト(20)首都圏模試センター「高校受験情報誌」プロジェクト始まる❶

★首都圏模試センターは、今のZ世代やα世代が活躍する場である近未来社会が垂直的階層性を水平的多様性にシフトして、すべての人々が幸せになって欲しい。well-beingを生み出したいという会社の理念に基づいて、偏差値だけではなく多次元評価軸として思考コードを開発しました。昨年からあらゆる領域で普及を開始。特に新タイプ入試のように骨太の思考力全開の動きをリサーチし、情報共有を広げて、そのような学校の動きを支援してきました。

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(首都圏模試センター取締役・教育研究所長北一成さんから頂く)

★その結果、新タイプ入試は激増し、偏差値以外の評価軸で私立中高一貫校に入学する生徒が増えてきました。そしてその生徒の学びや学園生活のトランジション(軌跡)を追跡すると、多様な教育活動でプロジェクトリーダーシップを発揮し、大学も東大レベル以上の海外大学に進学するケースが激増したのです。

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★これによって、偏差値序列で人生が決まるわけではないことが、わかってはいたけれど、実感できなかった以前とは価値観が大きく変わりはじめました。偏差値で測ることができない新タイプ入試だけ受けて、私立中高一貫校に入学する受験生も増えてきたのです。

★まだまだ垂直階層化はありますが、それは市場においてはone ov themで、いろいろなクラスが生まれ、水平的多様性ができつつあります。

★しかし、これはまだ中学受験生の話です。私立中高一貫校のほとんどが、高校募集もします。その高校募集はまだ垂直階層化が解かれていません。98%以上の生徒が高校に進学し、中学卒業段階で浪人生を出さないという文部科学省の意図もありますから、垂直階層化に収まるように配分されるのが現状です。

★垂直階層化による生徒のメンタルへの圧力は強く、それがきっかけで、体調を崩したり、不登校になったり、人間関係をうまくつくれなかったり、多くの亀裂が生まれています。

★それをなんとか解放できないか?その強い想いが首都圏模試センターのパッション、ミッションになって、20校近くの学校の先生方と「高校受験情報誌」の編集過程で画期的解決法を見出そうというプロジェクトが動き始まました。

★毎週のようにZoomミーティングがあり、現状把握と思考コードの応用方法を探っています。

★そして、なかなか突破口が見つからないのは、なぜかがわかってきました。

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2022年3月 6日 (日)

学校が変容するというコト(19)大学入試問題とPBL 社会課題を他人事≒自分事として見つける場にシフト

先週金曜日いつものようにGWEを開催。鈴木さんと今年の東大の一般入試のいくつかと文Ⅱの帰国生入試の問題を見比べながら、大学入試問題とPBLの関係を対話していきました。そして最後に今年の慶応義塾大学湘南藤沢(SFC)の総合政策の問題を介して、まとめてみました。生徒に限らず、私たちは日々不安と痛みを感じながら生きていきます。喜びも幸せも、それとどう向き合うかその構えによって生成のされ方が違います。

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(GLICC Weekly EDU 第69回「大学入試問題とプロジェクト・ベースト・ラーニング(PBL)」)

★PBL(Project Based Learning)は、その構えの基礎付けです。もはや誰かが設定してくれた道を歩いていけば、不安も痛みも感じない生活ができるという時代でないのは、私たちを含め世界中の人が、このパンデミックショックと現在の国際秩序のゆらぎの中に置かれているコトで身に染みて分かっています。

★つまり、自分の道は自分の中から生まれ出でるモノですが、それは1人自分の道ではありません。他者の道と交差したり、合流したり、回避したりする関係総体の中で見出されるコトです。それゆえ、不安と痛みをその都度解消しながら、協働主観(他人事≒自分事)の質である正当性・信頼性・妥当性の関係をアップデートしながら生きていきます。

★今言ったように、その道は単線ではなく、複合的です。したがって、生徒にとって学びも将来の仕事も、マルチな局面に向き合うことになります。これがライフシフトの時代と呼ばれていることです。

★大学入試問題が、そんなライフシフト時代の基礎付けとしてのPBLにどう関連しているのが?

