【響】<01>問いづくり 過ぎたるは及ばざるがごとし
★新学習指導要領の目玉の1つ「総合的な探究の時間」(以降「探究」)。世の中は「探究」=問いづくりというショートした強迫観念を製造しているのではないかと思われるコンサルビジネスの宣伝や出版物があふれています。
★たしかに問いは大切です。しかし、問い作りのための学びになって、問いを作らなければならない、問いが生まれるまで我慢しなさい、でも時間はこの50分の中でねとなると、何か違います。
★決められた時間の中で、朝から晩まで自問自答しながら学び、さらに大きな問いを作りなさいと問いの生産工場化してしまったらどうでしょう。そこに主体性は生まれないし自由は疎外されていきます。結局時間泥棒の思うツボですね。
★問いは世界を受け入れ、どうしようもない壁にぶつかった時、それが問いになります。日常生活であれ極限状況であれ、そこに世界が開かれたとき、同時に問いは生まれてきます。因果関係ではないのです。同時なのです。そして、ようやくその問いを解決しようというやむにやまれぬ意志が生まれてきたとき世界作りが始動します。
★私たちが好奇心を大事にし、興味と関心を大切にし、オープンマインドを重視するのは、問いをつくることが先に来るのではなく、まず受け入れるということが優先するからです。経験が大事だということはそういうことです。
★問いは自然の中に浸り受け入れるからこそピカッと閃くわけです。
★人間関係をエゴの視点で見るのではなく、オープンマインドで見るから痛みが了解できます。すると物事がなかなかうまくいかないという疑問が湧いてきます。
★私は私であることを受け入れるから、私を私でないものに駆り立てていたものに気づきます。どうやってそれを解除するか問いが生まれます。
★写真やデータから問いが生まれるのは、写真やデータの背景にある現実を引き受けるからこそです。イマジネーションはリアルを超えた場でリアルを受け入れる経験です。ほとんどの学問はこの経験から出発するわけです。部分から全体をイメージする経験から始まるのです。
★武道や茶道などの「道」を歩むとき、明鏡止水の境地は大切です。だからマインドフルネスやスピリチュアリティは大事です。問いを作ることを目的とする生産行動は、自らの本質への道を閉ざします。ストレスがたまる一方です。
★それゆえ、問い作りと世界作りは違うのです。世界は限られた時間ではできないのです。できたと思ってもそれは世界の部分集合です。世界は1人の力ではできません。また同時代人でもできません。この諦めを受け継ぐ形に反転していく勇気が世界作りです。
★ですから、自分が生きているうちにはどうしようもない壁にぶつかるのです。にもかかわらずなんとかしようという想いが次代に世界作りの松明を渡すことになるのです。
★この松明を渡すことに関心(=愛)がないと、次世代に渡すものはツケになります。ですから松明を燃やす断固たる覚悟が必要です。
★「探究」はその覚悟をもつことの重要性に気づく大事な機会かもしれません。
★問い作りの強迫観念。問いを生み出すためのスキルだとシフトできる生徒と問いというのは本質にいきなり向かうものだと思い込む生徒がいます。その生徒は長大な時間を過ごすことができれば問題はありませんが、限られた時間だと危険です。前者は強迫観念から解放されます。しかし、後者はこの時間内に本質的な問いを作らねばならないという囚われの身になり鬱屈し、不安になり、固まります。本人が本質的な問いに向かっているという意識がないので、解放されないままになるのです。
★総合型選抜は、後者になりがちです。しかし、そのような問いは大学に入ってからさらに研究し続けながら引き継がれていくものです。問いが生まれてくる構えができているかどうかが本来大事なのに、そこを認識できないままだと、一般入試以上に劇薬になります。
★すでにその被害にあっている生徒がたくさんいます。現場の教師は、その匙加減をケアしながら探究に臨まなくてはならない時代です。いい加減ではなく良い加減がということでしょう。知識暗記の強迫観念だけではなく深い学びの強迫観念が学校に通うことを拒む結果になるかもしれません。
★ダブルバインドどころマルチバインドを生み出す危険性があります。良薬口に苦しを通り越しては元も子もありません。過ぎたる及ばざるがごとし。及ばざるは過ぎたるよりまされりでいきたいものです。
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