2021年私学展(9)和洋九段女子 中込校長 理数探究とPBLとスピリチュアリティ
★私学展で、和洋九段女子の中込校長が、勤務校聖パウロ学園のブースにわざわざいらしてくださいました。ちょうど勤務校の数学科の伊東先生がいたので、名刺交換となりました。そして「理数探究」の話になり、これからは「理科」や「数学」が重要になるという対話になっていました。伊東先生とは、日ごろから大学受験のための数学トレーニング以外に、コラムや詩を理解したり、政治経済社会を考察する時に数学的思考を生徒が活用できないだろうかという話をしていたので、同じテーマをお持ちの中込先生の話には共感していたようでした。
★中込先生は、21世紀型教育機構の同志校の校長として尊敬していましたし、今後ますますご教示いただきたいと思っています。というのも幾つか決定的な理由があります。
1)6年前から21世紀型教育を実践してきて、生徒募集がすぐに飛躍しなかったにもかかわらず、信念をもって貫き、ここ2年募集が飛躍的に伸びてきたという経営のリーダーとしての不退転の覚悟に敬服しています。
2)PBLをすべての学年、すべての教科で実施する教育のリーダーとしての静かな情熱と断固たる決意に感じ入っています。
3)和と洋の合力を創りだし、多様なグローバル活動を生徒が主体的に社会と絆を結びながら広げていますが、そのベクトルという理数的な着想を教育に結びつけている本質的な着眼点に学びたいと思っています。
4)「化学」の教科書や新学習指導要領の「理数探究」の教科者の執筆者であり、大学でも講義をしているその学問的構えはとても真似ができず、教えて頂く以外に他に道はないとめちゃくちゃ頼りにしています。
5)SDGsを中1から学年全体を通して探究していて、生徒たちがみな世界の困窮者に対するグリーフケアの姿勢を持ってしまうようなPBLを実現したことは破格です。ぜひ私も先生方と試行錯誤したいと思います。(グリーフケアとは、上智大学のグリーフケア研究所によると、<スピリチュアルの領域において、さまざまな「喪失」を体験し、グリーフを抱えた方々に、心を寄せて、寄り添い、ありのままに受け入れて、その方々が立ち直り、自立し、成長し、そして希望を持つことができるように支援することです>。「グリーフ」とは、深い悲しみ、悲嘆、苦悩を示す言葉です。)
(中込校長が自ら説明。頭が下がります。私の場合は見守るしかできないのですから。)
★そして、今回PBLが学び方や探究の視点、社会的つながりを拡大していく和洋九段女子の独自の新しい学びの場であることに、さらに新しい要素が加わったのに驚いています。
★それは前回ご紹介した新井教頭が導入しているマインドフルネスワークショップです。あのGAFAも必要としているマインドフルネスのトレーナーとしての新井教頭の精神が学内外の協力者とともに広まりつつあるのです。このマインドフルネスは、いわゆるスピリチュアリティを大切にすることです。
★日本の教育や医療現場では、まだこのスピリチュアリティという言葉は活用されていません。宗教的な用語だと勘違いされているからでしょう。欧米では、スピリチュアルケアといって、資格も取得して支援する活動が当たり前です。
★今回のパンデミックで、世界同時的にメディアが、次の3つの健康について注目しました。
1)physical health(肉体的な健康)
2)mental health(精神的な健康)
3)social health(社会的な健康)
★これらがなぜ必要なのかは、もはや説明するまでもないでしょう。WHO(世界保健機構)が頻繁にメディアに登場していることからもその重要性はわかります。
★しかしながら、日本ではある一つの言葉が削られて報道されています。それがスピリチュアリティなのです。実は、1998年にWHO(世界保健機構)が、これまでの健康の定義、すなわち「健康とは、単に疾病がないとか虚弱でないだけではなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態である」に加えて、スピリチュアルな面も重要だという考えを提案したのです。
★つまり、spiritual healthを加えたのです。直訳すると霊的な健康となり、日本では誤解を受けやすいので、メディアは削っているのでしょう。しかし、医療現場では世界中でトリアージが問題になっています。日本も例外ではありません。命の選別が行われてよいのかという問題が医療現場のひっ迫した状況で問われているのです。
★欧米ではそこでスピリチュアルケアやグリーフケアが行われています。死を目前に生きることの価値を寄り添いながら共有していきます。最後まであきらめず生きることの価値を大事にしようというわけです。必ずしもうまくいっていないかもしれませんが、そのケアの精神があるわけです。
★日本では、命の選別を意図的にするわけではないのですが、結果的になる可能性があると言われています。というのも、平常時だけではなく、非常時においても医療の失敗を訴えられる可能性があるからです。欧米でスピリチュアルケアが自然に行えるのでは、サマリア法が法律で条文化されているからです。非常時にあって、善意でケアして万が一のことがあっても訴えられないという法律があります。