★大学入試不要論を大きな声で善人の顔をして、まるで遠くの出来事を美しく語るかのように主張する人もいます。たしかにゲゲゲの鬼太郎の世界ではそうでしょうが、ちょっと現実的ではないですね。大学入試現場で起きている生徒や保護者の不安や痛みを他人事≒自分事で解消するにはいかにしたら可能かを考え・行動していくことで、大学入試制度そのものが変容していくやり方からスタートするのが、現実的だし理想的でしょう。

★それゆえ、大学入試問題によって、大学の教授の問いの設定の全体集合を見ていくという方法をとりました。東大の一般入試と帰国生入試は違いますが、問いの設定者は同じです。大学の教授、つまり探究者や研究者の問いの設定の一つのモデルができます。この全体を包括的に課題設定しているのがSFCの総合政策の問題です。

★課題を設定するには、文学部なら、アンビバレンツを感じるエンパシーからだろうし、経済学部であれば囚人のジレンマというゲームの理論や均衡問題からだし、法学部ならカルネアデスの板に象徴されるジレンマからだろうし、政治学系ならバランスオブパワーだろうし、医療関係学部なら、トリアージからだろうし、社会学系なら格差からだろうし、理系であれば、パラドクスからだろうし、心理学系の学部なら葛藤からだろうしなどなどとなります。

★しかし、こうしてみると、その表現はレトリックの違いであり、関係がうまくいかず不安や痛みを伴う具体的状況があるというコトは共通しています。そして、具体的状況をいろいろな学部からアプローチするTOK的な発想の逆からアプローチしたのが、SFCだったのです。

★それらを丸ごと学際的視点で「トレードオフ」というコンセプトレンズで紐解いていこうという課題設定です。こちらを立てればあちらが立たない、あちらを立てればこちらが立たないというトレードオフの具体的状況を、アンビバレンツと表現しようが、ジレンマと表現しようが、パラドクスと表現しようが、その表現にこだわるのではなく、包括的にトレードオフとしてアプローチしようという学際的問いの設定をしているわけです。

★PBLの基礎付けのコアになるのが、この具体的状況においてトレードオフを見出すことです。とはいえ、それは高校3年間、多様な体験=具体的状況の中に身を置くことによって、人間存在の不安や痛みを肌で感じ取ったうえで、問題発見・解決(=他者への貢献によるwell-beingが伴う道の発見)をしようとしてきたPBLを積み上げてきた結果、大学入試という紙上の問いに取り組めるというわけです。

★もし、東大が帰国生入試をやっていなかったら、このようなPBLの基礎付けのコアの必要性をうったえるサインを出さないわけですから、生徒に対し偏ったメッセージを出してしまいます。

★実際、大学入試不要論者の方々は、一方で海外大学の入試制度を称賛するわけです。この時点で大学入試不要論は、日本の今の大学入試という限定づきのことがわかり、大学入試のようなイニシエーションの現代化は認めているのです。

★そして、不要と言っているのは、一般入試しか見ていないために、偏っているという判断をしているのでしょう。それはそれで間違いがないのですが、大学側が出しているメッセージ全体をみているわけではない議論です。

★制度として欠陥があるとしても、それを変えるには民主主義的な手続きをとらなくてはなりません。それまでは、PBLを授業の中に埋め込むことによって、生徒1人ひとり個人が他人事≒個人事としての自分の道を見出せる場をつくることがポイントです。そこにおける自由裁量や意志決定は、現場の教師に委ねられています。

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2022年3月 5日 (土)

ハンドベルの響きで世界の痛みをケア

2022年3月19日(土)、聖パウロ学園のハンドベルクワイア卒業記念公演を実施します。15時00分~、18時00分~の2回公演。場所は、グランドビクトリア八王子です。

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★コロナ禍にあって、どこの学校も行事は、思うようにはいきません。それは聖パウロ学園も同様です。マスク装着、アルコール消毒、3密回避、そして黙食など感染対策を徹底しながら、対面型でできる授業や行事は制約の中できるだけ実施してきました。

★そんな中で、ハンドベルクワイアの活動は、声を発したり、息を使う楽器を使用しないため、活動が可能な時には挑戦してきました。

★入学式、卒業式、地域でのクリスマスコンサートなど響き合いを通して、ミッションを果たしてきました。

★そのミッションとは、このコロナ禍で世界中の人々がそれぞれに抱えた痛みや困窮を少しでも和らげてくれたならという祈りの響きを奏でることです。

★ハンドベルの演奏ハーモニーは、人々と響き合い、心の平和の共感を広めます。まさにいま世界にとって大切な想いです。

卒業生の部活の最後のミッション遂行であり、同時に卒業生と在校生のさらなるミッションの始まりです。さらに世界のために・人のために貢献できる内面の響きを演奏し続けていけるきっかけになってほしいのです。ぜひご参加ください。

