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2021年2月10日 (水)

東京の私立高校(03)聖パウロ学園の数学の<対話>

★聖パウロ学園は、教育の実践のコアが<対話>というのは、学校説明会で広報部長の望月先生が明快に語ります。MFO(Men for Others)が理念で、これは、カトリックの精神を超えた多様性にも貫かれている世界精神だとニューヨークの国連本部は、そのギャラリーにノーマンロックウェルの絵を掲げて宣言しています。

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(聖パウロの数学科の先生方。左から伊藤先生、佐藤先生、松本先生)

★対話とMFOの間をいったりきたりしながら、授業、行事、部活、キャリアアッププロジェクトなど「経験」が、生徒のGRITを育てます。グローバルコースを主に担当している英語科主任の大久保先生は、入学時はパウロの生徒はいわゆる偏差値というものはそう高くはありませんが、3年間でかなり伸びます。

★もちろん、英語力は伸びますが、何より大事なのは人間の存在力ですと。今学校の課題としては、偏差値でいうと55までは伸ばせる手ごたえを共有していますから、60をどう乗り越えられるのかという挑戦ですと。

★偏差値はわかりやすいからそう言っているだけで、自分で考えて自分のやりたいことを見据えたら、模擬試験の成績も上がります。ただ、それが60以上を超えるには、マインドセットとコーチングベースのトレーニングが大事ですと語ります。

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★さらに、幸い、パウロは少人数なので、個別にコーチできる環境にあります。あらゆる時間、いたるところで面談という対話を先生方はやっています。毎時間生徒も先生をつかまえていますと。

★パウロを訪れると、実際にそうなのですが、さらに面白いのは、数学の先生方との対話です。

★大学入学共通テストの分析をするというので、お邪魔しました。分析というので、問題の解法のカテゴリー分けをするのかと思ったら、それはすでに共有していて、共通テストの本質的な特徴は何か、センターからどう変わったのかという対話でした。

★特に数ⅠAの対話では、数式による論理的思考と述語論理的つまり集合論的な思考の両方を想定できると伊藤先生が語っていたのが興味深かったですね。

★佐藤先生、松本先生もそれには同意していました。松本先生によると、数式だけで説明出来てしまうのが数学の醍醐味ですが、パウロの生徒は文系に進む生徒が多いので、すべての生徒が大学受験で数学を使うわけではないのです。しかし、数学的思考は、受験で数学を使う使わないにかかわらず必要なのですと。

★伊藤先生も、身近な現象に数学が使われていることを発見するには、やはり言葉によって数学を語れることは大切だし、もし集合論や述語論理的な数学が身に付けば、数学のものの見方考え方を学問横断的に活用できるようになります。

★受験のことだけ考えれば、そこまで考える必要はないのかもしれませんが、思考力を育てようと思ったら、言語的思考の一環として実は数学も大切なのですと。

★共通テストも数ⅠAには、そんなメッセージを感じとりましたというのです。深いですね。

★実際、伊藤先生の授業は、まずは自分が持っている道具で、問題を解かせます。しかし、計算が難しくなって途中で壁にぶつかります。その後に、どんな工夫が必要なのか生徒と一緒に考えていきます。k,x,yのkの際立たせ方は、式の変換や等値のしかた次第で、あっさりクリアできます。そのときの生徒が、目からウロコと感じるのは言うまでもありません。

★このような体験こそ、思考力を覚醒するというのですから、ますます興味深いですね。

★松本先生の授業も、高3になったときに、数学的直観が生まれるように、高1、高2では丁寧に回り道をいっしょにしています。

★ふとそれは、他の教科でも同じような授業デザインがなされているなあと気づきました。一般に、日本の高校生は、自己肯定化感が低いといわれています。聖パウロの生徒も入学時には例外ではないでしょう。パウロの先生方はそんな社会通念をはねのけるために、生徒に語り掛けるし、対話もします。自己肯定感の心理学は、現場ではそんな簡単なものではなく、丁寧なコミュニケーションが、マインドセットには欠かせません。そのことを本当によく知っています。それが、やがて、生徒が自分に自信をもち、目標を定めて、立ち臨むようになるのです。もちろん、MFOの精神を大事に。

★この体験の積み重ねこそ人生の転機を自らにうみだしていく人間の存在力でしょう。

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