★いよいよ東京エリアでも私立高校の一般入試がはじまります。とはいえ、同エリアの高校入試は中学入試と違い、すでに推薦入試や単願入試などが1月から始まっています。すでに日本は9月以降は大学の総合型選抜が始まっています。11月ころから中高の帰国生入試も始まりますから、半年間は、210万人強の生徒が入試というトランジション(人生の転機)に取り組んでいるわけです。
★つまり、小学校から高校まで、全国における生徒数はざっくり1200万人で、中学受験生、高校受験生、大学受験生は、これまたざっくりですが、210万人いるわけです。18%は、人生の転機として新しいステージへ挑戦するわけです。
★さて、ここでちょっと思い巡らしてください。フィンランドやシンガポールなど教育の質が高いということで注目されている国の人口はどのくらいかということをです。600万人いかないでしょう。つまり、日本は、小学生から高校生までの生徒人口が、そのような国々の人口の倍もいるのです。
★そして、98%が高校に進学します。小中学校は義務教育ですから、ほぼ全員が進みます。つまり、毎年約1200万人の学びの場がなんらかの形で保障されているのです。
★日本という国は、もはや経済大国でもないし、英語ができないから先進諸国と生徒同士がスムーズに対話ができないので、なんとかしなければ大変だあという話もちらほら聞こえます。ICTも遅れているGIGAだあとかなっています。
★もちろん、英語もICTも重要です。でも、言語は、英語だけではないでしょう。フランス語も中国語もスペイン語もポルトガル語もインドネシア後も・・・とにかく国があるだけ、いや国があってもその中の民族の違いで言語は違い、たくさんあります。
★ICTといってもユーザー側ではなく、エンジニア側になる場合も入れると無限とも思えるテクノロジーが広がります。
★多様性とは、国が違うというだけでも宗教が違うというだけでも言語が違うというだけでも価値が違うというだけでも足りない概念です。1人の生き様にかかわるすべての側面そのものが多様で、その多様性が80億人弱存在するわけです。1人の多様性×80億人弱だけでも気が遠くなるような多様性の数です。
★時代が予測不能なだけではなく、私たち人間存在の在り方自体が予測不能です。
★しかし、この事態を私たちは意識しませんね。「氷山モデル」のコンパッショネイト・システム思考や「星の王子様」の眼に見えないものが大切だというのは、この存在の多様性を探究しようということですね。
★先ほど、210万人、つまり1200万人のうちの18%がトランジション(人生の転機)に取り組むと書きましたが、これはどうやら違うということでしょう。受験勉強を人生の転機と捉えることは、「氷山モデル」や「星の王子様」の発想から言えば、あまりに大切なものを切り捨てていますね。存在の多様性は無限です。その多様性を、限定的な教科で競うことに意味はどのくらいあるのでしょうか。
★したがって、最近わざわざ「トランジション」という言葉が使われ始めるようになったのは、人生の転機は、受験期だけの話ではなく、幼保小中高、そして大学、それから社会という存在の多様性を開花する人生丸ごとを意味するようになっているわけです。
★存在の多様性の人生は、小さい転機から大きな転機が拡散収束しながら形成されます。その形成の過程すべてをトランジションと呼ぼうというわけです。
★「氷山モデル」や「星の王子様」が大切にしているものは、要するに潜在的可能性の話ですね。その潜在的可能性は多様ですから、小さな転機の連続を自分のペースで生み出していけば、もう立派な豊かなトランジションになるはずなのです。ところが、自分のペースだけではなく、社会の受験期という締切がときどきやってきます。この自分の考えだけでは現状なんともならない事態へ遭遇した時、潜在的可能性をできるだけ開花し立ち臨むことになります。
★この受験期という社会と協働する機会を通して、大きな転機を形成するために潜在的可能性をできるだけ開花する山場をいかにしてつくるかが大切だということでしょう。今までは、受験=暗いというイメージがありましたが、それを転換するまさに転機をいかに自分で創るか。そのシステム作りがトランジションモデルです。
★受験期という向こうからやってくる事態は、しかしながらある程度予想できます。しかし、今回のパンデミックという自然の存在の多様性はまだまだ予測できないことが多いわけです。政治経済社会という多様性もそうです。
★トランジションというのは、この人間存在の多様性、自然の多様性、社会の多様性の把捉不能なほどの指数関数的多様性の数をその都度自分なりにつかみ取る連続です。その連続の過程は、自己の潜在的可能性への気づきですから、気づくたびに自己変容し、自己変容した自分が見る世界や創る世界、かかわる世界は変容します。
★この変容の質と量の度合いによって、トランジションという転機の過程の軌跡もいろいろな曲線を描くでしょう。
★いずれにしても、豊かなトランジションを描ける学びの環境をいかにつくるか。トランジションモデルをいかにつくるかです。そのモデルの中で、最も大きな跳躍台モデルが高校という時期です。1200万人がこのような豊かなトランジションを描けるならば、日本の悩みは解消されるし、それは同時に世界の悩みも解消することにつながるでしょう。問題の解決と悩みの解消は違うので、これはいずれまた考察します。
★とにかく、1200万人のためのトランジションモデルを世界に提供でいきれば、これがどのくらい質と量の両面のインパクトがあるか。そのことに私たちは気づき、トランジション形成の1つの大きな山場でもある高校教育の重要性を改めて考えていきたいと思います。
★それから、全校の私立高校のシェアは30%ですが、東京エリアの私立高校のシェアは55%です。学校数も生徒人数もほぼ55%です。公立高校の受け皿校というのが私立学校だという考え方があるエリアもあると聞き及んでいますが、東京の場合は全く違います。できうるならば、公立と私立が協働して新しいトランジションモデルを創れるといいですね。
★現状、まだまだ公立VS私立という幻想があるので、すぐにはできません。これは、学校の問題というより、日本社会全体の幻想ですね。しかし、今回のパンデミックで、そのような心の境界線は少しですが乗り越えるウネリが生まれています。SNSのイノベーションのさく裂がそれを後押しをしているということもあるかもしれません。
★いずれにしても、私立高校は、相対的に自由度が高いので、先行してトランジションモデルをつくることになるでしょう。ファーストペンギンはどの分野でも必要です。それもまた、多様な社会貢献のあり方の1つでしょう。
※「トランジション」という言葉は、中原淳先生と溝上慎一先生がいっしょに編集している「活躍する組織人の探究から大学から企業へのトランジション」(2014年 東京大学出版)から学びましたが、使っている文脈が異なってしまっていることはご了承ください。
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