大学入試問題とトランジション(09)東京大学と大阪大学の現代文から見えるコト
★河合塾の大学入試解答速報で、国立大学の入試問題が公開され始めています。大学入試問題の解答方法については、それぞれスペシャリストの方々にお任せし、私が見たいのは、入試問題という問いの背景になにがあるか、あるいはその問いを発する大学の識者が何を見ているのかということです。インタビューもしないので、もちろん私の独断と偏見です。それでも、どんな素材が扱われているかを話題にすることは、参考になるかもしれません。
★今年の東京大学の現代文の1つは、「文化人類学の思考法」という著作から出題されています。13人の文化人類学者が執筆していますが、その中の松嶋健さんの「ケアと共同性」という論考から一節が出題されています。
★大阪大学では、東浩紀さんの「観光客の哲学」から出題されています。なぜ今観光客かという大事な大前提が詳しく語られていると箇所が終わったあたりから出題されているので、東浩紀さんの文章に接していない場合、読みにくかったかもしれません。
★ともあれ、どちらも、今回のパンデミックで世界同時的に気遣っているテーマです。もちろん、話題性に着目して出題したというわけではないでしょう。世界同時的に気遣ったこととは、世界同時的に気遣うことができてしまっているということそれ自体の意味です。
★グローバルとローカルとか、グローバリズムとナショナリズムとか対比して語られるのが通常ですが、その対比を無化ししてしまう世界同時的なこの均質性とはいったい何だろう?という気遣いですね。
★今回のパンデミックは個人主義ではどうにもならないことにみな気づいたわけです。また国家が管理することができると思われてきたことが、そうではないのではないかという気づきも世界で共有しているわけです。
★両著がパンデミック前に出版されているにもかかわらず、そのことを問いかけているわけですから、産業革命以降の近代化の概念を問う本質的な話に、世界がパンデミックによってようやく気づいたということなのでしょう。
★個人と社会共同体の関係とは違う第三の概念をそろそろ考察しようよということでしょう。世界同時的に、世界均質になってしまったがゆえに、それは逆説的に達成されているのですが、ここにきて新しい概念を創出しようという時代になったわけです。21世紀は個人や社会、自然について新しい知識を生み出す思考の時代にはいっているということです。
★大学入試問題をはじめ、小中高の入試問題に思考力や記述力が重視されているのは、文科省が決めているのではなく、時代の良心の反映ということでしょう。もちろん、文科省もその声に耳を傾けているわけですね。
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