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2021年10月30日 (土)

全国私学教育研究集会 京都大会 「本当の論点は私学のガバナンスの独立性をいかにして持続可能にするかだった」

★10月21日・22日、京都で全国私学教育研究集会が開催されました。私は全体会が行われた21日にしか参加できませんでした。22日の分科会で塩瀬准教授の問いのデザインについての講演をお聞きしたかったのですが、仕事の都合で残念でした。先生の著書を熟読して自己研鑽することにします。ただ、今回全体会で、かなり衝撃的だったのは、全国から集まった各私立学校の先生方400名弱と共有した情報でした。どのくらい伝わったかわかりませんが、2006年の教育基本法改正当時以上に私学危機の論点が吉田晋先生(日本私立中学高等学校連合会会長・富士見丘学園理事長・校長)と平方邦行先生(一般財団法人日本私学教育研究所所長)から語られたことでした。

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★それは、学校法人のガバナンスについては、経済財政運営と改革の基本方針2019(令和元年6月21日閣議決定)に基づいて、令和2年1月に「学校法人のガバナンスに関する有識者会議」が設けられ、議論の取りまとめが令和3年3月から始まっていることに関係します。すでに会議は8回行われています。

★要するに、文科省が「学校法人ガバナンス改革」によって、私学に行政指導をしやすくする戦略的攻略をしているということでしょう。これは教育基本法改革の時もそうでしたが、やはり全国私学集会をバックに吉田先生や近藤先生(東京私立中学高等学校協会会長)が、押し返しました。

★今回もその攻防戦の真っ最中だということがよくわかりました。今騒がれているある大学のガバナンスの混乱状況は、その規模からいって行政が動かざるを得ない事態を生んでいることもあり、ある意味しかたがないのですが、私立大学と私立中高では、ガバナンスのサイズも違うし、何より研究と教育の決定的な違いがあり、大学や福祉法人と同様の規制をかけるというのは、確かに問題です。

★多くのメディアで、明日の選挙を控え、国家が大きな政府に向かっていることを論じ始めていますが、吉田先生と平方先生の講演に耳を傾けながら、ひしひしとそれを感じました。

★明治維新以降、官学と私学は、常にこのような攻防戦を続けてきました。不思議ですが、隙あれば私学はつぶされてきたし、公立学校と同様の機能を果たすように規制されてきました。そのたびに、私学は教育の自由を標榜し、ミニマムでは学習指導要領などを遵守するが、それ以上の教育の自由を果たしてきたわけです。

★しかし、今回の学校法人ガバナンス会議は、直接規制するというより、理事会・評議員会のあり方を財務チェック寄りにし、教学の機能を結果的に弱めようとしているわけです。

★私立学校は現場と理事会・評議員会のシナジー効果で成立していますが、現場は私学教育の資格を取得して勤務しているわけではないので、基本学習指導要領をベースにして勤務し始めます。それをガバナンスによって、建学の精神に基づいて学習指導要領以上の人間力を形成する教育の自由を遂行しているわけです。

★さすが、文科省だなあと思うのは、ならば、ガバナンスの教学面を弱めてしまうという戦略をとったわけです。助成金を出している以上、そこのチェックは当然です。会計士、税理士、弁護士がガバナンスのチェックを強化することによって、理事会のメンバーは教学の専門家は校長だけにしていくわけです。

★すると、校長は経営的な側面から教育の自由を規制されやすくなるわけです。アイデアを実行するなら、資金調達してこいということになります。ですが、校長は生徒募集・広報において、現場の教師と協力して定員を維持するのに精一杯というのが現状です。

★明治維新からこの≪官学の系譜≫と≪私学の系譜≫の攻防戦はずっと続いています。行政は、法規制を巧みに使って、法は法であってそれ以上でも以下でもないという法実証主義的手腕で、教育の自由を間接的に規制するのが常套手段です。

★ですから、目の前の仕事を回すのに手いっぱいになっていると、私学なのに公立と変わらないという事態になりかねません。

★≪官学の系譜≫側からはそれの何がダメなのかということになるわけです。

★そこで、平方先生は、「思考コード」「アクレディテーション」「クリエイティブクラス」というキーワードを使って、21世紀型教育を共に推進しようというわけです。

★20世紀型教育というのは、日本においては、明治以降の近代教育の話で、21世紀型教育はそれを超えようよという話です。要するにそれぞれ≪官学の系譜≫、≪私学の系譜≫が対応しているのです。

★吉田先生は、ガバナンス改革に対し、私学の財務面や行政面の規制強化に対する行政の動きに対して闘い、平方先生は教学面の規制強化に対して闘っているのです。

★ところが、この行政の戦略は、先述したように、巧みで表面化していないために、現場では公立も私立も相変わらず学歴階層構造の椅子取りゲームに目が向くように環境を作っていきます。

★このシステムは、一握りのクラスしか幸せにしないシステムだということは、今回のパンデミックでみな気づいています。それゆえ、このシステムが抑圧してきた「女性」「公正な配分」が、明日の選挙のキーワードになっています。

★意識が高まったことは喜ばしいのですが、それがうまくいくかどうかは現状の教育システムでは難しいかもしれません。

★珍しくネガティブじゃんと思われるでしょうか。そんなことはありません。制度はなかなか変えらませんが、良質な21世紀型教育を行う自由はまだ規制されていませんから、そこはやっていけばよいとポジティブなのです。

★ただ、これはタブーなのではっきり言えませんが、先進諸国で、私立大学の比率が多いのは日本なのです。アメリカよりも多いのです。当然私立中高の比率も多いでしょう。これは明治維新から始まっているのです。この定量的データは、行政のデータでも明らかです。

★なんだ教育の自由が日本は進んでいるということではないかと思うかもしれませんね。表面的にはそうだし、そうあって欲しいと思いますが、なぜ私立学校が多いのかというシステムの問題を考えたら、そう安穏としていられないのです。

★ここから先はもういうことはできません。表現の自由はここまでです。同調圧力の壁があることを言うにとどめておきましょう。この壁があるから、教育産業が成り立っているというジレンマということです。

★このジレンマをはっきり語る教育ジャーナリストはもちろんいません。吉田先生と平方先生は、そのことを熟知しているからこそ、闘っているわけです。ここをどう突破するか。Z世代もそこは近づけませんね。

★京都から帰ってきてから、21世紀型教育をより進化/させ強化することの意志を自ら静かに奮い立たせている日々です。しかし、これは戦略的にならざるを得ません。仲間の先生方、共にお願いいたします。

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