 

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2022年3月 3日 (木)

学校が変容するというコト(18)入学試験ー進路結果―卒業式ー指導要録ー新年度バージョンアップ・・・

★1月後半から3月にかけて、学校のバージョンアップの可能性を身に染みて感じるシーンがビビッドにビッシリ詰まっています。またこの時期は他校の仲間の先生方や業界の新プロジェクトの方々とZoomミーティングが目白押しです。学内外の開放系と閉鎖系のトレードオフ関係を日々同僚とディスカッションながら調整しています。ですから、学校は、まるで生命体さながらの組織であると実感できます。多方面で学校の改善や非難が昨今あふれていますが、その多くが組織を機械モデルで考えています。20世紀型組織開発の成果で語っているものが多く、ディストピア志向のものが多いですね。

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★学校は1つの生命体として考えるのは当然のような気もしますが、そのわりには、その生命体の権利を見下すような愚かな非難が多いのにびっくりする今日この頃です。生命体として命の循環システムを創ろうとしているのに、機械モデルを持ち出して、その枠の中の論理で効率的でないとか合理的でないとか言っているコンサルの多いのに警戒しなければなりません。機械モデルはそもそも循環が担保されていないので、むしろ生態系としての学校組織を危機に陥れます。

★もちろん、生態系さながらといってもメタファーですから、落合陽一さんの言うように、デジタルネイチャーとしての生命体の学校組織です。ですから、そのような自然概念それ自体新しいので、生命体としての学校組織はまだまだ未完の組織です。これからなのです。

★年間スケジュール、時間割、人事、リーダーフルシップ、デジタル化、グリーン化、グローバル化、ケアリング、自己変容と他者貢献(黄金律)などなどがオープンシステムとリスクマンジメントシステムのトレードオフの自己組織化ができる生態的循環組織。その持続可能態としての授業やその他の教育活動のPBLデザイン。PBLの根源的出発点は問いですが、抽象的な意味での問いではなく、世界の痛みが生まれるジレンマやトレードオフに気づき、その問題解決を哲学的・文化人類学的・社会学的・宗教学的・経済学的・政治学的・科学的・数学的・美学的などなど学際的視座で構想実装が生成されるシンキングルーティンから探究型クエスチョンまでのシステム思考的問いが創れるかがポイントです。

★かくして学校はマクロとしての生態的循環組織とその組織を構成するそれぞれの細胞としての要素であるPBLとしてのシステム思考型問いの統合によって成立しています。よく要素還元主義と構成主義というのが対比されますが、要素が細胞体であれば要素還元主義は構成主義になるわけです。

★本日勤務校聖パウロ学園で卒業式が行われました。卒業生、在校生、ご家族、担任の先生方をはじめとする教職員と共に行いながら、そんなことを身に染みて感じたのです。

★新型コロナ・ウィルス感染対策を日々緊張感を抱きながら遂行し、できるだけ対面型で教育活動を行いながらも、入学試験、大学入試、卒業式の機会を守るために、途中3週間もオンライン授業期間を遂行しました。オンライン思考自体はスムーズですが、あらゆることが並列で動いていて直列でないので、マルチ準備状態になります。

★それでも、すべてのことが成就するには、あらゆることは、バックヤードの構想準備がポイントになります。そのためのディスカッションとDOINGとリアリスティックリフレクション&フィードバックがあふれていて、タイトルリーダーシップは意思決定だけで、それ以外は1人ひとりがナチュラルリーダとして、リーダーフルシップが溢れると、生態系としての組織は動いていくものです。

★口コミ評判は、このような生命体の息吹を感じてもらうことによって生まれるし、生命体が故に、その息吹は常に生徒と共有共感されます。それゆえ、生徒は自己変容し、未来の見通しを実現すべく教師や仲間と取り組みます。そのような息吹や自己変容を生成するリーダーフルシップは、同時にモニタリングをリアリスティックにしていきます。朝の会から始まって一日中情報共有しますが、たんなるファクト共有であれば、イントラネットのメールでよいのですが、息吹としてのリフレクション&フィードバックという呼吸、エンパシーという対話型共有がいい感じです。

★エンパシーですから、鶴の一声で何かをやったり、講義形式の対話は当然やりません。偉そうなのが一番ダメです(自戒を込めて)。

★そんな情報を限定付きですが、外部の仲間と情報を共有します。参考になるところが多いので、それをどのように学内に取り込めるのかは、また学内で対話をするわけです。幸い、学外から得た情報をアレンジして活用するかどうか相談できる教職員ばかりです。各専門、見識を頼りに相談にいきます。

