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2021年2月 1日 (月)

麻布の入試問題は今年もやはり傑作。(1)私たちのいまここのシステムを再考しようと問いかける。

★2021年2月1日、麻布の中学入試が実施されました。14:40分くらいでしたか、密にならないように順番に受験生は校舎から次々と退出。鉄〇会をはじめ、中学からの塾の方々が、校門から離れたところで、はやくもビラを配布していました。パンデミック下でも、そんな風景がまだあるのだなあと思いつつ、私は入試問題を購入しに事務室に向かいました。

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★父親、母親と待ち合わせ、疲れた様子もなく、むしろやりきった様子で並んで歩いていく姿。とはいえ、合格するのは3人に1人。どんなに憧れても自分でコントロールできない現実に直面しながら、3日間程併願校を受験し、決まるところで、次の人生をあゆんでいく。トランジションによる自己変容は、中学受験生にも何かを突き付けます。どの道に進もうとも、果たして居心地の良い環境であるかどうかは、結局自分次第。

★今日の麻布の国語のテーマは、受験生にそんなことを突き付けていました。いつも通り、クリティカルシンキングを回転させる文章でした。登場人物が、Q町とフリーランスのライター、自然保護課の課長、「私」、少年、そしてガゼル。津村記久子さんの短編集「サキの忘れ物」から出題されました。

★「私」と少年は学校に対する印象がよくないという点で共通していますが、少年は社会通念に関心がありません。「私」は、社会通念と自分の迷いの間をいったりきたり、他の登場人物は、それぞれの利益を優先するというガゼルをめぐる多様な価値観やモノの見方が静かにぶつかり合う物語。とはいえ、ガゼルに対する「共感」とはいかにして可能かという少年の存在もしっかり問いかけられているわけです。

★もちろん、「私」の少年とシンクロを通してガゼルへのシンクロも問われているわけですね。

★しかし興味深いのは、「ガゼル」はカントでいう物それ自体で、物語の中では、何であるかはなかなわからないのです。まるで、今回のパンデミックを巡る多様な議論が行われているような物語なのです。SNSの効用もでてくるくらいですから、出題者は、今回のパンデミックを無視しているわけではなさそうです。

★今回の麻布の出題は、他の教科も直接パンデミックを取り扱ってはいませんが、パンデミックがあろうがなかろうが、問題の根本的構造は同じであるという領域を問いかけているのが、麻布らしいですね。トレンドを追わずに、根源的問いを追うということでしょう。

★それにしても、今回も女流作家の文章でした。また津村さんの作品も昨年6月に文庫に収められたものを活用しています。約10,000字の文章であるというのも、やはり傾向は変わりありません。

★問いも、社会通念の外にある心情のそうはいいながらも外に出でたら生きていけるのかという人間の存在のアンビバレンツを問うているという点も変わりません。小学校6年生だからといって、そこは手加減しません。人間の存在の構造をきちんと問うているわけです。

★筋金入りの現代化カリキュラムの根っこにあるブルーナーの教育の過程の魂を引き継いでいます。ピカソが、ついにこの子供がつかみ取る存在の根源の構造を絵にすることができなかったと語るわけですが、スティーブ・ジョブスと共に、そこにチャレンジしています。

★禅の境地では、ここが悟りの境地であり、GAFAが最終的に希求するグリーンな世界の話です。

★現代化カリキュラムは戦後のカリキュラムですが、その魂は、遠く明治維新のころに遡ります。創設者江原素六が、その当時の世界が問うていた根源的なるものを引き受けていたというのはさすがです。

★そりゃあそうですよね。薩長との闘いで、死というものと常に向かい会って、生き抜いたのですから。今回の麻布の国語の問題のもう一つのテーマは、根源的な存在とあなたはどう向き合うのかというものでもあったのです。

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