大学入試問題とトランジション(02)慶応大学文学部の小論文 「つれづれ」概念の多様性と正解のない問題の意義を問う 思考コードで整理すると♪
★今年の慶応義塾大学の文学部の小論文の課題文は、川平敏文さんの「徒然草 無常観を超えた魅力 (中公新書)」の終章 <再び「つれづれ」とは何か>から引用されていました。終章全部を読めば、論旨をわかりやすく理解できるのですが、そうなるとただでさえ長い課題文なのに、その倍の長さになってしまいます。
★問1の400字以内で要約する問題は、限られた範囲で推理しながらも、作者の論の運びを逸脱しないようにまとめていかなくてはなりません。「つれづれ」概念の「退屈」説と「静寂の境地」説の二項が時代によって振り子のように揺れる論をまとめていけばよいのですが、途中で、この2つの説の間のグレーの話がでてきて、それがどうしてでてくるのかこだわってしまうと、心理的にまとめにくかったかもしれません。
★本書は近世、近代、現代と膨大な文献をベースに「つれづれ」概念がどのように変遷してきたかファクトを論じつつ、その変遷の理由を時代の権力関係や専門領域の人びとの視点、庶民の受け止め方などある意味文化人類学的なレンスも活用しながら、一方でヘーゲルの弁証法的歴史観のレンズも使いながら書いている超面白い書です。
★「総合的な探究の時間」で探究するデザインやフレームのモデルにもなりそうですね。
★それはともかく、本書及び慶応の課題文は次の文で締めくくられます。
「いま、自分の立っている場所を疑え。そしてその是非を問い直せ ─ ─。 本書で論じてきた「つれづれ」問題は、とてもとても小さなテーマではあるが、ある意味普遍的な課題を、われわれに自覚させてくれるものである。
★まさいく神は細部に宿るという最近注視されている考えうレンズが提示されています。
★問2は、「正解の出ない問題に取り組むことの意義」について、作者の考えを踏まえて、400字以内で自分の考えを書く問題でした。この最後の文をどうとらえるか、そしてそれに相当する例を、文学部ですから、自分の読書体験から披露すれば解答としてはできてしまうのでしょう。
★しかしながら、川平さんの同書のサブタイトルが「無常観を超えた魅力」とあるように、「正解の出ない問題に取り組む意義」は、まさにこの通説を超えた魅力を創ることにあるのであって、この態度は今後の私たちにとって普遍的な学びの態度になるでしょう。
★ところで、このような文章を整理したり、自分の意見を書くときに、うえのように、対立概念の間に中間の考え方をつくっておきます。結果的に川平さんも創っていますね。そして、それぞれの概念が引き起こす解決案や不足の点を、道徳的側面や理性や理論的側面、美学的側面の3つから見るようにします。すると、9つの領域のアイデアが整理できます。
★実際には、道徳もいろいろな考えがあるし、学問もいろいろありますから理論的な側面も無限です。美学に関しては美術史が物語るように無限です。
★概念にしても、中間のグレーの部分は無限ですね。それゆえ、どんな考えも無限にあるのですが、片方で意思決定をしなければなりません。この中からチョイスするか複合するか思案のしどころですが、こうやって分類しては幾度も分類を変更するということをしながら探究を深めていくわけですね。
★そして、この上記の図を90度回転させると、思考コードになります。思考コードは、評価やルーブリックの道具だけではなく、アイデアを生み出す道具でもあります。
★アイデアをこの中に閉じ込めるなんてとお思いの方もいるでしょうね。それがいいんですよ。それが「通説を超えた魅力」になります。思考コードはその魅力を生み出すテコなのです。
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