【響】<04>セルフエスティームからセルフコンパッションへ 自己肯定感の2つの意味
★勤務校のエンカレッジコース(通信制高校)の保護者のみなさんとお話をする機会がありました。エンカレッジの先生方と生徒のみなさんの日々の取り組みが、どんなに価値があり、今時代が求めているものなのかを情報共有しました。
★2011年3月11日までは、自己肯定感という意味は、どちらかというとセルフエスティームという言葉と親和性がありました。たしかに日本の生徒は自己肯定感が低いという統計がでているので、なんとか高めようという話は当時からでていました。しかし、3・11以降は、何かが違うという意識が日本では生まれてきました。
★残念ながら、その時点では、何が違うのか、世間はわからなかったのです。ただ、エンカレッジは無意識のうちでしたが、それがわかっていて、その了解の文脈で教育が行われていたのです。
★当時のセルフエスティームは語義的には自尊感情ですが、社会構造的な文脈では、最近サンデル教授が能力主義は悪だと指摘している、その能力主義の文脈で語られてきました。日本だと学歴社会に相当する社会構造的文脈です。勝ち組負け組を生み出す構造の中で、うちひしがれていないで、自尊感情をもって歩んでいくんだということです。心理学的な正確な意味とは違うかもしれませんが、おそらくそのような文脈の中でそのような意識で皆使わざるを得なかった構造上の制約があったはずです。
★しかし、3・11以降、たとえば、21世紀型教育機構のように、学歴社会を無化する動きが教育の中でもでてきました。その表れが、偏差値に関係なく東大クラスの世界の大学にガンガン入学するようになってきたのです。
★とはいえ、それとても能力主義の枠内で、サンデル教授や斎藤幸平准教授のいうようなコミュタリアンな共同体でも脱成長の社会でもありません。
★エンカレッジの生徒は、能力主義的あるいは学歴社会的構造の自己肯定感そのものに違和感を感じているのです。しかし、3・11より前は、そのような勝ち組負け組を生み出す社会が圧倒的でしたから、そこにいることは苦しかったでしょう。
★ところが、3・11以降は、そうではない居場所として、エンカレッジがあるということに意識していないのに気づく教師や生徒が現われてきたのです。
★そして、今回のパンデミックで、もちろん能力主義的社会は現存しているわけですが、それでもそんな能力主義的社会や成長神話社会だけではなく、最高善を求める共同体や脱成長社会の流れが生まれてきたのです。
★今まではエンカレッジはある意味、能力主義的社会からの避難所でしたが、今後はそういうセルフエスティームではない自己肯定感を認める社会が現れ始めているのです。エンカレッジの生徒の卒業後の進路は、能力主義社会か脱成長社会か選択できるようになってきたのです。
★もちろん、これは勤務校に限らずほとんどの全日制も同じですが、全日制の社会的環境は、まだまだ能力主義社会です。
★従来の通信制は、能力主義からいったん身を引いていたのを、再び参加するようにセルフエスティームの回復をサポートしてきたのでしょうが、今後はエンカレッジのように脱成長社会の社会構造を選ぶことができるようになったのです。
★では、その選択における自己肯定感とは何でしょう。それがセルフコンパッションなのです。自分を奮い立たせるセルフエスティームではなく、自分に向かいあい、自分の弱みをありのままに受け入れ、その弱みをどうするのか焦らず考えようよと思いやる時間を大切にするのです。
★そしてそのセルフコンパッションを大切にする仲間がいて、教師がいるわけです。セルフコンパッションが、仲間同士のコンパッションになり、そういう行いは世界を変えていきます。
★セルエスティームとしての自己肯定感からセルフコンパッションとしての自己肯定感にシフトする時代がやってきました。エンカレッジの生徒の世界が能力主義社会に属さない社会としてうまれつつあります。
★やがて、その流れが多くの全日制高校の進路指導に合流する時がやってくるでしょう。新しい思いやりの時代の到来です。
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