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2021年8月19日 (木)

世界のエスタブリッシュスクールの教育を大衆化した日本の学校 谷本真由美さんの本から妄想

★谷本真由美さんの「みにろま君とサバイバル 世界の子どもと教育の実態を日本人は何も知らない (集英社学芸)」を例によって斜め読みして、ハタと妄想してしまいました。谷本さんは1975年生まれですから、中学受験から大学受験の生徒の保護者世代です。ご自身は大学、大学院、そして社会人として海外での経験が長いし、イギリス人とご結婚されていますが、それだけの活躍をしているため、お子さんはまだ小学生のようです。

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★そのお子さんの愛称が「みにろま君」です。谷本さんはみにろま君誕生までは、海外出羽守で、海外で仕事をしながら、日本のこんなところがダメだとリバタリアンよろしくSNSで鋭く切り込んでいたようですが、それがみにろま君誕生で、自己変容したというのです。

★海外出羽守をやめて、日本の公衆衛生や治安や教育や気遣いの精神などいいところが見えてきたということのようです。それと比べて今度は海外の酷い実態を指摘しているのがこの本だというのです。

★しかしながら、はじめから世界と日本の両方をきちんとみていたから、このような興味深い本が書けたのでしょう。現に日本のすてきな点ばかりではなく、イギリスのオックスブリッジのすばらしさやパブリックスクール(イギリスの私立学校。イートンとか)もきちんと評価しています。

★ただ、何が酷いって、やはり今も残る階級構造ですね。日本人からみて、海外のすばらしさは、アッパー層のシステムや生活です。しかし、その階級構造が生み出す格差は日本では想像ができないものだということが、この本でいやというほど紹介されます。

★日本ももちろん、格差はあります。海外に比べて日本はましだなどとは言ってはいけませんが、どうやら、日本は一億総大衆化がなされ、イギリスのような階級構造はなく、そのアッパー層とローヤー層の格差を埋める大衆的なシステムと生活スタイルを明治維新以降組み立ててきたのでしょう。

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(大衆化というより庶民化のほうがしっくりきますが、本文では「大衆化」という表現を選択しました)

★この本が焦点をあてている学校についていえば、図のようになります。もちろん、データを調べているわけではありません。あくまで谷本さんの本を斜め読みしながら妄想しているにすぎません。

★ともあれ、明治維新当時私立学校は、イギリスの私立中高をはじめ多くの海外の私立学校の仕組みを研究し取り入れたことは確かでしょう。しかし、それは当時の官立学校も同じでした。もちろん、その手法は長崎の出島から海外の技術をと入れたやり方と同様だったでしょう。模倣と儒学との融合だったと思います。

★そして、富国強兵・殖産興業のため近代教育は、よしあしはともかく、国家事業として隅々までに浸透させられてきました。私立学校はつぶされかかったりしますが、そのような官僚近代とは違うもう一つの相対的に自由度の高い近代教育を推進してサバイバルしてきました。

★しかし、ほとんどの建学者の出自が旧江戸幕府や新政府の中枢にいた人々ばかりですから、自分たちが海外に渡航して見てきた世界は同じです。そのとき見てきたもので、模倣しようとしたものは、欧米の光の部分です。特に教育はそうでしょう。

★ですから技術や方法は欧米、精神は儒学というのが、官僚近代学校で、精神はキリスト教的なものというのが私立型近代学校だったと思います。

★しかし、いずれにしても、両方とも常に金がないというのは同じでした。そして私立学校の場合、当時は、その金は、財界人から調達するのですが、当時から財界人と政府は協働していますから、日本の学校は結局、国家が支援するレベルの財政の枠内です。私立学校は、公立の全額支援の半分を学費で賄うという構造です。受益者負担というより本来は寄付という概念ですが。とにかく、その分自由度が高いということです。

★ですから、イギリスのあるパブリックスクールのように年間学費が1000万円の教育なんてのはできないわけです。しかしながら、その10分の一はなんとかなるわけです。

★それを公立私立すべての学校に国がかかわっているというのが、海外の学校と違うということでしょう。いや、この言い方は正確ではありません。日本の学校は、公立私立問わず、イギリスのそのようなパブリックスクールの10分の1の資金で、教育の内容は同質のものをやったということなのです。

★しかし、当然それを完璧に行うことはできないわけです。そこで大衆の中で階層構造ができました。それが学歴階層構造です。イギリスなどの階級構造の格差を埋めるかのように、エスタブリッシュスクールの教育内容を巧みに大衆化したのが日本の教育です。

★その中で、階層構造ができました。もちろん、ここは資本に対する条件が、そもそも海外と日本とでは違うので、当然階級構造は日本ではできません。ここは、どこかでちゃんと論じなくてはなりませんが、今のところ興味と関心がある方は日本ではいないので、あるいはあえて不問に付しているかもしれませんが、論じる意味があまりないのかもしれません。

★いずれにしても、谷本さんも同書で指摘していますが、日本の階層構造の中での評価は、つまり大学ランキングや偏差値ランキングは、海外では役に立たないのです。海外で評価されるのはアッパー層のお話だからです。

★ところが、ポストパンデミックで、そもそも問われるのが、この階級構造なのです。リーマンショックの時、なぜか日本は持ちこたえました。経済学や経営的にはいろいろあるのでしょうが、そもそも世界と比肩するアッパー層が日本にそんなにいなかったということでしょう。

★日本自体はなんだかんだといってスマート国家です。里山社会的な都市づくりが基本で、その社会基盤の1つとして学校があります。日本の学校はクリティカルシンキングを鍛えないとよく言われますが、そもそもクリティカルシンキングはアッパー層の思考様式です。

★大衆化されている日本にはあまり役に立たないのです。ただ、谷本さんも同書で語っているように、グローバル社会では、アッパー層と対峙することもあるのです。それがオンラインの普及によって、大衆社会にもどんどん入り込んできているわけです。

★ものづくり産業の労働集約的な薄利多売で利益をなんとかため込んでいる大衆のwell-beingをぶち壊そうとするアッパー層の金融産業システム、デジタル産業システムのあれやこれやの戦略に屈しないようにするには、やはり英語とクリティカルシンキングがサバイバルツールとして必要だということでしょう。

★ふだん、英語と思考力の重要性を話題にしているのですが、谷本さんの本で、端的に大衆化された日本の生活を持続可能にし、アッパー層もローヤー層もフラットにするコペルニクス的転回を作動するには、サバイバルツールとしてのC1英語とクリティカルシンキングが必須と明快に語っていったほうがよいのでしょう。それから、日本の文化となったおもてなし力も重要なサバイバルツールです。

★そうそう、この日本の大衆こそ実は新しいグローバルシチズンである可能性が大であることを妄想ついでに付け加えておきます。何せ、イギリスのパブリックスクールに代表される海外のエスタタブリッシュスクールの教育を大衆化しているのですから。教育の質を変えずに、質素な資金でやり抜いているわけです。脱成長論的経済社会とは、アッパー層とローヤー層の格差をなくし、大衆化市民社会をつくるということではないでしょうか(汗)。

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