非属の才能教育(10)時を創るということは自分を少しずつ変え続ければよい ヘッセから学ぶ
★勤務校は、中高一貫校ではなく高校。生徒と日々出会いながら、遠く50年くらい前の自分を思い出します。下宿をしながら、先輩後輩と食し、学校に行き、帰ってきてからは、よく対話しました。学校から徒歩5分もかからなかったので、自宅から通学している友人もよく泊まりに来ていました。同じ日本人でも価値観も行動も違っていました。そのときは、互いに価値観が違うということを受け入れるよりも、自分の価値が正しいという暗黙の想いで、みな議論をしていました。まさに青春時代でした。
★今のようにスマホもPCもましてインターネットもありません。娯楽と言えば読書でした。国語は、今でいうビブリオトークでしたから、漱石の前期三部作について読んで、好き勝手な意見を交わす授業でした。基本三角関係の話に集中しますから盛り上がっていました。
★倫理社会も、哲学者のビブリオトークでした。ソクラテスの弁明について担当だったのは今でも覚えています。いくつかほかの作品も読みましたが、平易な対話の割には、読み方がわからず、パートナーと苦労したのを覚えています。
★当時は、吉本隆明全盛時代だったので、左翼的な先輩たちと応戦する武器としてニーチェやフッサールを持ち出していましたが、よくわからず議論していたと思います。
★そんなときに、結局ヘルマン・ヘッセが私の核になりました。中学の教科書に載っていた「少年の日の思い出」はまったく興味がなかった(今はむしろ大事ですね)のですが、高校から別の作品を読んでいったときは、孤独と自主独立と規格外の精神異常のペルソナに変貌するキャラクターが現われる幾つかの作品にのめりこみました。
★ヘッセ自身フロイトやユングも読みその心理システムを埋め込んでいる作品はおもしろかったし、そこから精神分析を学び、修道会ベースの小説が多かったので、ヘッセも引用しているトマス・アクイナスなどから神学・哲学に興味が湧いていったのだと思います。
★ヘッセが庭園も大切にしていたのも興味深ったですね。ただ、ヘッセは日本文化にはあまり興味がなかったのかもしれません。それゆえ、逆に私は日本の庭園に引き付けられました。そこから建築家の庭園づくりに魅了されていきます。イサム・ノグチには一時期のめりこみました。わりと世界のイサム・ノグチの庭を見て回ったと思います。
★レッチワースにもいき、田園都市構想という都市と教育と環境について議論して、建築家とセミナーを企画したこともありました。学校建築についてもリサーチしていた時期がありました。近江のヴォーリーズツアーはよき思い出です。
★結構、こう考えると高校時代の経験というのは、物理的な時間を過ごしてきたのではなく、時そのものを形づくってきたのかもしれません。ハイデガーが「時熟」というのはこんな感じでしょうか。プロジェクトという自己投機が時を生成していくという感じでしょうか。
★ヘッセの言葉の中に次のような書簡抜粋が載っています。
わたしたちのこの手に包まれている一つの希望とは何か。自分自身を今日いくらかでも変えることだ。 昨日までよりも善く変えていくことだ。本当にそのことを実践する人々 にこそ、世界の幸福はかかっている。 書簡 1950
ヘルマン・ヘッセ. 超訳 ヘッセの言葉 (Kindle の位置No.340-343). . Kindle 版.
★今、ヘッセの「アッシジのフランチェスコ」を読んでいますが、いつか生徒とフランチェスコが今も生成し続ける時を共有し、生徒自身が時を創っているということに気づける契機をもてたならなあと思っています。
★そして、その自分の創った時が、仲間のそれぞれの時と化学反応を生み出し、時代を創っていくのだと確信しています。
| 固定リンク
« GLICC Weekly EDU(29) 富士見丘の佐藤副教頭 数々の目覚ましい成果の連鎖を語る。 | トップページ | New Power School(08)和洋九段女子 生徒1人ひとりに多様な世界が結びつくコネクテッドスクール 多くの実績も »
「創造的才能」カテゴリの記事
- 2024年中学入試の行方(14)湘南白百合 授業即探究 探究即授業(2023.03.28)
- GLICC Weekly EDU 第121回「グローバルアドミッションの時代ー英語学位プログラムとはー」鈴木氏の目からウロコの視点 気づいた人の未来が開く チャットGPTとの対話(2023.03.27)
- 2024年高校入試の行方(01)成城学園の魅力(2023.03.24)
- 2024年中学入試の行方(13)5月21日 東京私立中学DISCOVER私立一貫教育合同相談会(2023.03.21)
- GLICC Weekly EDU 第120回「聖学院ー『創造と貢献』が切り拓く未来」 児浦先生聖学院の豊かな教育の質をしみじみ語る(2023.03.19)
「創造的対話」カテゴリの記事
- 2024年中学入試の行方(14)湘南白百合 授業即探究 探究即授業(2023.03.28)
- GLICC Weekly EDU 第121回「グローバルアドミッションの時代ー英語学位プログラムとはー」鈴木氏の目からウロコの視点 気づいた人の未来が開く チャットGPTとの対話(2023.03.27)
- 2024年高校入試の行方(01)成城学園の魅力(2023.03.24)
- 2024年中学入試の行方(13)5月21日 東京私立中学DISCOVER私立一貫教育合同相談会(2023.03.21)
- GLICC Weekly EDU 第120回「聖学院ー『創造と貢献』が切り拓く未来」 児浦先生聖学院の豊かな教育の質をしみじみ語る(2023.03.19)
「PBL」カテゴリの記事
- 2024年中学入試の行方(14)湘南白百合 授業即探究 探究即授業(2023.03.28)
- GLICC Weekly EDU 第121回「グローバルアドミッションの時代ー英語学位プログラムとはー」鈴木氏の目からウロコの視点 気づいた人の未来が開く チャットGPTとの対話(2023.03.27)
- 2024年高校入試の行方(01)成城学園の魅力(2023.03.24)
- 2024年大学入試(01)「女子枠」が示唆するコト(2023.03.22)
- 2024年中学入試の行方(13)5月21日 東京私立中学DISCOVER私立一貫教育合同相談会(2023.03.21)
「高校入試」カテゴリの記事
- 2024年高校入試の行方(01)成城学園の魅力(2023.03.24)
- 2024年大学入試(01)「女子枠」が示唆するコト(2023.03.22)
- GLICC Weekly EDU 第120回「聖学院ー『創造と貢献』が切り拓く未来」 児浦先生聖学院の豊かな教育の質をしみじみ語る(2023.03.19)
- 2023年度東京の高校入試(04)国学院久我山 生徒が新しいイメージを生み出す(2023.03.17)
- 2023年度東京の高校入試(03)京華女子が注目されることの意味(2023.03.16)
「聖パウロ学園」カテゴリの記事
- パウロモデル(01)2022年度最終理事会 パウロモデルを共有(2023.03.26)
- ケアの時代(01)ケアの視座(2023.03.14)
- 通信制高校の卒業式の局面で贈る言葉 全日との差異に根源的社会の問題があらわれる(2023.03.09)
- 高校現場の2月・3月 卒業式、入学式、外部研修旅行などを通じて、目標到達度と改善と次年度・中期アクションプランを集約するシーズン(2023.03.05)
- 2023年大学入試(02)偏差値ランキングだけではなく入試問題についてメディアが取り上げる時代 思考力の時代ですね。(2023.02.26)
最近のコメント