キャリアガイダンス440号 越境という名のリバタリアニズムの流れを解放
★キャリアガイダンス440の表紙を埋めているキーワードは「越境」。越境という名詞が目に入ると、フッサールのエポケーが思い浮かぶが、表紙をめくって驚いた。フッサールではなく、デヴィッド・グレーバーが前面にでてきているからだ。めちゃくちゃアナーキーなアクティビストな学者で、昨年亡くなった。もちろん、グレーバーが前面に出てくるわけではなく、グレーバーに親和性のあるブレイディみかこさんがオープニングメッセージを語っている。それでも、みかこさんの新著「他者の靴を履く~アナーキック・エンパシーのすすめ」を紹介しているから、寸止めではない。
★アナーキーな感覚は、無政府主義とつながるから、何かピラミッド型組織の高校のキャリアガイダンスとしてはかなり過激のようにおもわれるかもしれない。しかし、東大法学部、一橋大学法学部、慶応大学法学部、青山の法学部の法思想は、リバタリアニズムが底流にあって、法の最終判断は市場だという考え方に通してしまう。もっとも、グレーバーは、その市場すらまだまだ封建的だとえぐるわけだから、そこはさすがにブレイディみかこさんを起用したのだろう。
★それでも、希望の道標も、フードロスに実践知をもって立ち臨む篠田沙織さんの波乱万丈な自己越境という人生を描いている。SDGs的には当然なのだが、今高校で行われているSDGsには、篠田さんほどの意識や悩みがない場合が多いだろう。あくまで、資本主義の修正に役立つだけ。そこをそれでいいのかとばかり、えぐっているのが、今回のキャリガイダンスだ。東大、一橋、慶応、青山に通じる雰囲気なのだから、たしかに先見性や先進性のレンズをもって編集されているのだろう。
★とはいえ、5つのアプローチの越境の高校の事例ケースは、さすがに教育制度の枠内の小さな越境で、そこを超える話は大学でという編集になっている。
★ただ、特集最後の記事を執筆している青山学院大の香川秀太准教授は、大部分を学習の転移としての心理学的なアプローチの第三の越境の話ではあったが、最終節では、今回のパンデミック・ショックで資本主義の矛盾が世界同時的に明らかになったがゆえに、その矛盾とそれと連動している生徒1人ひとりの主観的な痛みに授業の中でどう向き合えるのか、つまりその社会制度と主観が矛盾の響きを奏でる状況をどう変容できるのかを問うている。
★すごすぎる。今流行りの探究の問いのデザインなんて議論は、そこにはまったくささらない表層的でその矛盾を生み出す側の、グレーバーの言葉を借りればブルシッド・ジョブを行ってその痛みに寄り添わない階級のお話で、それとは真逆の立場のケアリングクラスの重要性に気づく必要があるのだという文脈を香川准教授は匂わせる。
★世の中がニューコモンズや人新生をテーマに、そして岸田政権までもが新しい資本主義を掲げているから、思い切りこのテーマで編集しているのかもしれない。
★学校の働き方改革や学校ガバナンスに批判の眼が向いている昨今。当然、保守的な編集はできないのも了解できる。
★さてはて、高校現場ではどうそれを判断したらよいのか。今の高校生の状況下における存在(現存在と言った方がわかりやすいかもしれません)が、根源的なそれでいてそれぞれ違う存在そのものを見出すには、やはりケアリングクラスの登場しかないのかもしれない。
★結局黄金律ということである。たしかにこのルールは人間的な国や組織を越境したところにある。NY国連が掲げている超越論的な本質存在への越境。しかし、それができたら、国際平和は簡単だが、そうはいかないのが歴史である。キャリアガイダンスの野望は、どうやら壮大。そして、このような対話ができるかえつ有明の佐野先生と金井先生が、ちゃんと記事の中に登場しているのは、その壮大な編集意図の真実性を証明しているといえる。実に巧みで感動した。
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