★今年も東大合格実績の話題が喧しくなる季節ですね。これは、よくもわるくも、日本の教育の文化を規定しているので、無視するわけにはいきません。東大にたくさん合格させている学校は、東大という文化を推奨しているということは紛れもない事実です。特に10人以上合格させている学校は、いわゆる学歴エリート校ですから、東大を頂点とする大学階層構造の上位層の大学に進学させて、日本を救おうという理念に燃えているわけです。
★なんて大げさなというかもしれませんが、東大というのは、そういう文化です。明治維新以降、国が総力を挙げて支えてきた大学ですから、当然そのような使命を持っていないと言ったら噓になるでしょう。かりに個人主義が拡大しようと、東大に合格するとそういう文化から逃げることはできません。かりに自覚しなくても無意識のうちにマインドセットされているはずです。
★ですから、国民は大いに期待をすべきなのですが、どうもそういうわけでもないですよね。それは東大という知のリソースを国民全体がシェアできるようにすべき(これは義務だと思います)で、図書館や研究成果を中高生や広く国民が活用できるようにすべきです。もちろん、その動きは一部の中高生には開かれているのですが、まだまだ全体にはなっていないですよね。
★もしそういう仕掛けができるなら、税金ももっと投入すべきでしょう。
★がしかし、そうはなっていないから、東大合格者数多い順の学校ランキングが毎年注目されるわけです。なぜなら閉じられた知のリソースを活用するためには、そこに入らなければならないからです。
★それがよいかわるいかは、私は興味がありません。ただ、このような閉じられた知のリソースを手に入れようとする学歴エリート高校が絞られてくれば絞られてくるほど、よいことだと思います。
★エッ!?本間さんは学歴エリート推進者なの?と思うかもしれません。もちろん、そんなわけはありません。東大にたくさん入れる学校が絞られてくれば、それ以外の高校は他の道を明確に生み出すようになるからです。今までは、そこがはっきりしませんでしたが、2021年いよいよそこが明快になったということなのです。
★東大の合格者は約3000人です。少子高齢化と言えども、高3生はざっくり100万人にいるのです。東大合格者の数のお話は、0.3%の話なのです。ですから、0.3%は、ある意味特殊化への道ですよね。ここに向けての進路指導を組み立てるというのは、国を救う官僚や超富裕層へのキャリアデザインを描くということです。
★ところが官僚や超富裕層が国を本当に救うかどうかは誰も保障しません。もし、国を救う使命を東大が抱くということをはっきり国民とシェアすれば、すばらしいことです。その特殊化の意味は急に普遍主義を帯びてきます。しかし、その特殊化が個人化だったとしたら、問じられた知のリソースは国民にシェアされないままになります。
★フランスのベルサイユ宮殿やルーブルのように国民に知のリソースを開かれたシステムにするという感覚が生まれれば、日本の教育は大きく変わるでしょう。
★今年の東大合格者ランキングを見ると、その動きへの期待が見えます。東大が内側から変容する兆しということですね。
★さて、0.3%に私たち国民は命を預けるのは虫が良すぎるし、そもそも預ける気はないのです。であれば、ハナから東大学歴階層構造への道を捨ててしまえばよいわけです。とはいえ、そう簡単ではありません。超富裕層の世帯割合は、野村総研の調査では、0.2%くらいだと言いますから、東大OG・OBがみなそうだというわけではありませんが、おそらく0.3%と0.2%というには、何らかの相関があることは推測できるでしょう。東大のOGの割合がOBに対し少ないというのも、それに関係するでしょう。
★学問的裏付けは学者に任せますが、当たらずともなんとかでしょう。
★そしてこの0.3%にかける学校の生徒は、全員が東大に行くわけではありませんが、その多くは東大学歴階層構造の上位層にはいくわけです。年収1000万以上稼ぐ人口は5%くらいだと言われていますから、そこには最低収まりたいという野望はあるでしょう。まあ、世の中金ではないといいますが、大哲学者カントでさえ、平和は金が保障すると(もちろん、市場が成り立つというのは平和があるからだという意味です)言っているぐらいです。
★すると、私立中高一貫の中で東大学歴階層構造をターゲットにあてている学校と各自治体の公立学校の中の公立中高一貫校と進学重点校に指定されている高校の生徒数が5%くらいだということになるでしょう。実際そうです。
★ですから、95%はそんなの関係ないわけです。しかしながら、ここが問題なのです。その5%が閉じられた社会だから、権力が集中しているわけです。
★エ~!民主国家でしょう日本はと思う方もいるでしょう。法の支配もあるし、選挙もある、私的所有も認めらている。すべて貨幣で交換できる保障がある。だから、一生懸命働いてお金を稼げば、何でも手に入る。好きなことができる。しかし、そのお金を誰もが1000万以上稼げるわけではない。5%の東大学歴階層構造の上位層に食い込まなければそれができない。
★もちろん、選抜試験という名の自己責任システムが保障されているから、問題ないというわけです。
★もし、このシステムが本気で100%の国民に働いていたら、95%の国民は、精神が病むか少なくても自己肯定感は高くならないでしょう。
★どうでしょう。実際日本は精神を病む人は多いし、自己肯定感は低いと言われているでしょう。どうやらこの学歴階層構造のシステムは結構強烈に働いているようですね。
★しかしながら、一方でこのダブルバインドに気づいたら、そこから抜け出るという自由が保障されているということに気づいている国民も随分多くなったわけです。そこは民主国家だったわけです。ホッとします。「そんなの関係ない!」というのは、学歴階層構造のシステムに対し使うとしたら、良いじゃないですか。ダブルバインドを抜ける方法は、そんなのやーめたということです。
★かくして、東大学歴階層構造という閉じられたシステムとは違う開かれたシステムを創ろうよという流れができるわけです。思考スキルと英語、ICTは、この開かれたシステムを創るのに貢献する強力なツールです。
★ですから、5%の中にも、閉じられたシステムの内側から開こうとする人もいるし、95%から諦めないで、開かれた社会を創ろうよという人も生まれてきて、握手をし始めたのです。そのエポックが2021年です。
★今年も、昨年と比べ数を落としたとはいえ、東大合格者ナンバー1である開成の初代校長高橋是清は、東大にたくさん合格させ、善き官僚制度を創る人材を輩出するとしていました。さすがはダルマ宰相ですね。
★文科省も、開かれたシステム作りのために大学入試改革をいろいろ考えています。学習指導要領改訂もそうです。内側から頑張っている官僚もいるわけです。しかし、現場はどうでしょう。実は東大学歴階層構造の上位校は、すでに改訂学習指導要領のようなことはやっているのです。問題は、そこに準じようとしている学校現場ですね。ここが閉じられたシステムを守る中間権力になっています。
★ここまで含めて10%の学校がこのシステムを支えています。この10%の学校の在校生は、学歴エリートを意識することなく受け入れ、少数の生徒はそこになじめず悩み、特殊だと思われています。
★ところが、その特殊な生徒が、「そんなの関係ない」という「開かれたシステム」創りにジャンプしたら、とたんに普遍主義的な素敵な人材として受け入れられるなんてことがあるわけです。(つづく)
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