2021年中学入試情報(61)早稲田アカデミー・日能研・SAPIXからみる中学入試マーケットの変容②必勝法から必笑法へ
★今中学入試市場に参加している保護者の中には、Aタイプ)IBのような教育を日本の私立学校でも行ってくれるとよいのになあと思っているグループとBタイプ)自分の子どもの才能を開花し伸ばしてくれる環境があるとよいのになあと思っているグループとCタイプ)その両方を満足していくれる学校はないのかなあというグループとDタイプ)個性と難関大学合格を保障してくれる学校がよいというグループがあります。
(この3つの書籍は、時代の変容を読み解いた歴史的価値のある本です)
★AタイプのIBに興味がある保護者は、IB認定校を選択します。Bタイプは英語はともかくという保護者が多いので、2科目と新タイプ入試を行っている学校を選択することが多いでしょう。Cタイプ)の保護者は進歩主義的なnew power schoolを選択するでしょう。Dタイプ)はいわゆる塾歴社会をつくる塾が目指す学校を選択するでしょう。
★教育ジャーナリストであり、心理カウンセラーでもあるおおたとしまさんは塾歴社会という言葉を見事につくり、SAPIXと鉄力会の実像をリサーチしました。一方で、「必笑法」を世に出し、「第一志望合格かどうかにかかわらず、終わったあとに家族が「やってよかった」と笑顔になれるならその受験は大成功」(Amazon)という考え方を世に広めました。
★塾歴社会が重視する学校を選ぶグループはDタイプが多く、他の3つのタイプは、「必笑法」の考え方に価値を置く方が多いでしょう。おおたさんは教育ジャーナリストですから、これらの価値観を押し付けるのではなく、そのような多様な価値観があふれてきた中学入試マーケットの姿を浮き彫りにして映し出しているわけですね。
★2013年までは、Dタイプ一色で、そもそも他のタイプは中学入試そのものに参加できなかったのです。IB校が私学になかったし、新タイプ入試は稀有でした。それが、4つのタイプが参加できる市場に中学入試は変容したということでしょう。
★石川一郎先生は、5年前に、2020年の大学入試問題を予想しました。大学入試改革のシステムそのものは、著書の中で書かれているようにならなかった部分もありますが、入試問題が批判的・創造的思考にシフトしていくということを最初に読み切った先生はさすがです。それに実は今回は文科省は実施しませんでしたが、石川先生が同書で語っているComputer based Testへの移行は時間の問題でしょう。
★そして、今年の中学入試もどのタイプが受験する学校もこのベクトルへシフトする兆候がくっきり見えはじめました。
★さて、そして、おおたさんは意識されているかどうかはわかりませんが、そこはジャーナリストの眼です。先を見通す発言をことあるたびに、SNSなどで発言しているのです。それは極めて重要な発言です。ご自身が麻布のOBだということもあるからでしょうが、言葉を大切にすることと民主主義や人権という近代社会の光の部分を保守することは密接な関係があるのだということです。
★まさしく≪私学の系譜≫を生み出した麻布のOBならではの発想ですね。私立中学受験、たとえば麻布の入試問題は、まさにここの部分をベースにしています。とはいえ、今までは中学入試マーケットでそれを論じても塾歴社会に埋め込まれかかっていた私学ですから、なかなかそれをストレートに表現することは難しかったのです。
★しかしながら、Dタイプの保護者は、そこを信念としてもっています。人間は生まれながらにして社会的動物です。これはGoogleの大好きなアリストテレスという哲学者の言葉です。遠く古代ギリシャの哲人で、民主主義の萌芽を理論化した哲学者でもあります。
★私学がリベラルアーツを大事にするのも、ここにつながっています。残念ながら、これを真剣に考える土壌が日本の教育にはまだないのですが、中学入試がそれを開こうとしているわけです。塾歴社会の必勝法から、子供の権利を保守する必笑法にシフトするわけです。
★なぜなら、これをストレートに表現することの大切さを知っているEタイプ)の保護者がついにDタイプ)から新たに登場したからです。おそらくこのEタイプ)の保護者の子どもは、日能研や早稲田アカデミーに通っているケースが多いでしょう。この民主主義及び人権とことばを大切にすることを前面にうたっているのは、世界のエスタブリッシュ私立学校180校です。このコミュニティはラウンドスクエアといって、デモクラシーと奉仕などを明確に理念としてかかげ、互いに実現する学びをそれぞれが展開しています。
★このラウンドスクエア(RS)に正式加盟している(加盟にはIBよりも厳しい認定システムがあります。世界ではIBとRSは非常に有名です)学校は、啓明学園、工学院、玉川学園、八雲学園です。
★2月3日現在ですが、日能研からは、この4校に70名合格者がでています。早稲田アカデミーからは、34名、SAPIXからは2名です。
★まさに必勝法から必笑法にシフトする時代の動きがここに現れています。
★わたしたちは、小さな徴から大きくイメージを膨らませるクリエイティブシンキングを働かせる時代に立ち会っているのかもしれません。
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