★そして、ありがたいことに、そのすべてを統合するにはどうしたらよいかというバージョンアップを対話する先生方もいます。アップデートとバージョンアップの往復ができます。そして、常に、コンセプト生成を重視して動きます。コンセプト、軸というのが学内のルーティン言語で、それらがブレないようにというのが学校文化です。これは得難いですね。

★この時期、入試の結果もほぼ確定し、とりあえず目標達成、結果が確定するまで、すでにリフレクションをその都度しているので、同時にバージョンアップのディスカッションにもなっています。進路の結果も出そろってきたので、その結果分析もすでに始めています。一つの法則を新たに見つけ、進路指導もバージョンアップしていくことになります。なにより、卒業式に向けて在校生全体で動いているため、自己変容型成長の重要性を体感しています。毎年体感するすばらしいシーンです。これをどのように瞬間の永遠に転換するのか生徒指導のバージョンアップも可能でしょう。

★行事や部活は、働き方改革によって否定されがちですが、変形労働時間制(年間スケジュールに落とし込みます)で先生方はなんとか創意工夫するわけです。もっとも、ここは時間割と濃厚な関連があるので、実は1年中考え、ディスカッションしていく生態系システムを形成する必要があります。要するに時間と行動の生態系システムは、オープンシステムでありリーガルマインドと経営が一体となるわけです。

★この開放系システム(リスクマネジメント付き)については、複眼的多面的多次元的ですから、まだまだディスカッションと構想力が必要です。価値創造の持続可能態と言うことができます。

★卒業式は、担任・副担任の先生の愛と情熱が可視化される一日です。外から見ていると集団主義だとか日本の古い文化だとか揶揄する人も多いですが、生徒は1人ひとり自己変容を確認し、明日から次のステージに立ち臨む姿を現します。担任・副担任の先生は、その姿にエールを送り、互いに黄金律を胸に、勇気を鼓舞する大事な瞬間です。いつもとは違う非日常のフォーマルモードな言動は、スピリチャリティが降りてくるイニシエーションで、五感と理性と美学が統合される瞬間です。リベラルアーツの極致ですね。

★愛がアガペーになる瞬間ともいえます。

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2022年3月 1日 (火)

学校が変容するというコト(17)2月ホンマノオト21アクセスランキングベスト50から見えるコト

★毎年2月首都圏では、中学入試、高校入試、大学入試のスクランブル期間です。その時期に本ブログのどんな記事にアクセスが集中したか。首都圏中学入試市場の20%の方しかみていないので、全体の傾向とはいえません。むしろプログレッシブな学校の情報を知りたいという方に偏ったブログです。ですから、逆に新しい風を反映している可能性もあります。ご参考までに。

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2:2022年中学入試 三田国際の「超人気」の意味。
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20:学校が変容するというコト(10)21世紀型教育機構の新しい学校の作り方 ...
21:ポスト・コロナショック時代に、新しい教育活動を開始する私立学校(23)光...
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33:学校選択を考える(01)偏差値と大学合格実績で考えて問題ない。ただし、学...
34:2022年教育動向(04)武蔵の国語も超長文。メタファーの解読。
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36:思考コードについて近頃感じるコト(02)外延の明快さと内包の深遠さの多面...
37:2021年変わる中学入試(14)海外大学へそして偏差値至上主義の無化へ加...
38:富士見丘(了)思考力と英語力とディーべート力を牽引する模擬国連部の存在:...
39:2021年中学入試情報(22)新渡戸文化学園の存在の意味が広がる。新しい...
40:学校が変容するというコト(13)グローバル教育の新たな展開 聖パウロ学園...
41:学校が変容するというコト(01)学校と向き合うコトは「老い」と向き合うコ...
42:2022年教育動向(09)2月1日 神奈川 私立女子中学入試の前年対比9...
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44:学校が変容するというコト(14)個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充...
45:2021年中学入試情報(18)品川翔英 はやくも前年対比112.2%: ...
46:2022年ホンマノオト21で描くビジョンを考える(42)インターナショナ...
47:学校が変容するというコト(15)父母の会の力
48:ポストコロナ時代の教育(17)開智望小学校・中等教育学校の挑戦。
49:学校が変容するというコト(12)立体的な読解 聖パウロ学園の国語の授業:...
50:2021年中学入試情報(11)フェリス女A1:C50学院応募者増の意味

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