教育のアップデート~2022年に向けて(07)新教科「公共」 教科横断的な問いのヒント
★東京法令出版の「公共」という教科書にざっと目を通しました。2022年から本格的に高校の新学習指導要領が始まるわけですが、「公共」も「現代社会」に代わってできる新教科です。「現代社会」とどう違うのか関心があったので、見てみたわけです。
★斬新でした。たんに目新しいというのではなく、そもそも「公共」というモノではなくコトが大事なのはなぜなのかを感じ・考えるレンズをあてがうのではなく、生徒1人ひとりが生み出していく「思考実験」をし、自ら「問いの生成」を行えるように仕掛けています。
★アリストテレス、ホッブスなどの啓蒙思想家、ベンサム、カント、ロールズなどの正義論をわずか4ページですが紹介し、多様な価値観や判断のアプローチを思考するヒントになっています。
★最初の章立ては、幸福とは何か、正義とは何か、公共とは何か、社会の中の個人とは何かなど、続く政治や経済社会、ケアや循環の社会、AI社会、脱炭素社会などの章を見通していく時に必要なものの見方・感じ方・考え方のレンズ生成の場=トピカとなっています。
★知識の上でも、寸止めではありますが、パノプティコンからシノプティコンへという流れをつかめるようになっているので、現代社会とは違うコンセプトがあるのだろうと推察できます。
★リバタリアニズムとかリベラリズムとかコミュタリアニズムなどの座標系を提示はしていませんが、考えようと思えば考える入口に立てる枠組みが編集されています。
★これはある意味法哲学的な発想じゃないかと思い、監修者や執筆者リストを見ると、ああなるほどと。大屋雄裕教授(慶応義塾大学法学部法哲学)がその中に入っていました。新進気鋭の法哲学者です。
★従来の教科書というより、これはレジュメ集だなあと。そう思い、同社のサイトをみると、またまたなるほどと。深い学びのための資料やデジタル教科書へのつながりがシスタマティックに用意されています。
★いずれにしても、大屋教授的な発想(ほんの片鱗で、大屋教授の書籍に比較すれば、入り口の入口の入口の・・・かもしれません)を学ぶと、その学びのレンズは他教科にも活用・適用できます。
★「公共」という教科を選択しない生徒もいるでしょうが、もし他教科の先生方が、「公共」の最初の部分の思考実験などを導入すれば、おそらく教科横断的な発想レンズを生徒自身が生成できるようになる可能性があるなあと感じた次第です。
★ほかの出版社の教科書を見ていませんが、文科省のチェックが入るので、基本線は変わらないでしょう。「公共」という教科は、「対話的・主体的で深い学び」というアクティブラーニングにならざるを得ない教科です。
★教科書のシステムも、電子書籍化になり、そうなると教科書を出て、多様なコンテンツをweb上でリサーチするシステムにもなっています。
★何より、哲学的な発想レンズを生成することが埋め込まれています。
★PBLに発展させるか否かは、教師次第です。
★それにしても、この「公共」の発想は、すでにPISAや中学入試の適性検査、思考力入試で実現されてしまっているものでもあります。その発想の一端を大学入学共通テストも埋め込んでいます。神奈川県立高校をはじめとする公立高校の入試問題も適性検査の影響が色濃いですね。
★今年の早稲田の政経の独自入試はその象徴的な存在でした。新しい学びの社会実装へのパラダイムシフトは着々と進んでいます。
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