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2022年2月17日 (木)

学校が変容するというコト(03)2022年慶応義塾大学 文学部小論文の問い 「正義論」をモチーフにThinking Routinesの取り組み

★今年の慶應義塾大学の文学部の小論文は荒谷大輔教授の「使える哲学」の【第4章正義ー「権利」への欲望】から。第4章のうち、正義というのは、自由と平等を保障するともいえるが、その正義や正しさを成立させる自由とか平等って何んだろうという問題提起のところで終わる切り取り方をしていました。

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★この章の最初の部分(つまり出題された箇所)は、リバタリアニズムとしての正義論を、ハーバーマスとロールズが、それぞれのアプローチで批判している話が中心ですが、それが権利をどう扱うかによって、正義論の構成が変わるという問題提起がなされています。この部分を慶応大学は、要約させ、正しさについて自分の考えを論じなさいと問うわけです。

★ハーバマスの考え方は、彼の著書「公共性の構造転換」から引用しています。ロールズは「正義論」からです。今年の新高1から新しい学習指導要領になり、「公共」という科目ができるわけですが、その教科書には、ロールズは扱われているはずです。そういうトレンドも配慮してなのか、このような問いを出題したのでしょうか。

★それとも、パンデミックショックによって、新しい資本主義とかグレートリセットとかいう新しい考え方が時代の精神ということもあり、文学部としては時代のパラダイムを読み解くという観点からこのような問題が出題されたのでしょうか。果たしてそうなのかそうでないのかはわかりませんが、本質的な問題ですね。

★法学部で出題されても良いぐらいです。

★ただ、法学部だと、この文章の続きを出した方がそれらしくなります。もっとも、この後の権利についての論考は、ホッブスとロックについてで、自然法と実定法の葛藤とそこからうまれる権利に対する考え方の相違についてですから、これは、東大でも京大でも名古屋大でもよく出題されるテーマなのでそう難しくないわけです。

★その点、今回の問題は、その権利が生まれ出ずる「正しさ」という前提を問い返し、概念と社会の葛藤を考えさせる根本的な基礎的問題になっています。

★「正しさ」を多様な価値から接近して捉え返すわけですから、大学に入ってから探究や研究をする際に必要な複眼思考とセンス・メイキングの思考の基礎を持っているかどうか診断する問題です。

★この思考の基礎を診るには、モチーフを「正しさ」にする必要は必ずしもなく、オックスブリッジの「りんご」について説明せよとか「カタツムリ」には意識があるかなどのようなモチーフでもよいのです。

★実は、この思考の基礎は、最近ではハーバードのプロジェクトゼロなどで研究されている、思考力育成のプログラムのシークエンスの最初のThinking Routinesと呼ばれているメソッドです。

★このプログラムのシークエンスの最終段階は探究ベース思考になります。

★そういう意味では、入学する前に、この最初の段階を身に着けてくるようにというメッセージがこめられていると言えましょう。

★これは、慶応義塾大学だけではなく、多くの大学で課される小論文の思考力のレベルだと考えてよいと思います。

★すると、一般入試で求めらる思考力というのは、このThinking Routinesだとおそらくなるでしょう。

★一般入試ですから、高校の教科の授業で行う思考力レベルは、ミニマムには、Thinking Routinesレベルはやっておかなければならない時代になたっということです。教科で扱う思考力と総合的な探究の時間で扱う思考力のレベルは戦略的に分けて統合するカリキュラムがよさそうですね。

★学校が変容するのに、必ずしも大きなプログラムを導入する必要はなく、日々の教科授業にこのThinking Routines Toolを埋め込むだけで、ケミストリーが起こるのではないかと思っています。

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