PBLからWML(World Making Learning)へ。「こころ」に流れる近代的自我をZ世代が捉え返すことの意味。
★勤務校の国語の授業を見学しました。デジタル・ネイティブであるZ世代の生徒が、夏目漱石の「こころ」をどう読み解くのか興味津々でした。そして、結論から言って、驚愕でした。繊細かつ大胆でした。Kにすでに則天去私的な兆しのあるのを見抜いている生徒がいたり、女性の深層心理と表層心理のパラドクスについてウィットに富んだプレゼンをしていた生徒がいたりしたのです。明治の女性のまさに「こころ」の近代的自我を掘り起こす視点です。ああ、近代的自我は男性原理に偏った見方をしていたのかもしれません。それゆえ、Kに対する見方も別角度になったのかもしれません。
(国語科の高橋教諭)
★高橋先生はICTを駆使したPBL型授業です。源氏物語や枕草子の人間像や芥川竜之介や夏目漱石を通しての近代的自我を、いわゆる読解ではなく、学習者中心主義的な読み取りを優先します。
★文章に即して構造をなぞる読解もしますが、むしろメタファーや書いてない深層心理について仮説的推理(アブダクション)をしていく読み取りです。
★文学ですから仮説的推理(アブダクション)は、検証しにくいですが、中世の人間像や現代的人間像、未来の人間像(自分たち自身を念頭に置いています)と比較することによって関数的な諸関係の場から近代的自我の特徴を推理することはある程度可能です。その比較のためのデータは、ある意味検証の材料です。そして、そのデータは日常の授業で蓄積されているわけです。
★また、高橋先生は小説を書く授業も展開しています。そこでは、自分とは何かをストーリー化する自己存在の編集を行うわけです。
★さらに、推薦入試や総合型選抜の志望理由書のチュータリングも行っています。
★スモールサイズの学校がゆえに、多くの生徒が高橋先生のワールドで学ぶコトができます。このワールドは、結局自分とは何か?自分の価値とは?自分の役割とは?自分の感情とは?・・・という「自分の存在」と「人間の存在」との諸関係を思いめぐらす時空を<共に>するわけです。
★そうこの<共に>が肝心です。生徒は、グーグルクラスルームで作品を共有したり、グーグルフォームで相互にフィードバックします。つまり、ピアサポートのチームができます。
★「自分の顔は自分で見ることはできない」というのは、哲学の1つのテーゼでもありますが、それを解決するには「対話」が大切だというのも世に知られていることです。しかし、それが授業の中でできるというのが、ICTを駆使した高橋先生のPBLでしょう。もちろん、自分の世界をつくるには、基礎知識も大切です。高橋先生は、当然グーグルフォームでミニテストをサクサク行っていきます。すぐにデータ化されて共有できるので、作品のプレゼンだけではなく、基礎知識も、インプロリフレクションができてしまいます。
★たしかに、高橋先生の授業すべてを俯瞰すると、自分づくりというPBLになっています。しかし、自分という世界だけではなく、人間像や社会像、なんといっても感情のシステムをつくることになっています。
★サルトルや東浩紀、もっとさかのぼるとルソーもそうですが、自分の思想という世界を小説という世界に置換える、思想をストーリーに置換えることによって、世界観を生み出し、読み合ったりフィードバックしたりして共同編集して、協働世界作りをする。これが高橋先生の授業の構造だと感じ入りました。
★どうやら、PBL(Project based Learning)からWML(World Making Learning)へという事態が勤務校では生まれ始めているといえましょう。これは、新しい気づきです♪
★なお、勤務校の授業は20%ルールというのがあって、思考コードのB軸(論理的思考)かC軸(創造的思考)の思考の機会を20%以上設定することがお約束になっています。高橋先生の場合は、20%をはるかに超えた授業デザインになっているわけです。授業の魅力は学校の魅力でありますが、同時にそれは教師及び生徒の魅力が花開いているからだということに、改めて気づくことができました。ありがとうございました。
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