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2022年2月18日 (金)

学校が変容するというコト(04)2022年慶応義塾大学 法学部小論文の問い 三角ロジックとアブダクション

★今年の慶応義塾大学の法学部の小論文は、よくできています。一般選抜の勉強でも、教科知識だけではなく、いわゆるリベラルアーツ的素養も身に着ける勉強をすることにになっています。単なる調べ学習で終わったり、体験主義で終わったりするようなプログラムでは学べない本質的な問い作り=アブダクションが必要になります。

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(國分功一郎さんの解説は必読です)

★素材文は、1971年の田中美知太郎さんの文章。「道徳問題としての戦争と平和」で著作集10巻に収められています。問いは、<次の文章は「戦争と平和」の問題について論じている。著者の議論を400字程度に要約したうえで、著者の立論に連関して考察を深めてください。なお、論述に際しては、論旨を補強するために、あるいは思考を深めるために的確と考えられる具体的事例への言及を行ってください。>

★おもしろいことに、この問いの形式の構成は、法学部の総合型選抜であるFIT入試と同様です。そういう意味では、志望理由書とか、面接はないけれど、小論文で要求してくる力は同じということです。いよいよ一般選抜と総合型選抜の差異が縮まってきましたね。

★問いの話に戻ります。まず、「戦争と平和」についての文章を読んで、要約しなさいとあるわけですが、「戦争と平和」についてあなたの考えをかきなさいと誘導しているわけではないのです。むしろ、田中美知太郎の思想から気づいたことを深めていけばよいわけです。

★入試問題を読めばわかりますが、戦争をただ「悪」とみなしておしまいではなく、悪をただしていくにはどうするのか?それには「立法」という制度設計が必要だろうと。戦争を防ぐ制度設計をどうするのかなんていうところに気づきがあれば、そこを深めていけばよいわけです。

★大テーマから、自分の着眼点を見出すところからはじまる思考の自由度があります。

★そして、その主張のデータとしての具体例を推理せよというわけです。演繹的推理でもなく、帰納的で推理でもなく、主張を成り立たせるための根拠データを推理するのは、アブダクションという思考作用です。これは数年前から、神崎史彦先生が総合型選抜で学ぶ大事な思考作用として論じていて、著書の中でも書かれています。

★また、主張と根拠とそのデータの3点セットを編集する三角ロジックについては、成城学園の青柳先生が授業の中で展開しています。私は、お二人の先生からそのアイデアを共有させていただき、Tninking Routines Toolとして、生徒と共有しています。

★明日の夜、知人のお子さんとワークショップをやるのを頼まれているのですが、この三角ロジックとアブダクションを合体させながら対話していくつもりです。

★それにしても、さすがは慶応の法学部です。田中美知太郎さんは、たしかにプラトン学者で有名なのですが、プラトンは、晩年アテナイのアカデメイアで暮らしていた幸せな哲学生活を一時停止して、隣国の軍師になっていくのですが、そこで大変苦労し、命を狙われながらも、なんとかアテナイに戻ってきます。

★そのときにプラトンが執筆したのが「法律」です。田中美知太郎さんは、プラトンを語る時に、この「法律」という現実の具体的状況から語るのです。もちろん、ここに、中世から啓蒙期に渡って議論され続ける自然法と実定法の葛藤がマインドセットされています。この葛藤は今もなお決着はついていません。サンデル教授の白熱教室でも題材になっていましたね。

★法の正しさや正義の基準をその時代の道徳的判断に任せるのではなく、どう構成していくのか。今年の慶応の文学部の小論文ともシンクロしています。

★パンデミックショックで、あらゆる基準が見直されています。ロックダウンするのかどうか、その基準がいつも揺れ動きます。天からご宣託は降りてこないのです。民主主義も多数決ではなく3割決になっているということが問題視されている文章が、今年の慶応の経済でも出題されています。

★入試問題は選抜のための問題ですが、このような問題を思考する学びは無益ではないでしょう。むしろ高校時代に善悪の基準について思考し議論することは有益だし、欧米の哲学授業でも重要な問題です。グローバル教育とは、本来こういう問題を思考し、議論できる能力を養うことなのではないでしょうか。

★このような問いを普段の授業の中でできたら、学校は自ずと変容するというものでしょう。

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