★日本では民法や刑法に該当するであろう箇所を拡大解釈をすれば可能ですが、いまだ使われたケースはありません。つまりサマリア法はないのです。ですから、医者は委縮します。結果的に極度の重症患者は後回しにされてしまうというトリアージが起こります。もともとトリアージは大きな災害が起きたとき、看護士の方々がすべてを救うために状況の全貌を把握し、合理的に最初に救う人を探し出し、救済プランを考えるためのもので、日ごろからトレーニングも行われています。
★しかし、そのようなトリアージがうまくいかないと、命の選別につながります。これは戦争時に今も問われています。すぐに治って戦える軍人から優占的に治療するというようなことが実際起きている場合もあるからです。
★今回のパンデミックは、生きるという意味は何か、命とか何かまで日常の中で考え悩まねばならない局面に世界中の人々を立たせました。日本も例外ではありません。
★そして、グリーフは特別なひとだけが抱える問題ではありません。学歴社会という社会的文脈の中で、日本の生徒たちはみな程度の差はあれ、抱えています。その悪循環をひっくり返す教育が和洋九段女子のPBLだし、特にSDGsの活動で善き成果が生まれています。
★それゆえのマインドフルネスだったのだと思います。
★そして、さらに大事なことは、このマインドフルネスが理数探究に結びついているということなのです。エッ!???と思う方もいるでしょうが、日本は、いかにここの部分を無視してきたのか隠してきたのかわかりませんが、グローバル教育を本格的に行っている和洋九段女子はそこに行き着かざるを得ないのです。
★今、教育の中で、現象学的還元を行いながらPBLを行っていくという話がでてきています。もともと昔からあったのですが、日本の教育はやはり英米流儀の影響を受けているので、経験主義かプラグマティズムの流れを汲んでいます。ブルームのタキソノミーも、認知科学の流れの中ででてきますが、米国が圧倒的に中心です。
★しかし、ヨーロッパ、北欧、ドイツ、フランスでは、フッサールの現象学的還元をなんらかの形で活用しています。リフレクションという言葉は日本でもよくつかいます。認知心理学でも大事な要素ですよね。エンパワーメント評価というプラグマティックな手法に変換されていますが。そして、ときどきリアルタイムのリフレクション手法なども目にしますが、それは北欧の考え方です。
★この現象学的還元とは、何か難しいことのようにい思われがちですが、簡単に言えば、ある事象をめぐる様々な情報や憶測、想い、イメージなどをいったんカッコにいれ(エポケーとフッサールは時々いいます)て、本質直観せよということです。
★なんだマインドフルネスなどでつかうメディテーション(瞑想)ではないかとおもわれるかもしれません。その通りですね。ただ、その本質直観は、フッサールの場合は、数学的思考に依拠せよということなのです。それがなければ、たんなる幻想的な直観になるよと。GAFAが求めるマインドフルネスは、ZENに通じるとありますが、ZENもまた極めてシンプルな直観に似ていて、シンプルとは数学的発想です。
★フッサールは、多くをデカルトに学びました。特にデカルトの「省察」を批判的に研究しています。デカルトは神の証明をその中でするし、精神と身体の関係を哲学します。そして、精神より身体の方がわかりにくいのだと。フッサールはそのとき、精神をかっこにいれ、身体性そのものを本質直観していくのだと勝手にわたしは思います。なぜなら、この身体性は、SDGsを立ち上げなければならなかった原点である、自然そのものを指しています。
★つまり、自然をないがしろにしてきた結果世界の痛みが生まれているわけです。それをSDGsでなんとかしようと。その解決策を現象学的還元つまりマインドフルネスで本質直観的に見出そうという社会的文脈がいま生まれています。
★さて、そのフッサールが影響を受けたデカルトの「省察」ですか、ラテン語やフランス語や英語でなんというでしょう。メディテーションです。デカルトは神を持ち出しましたが、それはそうしなければ当時の社会では磔に合っていたのでしょう。デカルト自身は、その論拠はフッサールと同じで、数学的思考です。
★私たちは、今でもデカルト座標を使っているではありませんか。中込先生のつながりの学校をつくるということは、まさに関数的つながりであり、微分的ですね。ニュートンやライプニッツではありませんが、そこにスピリチャリティの宿るのを見ているのでしょう。
★グローバルといったとき、このような新しいスピリチュアリティに気づけるかどうかです。この関数をモデル化したのが、私は千利休の考案した茶室や松尾芭蕉の俳句の数論だと思っています。まさに「和洋」なのです。
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