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2022年2月23日 (水)

学校が変容するというコト(11)今年の早稲田の政経の総合問題 3つの思考タイプをみる問題定着か あるいは三角ロジックと3ダクションか

★今年の早稲田大学の政治経済学部の一般選抜は、昨年に引き続き「総合問題」でした。入試要項にそう謳っているわけですから、当然なのですが、共通テストで数ⅠAを課し、個別入試で日本語と英語の素材文を資料として、その資料の読解を通して自分の意見を表現する問題というのは、従来型の一般入試の勉強をしている受験生からは敬遠されます。それでも、このような入試を出題する同学部の多様な想いとコンセプトは何か、そんなことを考えないわけにはいかない重要な入試問題であることは間違いないでしょう。

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(「移民の経済学」は昨年の政治経済学部のグローバル入試で使われた。「他者の靴を履く」で有名なプレイディみかこさんの文章は、「コロナ後の世界を語る」から出題。加賀美常美代さんの文章は「多文化社会の偏見・差別~形成のメカニズムと低減のための教育」から出題。同学部の受験生に学んできて欲しいメッセージには一貫性があるのではないか)

★同学部の総合問題は、思考コードの領域すべて網羅して出題されています。しかも、日本語の文章にしても英語の文章にしても、専門書から出題されているわけではなく、新書や新聞レベルですから、読解の素材としては18歳成人を迎える受験生にとっては、グローバル市民としては標準的です。

★しかしながら、問いのレベルは、A軸・B軸・C軸満遍なく出題されています。また、思考スキルでは、「具体と抽象」「原因と結果」「比較対照」以外に、「置換」のスキルを活用するものも出題されていました。

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★「置換」の問題を出題するというのは、与えられた素材の外に越境して適用するという思考力(B軸)を積極的に診ようとしているということでしょう。本文中に語られている「ステレオタイプ」の例として適さないものを選びなさいという選択肢問題の解答は、本文中に直接書かれているわけでは問題です。共通テスト的な選択肢でもあり、大学入試の変容は、共通テストと一般選抜でも連動していることがなんとか予想できます。

★また、日本語の二つの文章AとBは、違う著者のものです。その二つの文章を読んで、「無知」と「偏見・ステレオタイプ・差別」の関係とそのメカニズムについて200字以内で説明する問題も、共通テストにスタイルは似ています。もっとも、共通テストで果たせなかった論述問題を出題しているところは、思い切りチャレンジングな問いになっているということでしょう。

★一見すると、AとBの文章の内容を踏まえてですから、いわゆる読解問題のように見えますが、著者が違う文章を参考にするのですから、それをつないだり、それをきっかけに自分の考えを書くわけですから、論理的思考だけではなく、クリティカルシンキングやクリエイティブシンキングも求められていることは了解できるでしょう。

★英語の素材文も、ギリシャにおける統計の改ざん問題がテーマですが、経済統計学における「ベンフォードの法則」を活用してEUの統計とギリシャの統計を比較して、ギリシャの統計改ざんを見破る考え方を200字以内で説明する問題は、素材文の中だけでは解決がつきません。ベルフォードの法則については、知らない受験生がほとんどでしょう。しかし、それはきちんと解説されていますから、法則を統計に適用するといっても置き換えればすぐにできてしまう問題でした。

★初見の知識を学び、適用・置換できるかを求める問題で、知識を覚えてくれば対策ができる従来の入試問題とは明らかに違ういことを示す象徴的な問題でした。

★最後に100語ぐらいの英語のエッセイライティングがありました。オンラインの会話に参加する時、匿名か否かについて書きます。英語100語くらいというのは、日本語では200字くらいでしょうから、今回は、200字論述の思考スタイルを身に着けてきて欲しいというメッセージが明快に投げかけられたということでしょう。

★スタイルと言っても、表面的な形式の話ではなく、思考の形式というかメカニズムのコトを意味します。

★思考コードでいえば、縦軸の世界に対する視座がどこまで高いかどうか、横軸の論理的思考・クリティカルシンキング、クリエイティブシンキングすべてをトレーニングしてきているかどうか、それから、他者の発想を理解したり自分お発想を創り出したりするときに活用する思考スキルをトレーニングしているかどうかです。

★思考スキルは、なにか受験テクニックだと勘違いされますが、数学的思考の基本的なアプローチです。世の受験テクニックは、それを活用しているにすぎず、またそのテクニックが数学的思考から発出していることを示さない、あるいは気づいていないのがもったいないですね。

★もしそのつながりを受験生が意識すれば、このような「総合問題」を考えることは、受験勉強でありながら将来自ら何かを創っていくときの源泉になる学びをしていると価値づけができるでしょう。

★同時に知識を暗記するだけの学びでは、その価値づけをするには不足だということも了解できるはずです。

★早稲田の政治経済学部の個別入試の「総合問題」は、教育を変える実質的な方法を提示しているといえましょう。

★なお、先ほどの思考スタイルについてですが、思考コード、思考スキルを別の角度からトレーニングする方法があります。たとえば、三角ロジックや3ダクションの思考トレーニングというアプローチでも語れます。どれも最終的には同じコトになるのですが、思考スタイルを構築する方法は、人それぞれ相性があります。ピンとくるものを選択すればよいと思います。

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